再エネの切り札として世界中で導入が進められている洋上風力発電ですが、そもそもどういった仕組みなのか?船会社がどのように関わっているのかについて知らない方も多いのではないでしょうか?そこで本ブログでは、基礎知識のおさらいから洋上風力発電プロジェクトで活躍する船舶、世界各地の洋上風力発電に対する取り組みの現状についてご紹介します。
(この記事は2025年4月に執筆されたものです。)
洋上風力発電は数ある発電手法の中でかなり新しいものと位置づけされていますが、実は30年以上前からプロジェクトは進められており、1991年にデンマークのVindebyにおいてデンマークの電力会社が世界初の洋上風力発電所を建設したことが歴史のはじまりとなります。2000年以降、気候変動対策が進むにつれて欧州各地で洋上風力の導入が加速し、欧州は現在でも先進地域となっています。日本では2000年代以降に研究開発が進められ、最初の洋上風力発電所が2004年に北海道せたな町で建設された他、2010年には茨城県鹿島沖にあるウィンド・パワーかみす第1洋上風力発電所が初の商業運転プロジェクトとして事業を開始しています。現在日本政府は2040年の洋上風力発電導入目標を30-45GWと設定し、国内約30の区域で洋上風力の導入および検討を進めています。
日本の洋上風力プロジェクト(出典: 経済産業省)
洋上風力発電には着床式・浮体式の2種類の手法が存在しており、日本では今後、浮体式が主流になると考えられています。
A. 着床式
海底に固定した基礎に風車を設置する方式。一般的に、水深50m未満前後の海域には着床式が適しているとされています。
B. 浮体式
浮体式は、主にバージ型、TLP型、セミサブ型、スパー型の4種類に分類され、設置場所の特徴や条件に合わせて形式が選択されます。遠浅の海岸が少ないことや、自然災害のリスクがある日本の地形に適していると言われています。
洋上風力発電では風車設備の設置、メンテナンスにおいて、機材の輸送のみならず技術者の派遣のも必要になるため、様々なタイプの船舶が必要になります。そこで次に、洋上風力発電に従事する船舶についてご紹介します。
輸送: モジュール船
フラットな甲板を有し、ブレード、浮体基礎といった風車部材を直接積み込み、あらゆる大型重量物の輸送に対応することが可能な船舶。
JFEエンジニアリング向け新造モジュール船のイメージ図(出典: 当社プレスリリース)
設置・据付: SEP(Self-Elevating Platform)船、WTIV(Wind Turbine Installation Vessel)
プラットフォームを海面上に上昇させるための脚とクレーンを装備し、洋上風力発電設備の設置作業を行う船舶。プラットフォームを波浪の届かない高さまで上昇させて保持することで、波浪中でもクレーンを用いた作業を行うことが可能です。洋上風力発電設備据付作業の他、油井、ガス井のメンテナンス作業にも従事しています。
設置・据付: AHTS(Anchor Handling Tag and Supply)
元々は石油掘削リグなどの海洋構造物の曳航、係留用アンカー・チェーンの据付などに従事する作業船でしたが、浮体式洋上風力においても同様の係留が必要となることから、洋上風力分野においても活躍しています。
ケーブル敷設: CLV(Cable Laying Vessel)
風車が発電した電力の陸上電力網への送電、洋上風車間の連系には海底ケーブルが必須であり、専用のケーブル敷設船が活用されています。商船三井グループでは、商船三井マリテックス株式会社が専用設備を備えた2隻の海底ケーブル敷設船の運航・船舶管理を行っています。
運転・保守: Service Operation Vessel(SOV)、Crew Transfer Vessel(CTV)
