地球温暖化の原因といわれるCO₂の排出量の削減は、今や世界中でその対応が急がれる喫緊の課題となっており、カーボンニュートラルの実現に向けて世界では様々な取組が行われています。その中でもひときわ脚光を浴びているのが、CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)です。本ブログでは前後編に分け、CCUSの基礎知識をはじめとし、当社関連事業を含む日本や世界でのCCUSの取り組みなど、様々な情報について紹介していきます。まず前編では、CO₂排出量をめぐる現状やCCUSの基礎知識など、押さえておくべき情報を4つの点に分けてご紹介します。
人間の活動によって排出されるCO₂の約半分は大気中に残存し、残りは海洋と陸上の生態系に吸収されています。そのため大気中に残留するCO₂の濃度は、発生源と吸収源のバランスを示す重要な指標とされています。
CO₂の吸収過程は気候と土地利用の変化に敏感です。たとえば、継続的な気候変動によって引き起こされる干ばつや山火事の増加によって、陸域生態系によるCO₂の吸収量が減少する可能性があります。また、海面水温の上昇、CO₂の吸収によるpHの低下、海氷の融解の増加によって海洋循環が弱まると、海洋での吸収量も減少する可能性があります。
つまり、地球温暖化を一つの原因として引き起こされる異常気象の増加によって、陸上と海洋の生態系によるCO₂の吸収量が減少し、さらに地球温暖化が加速するという悪循環に陥る恐れがあるのです。
したがって、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」というパリ協定*1 の目標を達成する上で、陸海生態系の変化は大きな意味を持っています。大気中のCO₂増加に対する懸念があるなか、その濃度は増加し続けています。
WMO(世界気象機関)発表の最新データでは、大気中の主要な温室効果ガスの世界平均濃度は2023年も観測史上最高を更新しています。CO₂は1984年の解析開始以来、ほぼ一貫して上昇しており、過去10年間は上昇ペースが加速しています。気候変動の影響で山火事が発生しやすくなり、CO₂排出量が増加傾向にある一方で、海水の温暖化によってCO₂吸収量は減少しているため、WMOは「地球温暖化が加速しかねない」との懸念を表明しています。
したがって、パリ協定で掲げた目標は、達成困難なものになっているというのが現状です。ただし、その危機感は世界的にも共有されており、何も前進していないわけではありません。2023年11-12月にはCOP28 がドバイで開催されましたが、その最大の成果は、1.5℃目標実現に向けたエネルギーに関する合意ができたことです。具体的には「化石燃料から「脱却」(transition away)していき、2030年までに再生可能エネルギー容量を3倍にし、かつエネルギー効率改善率を2倍にする」との合意がなされました。
CO₂排出量増加の主たる原因である、化石燃料からの脱却が明記されたことは、大きな進展でした。というのも、2021年に開催されたCOP26では、産油国やインド・中国からの反対によって、化石燃料については「段階的削減」(phase down)と表現を弱める形で合意に落ち着いていました。COP28では、化石燃料への着目と併せて、再生可能エネルギーをはじめとする新エネルギーやCCUS/CCSといった脱炭素技術の活用も視野に入れることで、「化石燃料からの移行」の方針を明確に打ち出すことができたのです。
(*1)
2015年にフランスのパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締結国会議)にて採択された、2020年以降の気候変動問題に関する法的枠組み
2020年10月に日本政府は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする(2050年カーボンニュートラル)脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。さらに、2021年4月には「2030年度において、2013年度排出量比46%削減を目指すこと」を宣言するとともに、「50%の高みに向け、挑戦を続けていく」決意を表明しました。
石油や石炭などの化石燃料の主な用途の一つが、それらをエネルギーとして使う火力発電です。火力発電は多くのCO₂を排出するため、よりクリーンなエネルギー源を用いた発電方法への移行が望ましいと言えます。とはいえ、天候に左右されず、比較的安価に、すぐに発電できる火力発電は、エネルギーの安定的な供給をおこなうためには不可欠な電源であり、火力発電からの即時移行は現実的ではありません。そこで、火力発電のCO₂排出量を抑える(低炭素化する)べく、様々な取り組みがなされています。その取組のひとつがCCS(Carbon Capture and Storage)です。これは、排出された気体からCO₂を分離・回収し、地中深く貯留・圧入するというものです。
また、CCSの概念に “利用する(Utilization)”ことを追加したアイデアである、CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)も同時に注目されています。
CCUSの仕組みは、大きく以下の3つのステップに分けられます。
では、CO₂の分離回収や貯留・圧入は、どのように行われるのでしょうか。その過程を理解するためには、CO₂の性質について知っておく必要があります。
CO₂には、においや色がなく、不燃性で、地上の大気圧(0.1013MPa)の下では、気体として存在しています。普通の圧力のまま、マイナス78.5℃まで冷やすと、液体にはならずに、白い固体(いわゆるドライアイス)になります。したがって、ドライアイスを大気中に置いておくとすぐに気体にもどります。
このように、気体から直接固体になったり、固体から気体になったりすることを、昇華といいますが、CO₂は大気中では昇華して、液体にはならないのが特徴です。ただ、あくまでも「大気中」でのことであって、圧力と温度の条件がそろえば、CO₂は液体にもなるのです。
詳しく知りたい方向けに、少し専門的にまとめると、CO₂には以下の性質があります。
出典:Wikibooks
ではCO₂は、どのように輸送されるのでしょうか。
気体の状態で輸送するパイプライン輸送もありますが、液化するメリットの一つは、体積を小さくできることです(液体の体積は気体の1/550)。また、CO₂を大量に長距離(200-300km以上)輸送するには、船舶での液体輸送が最適(最も効率的)との試算があります。液化CO₂の船による輸送はヨーロッパですでに小規模に実施されていて、食品・飲料向けのCO₂を、排出源から沿岸の輸送拠点まで輸送しています。
現在、商業化されたCO₂海上輸送では、すべて中温・中圧条件(15-18bar*2、約マイナス25℃)が採用されており、低温・低圧条件(6-8bar、約マイナス50℃)や、常温・昇圧条件(40-60bar、約20℃)での輸送実績はまだありません。
その背景として、まず中温・中圧条件に関しては、液化CO₂輸送に用いる貨物タンクの耐圧性の問題があります。CO₂を液化する際には、先ほど説明したCO₂の性質から、タンクに高圧の負荷をかける必要があるため、その圧力に耐えられる肉厚の鉄板タンクが必要になります。したがって、常温・昇圧条件となると、タンクの鉄板には相当の厚みが必要になるため、タンクが重くなってしまい、結果として輸送量が制限されるというデメリットが発生してしまうのです。
一方、低温・低圧条件に関しては、ドライアイス化のリスクが問題となります。CO₂が固体・液体・気体に変化しやすい三重点に温度・圧力が近づくので、輸送途中、特に荷役時にドライアイス化のリスクが高まります。ドライアイス化が生じると、配管閉塞や貨物タンク損傷が引き起こされる恐れがあります。
上記の背景から、現在商用実績があるのは中温・中圧条件のみとなっているのです。ただ、低温・低圧条件に関しては比較的薄い厚さの鉄板でタンクを製造できることから、船の大型化が可能になるというメリットもあります。したがって、低温・低圧条件は、大容量輸送が必要となるプロジェクトに適した輸送条件として期待されています。
前編はここまでとなりますが、後編では、具体的なCCS/CCUSの取り組みについて理解を深めていただくべく、この分野で世界をリードしている米国の現状や、当社が投資しているプロジェクトについて紹介します。
(*2)
bar≒0.1013MPa