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FSRU向けLNG「再ガス冷熱発電」システム (前編)

  • エネルギー

2021年09月10日

MOLが提供するソリューションサービスの1つ、FSRUにおいて、燃費効率向上及びCO2排出削減のために取り組んでいる研究開発があります。それはFSRU向けの「Cryo-Powered Regas(再ガス冷熱発電) 」システムです。2020年3月、MOLとDaewoo Shipbuilding & Marine Engineering Co., Ltd.(DSME社)は、本システムについてBureau Veritas Marine (Singapore)から設計基本承認(AIP; Approval in Principle)を取得2021年8月、DSME玉浦造船所での実証試験に成功しました。
本ブログでは、そのFSRU向けCryo-Powered Regas(再ガス冷熱発電)システムの仕組みやこれまでの取り組みについてご紹介します。


CRYO-Powered REGAS MOL DSME

#MOL Channel ""Cryo-Powered Regas" System for FSRU by MOL and DSME"
Promotion Movieは上図をクリックしてご覧頂けます。

1/600の体積の液体になって、船で運ばれてくるLNG ~海水の温度で温めて再ガス化してエネルギー源に~

現在、天然ガスは主に火力発電の原料として使われており、また都市ガス利用の広まりも相まって、日本の重要なエネルギー源となっています。しかし国内での採取量は少なく、多くはアジア、ヨーロッパ、北米などからの輸入がほとんどです。

天然ガスは液化するともとの体積の1/600になるため、約-160℃の超低温で液化され、LNG(液化天然ガス)として輸送されています。海外では長いパイプライン(世界最大のロシア~ウクライナ間のパイプラインは実に4,600kmに及びます)を引いて送られることの多い天然ガスですが、日本を含めアジア地域はLNGとして船舶で輸送されることが主流となっています。輸送船はタンカーの腹部に巨大な魔法瓶のようなものを載せた構造で、その中にLNGを充填します。船で運ばれたLNGは臨海部の基地で海水にて温めて再度ガス化し、エネルギーとして利用されます。1隻のタンカーが輸送できるLNG量は約7~12万トン程度ですが、このLNGで一般家庭約5000万世帯が1日に使う電気を作り出すことができるのです。

MOL LNG船 モス型  

「海上に再ガス化設備を設置」という提案
 ~海水温度が高い地域では、さらに効率の良い発電が可能に~

LNGの需要は世界中で高まっており、新興国においても広がりを見せています。しかし、臨海部に陸上のLNG基地を建設するには相応の時間もコストもかかるため、新興国にとっては負担が大きいという問題がありました。そこで当社が提案しているのが「FSRU(Floating Storage and Regasification Unit=浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)」です。

FSRUは、その名の通り『海上に浮かんだ再ガス化設備』。構造は船そのものであるため、臨海地域に陸上基地を建設するための大規模な土地は不要です。そのため低コスト・短期間で再ガス化設備を導入できるというメリットがあります。また、LNG船を基地に寄港させるにはある程度の水深が必要であるため、遠浅な海では陸上基地の建設が難しいという問題がありました。この点についても、FSRUであれば沖に設置し、LNG船とのLNGの受け渡しが可能です。現在、すでに世界で40隻ほどのFSRUが稼働しています。

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(LNGを積載するLNG船(左)からLNGを受け取るFSRU(右)。受け取ったLNGは陸上の需要に合わせ、FSRU上で再ガス化、陸上へ送ガスする。)

環境負荷削減へのさらなる提案 ~捨てていたエネルギー「冷熱」に着目し、CO2削減に寄与~

液体状のLNGをもとの気体に戻す(再ガス化)際には、海水が利用されます。LNGは約-160℃という超低温状態であるため、そのままでも海水温度と約180℃もの温度差があり、加熱しなくても再ガス化してくれるのです。それでは外部からのエネルギーが全く必要ないかと言うと、そんなことはありません。ガスを送り込むポンプなどを稼働させるためには少なからず電力が必要であり、従来この電力は船に搭載された発電機を使って確保してきました。この電力消費を抑えたいと考案されたのが、従来海や大気に放出され、捨ててしまっていた「冷熱エネルギー」の利用による発電です。

「冷熱エネルギー」とは、極低温状態のものが常温に戻る際の温度差を利用して生み出すエネルギーのこと。冷熱エネルギーを使った発電方法にはいくつかあり、当社が取り組んできた「冷熱エネルギー」の活用は、この「冷熱エネルギー」を別の低沸点の熱媒体(有機媒体)に移し海水の熱で気化した熱媒体の蒸気と温度差を作ることで、タービンを効率良く回して発電するという手法を取っており、「有機ランキンサイクル」と呼んでいます。中低温の熱源で効率的な発電が出来る技術であり、蒸気タービンとしくみが似ていますが、低沸点の有機媒体を蒸発させて利用する点が大きく異なります。

