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”海賊” の現状とは~5つの疑問~

  • 海運全般

2021年04月13日


【海賊】と聞くと歴史上、過去の話と思われている方も多いかもしれませんが、現代にも存在しています。本ブログでは、今もまだアジアやアフリカの一部に存在する海賊の現状とその対策についてご紹介します。

海賊はどこに存在する?

そもそも「海賊」と聞いて何を思い浮かべますか。北欧のバイキングや歴史の教科書で習った「倭寇」といった海賊のことでしょうか。または人気アニメを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。かつてカリブ海などで海賊行為が盛んに行われた時代があり、映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」に代表される海賊のイメージは、この頃の海賊がモデルになっています。

そんな海賊ですが、沿岸各国が軍事・通商・航海など海上の諸権益を確保し、治安が保たれるようになると、いつの間にか姿を消していきました。日本においても、豊臣秀吉の時代に海賊停止令が出され、村上水軍など「海賊」と呼ばれた人たちは、秀吉への服属を強いられ、海賊行為はなくなっていきました。そして海賊はいつしか、昔話に登場するノスタルジックな存在となっていきました。
しかしながら、現代にも海賊はまだ脅威となって存在している地域があります。
その代表的な地域が、マラッカ・シンガポール海峡、セルべス・スールー海(フィリピン南東)、アフリカのアデン湾、ソマリア沖周辺及びギニア湾です。海賊が発生する地域 セルベス・スールー海域

セルべス・スールー海で起きた事案等、詳細を閲覧可能
出典:アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)Interactive Incident Map

海賊が発生する地域 アデン・ソマリア湾 マラッカ・シンガポール海峡

出典:日本船主協会

日本にとって、マラッカ・シンガポール海峡は、特に原油輸入の9割を依存する中東からのシーレーン(海上交通路)の経由地であり、アデン湾・ソマリア沖は日本と欧州をつなぐ海上交通の要衝です。両海域を通過する商船の安全確保は、海上輸送における最優先課題のひとつです。

現在の海賊行為とは?

海賊(Piracy)の定義とは、国連海洋法条約第101条(article 101 of the United Nations Convention on the Law of the Sea)により以下のとおり定義されております。

  • a)私有の船舶又は航空機の乗組員又は旅客が、私的目的のために行うすべての不法な暴力      行為、抑留又は略奪行為であって次のものに対して行われるもの
    b)公海における他の船舶若しくは航空機又はこれらの内にある人若しくは財産
    c)いずれの国の管轄権にも服さない場所にある船舶、航空機、人又は財産
    d)いずれかの船舶又は航空機を海賊船舶又は海賊航空機とする事実を知って当該船舶又は航空機の運航に自発的に参加するすべての行為
    e)(a)又は(b)に規定する行為を扇動し又は故意に助良するすべての行為

これらの海賊行為も時代とともに変化し、進化を遂げています。高速艇や小さなボートを乗り回し、トランシーバーで連絡を取り合いながら、タンカーや商船、漁船を狙い、船に近づき、乾舷(船の横側)に長いはしごをかけて、自力で登ってきます。セルべス・スールー海、ソマリア沖、ギニア湾では、マシンガンやロケットランチャーなどの高度な武装をして、主に、乗組員を人質に取り、船会社に身代金を要求します。またマラッカ海峡では、乗組員に金品を要求する他、船の機械・装置類も奪おうとします。時には船舶を積み荷ごと横取りする場合もあります。2020年にはスールー海・セレベス海及びマレーシア・サバ州東部海域においては、船員の誘拐事案が発生しています。現在の海賊行為 高速艇にのり、ロケットランチャーを構える海賊

(写真左)自動小銃(手前)とロケットランチャー(後方)を構えるソマリア沖の海賊。
ソマリア沖では重火器を使用した海賊行為が特徴。
(写真右)襲撃時に使用される小型船 
出典:日本船主協会

マラッカ海峡周辺にみる現在の海賊行為とは?

