以前公開した記事「タグボート(曳船)ってなに?商船三井のタグボート事業に迫る!(記事はこちら)」では、港の「縁の下の力持ち」であるタグボートの基本性能や、日本全国に広がる商船三井グループの拠点について詳しくご紹介しました。
今回は、さらに一歩踏み込んだ「曳船事業のリアル」に焦点を当てます。九州全域を支えるグリーンシッピング株式会社の事例を軸に、司令塔である「配船オペレーター」の日常、巨大物件を運ぶ「曳航(えいこう)」のプロの技術、そして次世代の担い手を募る「採用プロジェクト」の舞台裏まで、余すことなくお届けします。
「タグボートってなに?」「船員の働き方は?」「曳航って何がすごいの?」そんな疑問に答えるべく、本記事では“現場で働く人”の目線から、タグボート(曳船)事業のリアルを余すことなくお届けします。
「曳船(えいせん)事業」とは、タグボート(曳船)を用いて、大型船舶の入出港時における接離岸サポートや危険物積載船・大型貨物船の進路警戒作業を行うとともに、洋上風力発電設備や港湾施設などの海上構造物の輸送(曳航)にも対応するサービスの総称です。
港湾という限られたエリアにおいて、数万トン級の大型船が安全に動き回るためには、タグボートによる繊細かつパワフルな補助が欠かせません。具体的には、以下のような多岐にわたる専門業務を担っています。
| 接離岸サポート | 大型船が安全に接離岸できるよう押したり、曳いたりする作業 |
| 進路・荷役警戒 | 本船が他船との接触を防ぐための交通整理や、荷役中の危険物積載船に対する安全監視 |
| 曳航作業 | 自力航行ができない大型起重機船や作業台船を、ロープやワイヤーで引いて目的地まで移送 |
| 海難救助 | 事故や故障で動けなくなった船への救助活動 |
これらの業務は港湾インフラにとって必要不可欠であり、一歩間違えれば大きな事故に繋がりかねないため、極めて高度な技術と長年の経験が求められます。
商船三井グループは、日本栄船株式会社、グリーンシッピング株式会社、グリーン海事株式会社の国内3社を中心に、日本国内の主要港(北海道、伊勢湾、瀬戸内、九州など)で約50隻のタグボートを運用しています。さらに、ベトナムや香港といった海外拠点のネットワークも拡大しており、世界の海上輸送の安全を足元から支えています。
商船三井グループの曳船企業(国内)(出典:商船三井)
商船三井グループの曳船企業(海外)(出典:商船三井)
2025年7月、「商船三井ベイ・リンクス(MOL Bay Links)」の設立によって、地域に根ざした各社の強みを維持しつつ、グループ全体の組織最適化を進めております。
LNG燃料タグボート「いしん」の竣工やプロペラ効率改善装置「PBCF(Propeller Boss Cap Fins)」の導入といった環境負荷低減への取り組みや、デジタルを活用した効率化など、次世代の港湾インフラのあり方を追求し続けています。
タグボートを効率的、かつ安全に動かすための「頭脳」となるのが配船オペレーターです。彼らは単なる事務職ではなく、現場の状況を熟知し、24時間365日の稼働を支えるプロフェッショナル集団です。
例えば、入社16年目のベテランAさんのようなオペレーターが、陸上から船舶運航に関わる業務や収支管理を担っています。業務終了後は夜間転送電話を設定し、緊急時に対応できる体制を整えており、有事の際には迅速に関係各所との連携・調整を行います。運航を支える「司令塔」として、安全で安定した海上輸送を支えています。
配船オペレーターAさん(社歴16年)のリアルな一日
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時間帯 |
業務内容 |
詳細説明 |
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08:30 |
夜間引き継ぎ |
夜間電話対応者から予定の追加・変更点を確認 |
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09:00 |
安全・労務管理 |
各船のアルコールチェック記録の確認、気象海象(風速・波高)の把握、乗組員の労働状況確認 |
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10:00 |
情報収集 |
顧客から新規オーダーや手配変更の情報を集約 |
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11:00 |
配船予定作成 |
翌日のスケジュールを組み、本船の輻輳(ふくそう)により自社船の手配が厳しい場合は同業他社への協力要請も行う |
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12:00 |
