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世界で活躍する商船三井「オーストラリア編」~広大な国土と豊富な資源に恵まれ高い環境意識で世界中の産業とエネルギーを支える

作成者: 商船三井|2022年08月08日

再生可能エネルギーに最適な条件を持つ広大な国土と豊富な資源

オーストラリアについて語るとき、まずは日本とのスケール感の違いについてお話しておきたいと思います。国土面積は世界6位の769万㎢で、そこに約2,575万人(20219月時点)の人々が暮らしています。日本と比較すると、国土は20倍なのに、人口は現時点で約5分の1。内陸は砂漠地帯が広がり沿岸部に人口が偏っており、人口密度は日本と比べるとはるかに低いです。そして石炭、鉄鉱石、LNGなどの資源が豊富で、中国、日本、韓国をはじめ、世界のさまざまな国に資源を輸出しています。

この広大な国土と豊富な資源は、エネルギーに対する意識にも大きく影響を及ぼしています。例えば、日本では太陽光パネルを設置するためには山を切り崩して設置面を造成したり、家屋の屋根に太陽光パネルを取り付けたりしています。一方でオーストラリアは、国土が広く平地が多いため、太陽光パネルを設置する場所に困ることはありません。オーストラリアは再生可能エネルギーを採り入れるのに最適な条件を持っているというメリットを活かし、太陽光発電をはじめ、水力発電、風力発電や洋上風力発電などを積極的に採り入れており、2032年には国内のすべての電力が再生可能エネルギーにシフトする見通しを発表しています

また、原発に関してもさまざまな議論が交わされましたが、使用済み核燃料などの「核のゴミ」を安全かつ無害に処分できないならば作るべきではないという国民多数の考えから、歴史上1基の原発も存在したことはありません。ウラン埋蔵量については世界一ですが、自国では原発の燃料として使用せず、他国へ輸出しています。

そんなオーストラリアの豊富な資源は世界のあらゆる国へ輸出されています。その資源を、オーストラリアから各国へ船で運び、また自動車をはじめとする様々な製品をオーストラリアへ運ぶのが、私たち商船三井の主たる仕事です。しかし、単純に輸送をするだけではなく、再生可能エネルギーや脱炭素化社会の実現に向けてのさまざまな取組みも行っています。今回は、現地駐在員であるオーストラリア国代表・入澤秀行氏に、オーストラリアでの取組みについて詳しく話を聞きました。

将来へ向けた、水素・アンモニアの需要地と供給地をつなぐ活動

ーーオーストラリアでの具体的な取組みについて教えてください。

入澤

  • 現在、オーストラリアでは、石炭、鉱石、LNGが主要な3大輸出品目となっています。そこへ加えて、世界的規模の脱炭素社会への転換が進行する中で、水素・アンモニア産業の育成にオーストラリアの産官学が一体となって取組んでいます。アンモニアは過去に農業用の肥料や化学製品の基礎材料として使われてきましたが、現在では次世代エネルギー源として大きな可能性があることが注目されています。アンモニアは燃焼してもCO2を排出しないカーボンフリー素材で、液化しやすいので輸送にも適した素材です。現在は石炭と混ぜて火力発電で使用し、CO2を削減するなどの試みが行われていますが、将来的にはアンモニアだけをエネルギー源にした発電を実現するための研究が進められています。

//参考//

関連ブログ:https://www.mol-service.com/ja/blog/ammonia(注目されるアンモニア 知っておきたい5つの事)

  • アンモニアと親和性の高い水素もまた利用価値が高まっています。水素はアンモニアを製造するために必要なものであるとともに、電力分野や産業分野などの脱炭素化に貢献する「カーボンニュートラルに不可欠なもの」とされており、アンモニアとともに世界中で需要が高まっています。
  • オーストラリアの再生可能エネルギー機関であるARENA (The Australian Renewable Energy Agency) によると、オーストラリアの水素・アンモニア関連の輸出額は2040年には約57億豪ドル(約5,200億円)にも達すると予測しています。現在、公開されているだけでも100以上の水素・アンモニア関連のプロジェクトがあり、早いものでは2020年代後半の輸出開始を目指しています。そんな中で商船三井としては、水素・アンモニアの供給地と需要地をつなぐために、ここオーストラリアの大手エネルギー企業複数社にアプローチを行っており、当地発の海上輸送につながるような関係の強化を図っています。
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//参考//
関連サイト:https://arena.gov.au/projects/?project-value-start=0&project-value-end=200000000&technology=hydrogen&page=3(ARENA Projects) 

