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船舶におけるLNG燃料としての現状と今後

  • エネルギー
  • 環境負荷低減

2021年05月14日

石炭や石油に比べ二酸化炭素の排出量が少なく、環境負荷の低いエネルギーと言われているLiquefied Natural Gas(LNG=液化天然ガス)は、天然ガスをマイナス162度まで冷却し液体にしたものです。液化すると、容積が気体の時に比べ600分の1になり、海上輸送で大量に運べるようになります。国際的なガス取引の主役であるLNGの貿易量は2019年比、2025年には21%増加するとの予想もあり、アジア太平洋地域での更なる輸入の増加に加え、ヨーロッパでの堅調な輸入需要に支えられ、今後も海上輸送の需要は拡大していくと思われます。 
LNGは重油に変わる船舶燃料としても、昨今導入が進んでいます。今回は船舶用のLNG燃料における現状と今後についてご紹介します。

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船舶燃料としてのLNGの優位性

2020年1月からのIMOによるSOx(硫黄酸化物)規制強化(*1)により、現在、大半の外航船は低硫黄の重油を使用している状況です。しかしながら、低硫黄重油を使用してもCO2排出量は変化しないため、2030年までにCO2の排出量を2008年比で40%以上削減するというIMOの目標達成には不十分な燃料であることは明らかです。

そこで、長期展望のもとにクローズアップされるのが、重油を使用しない、LNG燃料船の導入という対策です。LNGは液化の前工程で硫黄分を除去しているので、燃やしても硫黄酸化物(SOx)やPM(粒子状物質)をほとんど排出せず、NOx(窒素酸化物)、CO2の排出も他の化石燃料に比べて少量なことから、環境負荷の低いエネルギーと言われています。また、空気より比重が軽く拡散しやすいため、爆発などの危険性が低く、比較的安全なエネルギーでもあります。さらに、石油を超える埋蔵量が確認されており、50年以上にわたる長期安定供給も可能であることが優位性として挙げられます。

LNGを燃料とする船は世界的にみると、2010年に竣工済18隻だったものが、2020年には就航中が175隻、発注済みが200隻を超えるまでに急激に増加しています(参考:DNV GL)。就航船の大部分は欧州で運航されていますが、前述の2020年1月からのSOx規制強化により、船舶燃料が重油からLNGもしくは他の代替燃料へ、さらに大きく転換していくことが予想されてます。日本でも、商船三井と日本郵船が日本初となるLNG燃料使用のタグボートを就航させており、その後もLNG燃料船の建造計画が続いている状況にあります。商船三井のLNG燃料タグボート「いしん」は、神戸の他、名古屋でもLNG燃料補給を行っています。

(*1)SOx(硫黄酸化物)規制強化:
一般海域での船舶からの排出ガスに含まれる硫黄分の上限値を、3.5%から0.5%に強化することが決定

動画#MOL Channel 商船三井のLNG燃料タグボート「いしん」名古屋港発のバンカリング

LNG燃料船にデメリットはある?

環境負荷の低いLNG燃料ですが、船舶燃料として利用するにあたっては、以下3点が一般的なデメリットとして知られています。

①LNG燃料を使用できるエンジンの搭載
②従来の2~3倍の大きさの燃料タンクや再液化装置などエンジン以外の設備投資も必要
③新造時の価格が従来の燃料船に比べ15~30%増

しかしながら、環境規制の厳しさが増す中、「硫黄分はゼロ、CO2排出量は約25%削減、窒素化合物の排出も圧倒的に抑えられる」であること、「高価な低硫黄重油に比べて、LNGは価格競争力がある」といったメリットの方が大きく、LNG燃料船のシェアは今後も伸び続けると予想されます。

欧州で拡大を続けるLNG燃料船

LNG燃料船の分野で先行しているのは欧州で、就航船の大部分は欧州で運航されています。
これには、北海・バルト海のECA(排出規制地域 Emission Control Area)において厳しい硫黄分濃度規制を率先して受け入れた背景があります。発注されるLNG燃料船は大型化しており、航海海域も拡大しています。フランスの大手コンテナ船社CMA CGMはLNG燃料の超大型コンテナ船(23,000TEU型)9隻を中国CSSC(中国船舶工業集団)に発注。2019年に一番船が竣工し、順次アジア・欧州航路に就航する予定とのこと、欧州勢を中心にコンテナ船のLNG燃料化が進みそうです。

LNG燃料船の普及にはLNG供給インフラの整備も不可欠ですが、これも欧州が先行しています。ロッテルダム港(オランダ)をはじめ、アムステルダム港(オランダ)、ゼーブルージュ港(ベルギー)、バルセロナ港(スペイン)など主要港ではLNG燃料の供給が可能です。
通常の燃料補給はターミナル側にLNG供給設備を整え、「Truck to Ship」方式を採用していますが、大型の船舶への燃料供給は「Ship to Ship」方式で行われることが多くなりました。そのためのLNG燃料供給船の整備も進んでいます。LNG燃料供給船は2020年2月現在で12隻が稼働中で27隻が発注済み。(参考:DNV GL)ほとんどが欧州域内で稼働します。バルト海周辺のスウェーデンやフィンランドなども積極的に燃料供給船の整備を進めています。

