2025年04月21日
大きな港に行くと、船体のまわりに「タイヤ」をつけている小型の船を見かけることがあるかと思います。これが「タグボート」です。日本語では曳船(えいせん)と呼びます。港には、多数の自動車を積んだ自動車船、石油を運ぶタンカーなどの大型船が停泊しています。これらの船が貨物や貨油を陸揚げするためには、港の岸壁や桟橋に接岸する必要がありますが、狭い港内では大型船は自由に動けません。そこでタグボートが重要な役割を果たします。今回は、小型ながらも力強いタグボートの基本情報や、商船三井グループのタグボート事業についてご紹介します!
「タグボート」は英語で「Tugboat」と書き、「tug」は「強く引っ張る」という意味です。タグボートには「アジマススラスター」と呼ばれる、360°水平方向に回転できるプロペラが搭載されており、このプロペラのおかげで小回りが利き、港内を自由自在に動くことができます。また、その小さな船体には強力なエンジンを搭載しており、非常に高い機動性を持っています。これにより、大型船の周囲を自在に動き回り必要なサポートを提供することができます!見た目は小さいですがそのパワーは抜群で、まさに縁の下の力持ちです。
自由自在に動くことができるタグボート
アジマススラスター
タグボートの役割は多岐にわたりますが、主に以下のような作業を行っています。
(1)着岸・離岸のサポート
大型船が入港する際や出港する際に、船を押したり曳いたりして安全に着岸・離岸させる役割を果たします。大型船は自力での細かい操船が難しいため、タグボートの力を借りて狭い港内での操船を行います。
現場の声:曳船会社オペレーター
VLCCのような超大型船の接岸作業では5~6時間かかることもあります!長時間労働となった場合はそのあとに十分な休息時間を取れるように労務管理をしています。
(2) 進路/荷役警戒
大型船が航行する際に、無線や拡声器を使用したタグボートからの呼びかけ等により進路上の障害物や他の船舶を警戒し、安全な航行をサポートします。進路警戒は専用の警戒船で行うことも多くありますが、タグボートもその機動性からよく使用されます。特に狭い水域や港湾内では警戒船やタグボートが先行して進路を確認し、大型船が安全に航行できるようにします。また、LNG、LPGのような危険物を積載した船が荷役をする際には、周辺に不審船がいないかの監視や、ガス検知器を使用して積荷の漏れがないか等の確認を行います。
現場の声:曳船会社オペレーター
大型船は死角が多く障害物をすぐに避けることができないため、事故を未然に防ぐためにもタグボートによる早めの情報提供が重要です!
(3) 曳航作業
タグボートは、自走が出来ない重量物やバージ(はしけ)などを曳航する作業も行います。これにより、港湾内や海上での起重機(クレーン)や構造物等の輸送を行います。港湾開発には欠かせない存在です。
現場の声:曳船会社オペレーター
障害物の少ない洋上では、船尾に搭載しているワイヤーロープを500m程度伸ばして曳航することもあります!上の写真は、建造中の当社自動車船を曳航している様子です。
(4) 海難救助/サルベージ作業
危険物積載船等のエスコートや荷役中警戒、海難救助や火災などに対応できるよう消防設備を備えています。衝突、座礁、火災、機関故障等の船舶の海難救助作業にも従事します。
現場の声:曳船会社オペレーター
海上での火災は消火設備を持つタグボートが初期対応の大事な役割を担います!
現場の声:外航船船長
日本のタグボートは総じて出力も十分あり、本船(大型船側)からの指示に対して機敏に対応してくれる印象です。コミュニケーションミスを無くすため指示を復唱するなど安心感があります。
商船三井グループの曳船会社は、北は北海道、南は九州まで全国各地に多数あります。当社グループの曳船事業では、ハード面では高品質な船舶の建造・調達と日々の機器整備、ソフト面では乗組員の技術向上・安全教育を行っており、高い能力が求められる作業でも無事故・無災害で業務を遂行する体制を整えています。
商船三井グループの曳船会社一覧
ぜひ、港で縁の下の力持ちたちを探してみてください!