再生可能エネルギー資源によるグリーンエネルギー大国へ

ーーオーストラリアは、再生可能エネルギーへの展開が急ピッチで進められていますが、何か課題はありますか?

入澤

  • オーストラリアでは環境意識は大変高く、農業や海の生態系を守るために輸送船にはバラスト水や海洋害虫による水質汚染がないよう、海洋バイオセキュリティという規制が農業水資源省によって課されているほどです。脱炭素化について、2022年の5月に発足した労働党による新連邦政府の発表では、前政権が目標としていた温室効果ガスの排出削減目標(2005年と2030年の比較)を28%から43%に引き上げました。さらに2050年には排出量の実質ゼロを目指しています。このため、水素やアンモニアの製造にも再生可能エネルギーを利用した、いわゆる「グリーン水素」「グリーンアンモニア」の製造に国をあげて力を注いでおり、再生可能エネルギー資源による「グリーンエネルギー大国」を目指しています。

 

ーーオーストラリアの主要産業の一つは石炭産業だと思いますが、今後の展望や課題についてどのようにお考えでしょうか?

入澤

  • 石炭産業は現在も主要な産業で、今後も世の中にとって必要な産業分野ですが、脱炭素社会への転換とは異なる方向を示しています。オーストラリアの電力は石炭火力発電が6割を占めており、それらを順次閉鎖して再生可能エネルギーへと転換しようとしているわけですが、いかに再生可能エネルギー分野を育てつつ、石炭産業で築いてきた収益と雇用のバランスを取りながら移管していくかが大きな課題です。

    また、収益と雇用の問題もそうですが、再生可能エネルギーへのシフトについてもバランスをうまくとる必要があります。現在、再生可能エネルギーの比率を早急に進めてしまったあまり、電力が不足して「エネルギー危機」と言われる状態になっています(2022年7月現在)。このためオーストラリア資源相では、一旦は停止させた石炭火力発電所の再稼働を優先課題にしているほどです。このエネルギー危機は、浸水・火災、東海岸の例年より厳しい寒波といった自然現象、そのほか電力設備の定期保守点検などが重なったことが理由ですが、電力消費量の多い製造業などに大きな影響を与えており深刻な問題です。
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  • 石炭炭鉱にも足を運ぶ
    (左:露天掘り炭鉱を石炭搬送用トラックが行き交う。右:そのトラックがこちら。)

 

  • 環境保護団体や政府関連機関との連携が課題

ーー環境保護の観点からプロジェクトの推進が困難になるケースもあると聞きましたが、具体的にはどんなことがあったのでしょうか?

入澤

  • 石炭火力全般に対する厳しい規制と環境団体の反対運動のために炭鉱開発が中止になったケースや、深刻な環境破壊が懸念されるといった理由により、地元住民や連邦議員の働きかけでLNGの受け入れ基地建設が方向転換せざるを得なくなった例などがあります。
  • 環境保護団体の活動は予測が難しく、それどころか、連邦政府で認可されたことが、州政府には却下されるということもあり、非常に悩ましい問題です。これには、私たちのネットワークを広げて、より確実な政府系を中心とした組織から関心のあるプロジェクトの情報を個別に取りに行くようにしています。必要とあらば対面で会いに行き、距離感を近くしておくといったことも必要です。

 

//参考//

Australian Financial ReviewAGL broods on Crib Point LNG rebuff (afr.com)

電力AGL社のビクトリア州Crib PointLNG受入基地を建設する計画に対して、地域住民からの激しい反対を受けて、ビクトリア州政府が環境保護を理由に計画を支持しないと表明したことを報じた記事

中国との今後の関係について

ーー悪化している中国との関係については、今度どのようになるとお考えですか?