当社も100%子会社Emerald Green Maritimeを通じて保有しTotal Marine Fuels Global Solutionsに傭船している世界最大のLNG 燃料供給船「Gas Agility(ガスアジリティ)」が2020年11月にロッテルダム港(オランダ)にてCMA CGM社保有する世界最大のLNG燃料コンテナ船(23,000TEU型)CMACGM Jacques SaadeへLNGバンカリングを実施しました。

世界最大のLNG 燃料供給船「Gas Agility」が、 世界最大のLNG燃料コンテナ船へLNGバンカリングをする様子

世界最大のLNG 燃料供給船「Gas Agility」が、
世界最大のLNG燃料コンテナ船へLNGバンカリングをする様子
出典:Port of Rotterdam世界最大のLNG 燃料供給船Gas Agility(ガスアジリティ)

「Gas Agility」モデルシップ

欧州域外でもLNG燃料の補給インフラは、グローバルなスケールで加速しています。世界最大のバンカー補給基地でもあるシンガポール港では、20年第4四半期から順次LNG燃料供給船が稼働開始する予定です。邦船社も海外でのLNG燃料の補給インフラの整備に取り組んでいます。商船三井の場合は、シンガポールでは、同国の政府系エネルギー企業パビリオンガスと連携して、21年からアジア最大級となる12,000m3型LNG燃料供給船の運航を開始する予定です。

出遅れから挽回する日本

日本では、これまでにLNG燃料船が取りざたされたことはありましたが、短期的な採算性の判断から、なかなか実現にいたりませんでした。それでも足元では、LNG燃料船が少しずつ稼働し始め、建造計画も続々発表され注目され始めました。国土交通省、港湾当局、エネルギー供給会社なども動き出しており、船舶へのLNG燃料供給の整備も進み始めました。

かつて商船三井もLNG燃料フェリーを検討したことがありました。2009年12月、次世代船構想「船舶維新」を発表。その次世代フェリーにLNG燃料エンジンを採用する計画でした。このときの構想では、いくつかの省エネ対策を加えて「CO2は50%、NOX(窒素酸化物)90%、SOX(硫黄酸化物)は100%近く削減できる」見込みとし、5年後にはLNG燃料フェリーを登場させるというものでした。
ところが残念ながら、この構想は実現しませんでした。リーマンショック後に原油価格の下落が続いたため、LNG燃料価格と既存の船舶燃料(低硫黄重油)価格との値差が縮まった結果、LNG燃料船へ投資できる事業環境ではなくなってしまったためです。

一度見送られた計画ですが、10年後の2019年11月に国内初となるLNG燃料フェリー2隻を建造すると発表。グループ会社のフェリーさんふらわあが借り受け、大阪~別府航路において既存船の代替として、2022年末から2023年前半にかけて順次就航する予定です。

LNG燃料フェリーのイメージ図

LNG燃料フェリーのイメージ図

LNG燃料船の建造計画は続きます。2019年12月に商船三井は日本郵船とともに、九州電力向けに世界初のLNG燃料大型石炭専用船2隻を建造することを発表。LNG燃料は、九州電力が主に火力発電向けに調達しているLNGを、九州電力のグループ会社である北九州エル・エヌ・ジー株式会社の陸上出荷設備を通じて本船に供給するべく、2023年6月に就航予定です。​
MOLとNYKは世界初のLNG燃料大型石炭専用船2隻を建造することを発表、2023年6月就航予定
LNG燃料、陸上出荷設備を通じて本船に供給(Shore to ship方式)プレスリリース:九州電力向け「世界初のLNG燃料大型石炭専用船」に関する基本協定書を締結
-LNG燃料の使用で温室効果ガスの排出を低減-(Shore to Ship方式)​


国内では、LNG供給のための整備が進んでいます。2019年10月からLNG燃料船に海上で横づけして燃料供給できるLNG燃料供給船の建造工事が始まりました。建造される船は、LNGと低硫黄燃料油の2つの燃料を供給できる機能を持ち、東京湾で21年度中に供給開始の予定です。日本では現在、タンクローリーなどを使って陸上から供給していますが、LNG燃料供給船を使えば多量の燃料供給のほか、荷積みと燃料供給を同時に行うこともできます。
このように日本でも、LNG燃料の普及が加速しつつあります。

船用のクリーン代替燃料とは?

より厳格な排出規制を進めている外航海運業界で舶用燃料としてのLNG使用は急速に進んでいます。LNG は、IMOによって提唱されている船舶から排出される温室効果ガス削減の長期戦略に合致・貢献する、経済的メリットが高い効果的な代替燃料として位置付けられています。
当社においても、脱炭素に向け様々なクリーン代替燃料が検討されており、各燃料の特性一覧表を含め、船舶におけるクリーン代替燃料のトレンドをまとめた資料をダウンロードいただけます。

海運ホワイトペーパー
~船舶におけるクリーン次世代燃料概要~

海運ホワイトペーパー~船舶におけるクリーン次世代燃料概要~

脱炭素に向け様々なクリーン代替燃料が検討されています。各燃料の特性一覧表を含め、船舶におけるクリーン次世代燃料のトレンドをまとめた資料をダウンロードいただけます。

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記事投稿者:AKINA.H

2014年中途入社。自動車船の三国間輸送の事務、ばら積み船での運航担当等を経て、2020年4月よりマーケティング部門にて本サイトの運営に携わっております。ニュースレターの作成も担当していますので、購読頂けると嬉しいです!仕事には炭酸水とカフェラテ、二日酔いにはトマトジュースです。

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