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日本と世界のCCUS事例最前線!─CO₂を運ぶ商船三井の挑戦もご紹介(後編)

作成者: 商船三井|2025年10月20日

カーボンニュートラルに向けて世界では様々な取り組みが行われています。本ブログではその中の一つであるCCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)について、前後編に分けて紹介しています。
後編では、世界のCCUSの現状や日本での取り組み、話題のカーボンリサイクル、商船三井が参画するCO₂海上輸送事業について見ていきます。

前編はこちら

世界のCCS/CCUSの現状

Global CCS Institute(GCCSI)によると、2024年7月時点において、世界で628件のCCSプロジェクトが存在しています。その内の50件が既に稼働しており、44件が建設中です。稼働中の施設によって回収・貯留されるCO₂は年間約5,000万トンで、計画段階も含めると、この数字は約4.1億トンに達します(2017年時点のおよそ7倍の規模)。世界の年間CO₂排出量が350億トンと推計すると、約1%強が回収・貯留される計算です。
2015年~17年頃は、米国や欧州で計画中の大規模CCSプロジェクトが、相次いで凍結あるいは中止されました。その背景には、資金繰りの困難や社会的需要の欠如、不十分な政策支援などがありました。そのため、2017年頃はCCSへの関心が薄れていた時期と言えます。その後、ネットゼロ目標の世界的普及に伴いCCSの必要性が認識されると、政策支援が強化されていく中で案件が増加し、2024年までの時点では、年平均30%超の増加率で新規プロジェクトが計画されています。
特に、2023年から24年にかけては計画段階を含めて、236件の新規プロジェクトが立ち上がりました。稼働中と建設中のプロジェクトを地域別で見ると、アメリカが33(稼働済20、建設中13)、欧州15(稼働済5、建設中10)、中国20(稼働済14、建設中6)、カナダ12(稼働済7、建設中5)、中東7(稼働済1、建設中6)、東南アジアでは建設中がマレーシア1,タイ1という状況です。
北米・欧州で多くのプロジェクトが先行している中、東アジアや中東でもプロジェクト数は増加傾向にあり、今後の発展に益々期待がかかります。

CCSプロジェクトの案件数とCO₂回収容量(23年・24年比較)

CCSプロジェクトのCO₂回収容量推移
(上下共に出典:GCCSI "Global Status of CCS 2024"

世界をリードする米国、その背景と今後の展望

CCSプロジェクトの案件数から見ても、現在は米国がCCSの分野では世界をリードしている状態です。建設中を含む現行の33件のプロジェクトのほかに、中部・南部の各州に200件を超えるプロジェクト案件をかかえています。(下地図参照)


出典:GCCSI "Global Status of CCS 2024"

米国にはすでに、世界最大規模を誇る約5,150マイル(8,300キロメートル)のCO₂パイプラインが設置されています。CO₂パイプラインの大半は、テキサス州西部にあるパーミアン盆地の油田周辺に集中しています。そこでは「CO₂-EOR」(CO₂を油田に注入することで油田の生産性を高める技術)が利用されており、毎年新規CCSプロジェクトが数多く発表されています。
米国で多くのプロジェクトが立ち上がった背景には、主に3つの要因があります。①米国が2021年パリ協定へ正式に復帰し、気候変動政策が強化されたこと、②同年の「インフラ抑制法」(IRA)により120億ドル(約1.7兆円)の予算を確保できたこと、③CO₂の回収・分離に対する税控除改革「45Q」が拡張した結果、国が実質的にCCS導入に係るコストの多くを負担するようになったことです。このような政策的な要因と共に、脱炭素化の課題に対する全世界的な認識が高まったことによって、CCSへの投資が刺激されたと考えられます。
ただし、現在の米国ではCCSに対する逆風が吹きつつあります。2025年6月11日に、トランプ政権は、火力発電所に対し排出するCO₂の回収を義務付ける規制を撤廃する方針を発表しました。この規制は2030年以降も稼働する火力発電所を対象に、脱炭素対策としてバイデン前政権が設けていたもので、トランプ政権はコスト増につながると批判していました。この方針により、米国のCCSへの取り組みがしばらく後退することが予想されており、今後の動向を注視していく必要がありそうです。

日本のCCS/CCUSの取組み

それでは日本のCCSへの取り組みはどうなっているのでしょうか。資源エネルギー庁は、「日本国内には約2,400億トンのCO₂貯留ポテンシャルがある」という見解を示しています。しかしながら、CCS施設の建設には地質調査等が必要で、すぐにはそのポテンシャルを最大限に活用することはできません。そこで本格的な運用に先駆けて、2012年から北海道苫小牧市でCCSの大規模実証試験が行われてきました。

北海道・苫小牧市のCCS実証実験 (出典:経済産業省 資源エネルギー庁HP

苫小牧のCCS実証試験センターでは、2019年11月に累計30万トンの二酸化炭素圧入が完了し、現在は貯留状況のモニタリングが行われています。モニタリングでは、二酸化炭素が移動したりして地表に漏れてくるなどの異変がないかを確認しています。
また、カーボンニュートラルの実現に向けて重要性が増すCCSを更に推進するべく、経済産業省と環境省は法整備も進めています。2024年5月には「二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)」が国会で可決され、日本のCCSの事業化がより現実的になりました。
このように、日本国内のCCSの取り組みは政府が中心となって進めている状況のなか、JOGMECは2024年4月「先進的CCS事業に係る設計作業等」に関する委託調査業務の公募を行い、9案件(国内貯留5案件、海外貯留4案件)を候補として選定しました。

