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メタンスリップとは?~削減に向けた商船三井の取り組みをご紹介~

作成者: 商船三井|2025年10月30日

LNG(液化天然ガス)燃料船は、従来の重油燃料船と比較して、硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)、粒子状物質の排出量が少ないことから、環境負荷の低い船舶として導入が進んでいます。
しかし、LNGを燃料とするエンジンには「メタンスリップ」と呼ばれる特有の課題があると言われています。解決法はあるのでしょうか?商船三井の取り組みから探っていきます!

メタンスリップとは?

メタンスリップとは、LNG燃料の主成分であるメタンがエンジン内で完全に燃焼しきらず、未燃のまま排気ガスとして大気中に放出されてしまう現象、もしくはその燃焼せずに排気されるメタンのことを指します。メタンは二酸化炭素(CO₂)と比較して温室効果が非常に高い温室効果ガスであり、その温暖化係数はCO₂の約25倍とも言われています。そのため、メタンが地球温暖化に与える影響は無視できません。

メタンスリップの削減のため、商船三井はなにをしているの?

商船三井は、日立造船株式会社やヤンマーパワーテクノロジー株式会社と共同で、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「次世代船舶の開発プロジェクト」に採択され、メタンスリップ削減技術の開発を進めています。このプロジェクトでは、メタン酸化触媒システム(後半で解説!)とエンジン改良を組み合わせることで、LNG燃料船のメタンスリップを削減することを目標としています。

本事業における各社の役割と社会実装に向けた取り組み(出典:商船三井プレスリリース「実船試験でLNG燃料船からのメタンスリップ削減率98%を達成~2026年度末まで実船試験、2027年度以降の社会実装を目指す~」より)

実船試験で98%削減を達成!

2025年5月から、日本とオーストラリア間の海域で商船三井が運航するLNG燃料大型石炭専用船「REIMEI(苓明)」を用いた実船試験が開始されました。
「REIMEI」は2023年に名村造船所で竣工し船舶で、九州電力向けの石炭輸送に従事しています。



LNG燃料大型石炭専用船REIMEI(苓明

この試験では、陸上試験で開発されたメタン酸化触媒システムを実船用に改造し、実際の運航条件下での性能を評価しました。その結果、目標である削減率70%を大きく上回る削減率98%を達成しました

実船試験は気象条件の影響ならびに実際の運航条件下でエンジンが使用されるため、機関室の環境条件やエンジンの負荷率が絶えず変化します。これらの条件下においても、2024年の陸上試験で達成された削減率93.8%をさらに上回る高い削減率を達成しました。


「REIMEI(苓明)」による実船試験を日本とオーストラリア間の海域などで開始

メタン酸化触媒システムの仕組み

メタン酸化触媒システムは、LNG燃料エンジンや発電機の排気管にメタン酸化触媒を配置し、触媒上で未燃焼メタンを酸化させることでメタンスリップを削減する技術です。このシステムは、エンジンの排気ガスを再循環させるEGR(Exhaust Gas Recirculation)技術と組み合わせることで、削減率をさらに向上させています。

船内のメタンスリップ削減システム(左:EGRシステム、右:メタン酸化触媒層)

今後の展望

商船三井は、2026年度末まで実船試験を継続し、触媒の耐久性や装置全体の性能評価を行います。そして、2027年度以降にこの技術を社会実装することを目指しています。これにより、海運分野における温室効果ガスの排出削減に貢献し、低炭素社会の実現を推進していきます。