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「海洋温度差発電」がもたらす社会創造 海からこそ導き出せたサステナブル支援 (前編)

作成者: 商船三井|2024年10月07日

商船三井では、サステナブルな地球環境の創造に資する技術やインフラ開発への挑戦である「BLUE ACTION MOL」において、「海からの視点を持てば、そこにはまったく違う未来が広がる」と宣言しています。具体的な取り組みのひとつとして「海洋温度差発電(Ocean Thermal Energy Conversion=OTEC)」の実証プラント運営への参加と関連技術開発を進めています。発電にとどまらず、発電に利用する深層海水を活用することによる地場産業や生活インフラの創出など波及効果が大きく、島国の経済的な自立の基盤になる可能性を秘めているOTEC。これは、海を起点とした社会インフラ企業へとフィールドを拡張していく、われわれ商船三井ならではの未来世界の創造と言えます。本ブログシリーズでは前編と後編に分けて、海洋温度差発電プロジェクトの担当者へのインタビューを交えながら、本プロジェクトの概要やプロジェクトに懸ける想いをお届けします。

後編はこちら→


世界中が注目!海のエネルギーを活用した「久米島モデル」

沖縄県那覇市の西方約100㎞にある久米島は、砂浜だけの島「ハテの浜」の美しさで知られる。しかし一方でここは、「久米島モデル」と呼ばれる取り組みで世界中から注目されている島でもある。
久米島モデルとは、「海洋温度差発電(OTEC)設備を核に、発電に使う深層海水を複合利用することでさまざまな産業振興や社会インフラを整備する」取り組みのこと。商船三井は、このOTECの運営に参画し、商用化・大型化に向けた技術支援とビジネスモデルの構築に取り組んでいる。
島の東側、真謝(まじゃ)という海岸エリアに設置されているのがOTECの実証プラントで、周辺に深層海水を使った化粧品製造施設、海ぶどうや牡蠣、クルマエビの養殖施設などが立地している。OTECが稼働を始めたのは2012年6月。沖縄県が佐賀大学等の協力を得て設置したもので発電最大出力は100㎾ある。

久米島に設置されたOTEC実証プラント

久米島町プロジェクト推進課によると、2000年の沖縄県海洋深層水研究所の開設以来、深層海水を活用した産業が発展。現在、深層海水関連製品の生産額は年間約25億円にものぼるという。また、久米島町の人口は約7600だが、深層海水関連事業で新規に140人以上の雇用が創出された。その産業規模は、久米島町の農業生産額とほぼ同じであり、水産業の生産総額のうち7割を占めている。さらには、久米島町の総生産額は年間237億円。つまり、深層海水を活用した産業が約10%を占めていることになり、まさに地域産業の柱となっているのである。こうした優れた実績から久米島のOTECには、すでに世界76カ国から12000人もの人々が視察に訪れている。

OTECによって創出される様々な産業

海水の温度差で発電し、深層海水を多角的に利用する

OTECとは、海の表層と深層の海水温度差を活用して発電する仕組みだ。太陽が照りつけている水面では水温が高まり、ハワイなどでは30℃近くにもなる。逆に水深が200mを超えると太陽の光はほとんど届かなくなり、水深1000mの深海では地域差もほぼなく水温は4~5℃にまで下がる。
OTECの原理はある意味で極めてシンプルだ。①沸点が低く気化しやすいアンモニア等の媒体を、温かい表層海水を使い蒸発させる。 ②発生した蒸気でタービンを回し発電する。 ③タービンを回した蒸気を、冷たい深層海水で冷やして液体に戻す。こうして①〜③を繰り返し行うのだ。この仕組みは1881年にフランスの物理学者によって提唱され、断続的に開発が続けられてきた。

OTECによる発電の仕組み

OTECは、太陽光や風力発電などの変動性の高い再生可能エネルギーとは違い、気象条件に大きく左右されることなく、24時間安定して電力を供給できる。また、OTECは表層海水と深層海水の温度差が必要だが、商用展開していくために必要な温度差は20℃程度とされている。だからこそ表層海水と深層海水の平均温度差が20℃を超える赤道付近に適地が多く、島国のエネルギー源として注目されている。
久米島の場合、沖合2.3㎞の水深612mの海底から汲み上げた深層海水(夏季で6~7℃)と、表層海水(同28~29℃)の温度差を活用し、最大100㎾を発電。発生した蒸気を日量1万3000tの深層海水で冷やしている。

OTECに適した赤道付近を示す地図

また、深層海水は蒸気を冷やすのみならず、その清浄性や富栄養性、低温性という特徴を活かして、化粧品の原料となったり、海産物の養殖や、空調に利用されたりもする。このような深層海水の二次利用というのも、OTECの大きなメリットだ。
具体的な例として、「海ぶどうの養殖」がある。海ぶどうの需要は、沖縄の観光シーズンである夏場に増えるが、この時期は海水温が高すぎるため養殖は困難だった。しかし、深層の冷たい海水を使うことで夏場の養殖が可能となり、いつでも安定して供給できるようになった。また、世界初の「牡蠣の完全陸上養殖」にも使われ、きれいな深層海水のみで育った牡蠣は「生食でもあたらない」と注目を集めている。さらに、冷たい深層海水を通す管を地中に回して土を冷やすことで、熱帯では栽培できないホウレンソウなどの葉物野菜の栽培も可能になっている。

OTECと関連産業のモデル図

 

(後編へ続く)