SOV: 洋上風力発電所のメンテナンス技術者を複数の洋上風車に派遣する為に多数の居室を持ち、一定期間洋上での活動が可能なオフショア支援船。本船と洋上風車の距離を常時安全に保つため、ダイナミックポジショニングシステム(DPS)を搭載し、また本船から洋上風車プラットフォーム上に技術者を安全に渡すため、波等による船体動揺を吸収するMotion Compensation機能を搭載しています。また、洋上風力発電所の建設や試運転での運用を想定したSOVは、設備設置後の保守運用作業に投入されるSOVと区別するため、CSOV (Construction/Commissioning SOV)とも呼ばれます。CSOVは通常のSOVに比してクレーンのキャパシティが大きく、収容人数が多く設計されています。
台湾 Ta Tong Marineとの合弁会社である大三商航運(Ta San Shang Marine)が保有、管理する「TSS PIONEER」(出典: 当社プレスリリース)
CTV: 洋上風車のメンテナンス技術者を拠点となる港から送り届ける船舶(乗客定員12-24人)。船首部分に取り付けられたフェンダーを洋上風車に押し付ける形で船体を安定させたうえで技術者が洋上風車に移乗します。
上記でご紹介した各船の写真はこちらからもご覧いただけます。
昨今は長引くインフレやウクライナ戦争、紅海危機といった地政学リスクに加え、貿易戦争などの不確実性がビジネス環境に大きな影響を及ぼしています。本項では世界各地の洋上風力発電に対する取り組みに加えて、これらの要因が洋上風力発電に与える影響についてご紹介します。
RENEWABLE UK(英国風力エネルギー協会)によると、2024年、洋上風力発電の発電容量は世界全体で80.9GW(約半分は中国)に達し、世界のエネルギー供給の0.4%を占めています。またClarksons Offshore Wind: 2024 Market Reviewによると、現在世界の20カ国の333の洋上風力発電所で13,943基(うち中国6,674基)の風車が稼働しており、洋上風力発電容量は2025年に世界全体で前年比28%拡大し、総発電容量は100GW近くに拡大すると見通されています。
一方で、2024年の洋上風力発電への新規投資はインフレ、コスト高、サプライチェーンの混乱によって世界全体で前年比35%減となっています(下図参照)。Clarksonsは2025年に世界全体で790億ドル(うち中国が360億ドル)の投資が実施されると予測していますが、米国では多くのプロジェクトで長期にわたる遅れやコスト増が生じ、計画中止に至った他、トランプ政権による洋上風力発電事業向けの連邦政府管理地の貸与を停止する大統領令など、同国の洋上風力発電プロジェクトに対する向かい風が強くなっています。
洋上風力発電への最終投資決定(FID)の推移(上図)(出典: Clarksons)
洋上風力発電のコスト推移(下図)(出典: S&P Global)
日本政府は洋上風力導入目標(案件形成ベース)を2030年までに10GW(稼働ベース5.7GW)、2040年までに30-45GWとしており、2021年から案件組成と事業者選定に向けた公募や、洋上風力発電設備の設置範囲を領海からEEZに拡張する法改正など官民連携の取り組みを行っています。しかし2021年の公募で落札された案件が、昨今の世界的なインフレや円安等により現在は苦戦を強いられるなど、課題に直面しています。しかし日本政府は洋上風力を「再エネ主力電源化の切り札」と位置付けており、依然として洋上風力事業に対する期待値は高いものになっています。
今回は洋上風力発電の歴史から発電手法、洋上風力発電で活躍する船舶、世界各地の洋上風力発電への取り組みの現状をご紹介してきました。2021年のブログでも洋上風力を取り上げましたが、洋上風力を取り巻く環境は常に変化していると言えます。現在、インフレによるコスト増や米国の環境政策方針の急転換といった地政学リスク要因からプロジェクトは苦戦を強いられていますが、脱炭素の切り札、ひいてはカーボンニュートラルの終着点としての洋上風力発電に対する期待はこれからも高くあり続けるでしょう!
商船三井グループは、今後も洋上風力発電事業のバリューチェーンにて幅広いサービスの提供をはじめとした「環境・エミッションフリー事業」を積極的に推進・育成し、環境負荷低減に努めていきます。
当社の風力発電事業への取り組みについて、以下より概要をご覧いただけます。