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20世紀最大の人類の発明は、鉄の箱?!~世界の物流を変えたイノベーション~

作成者: Masumi. H|2020年09月02日

20世紀最大の発明と聞いて、何を思い浮かべますか?

携帯電話、パソコン・・・IT関係の技術開発を想起した方も多いかもしれません。地味なイメージがある、ただの鉄の箱のコンテナが、“世界を変える”きっかけとなったことはあまり知られていません。マルク・レビンソン著「コンテナ物語」の書評の中で、経営学者のピーター・ドラッカーはコンテナの登場を「世の中を一変させたイノベーション」と評しています。

鉄の箱が世界を変えた?

1950年代に登場した「コンテナ」は物資の輸送トレード、そしてグローバルサプライチェーンの構築に非常に大きな影響を与えました。当時、海上輸送に関する荷役は人手のかかる非効率な貨物の積み下ろしが主流で、物流コストの大半は人件費といわれていましたが、「コンテナ」という規格化された箱を使うことにより大量の雑貨物を安価に、安全に輸送することが可能となったのです。それまでは、港で専門業者がサイズ・規格がバラバラな貨物を木製パレットに混載して積み込んでいましたが、荷主によりコンテナに入れられて港まで運ばれてくるようになりました。また、コンテナに積み込んだ貨物は揚地に到着するまで開封する必要がないため、貨物の輸送中のトラブルも減り、安全性も格段にアップしました。

一言でいうと、“物の輸送にかかるコストが大幅に安くなり”そして、このことが“世界の経済活動の形を変えた”のです。世紀のイノベーションと言われたコンテナの歴史について振り返りながら、この“箱”が世界経済とどのように結びついてきたのか、みていきましょう。

コンテナの歴史

コンテナを使用した物流(コンテナリゼーション)の歴史は、1956年まで遡ります。米国のニューアーク港において、クレーンによる荷役でアルミ製の箱58個を船に積み込み、5日後にヒューストン港で荷揚げ後、それらの箱はそのままトラックによって目的地に運ばれたという記録があります。このアルミ製の箱が「コンテナ」の海上輸送の始まりだといわれています。

最初に58個のコンテナ輸送を実現したのが米国の陸運業者マルコム・マクリーン。彼が世界中の物流に革命をもたらし、「コンテナ」の父と言われています。マクリーンは、トラック1台から運送業を起こし、全米屈指の運送会社へと成長させました。1950年当時、マクリーンはハイウェイの渋滞に悩み、このままでは海運会社との輸送競争に負けてトラック(トレーラー)輸送はシェアを落とすのではないかと危惧していました。そこでひらめいたのがトラックごと船に乗せて運べばいいというアイデア。最初はトラックを専用の船にそのまま乗せることを考えましたが、コンテナのみを積み込んだ方がたくさんの積み量が確保できることに気づきました。このアイデアを練り上げ、当時としては革命的であった船舶用コンテナを発明し、続いてコンテナ専用貨物船「Ideal-X」を開発、就航させました。この発明により海上輸送での機械化が可能となり、世界の物流業界における新たな仕組みづくりをもたらしたのです。

新しいイノベーションともいえるコンテナ輸送は、規格の統一や既得権益との戦いもあり、一筋縄では進みませんでしたが、1960年代後半ベトナム戦争によってその有効性が広く認められ、そこからたった数年で急速に広まっていきました。

グローバリゼーションの進展

コンテナの普及と時を同じくして、1960年代後半から1970年代にかけて、経済の高度化により生産と消費のグローバル化が進み、モノの流れが量、質、時間軸ともにダイナミックな変化を遂げました。これを支えたのは、徐々に大型化したコンテナ船と国際標準化されたコンテナ輸送でした。コンテナ輸送の導入は、港における荷役の効率化のみならず、海上輸送と鉄道やトラックによる陸上輸送との一貫輸送を可能としました。こうして、世界の製造業や小売業のサプライチェーンは、これまで以上にグローバルに展開していくことになりました。

970年コンテナリゼーションは世界中に普及しましたが、これに大きく貢献したのは日本の海運会社です。当時は、衣類・靴など軽工業品も日本で生産されており、日本出しの貨物は、アジア・北米航路の東航貨物の70%を占めました。日本船社はまず手始めに日本・米国トレードにコンテナ専用船を就航させ、次第に大型化していきました。商船三井も1968年に同社初のフルコンテナ船「あめりか丸」(765TEU型 写真下)を日本・カリフォルニア航路に就航させました。

物流コストが格段に低減されたことで、企業は、より多角的な事業戦略を立てることができるようになりました。コンテナリゼーションは、単に海運業や輸送業界に効率化・低コスト化をもたらしただけでなく、企業が国境を越えてグローバルサプライチェーンを形成することを可能にしました。戦後の日本の高度経済成長、アジアNIEs4か国(韓国、台湾、香港特別行政区、シンガポール)の輸出主導型の経済発展に続いて、中国が積極的な外資誘致政策により世界の工場と称され、まさに爆発的な経済成長を遂げました。その発展を支えたのが、外国企業の誘致を主軸とした産業の育成であり、輸出主導の経済発展でした。コンテナ輸送の進展は、グローバリゼーションの拡大に大きく貢献しました。

世界経済とコンテナ荷動き

 こうして世界中に張り巡らされたグローバルサプライチェーンは、世界中の経済活動のベースとなり、世界経済の成長率とコンテナの荷動きにも一定の相関性が見られることがわかります。(下図参照)

世界経済の中で貿易が重要な位置を占めることもあり、世界経済の規模増大に沿ってコンテナ輸送量も順調に増加してきましたが、2009年は、リーマンショック(金融危機)の影響で世界経済がマイナス成長となり、経済活動の縮小をうけコンテナの荷動きも減少しています。また、足元のCovid-19の影響を受け、2020年の荷動きは前年比マイナスとなる見込みです。

 

(海事センター、Clarksons Shipping Intelligence Serviceより商船三井作成)

 

GDP成長率と海上荷動きには、ある一定の相関関係が見られますが、このグラフをよく見てみると、GDP成長率が急減している年でも、貨物は輸送されています。実は、リーマンショックの翌年2009年の世界GDP成長率は、▲0.1%のマイナス成長、世界の荷動きは▲10.1%と大きく減少しましたが、食品や生活必需品(の原料)等は、前年比プラスの成長を維持しました。今回のコロナ禍においても、食料品やエネルギー(電気・ガス)の需要は減少しておらず、人々の日々の暮らしに、物資やエネルギー等の海上輸送が密接に関わっていることが見えてきます。

After コロナのNew Normalは・・・

IMFは、20206月に世界経済見通しを▲4.9%と発表しました。多くの国で消費の伸びが下方修正され、リーマンショックを上回る規模での景気後退に陥るとの見方が示されています。IMFによる予測は、世界の経済活動は2020年第2四半期に底を打ち、その後回復に向かうというものですが、感染第2波が発生するリスクシナリオも併記しており、その場合2021年まで経済の回復が難しい状況も想定しています。

資源やエネルギーが偏在する世界で、モノを運ぶニーズが世の中にある限り、「“運ぶ”ことで、世界経済を支える」、それが私達商船三井の使命です。With/Afterコロナの世界は、まだぼんやりと不確実性に満ちていますが、当社は、輸送を通じて世界を支え、そして、“運ぶ”を超えて、海上輸送で培った様々な経験を活かし、海にかかわる様々な事業分野でも、チャレンジを続けていきます。


(参考文献)マルク・レビンソン著「コンテナ物語」(日経BP社 2013年)