以前から海賊行為は続いていましたが、世界的に注目されたのは、1999年10月のアロンドラ・レインボー号ハイジャック事件からです。アロンドラ号が、インドネシア・スマトラ島からアルミニウム・インゴットを積み日本に向かう途中、マラッカ海峡で海賊に襲われ、積み荷と船を奪われるという事件が発生しました。日本人の船長・機関長を含む17名の乗員は救命いかだに乗せられ、10日間に及ぶ漂流の後、タイの漁民に救助されました。アロンドラ号は、船体の色を塗り替えられ、船名も変更して航行していましたが、インド洋航行中、インド・コーストガードによって操船していたインドネシア人海賊グループとともに拿捕されました。この事件は、海賊対策における国際協力態勢構築の契機となり、主犯格の国際犯罪組織も摘発され、その後大掛かりなハイジャック事件はなくなっています。
一方、小型船や漁船を襲った事件はなくなっていません。2005年3月に、日本船社の所有するタグボート(※1)「韋駄天(498トン)」がマラッカ海峡で海賊に襲撃され、日本人の船長と機関長、フィリピン人の三等航海士が誘拐される事件が発生しています。このように重武装した海賊がバージ船(※2)などの小型船を襲い積み荷(スクラップ等)を奪う事件は現在もマラッカ海峡周辺で起こっています。

※1タグボード(曳船)
狭い港湾内で本船を曳航したり、押すなどして、入出港を支援したり、本船の進路の警戒やパイロットの乗下船に使用される船。

※2バージ船

艀(はしけ)とも呼ばれる。運河や河川など内陸水路や港湾内で重い貨物を運ぶ底が平らな船の事。

マリア沖周辺での海賊行為の背景とは?

ソマリア海賊は、自動小銃やロケットランチャーなどの重装備で商船を襲撃・ハイジャックした上で、乗組員を人質に身代金を要求する手口を特徴とします。2008年に発生したソマリア海賊事案111件のうち、42隻が実際にハイジャックされ815名が人質になるなど、国際社会に大きな脅威をもたらしました。2011年3月には、商船三井のタンカーも被害に遭いました。ソマリア沖でグアナバラ号(商船三井が運航する原油タンカー(57,462総トン)船籍バハマ)が4人の海賊に乗り込まれ、海賊は自動小銃を発射するなどして同船を乗っ取ろうとしたのです。事件発生後、同船からの救難信号を受けて、米国海軍の艦船により本船は救出され、ソマリア人海賊4人の身柄は拘束されました。乗組員は全員外国人でしたが、全員操舵室に避難していて無事でした。

ソマリア沖周辺で海賊が頻発するようになった背景とはなんでしょうか。ソマリアは、1991年に政権が倒れて以降、国の全土を実効支配する政府が存在しない混乱状態に陥ってしまい、国内紛争が激化し、劣悪な治安状況下、大量の国内避難民が発生する状況となりました。漁師だったグループは魚を輸出できなくなり、生活が困窮していき、さらに国も海賊を取り締まる余裕がなくなってしまい、そうしたことが重なって、海賊を発生させる温床となったのです。 

国際社会の海賊問題に対する取り組みとは?

ソマリア沖、アデン湾は、スエズ運河を経由してアジアとヨーロッパを結ぶ重要な海上交通路の途中にあります。中東~日本だけでなく、ヨーロッパ~アジアの航行ルートにおいて、スエズ運河を通過する船は必ずこの海域を通らなければなりません。急増した海賊が、船を乗っ取り、船員の人質強奪などの事件を引き起こすようになり、国際社会は、海賊問題に対する認識が一気に高まり、国と民間による海賊対策が検討されるようになりました。
国連は2008年、人道支援物資の輸送と通商航路の安全確保のため、海賊を掃討するための安全保障理事会決議を採択。この決議をきっかけとして、多くの国が船舶警備のために海軍艦艇を派遣するようになり、海賊を武力鎮圧する事例が増えてきました。
2011年1月には、韓国海軍の特殊部隊が、ソマリア沖で乗っ取られた韓国籍ケミカルタンカーを銃撃戦の末、乗組員21名全員を助け出したという救出劇も発生しました。
日本政府もソマリア沖の海賊に対処するための取組みを開始。2009年より護衛のため海上自衛隊の護衛艦を派遣し、アデン湾を航行する船舶の護衛にあたっているほか、P-3C哨戒機を飛ばして空から監視活動を行うなど、海賊対策の国際協力を行っています。この活動は、現在も継続して行われており、国際海運並びに日本商船隊の安全航行に大きく貢献しています。

