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商船三井のDarWINプロジェクト舞台裏!燃費改善で脱炭素を推進

作成者: 商船三井|2026年10月01日

世界の貿易量の約8割を担う海運は、暮らしと産業を支える基盤である一方、温室効果ガス(GHG)排出への対応という大きな課題に直面しています。 

商船三井も「商船三井グループ 環境ビジョン ~BLUE ACTION 2035 Phase 2~」で、2050年までのグループGHGネットゼロ、2035年までに輸送におけるGHG排出原単位45%削減(2019年比)を掲げ、複数の領域で取り組みを進めています。その一つが、船の燃費効率を高めて日々の運航からGHGを削減する「DarWIN*1(ダーウィン)プロジェクト」です。プロジェクトを推進するサステナビリティ戦略推進部の池永氏と、鉄鋼事業ユニットで実行・検証側として携わってきた坂上氏(現・コーポレートマーケティング部)に、この取り組みの裏側を語っていただきました。 

(*1)
DarWIN:Digital Approach to Reduce GHG With Integratedの略。


写真左:坂上惠(コーポレートマーケティング部 グローバル戦略チーム/鉄鋼事業ユニット在籍時の2023年4月~2026年4月までDarWINプロジェクトに参画)、
右:池永早優(サステナビリティ戦略推進部 効率運航・環境データマネジメントチーム) 

 

DarWINプロジェクトと、3つのアプローチ

——— まず、DarWINプロジェクトとは何かを教えてください。 

池永

船の燃費を改善し、GHG排出を削減する全社横断プロジェクトです。私は推進役として、社内外の関係者と調整しながら搭載の立案・検討・意思決定から実行・効果検証まで進める役割を担っています。 



坂上 


私はもともと鉄鋼事業ユニットの営業担当として、池永さんたちの立案に基づき、当社が運航するバルカー(ばら積み船)に施策を実行する役割を担っていました。 


運航中のバルカー(ばら積み船)(出典:商船三井)


池永 


DarWINプロジェクトが目指すのは、今運航している船で実行可能な省エネ施策を積み重ね、足元からGHGを削減していくこと。そのためには「施策を実行して終わり」にしないことが肝心です。事前スタディから、搭載後何%効果が出たかの事後レビューまで一貫して担い、得られた知見を全社に展開し、次の改善につなげます。 


坂上 


事業部や船種を越えていち早く知見を生かせるのは、全社横断プロジェクトならではの強みと感じています。 

DarWINプロジェクトでの施策(船舶画像:AI生成(イメージ)) 

 

———具体的には、どのように燃費を改善していくのですか。 

池永 

大きく3つあり、船そのものの性能を改善する「①スペック改善」、船をきれいな状態に保つ「②コンディション維持」、航行を最適化する「③運航最適化」です。これに、船のデータを可視化・分析する基盤(FOCUS*2)と、EcoMOL*3によるデータモニタリング・管理・分析を組み合わせることで、改善効果の最大化を狙います。 

 


出典:商船三井グループ 環境ビジョン


(*2)
FOCUS(Fleet Optimal Control Unified System):運航船から収集した膨大なセンサーデータとレポート情報を統合し、船の状態や推進性能を一元的に可視化・分析する、商船三井の船上データ分析統合基盤。 


(*3)

EcoMOL(エコモル):在フィリピンのデータマネジメント組織。 
船舶データの収集・分析・可視化を担い、MOLの各部門に対して燃費改善や運航最適化の意思決定を支援する役割を担う。 

 

 

①スペック改善:安全性と経済性を両立させる 

———「スペック改善」には、具体的にどんな施策がありますか。 

池永 

船に物理的な改造を施すものが中心です。運航実態に合わせた軽量・薄型プロペラへの換装、プロペラの前方に4〜5枚のフィンを取り付けてプロペラに流れ込む水流を整える「船尾フィン」や、プロペラ後方のボスキャップ部分に取り付けて推進効率を高める「PBCF(Propeller Boss Cap Fins)」の導入などが一例です。 