出典:JOGMEC(2024年6月)「CCS事業化に向けた先進的取り組み」

選定した9案件は、発電、石油精製、鉄鋼、化学、紙・パルプ、セメント等の多様な事業分野が参画し、工場などの産業設備が多く集まる北海道、関東、中部、近畿、瀬戸内、九州等の地域のCO₂の排出に対応します。また、今回選定した9案件合計で年間約2,000万トンのCO₂を貯留することを目標としており、うち5案件が国内での貯留、残り4案件がマレーシア・大洋州での貯留を想定しています。このうち、ENEOS株式会社、ENEOS Xplora株式会社、電源開発株式会社による九州西部沖CCS事業において、商船三井は船舶輸送スタディを受託し、九州西部沖CCS事業の事業発展に貢献しています。
日本企業の強みは、CO₂の分離・回収・貯留の各分野における技術的な優位性を活かした、分離・回収から貯留まで一貫したCCSバリューチェーンの構築が可能なことです。世界のCCS市場が2023年以降大幅な拡大傾向にあることを踏まえると、日本企業がCCS市場の設備技術の分野において、優位な立ち位置を確保することが期待されると言えるでしょう。

カーボンリサイクルとは?

ここまで注目してきたCCS/CCUSは、CO₂を分離・回収・貯留(・活用)するものです。先に紹介したEORは、CO₂を利用することで油田の生産性を高める技術です。CO₂の量を増やさないための方策としては、資源として再利用するというのも一つの手であり、そうした取り組みは「カーボンリサイクル」と呼ばれています。国内での液化CO₂(ドライアイスも含む)の出荷量は、2024年度は666千トンを記録しています(JIGMA統計データ参照)。使用用途として最も多いのが溶接用途で、船舶・橋・高層建築物を溶接する際の「炭酸ガスアーク溶接」として利用されています。続けて多いのが、私たちにとっても身近な、炭酸飲料や冷却用ドライアイスとしての利用です。しかし、これらの使用用途だけでは、再利用されるCO₂の量は限られてしまうことから、用途を拡大し再利用されるCO₂の量を増やすべく、様々な取り組みがなされています。
2023年6月に資源エネルギー庁はロードマップを公表し、CO₂のリサイクルに関するイノベーションの加速に向けて動き出しています。

出典:経済産業省 令和3年7月改訂「カーボンリサイクル技術ロードマップ」

ロードマップでは、新たに拡大が期待されるカーボンリサイクル先としては、主に化学品・燃料・鉱物が挙げられています。具体的には、加工性・衝撃性に優れ、身近なところではiPhoneのボディにも用いられているポリカーボネートや、バイオ燃料、コンクリート製品及びコンクリート建造物の製造過程で使用する資源へのリサイクルが挙げられます。また、これらの実現に向けたプロジェクトが世界各地で行われており、日本企業も数多く参画しています。

出典:経済産業省 令和5年「カーボンリサイクルロードマップ」

CO₂海上輸送者からCCUS事業者へ—商船三井の取組み

上述した九州西部沖CCS事業への参画の他にも、商船三井はCCUS事業への投資等を行っており、カーボンニュートラル社会の実現に向けて取り組んでいます。
商船三井は2021年3月、30年以上にわたり液化CO₂輸送を行っているノルウェー・Larvik Shipping社(以下LS社)へ出資し、液化CO₂海上輸送事業に参画しました。商船三井が培ってきた安全運航の知見と、業界トップクラスのLS社のノウハウを活かし、個々のCCS・CCUSプロジェクトに最適な海上CO₂輸送の実現を目指しています。また海上輸送だけではなく、CCUS事業バリューチェーンの上流・下流に位置する回収・貯留事業への投資などの事業機会を追求することや、カーボンクレジット、CO₂船上回収装置、次世代エネルギーに関する事業とCCUSを組み合わせることにより、更なる事業拡大を進めたいと考えています。

出典:LS社HP

また、CCUS事業の拡大促進に係るバリューチェーン構築には、国内外のパートナー企業との協働が不可欠であると考えています。国内では、先述の先進的CCS事業に向けた取組みに加え、商船三井・日本郵船株式会社・川崎汽船株式会社・三菱造船株式会社・日本シップヤード株式会社・三菱商事株式会社・三井物産株式会社らと共同で検討を進める、低圧仕様の液化CO₂輸送船の基本設計承認(Approval in Principle:AiP)を取得する(商船三井プレスリリース)など、各企業との連携を強化しています。国外でも、今年の6月にマレーシアの国営エネルギー事業会社であるPETRONASグループの子会社である2社(PETRONAS CCS Ventures Sdn. Bhd. および MISC BERHAD)と、液化CO₂船の開発・保有のための船主合弁会社を設立しました(商船三井プレスリリース)。このように、国境を越えた脱炭素ソリューションを提供するべく、海外企業とも協働を進めています。

商船三井は今後も、カーボンニュートラル社会の実現に向け、CCS事業をはじめとする様々なプロジェクトへの参画・投資を通して、尽力してまいります。