休憩 |
昼食をとってエネルギー補給 |
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13:00 |
タグボート訪船 |
作業海域の気象・海象条件を踏まえた曳航計画や曳航要領等について打合せ |
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14:00 |
関係先訪問 |
顧客訪問し、請求書の持参や情報交換を行う |
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15:00 |
作業予定表完成 |
翌日の最終予定を確定。作業予定表を各船へ送付 |
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17:30 |
業務終了 |
事務処理後、夜間転送電話をセットして退社 |
彼らが「海の玄関口」で地域の産業と人々の暮らしを支える司令塔として機能することで、日本の海上輸送の一翼が担われています。
自力で航行できない大型物件を引いて運ぶ「曳航事業」は、タグボートの仕事の中でもダイナミックな専門領域です。
一言に「曳航」といっても、被曳航物件の大きさや、港内・内海・外洋といった作業海域、曳航距離などその内容は様々です。また作業期間についても1日から1週間程度で終わる短期案件もあれば、数か月~半年にもおよぶ長期のプロジェクト案件もあります。大型物件を港から港へ海上輸送する作業も、港内で小さな台船をシフトする作業も、同様に「曳航」と表現することがあります。
自力で航行できない大型物件を引いて運ぶ「曳航事業」は、単に船を出すだけでは成立しません。この特殊な業務を完遂するためには、「会社(法規制)」「船(装備)」「人(技術)」という3つの要素すべてが揃っている必要があります。
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観点 |
必要な要素 |
詳細説明 |
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会社 |
内航海運業の登録 |
改正内航海運法施行に伴う適切な登録。 法的に曳航ビジネスを行うための必要な登録です。 |
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船(タグ) |
専用の曳航関連装置 |
破断強度170トン、長さ800mに及ぶワイヤーをはじめとした、巨大物件に耐えうる専用装備。 |
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人(船員) |
熟練の技術・ノウハウ |
巨大物件を制御し、気象・海象を読み解きながら曳航体制を使い分ける高度なスキル。 |
グリーンシッピング株式会社では、4,100トン吊の日本最大級起重機船「海翔」や、全長110mに及ぶ半潜水型台船「フロートレイザー」などを曳航した実績があります。
例えば「フロートレイザー」の輸送では、長崎県福江港から福岡県若松港までの約138マイル(約255km)を3日間かけて曳航します。外洋では船尾からワイヤーを繰り出す「アヘッド(前進)曳航」を行い、狭い港内では船首のウィンチを活用し、前後2隻で細かい動きを制御する「アスタン曳航」に切り替えるなど、状況に応じた高度なモードチェンジが行われています。近年では、洋上風力発電施設の建設支援など、グリーンエネルギー分野への貢献も期待されています。
「フロートレイザー」の曳航についてはこちらの動画でもご紹介しています。
ぜひご覧ください。(出典:YouTube「タグボートのリアルな世界」)
現在、タグボート業界は洋上風力事業の発展、港湾インフラの拡大・再整備に伴い曳航需要が高まる一方、認知度不足による深刻な船員不足に直面しています。タグ船員は給与水準が高い魅力的な職業ですが、従来のセミナー等ではその実態が若年層へ十分に届いていないのが現状でした。
この課題を解決し、次世代へやりがいを直接届けるために始動したのが、商船三井ベイ・リンクスのYouTubeチャンネル「タグボートのリアルな世界」を活用した採用プロジェクトです。
商船三井グループは、商船高専や水産学校などの海技系学生、転職希望者をターゲットに、単なる情報の羅列ではなく現場の「熱量」をありのままに発信しています。配信内容は、YouTubeショートでの「タグボートの形」といった素朴な疑問への回答から、長編動画での「船員の一日密着」を通じた仕事の紹介まで多岐にわたります。
港の安全を守る大きな使命感と、日々磨き抜かれるプロの技術。YouTubeという扉を通じて、未来の仲間がこの魅力的な世界へ飛び込んできてくれることを、私たちは心から願っています。