 
PBCF(Propeller Boss Cap Fins)(出典:商船三井サイト) 

 

———導入には、安全性の確認や、各所との交渉といった難しさもあると伺いました。 

坂上 

船体改造は、搭載後の航行に問題がないことを一つひとつ確かめながら進めていきます。特に全社で初めて取り付ける「一番船」では、安全を預かる海技部門と、省エネ効果を高めたい営業とで、視点をすり合わせていくことが欠かせません。たとえばプロペラ。近年は、お客様との契約条件や各種規制への対応、省エネ運航の推進などにより、フルスピードで航行する機会は以前に比べて少なくなっていますが、状況に応じフルスピードで航行する性能は担保する必要があります。運航実態に合った軽いプロペラに換えたくても、「どこまで軽くして大丈夫か」という基準がないところからのスタートでしたが、メーカー、海技部門、営業で丁寧に話し合いながら決めていきました。 
また、船主様からお借りして運航している「傭船」への搭載にあたっては、船主様に丁寧にご説明し、ご理解を得ながら進めていくことが重要です。安全運航や船舶性能への影響、船員の業務負荷などに関するご懸念を払拭できるよう、丁寧な説明を心がけています。加えて、ドックでの工事手配や現場対応についてもご協力をお願いしています。 
さらに、工事を予定どおり進めるためには、船主様やドックを含む多くの関係者との綿密な調整やスケジュール管理が求められます。私自身も現場へ足を運び、工期が遅れている場合は原因を一緒に確認するなど、関係各所と信頼関係を築きながら対応してきました。 



池永 

改良後は、エンジンとの相性や余計な負荷、振動が出ていないかを、実際に走らせながら確認しています。安全への懸念を、搭載隻数とレビューの積み重ねで一つずつ解消してきた実感があります。 

 

 ②コンディション維持:メンテナンスのベストタイミングを見極める

———「コンディション維持」の施策について教えてください。 

池永 

具体的な施策としては、スライムやフジツボなどの汚れを付きにくくする「防汚塗料」、ダイバーやロボットで汚れを除去する「クリーニング」が挙げられます。 

クリーニング前と後の様子(画像提供:Neptune Robotics)


坂上 

効果が大きいのは、防汚塗料ですね。塗り替えは数年ごとしかできませんが、船底に何を塗るかは、燃費を大きく左右します。メーカーと海技部門が日々研究を重ね、性能を少しずつ高めてきた積み重ねが、成果につながっています。 


池永

データの活用も進んでいます。これまでクリーニング要否は各オペレーターが判断していましたが、現在は、FOCUS上で運航データを評価し、クリーニング効果が見込める船について、自動で関係者にアラートが届く仕組みを運用しています。 


坂上  

私がオペレーションを担当していたときも、就航解析や各種レポートをもとに関係部署と協議しながらクリーニングの実施を判断していました。現在はデータで船の状態を可視化し、クリーニング効果が見込める船を客観的に抽出できるようになったことで、判断の精度と効率が大きく向上したと感じています。

 船からのビッグデータを活用したプロジェクト『FOCUS』の一部である、推進性能の劣化を追跡するアプリケーション『Fouling Analysis』(出典:商船三井プレスリリース)

③運航最適化:毎日の「走らせ方」を最適化する 

———「運航最適化」の具体例について教えてください。

池永

この施策の中心となるのは、「Wayfinder」という米国のSofar Ocean社が提供するツールです。海洋観測ブイ「スポッター ブイ」を外洋に展開し、そこから得る波高・潮流などのリアルタイムの海象データを取れるのが最大の特徴で、衛星データを組み合わせて気象・海象を予測。これらをAI/データモデルで分析し、「どのエンジン回転数で、どの航路を行くのが最も合理的か」を毎日提案してくれます。Sofar Ocean社によれば、衛星データのみの旧来手法に比べ、予測精度が約50%向上するとしています。他、蛇行を抑える「省エネオートパイロット」や、船の姿勢を調整して抵抗を減らす「最適トリム運航」などの施策も進めています。