入澤

  • 中国は現在でもオーストラリアにとって最大の貿易相手国ですがここ5年余りでウイグル問題や安全保障の観点で、融和から対立へと風向きが変わってしまったことを実感します。中国に対する強硬路線は、今後も継続していくという見方が多いです。2022年の5月に首相がモリソン氏からアルバニージー氏に代わりましたが、中国はこの政権交代を二国間の関係改善の良い機会としていました。しかし、日米豪印の安全保障の枠組みであるQuadの東京での首脳会談で、アルバニージー首相は「中国との関係改善の見通しは当面ない」と述べました。また、オーストラリアの労働党政権は、中国のエネルギー・インフラ企業によるオーストラリア国内での権利契約を早期に解除する目的で見直そうとしています。はっきりとは先が見えませんが、中国に対するビジネス計画は、状況を慎重に見つめて考えていかなければならないでしょう。

 

終わりに~オーストラリアの生活と今後の展望~

ーーオーストラリアでの生活はいかがでしょうか?

入澤

  • 私の拠点はオーストラリア経済の中心シドニーにあり、グループ会社であるダイビルがシティに保有するビルに入居しています。現地法人の本社はメルボルンにあり、そこの8名のナショナルスタッフとも仕事をしています。そのほかパースにも駐在員がいて、社外役員やカスタマー・サービスやセールス担当も入れると総勢13名になります。メルボルン本社へは月に1度、1週間程度出社(出張?)しますが、距離にして約900㎞、東京から広島の先位離れていますから、移動は飛行機です。ほぼ同距離であるブリスベンも石炭産業、新エネルギー産業の拠点であることから頻繁に出張します。やはり広い国だなと思います。日本と気候が似ているのでシドニーもその他の都市も暮らしやすく、食べ物も日本人の口に合わないということがなく大変おいしいです。肉類はオージービーフやラム肉などをよく食べます。魚介類も豊富で私は牡蠣が特に美味しいと思います。ワインも品質が良くて安価なものが多いので、多くの家庭で愛飲されています。忘れてはならないのは、多様性を受け入れるフレンドリーな国民性です。日本文化への好意的な姿勢はパートナーシップを構築していく上で間違いなくプラスに働くでしょう。
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ーーそんなオーストラリアでの今後の課題は、やはり脱炭素と再生可能エネルギー関連でしょうか?

  • はい。オーストラリアは、商船三井にとって大変重要な国で、鉄鉱石、石炭、LNG等多くの資源をオーストラリアから輸入しています。このほかにも自動車の取引でも大きなシェアを持っています。さらに今後は、再生可能エネルギー資源の分野でさらなる成長を遂げていきたいと考えています。
     

ーーありがとうございました。

 


AustraliaとNew Zealand のスタッフとのオンラインワークショップの様子
望ましい働き方について話し合う。(2022年4月開催)

 


現地で付き合いのある会社のメンバーとState Of Origin州対抗ラグビー観戦の様子
8万人がスタジアムに集まり熱狂した。

 

オーストラリアならではのラム肉や、入澤氏おすすめの牡蠣やビール・ワイン。
これらが近くのスーパーで一度に購入できます。最近は目に見えて値段が上がってきています。

 

シドニーの夜景(フェリーから見る雨上がりのオペラハウスとハーバーブリッジ

 

【インタビュー】

入澤 秀行 Irisawa Hideyuki
MOL Shipping(Australia) Pty. Ltd Managing Director

 2005年中途入社、IT業界からの転職。鉄鉱石/石炭/木材チップ輸送、グループ会社経営管理、不動産事業を経験した後、シドニーに赴任。オーストラリア広域に点在する港湾の訪問、現地法人の経営、連邦/州政府や民間企業とのネットワーク構築、新規ビジネスの開拓などに現在取り組んでおり、過去の多岐にわたる業務経験が活きていると思うこの頃。学生時代からの趣味のラグビー観戦、サーフィン、スキーは、赴任後のオーストラリアでも継続中


世界最大の石炭積み出し港Newcastleにて、Tug Boat上から入港船を臨む