護衛艦により護衛される商船

旅客船を護衛する護衛艦
出典:内閣官房 2020年海賊対処レポート 2021年3月
ソマリア沖・アデン湾における海賊対処に関する関係省庁連絡会

海賊行為の発生状況

2020年の国際商業会議所(ICC:International Chamber of Commerce)国際海
事局(IMB:International Maritime Bureau)の年次報告書によれば、2020年の全
世界の海賊・武装強盗事案の発生件数は195件。2010-11年には年間200件を超えていたソマリア沖周辺の海賊行為が、近年ほとんど見られなくなって、全体数は漸減傾向にあります。2020年の195件のうち、アフリカ海域で88件、アジア海域全体で66件、最近頻発する地域として新たに注目されているのが西アフリカのギニア湾です。2020年にはギニア湾で88件発生し、特にナイジェリア沖での発生件数が35件と大きな割合を占めています。
。次に多いのが、やはりアジアでインドネシア周辺(26件)です。

ソマリア沖・アデン湾及びその周辺の海賊発生件数

ソマリア沖・アデン湾及びその周辺の海賊事案発生状況(IMB年次報告)
出典:内閣官房 2020年海賊対処レポート 2021年3月
ソマリア沖・アデン湾における海賊対処に関する関係省庁連絡会

シンガポール・マラッカ海峡(同海峡の大部分はマレーシアの領海)の海賊発生件数については、シンガポール沿岸警備隊とマレーシア当局・海軍による警備・パトロールの効果により、2005年以降、発生件数は年間25件を下回っています。またインドネシア周辺についても、2016年に49件と前年比で半減を維持しております。インドネシアには島の数が17,000以上あるといわれ、同国の中心がジャワ島であることから、スマトラ島北部や離島は辺境という意識から、海賊問題の解決に時間がかかるとみられていましたが、海賊対策に成果が認められています。

インドネシア領海周辺における海賊発生件数

インドネシア領海周辺における海賊行為発生件数推移(Statista社データより

しかしながら、ReCAAP(アジア海賊対策地域協力協定)の報告によれば、2020年アジア域内では、97件の海賊事案が発生しており、なくなる気配はありません。うち69件がマラッカ海峡及びインドネシアとフィリピン周辺で発生しています。武装強盗による盗難行為が主なもので、乗組員に危害が及ぶことはほとんどなくなっているのが最近のアジア地域の特徴です。このように海賊の脅威は続いていることから、最大のアジア海域利用国でもある日本の船舶関係者は、アジアの海には海賊がいるとの認識をもち、今後も継続して自衛の措置を忘れてはいけません。

アジアの海にも海賊 日本供与の巡視船 インドネシア領海の警備にあたる日本供与の巡視船
(出典:じゃかるた新聞)

海賊発生地点

出典:IMB Annual Report 2020 

海賊に遭遇する可能性がない航路はというと…北極海航路が挙げられます。
商船三井は北極海航路輸送のパイオニアとして、北極海航路事業に携わってきました。2018年には、世界初となる砕氷LNG船を竣工させ、LNG(Liquid Natural Gas =液化天然ガス)をロシアから中国に輸送するにあたり、北極海航路の通航(夏季のみ)を開始しました。北極海航路についてはシリーズブログでご紹介しています。
商船三井は、資源の安定輸送と、CO2削減の両立に向け、北極海航路輸送におけるトップランナーを目指していきます。

北極海航路の概要についてはこちらのブログ:

北極海航路輸送におけるトップランナーを目指して

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AKINA.H

記事投稿者:AKINA.H

2014年中途入社。自動車船の三国間輸送の事務、ばら積み船での運航担当等を経て、2020年4月よりマーケティング部門にて本サイトの運営に携わっております。ニュースレターの作成も担当していますので、購読頂けると嬉しいです!仕事には炭酸水とカフェラテ、二日酔いにはトマトジュースです。

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