 画像左:最適航路 表示イメージ(黒いラインが運航中の航路、ピンクのラインがWayfinder提案の最適航路)、右:Sofar Ocean社が開発した海洋観測ブイ(Spotter Buoy)
(出典:
商船三井プレスリリース)
 

 

坂上 

 

従来のルーティングは「どの航路で行くか」の提案が主でしたが、Wayfinderは船の「走らせ方」にまで踏み込みます。たとえば、向かい風のときにやみくもに出力を上げても効果的ではありません。気象・海象を見ながら、どう走れば最も経済的かつ安全に着けるかを、日々提案してくれます。

Wayfinderの提案を確認する事業部担当者 

 

導入にあたって大切にしてきたのは、現場との連携です。実際に操船するのは乗組員の皆さんであり、最終的な判断は船長に委ねられています。導入初期には寄港地で船長やチーフオフィサーをはじめとする船員の皆さんと顔を合わせ、「なぜこのツールを入れているのか」を丁寧にお伝えしてきました。同時に、「予測では波が低いと出ていたけれど、実際の現場では高かった」といった生の声をブイの実測データと突き合わせ、精度向上につなげています。こうしたやり取りを通じて、Wayfinderの提案をどれだけ活用できたかを示す「遵守率」も少しずつ上がってきます。 

 

累積で17万トンの燃料削減に成功。効果を測り、次の一手へ 

———DarWINは、2023年10月を起点に全社的な活動を本格化しました。どのような効果が出ていますか?

池永

直近の2025年度の1年間で、燃料を約11万トン削減しました。プロジェクト開始以降の累積では、約17万トンの燃料削減に成功しています。これはGHG換算で約52万t-CO2e、日本の一般家庭およそ15万世帯の年間排出量に相当します。また、2025年度末時点で、累積投資額を上回る削減効果が得られる水準に達しました。環境価値と経済価値を両立したプロジェクトといえます。
成果の裏側には、データに基づく地道な検証があります。船ごと、施策ごとに燃費改善効果を分析し、効果を確かめながら改善を積み重ね、さらなる脱炭素につなげていきたいと考えています。

 

坂上 

もともとDarWINは当社が投資し、燃料を削減したメリットも当社が得るのが基本でした。最近は、世界最大級の鉱業会社であるリオティント社とパートナーシップ協定を結び、投資を折半してメリットも双方が得る取り組みも始まっています。こうした形が広がれば、外部パートナーやお客様との協業にもつながるはず。今後も国内外で環境対応がさらに重視されていくので、「より環境に優しい形で運ぶ」ことは、今後ますます重要になると考えています。 


池永 

今後はより対象を広げ、他社様にお貸ししている船への展開も検討しながら、2030年までに累積GHG削減量270万t-CO2eを目指します。
プロジェクトが進み、扱うデータが増えるほど実務の負荷も高まります。迅速な意思決定を支えるためにも、データとAIの活用をさらに進めていきたいと考えています。 

 

 多くの手が、海運の未来をつくる

———最後に、この記事を読む方へメッセージをお願いします。 

坂上

当社船隊でも、重油で走る船は、まだ多くを占めています。低・脱炭素燃料や新造船に目が向きがちな中で、「今ある船をどう良くして走らせるか」に取り組むDarWINプロジェクトには、大きな意義があると感じています。経済性も環境負荷低減も追求できる取り組みですので、ぜひ注目していただきたいです。 


池永 

デバイス一つ搭載するにも、多くの関係者を巻き込みます。その小さな改善を積み重ねた結果が、今の大きな成果につながっています。海運の脱炭素に向けて、商船三井はこういったチャレンジもしているのだと、多くの方に知っていただけたらと思います。 

華やかなイノベーションではなく、一つひとつの工夫の積み重ねで海運の脱炭素を進めるDarWINプロジェクト。その挑戦は、これからも続きます。