これをFSRUに採用する事で、標準規模のFSRUで行われる再ガス化においては、約4~5メガワットの発電量が期待できます。これは、大型の風力発電風車1基分に相当する電力であり、この電力を活用することで再ガス化のプロセスに必要な燃料及びCO2排出量を最大約55%削減することができます。燃料費で試算※すると、年間約3億円もの削減につながります。
※最大定格電流で稼働させた場合の試算

この冷熱発電は海水温度の高い地域(東南アジアや南米地域など)では発電効率が向上するため、特に積極的な導入が進められています。

FSRU市場概況

「Cryo-Powered Regas System for FSRU」の実現
 ~テスト用小型モジュールによる試行錯誤と小型化の課題~

こうした「冷熱エネルギー」による発電は、臨海部の陸上LNG基地では40年以上前から行われてきました。しかし開発に当たっては、海上で行うには波による揺れが最大の難点となり、発電のためのタービンを安定して回すということが課題でした。また、船舶に搭載するためには小型化も必須条件となります。各メーカーにタービン発電機の開発を依頼するも、なかなか色よい返事が得られませんでしたが、船用蒸気タービン発電機を手掛ける三菱重工マリンマシナリ社にノウハウがあることがわかり、協力を要請。実機をスケールダウンしたテスト用のモジュールを作り、熱交換させて小型のタービンが適切な発電量を出せるかどうかを実際の冷媒で検証し、試行錯誤を繰り返すことで、本プロジェクト「Cryo-Powered Regas System for FSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備向けLNG「再ガス冷熱発電」システム)」が実現しました。小型化に関しても、船舶搭載用として理想的なパフォーマンスを発揮しています。

タービン発電機イメージ図(三菱重工マリンマシナリ株式会社)タービン発電機イメージ図(三菱重工マリンマシナリ株式会社による)

現在、船舶の二酸化炭素排出量を制限する条約※が採択されるなど、海運業界全体での消費燃料の削減、CO2排出の削減といった課題への取り組みが加速しています。LNGの冷熱エネルギーの利用は、そんな環境問題に向き合う大きな一歩となるものです。
※2011年 IMO/MEPC(国際海事機関/海洋環境保護委員会)による

注目される天然ガスの可能性
 ~脱炭素社会の実現へ向けて~

日本での天然ガスの輸入は1969年から開始されました。当時、まだ国内のエネルギー供給源に占める割合は1%程度でしたが、その後増加の傾向をたどり、2000年に入る頃には石炭と同等の輸入量にまで増加しました。さらに東日本大震災によってエネルギー供給における原子力発電の割合が縮小されると、火力発電の燃料として天然ガスに注目が集まり、需要が大幅に増加しました。これに伴い、世界各地でも天然ガスの有効活用が広がり始めています。

なぜ、今これほどまでに天然ガスが注目されているのでしょうか?それは、天然ガスが石炭や石油などの化石燃料の中で、燃焼した際の二酸化炭素排出量が最も少ないこと、さらに成分に硫黄を含まないため、喘息や酸性雨の原因となる大気汚染につながる硫黄酸化物(SOx)が発生しないという特徴を持っているからです。また、物を燃やした時に発生する煙やスス、チリなどの中に含まれる微粒子である「ばいじん」がほとんど発生しないというメリットもあります。

世界が脱炭素社会を目指す中で、石炭や石油に代わるエネルギー資源として天然ガスに大きな期待が寄せられています。そして、その向こうにはさらに未来のエネルギー資源確保のための課題がいくつも待ち受けています。商船三井は、持続可能な未来の社会の実現に向けて、今後も新たな挑戦を進めてまいります。

その取組の一つとして、船舶に使用する燃料を、これまでの重油から、GHG排出量の少ない次世代燃料への転換を進めています。「船舶におけるクリーン代替燃料について」にて、新たな燃料の特徴をまとめていますので、こちらからダウンロード下さい。

海運ホワイトペーパー
~船舶におけるクリーン次世代燃料概要~

海運ホワイトペーパー ~船舶におけるクリーン次世代燃料概要~

脱炭素に向け様々なクリーン代替燃料が検討されています。各燃料の特性一覧表を含め、船舶におけるクリーン次世代燃料のトレンドをまとめた資料をダウンロードいただけます。

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AYU.M

記事投稿者:AYU.M

2008年入社。これまで石油タンカーとばら積み船の運航を担当。2017年からはマーケティング部門に所属し、現在、本サイトの運営に携わっています。
当社のLinkedInアカウントの運営も担当していますので、ぜひフォローしてください! 趣味は、韓国アイドルのおっかけです。

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