アンモニアと聞いて、どのようなイメージをお持ちでしょうか。
「ツンと鼻を刺すあの匂い?」「肥料の原料?」「扱いが難しそうな物質?」
そうしたイメージは、決して間違いではありません。アンモニアは長年、肥料や化学製品の原料として社会を支えてきました。しかし今、そのアンモニアが脱炭素社会を支える新たなエネルギー源として注目を集めています。燃焼時にCO₂を排出しない特性を持ち、エネルギーと物流のあり方を変える可能性を秘めた存在として、世界的に研究・実装が進められているのです。
商船三井は、アンモニアを「運ぶ」、そして「燃料として使う」という両面から、この変化に取り組んできました。当社グループは経営計画「BLUE ACTION 2035」で環境戦略を主要戦略の一つとして位置付け、「商船三井グループ 環境ビジョン ~BLUE ACTION 2035 Phase 2~」においてGHG排出削減目標を掲げています。
本記事では、「アンモニアとは何か?」という基本から、商船三井ならではの視点で、その最前線をご紹介します。
近年、アンモニアが再注目されている理由の一つが、燃焼しても二酸化炭素(CO₂)を排出しない点です。この特性から、発電分野や海運分野におけるカーボンフリー燃料として期待されています。また、液化しやすく既存の輸送インフラを活用できることから、水素キャリアとしても重要視されています。
次に、アンモニア社会の実現に欠かせない「海上輸送」の分野で、商船三井がどのような役割を担っているのかをご紹介します。実際のプロジェクトや実証事例を通じて、アンモニア輸送の取り組みを具体的に見ていきます。
アンモニア社会の実現には、大量かつ安全に運ぶための海上輸送インフラが不可欠です。商船三井はこれまで肥料用アンモニア輸送で培ったノウハウを生かし、燃料アンモニアの大規模輸送に取り組んでいます。
2025年、商船三井は株式会社JERA向けに低炭素アンモニアを輸送する大型ガス運搬船(VLGC)2隻の定期用船契約に関する基本条件合意を発表しました。本プロジェクトでは、米国ルイジアナ州の「Blue Point*1 」で製造される低炭素アンモニアを、愛知県のJERA碧南火力発電所へ輸送します。これは日本初となる商用規模の低炭素アンモニア輸送プロジェクトであり、大規模なバリューチェーン構築に向けた大きな一歩です。
さらに商船三井は、単に海上輸送を担うだけでなく、「生産→貯蔵供給→海上輸送→貯蔵供給→使用」というアンモニアバリューチェーン全体の構築にも深く関わっています。海外の生産プロジェクトへの参画に加え、2024年にはアンモニアを船から船へ移送する「Ship-To-Ship(STS)」実証実験に成功し、その際のリスクやオペレーションの検証を進めました。
(*1)
Blue Pointは、米国ルイジアナ州アセンション郡(Ascension Parish)において進められている、世界最大級の低炭素(ブルー)アンモニア製造プロジェクトの名称です。世界最大のアンモニアメーカーである CF Industries を中心に、日本の JERA、三井物産 が参画しています。
また、2026年1月には、TotalEnergies向けの新造VLGC「ENERGIA GRANDEUR」が竣工しました。本船はLPGとアンモニアの両方を輸送できる仕様となっており、環境負荷の低い代替燃料を主燃料とする「BLUE」シリーズの船隊として整備されました。新たな船体デザインは、当社のコーポレートカラー「BLUE」に環境への取り組みを表す「ターコイズ」を掛け合わせたもので、持続可能な社会の実現への決意を表現しています。さらに、運航効率を高める軸発電機を搭載してGHG排出を削減しています。ファイナンス面ではトランジション・リンク・ローン*2を採用するなど、多方面から環境に配慮した取り組みを行っています。
(*2)
トランジション・リンク・ローン(Transition‑Linked Loan)とは、企業の脱炭素(カーボンニュートラル)への移行=トランジションの進捗度合いに、融資条件(主に金利)を連動させる融資です。サステナブルファイナンスの一種で、特に高排出産業(ハード・トゥ・アベイト分野)の現実的な移行を支援する目的で使われます。
LPG燃料新造LPG・アンモニア運搬船「ENERGIA GRANDEUR」(出典:商船三井プレスリリース)
商船三井はアンモニア輸送を起点に、アンモニアを燃料として「使う」取り組みへと挑戦の幅を広げています。ここでは、その最新の開発事例をご紹介します。
商船三井はアンモニアを燃料として使用する船舶の開発にも取り組んでいます。2025年には、名村造船所および三菱造船と共同開発した「アンモニア燃料大型アンモニア輸送船」について、日本海事協会(NK)より設計基本承認(AiP)を取得しました。
この新型船は、従来の大型輸送船(VLGC/VLAC)を上回る大容量の貨物槽を備えつつ、自身の運航にもアンモニア燃料への対応を可能とすることで、温室効果ガスの大幅な削減を目指します。特に、日本国内の主要な発電所への入港制限や荷役設備の整合性を満たすよう設計されており、国内導入に最適な「画期的な船型」となっています。設計にあたっては、アンモニアの毒性に関する安全性を最優先し、リスクアセスメント(HAZID)に基づいた十分な対策が施されています。また、将来的には風の推進力を利用する商船三井独自の「ウインドチャレンジャー(Wind Challenger)」システムの搭載も検討しており、 燃料転換に加え、燃料消費量抑制でさらなるGHG削減を目指しています。
さらに大きな一歩として、2025年3月にはベルギーのCMB.TECH社と共同で、世界初となるアンモニアを主燃料として運航できる大型ばら積み船(ケープサイズバルカー)3隻を含む計9隻の整備を決定しました。このうち、5隻はアンモニア二元燃料船、残る4隻は将来のアンモニア燃料への転換を見据えたレディ船で構成されており、段階的に脱炭素化への取り組みを進めていきます。このプロジェクトには、当社グループのMOL Chemical Tankers(MOLCT)が運航するケミカルタンカーも含まれており、2029年までに順次運航を開始する予定です。アンモニアを燃料として実用化することで、海運の脱炭素化をさらに加速させていきます。
アンモニア燃料船イメージ図(出典:商船三井プレスリリース)
アンモニアは脱炭素社会の実現に欠かせないエネルギーであり、そのバリューチェーンはエネルギー・産業・物流をつなぐ重要な社会インフラです。商船三井は総合海運としての世界ネットワークや多様なエネルギーの輸送実績を活かし、バリューチェーンの川上から川下まで携わる社会インフラ企業として脱炭素社会の実現に貢献していきます。当社は、アンモニアを次世代のクリーン燃料と位置付け、アンモニア燃料船の開発・導入や輸送・供給インフラの構築を推進するとともに、グローバルなアンモニアバリューチェーン全体の形成に積極的に参画し、パートナー企業との連携を強化しながら技術開発や安全性確保にも注力します。今後もグループ一丸となって持続可能な未来を切り拓いていきます。