(1)日本栄船
日本栄船株式会社は、伊勢湾・三河湾地区と大阪湾・瀬戸内海地区の港湾及び周辺地域・水道航路において、本船の離着岸に伴う曳船業務や、巨大船・危険物積載船のエスコート業務並びに荷役作業中の警戒業務等を行っております。また、日本栄船グループでは、石狩湾や苫小牧港、駿河湾、宇部港でも曳船を運航しています。日本栄船のタグボートは、赤いマストに“N“のマークが特徴です。
日本栄船株式会社 - NIHON TUG-BOAT CO.,LTD
(2) グリーンシッピング
グリーンシッピング株式会社は、北九州をはじめとした九州一円での曳船業、船舶代理店業、通関業、倉庫業等を行っている港湾物流のエキスパートです。さらに、起重機や海上構造物を引っ張る曳航案件も取り扱っており、その活動範囲はなんと日本全国にわたります!グリーンシッピングのタグボートの特徴は、赤いマストと緑の“G“マーク、そしてオレンジファンネル、船体はクリーム色となっています。
グリーンシッピング株式会社
(3)グリーン海事
グリーン海事株式会社は、名古屋港ではLNG船・原油タンカー・プロダクトタンカー・木材チップ船等の専用岸壁およびコンテナ船・自動車運搬船等が使用する公共岸壁における入出港作業や警戒船作業を行い、四日市港では四日市港管理組合の配船による曳船作業を行っています。グリーン海事のタグボートは、緑のマストと緑の”G”マーク、船名に「~しお」とついているのが特徴です。
グリーン海事株式会社
商船三井では、香港で1社、ベトナムで2社、それぞれ現地のパートナーと共に会社を設立しタグボート事業を行っています。
海外のタグボート事業一覧
(1) South China Towing社(香港)
1987年に香港で設立され、以降30年以上にわたって香港港における曳船業務、サルベージ、船舶管理の業務に携わっています。
(2) Tan Cang Cai Mep Towage Service社(ベトナム)
2010年にベトナム南部Caimep港での曳船作業を目的に設立されました。主にベトナムCaimepエリアの物流拠点であるコンテナターミナルTICTの他、同エリアでのバルカーターミナルにおいても曳船作業を行っています。
(3) Tan Cang Northern Maritime社(ベトナム)
2018年にベトナム北部Lach Huyen港での曳船作業を目的に設立されました。ベトナム北部Haiphongの物流拠点であるコンテナターミナルHICTでの曳船作業の他、ベトナム中部、南部でも曳船を運航し幅広く事業を行っています。
2024年9月に行われたLNG燃料フェリー「ぴりか」の進水式
※進水式の様子
「いしん」は、商船三井が保有し日本栄船が運航するLNG燃料タグボートであり、LNG燃料船のパイオニアとして2019年2月に竣工しました。
LNG燃料は、地球温暖化の原因と言われるCO₂排出量を削減できる上、大気汚染物質のSOx(硫黄酸化物)排出をほぼゼロにでき、従来の重油と比べ環境に優しい燃料です。「いしん」の開発・運航を通して得られたLNG燃料に関する知見やノウハウを活かし、現在、商船三井は数々のLNG燃料船を建造しています。新たな LNG燃料フェリーである「ぴりか」の2024年9月の進水式における「いしん」による補助作業は、これまで蓄積した知見を次世代へつなぐ象徴的な作業となりました。
また、商船三井では、LNG燃料タグボートに加え、省エネ設備を備えた次世代タグボートを次々と導入しています。
CRS(コモンレールシステム/電子制御燃料噴射装置)やPBCF (Propeller Boss Cap Fin)といった技術がこの省エネを支えています。
(1)株式会社IHI 原動機NIIGATAコモンレールシステム(電子制御燃料噴射装置)
電子制御で燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射期間(噴射量)をきめ細かくコントロールし、理想的な燃焼を実現します。
(2)PBCF (Propeller Boss Cap Fin)
プロペラの回転によって生じる渦を減らし推進効率を向上させることで、燃料消費を削減する効果があります。
船舶の省エネ装置|PBCF|商船三井テクノトレード株式会社
今後も商船三井グループ一丸となってタグボート事業のさらなる発展に向けて取り組んでまいります。港に立ち寄る際には、ぜひ縁の下の力持ち、タグボートを探してみてくださいね!
ウェルビーイングライフ事業部 曳船・関連事業チームが担当しております!
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