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自然エネルギーの代表格 風力を使う!

  • 環境負荷低減

2021年06月15日

商船三井テクノトレード(株)が販売するローターセイル等の、船舶に設置する風力推進装置が、今改めて世界の脚光を浴びています。今回は、風力推進の原理や、装置の種類、特徴とメリットについてご紹介します。

なぜ今、風力なのか     

風力を推進力とする帆船は、つい100 年前まで一般商船として活躍していた。帆走の歴史は古く、古代エジプト人は紀元前 3000 年頃から外洋航海をするようになり、フェニキアに船を出しレバノン杉などを輸入、紀元前2700年頃のサフラー王 の墳墓には2本のマストと推進用のオールを備えた船のレリーフが残されている。帆船の歴史は19世紀まで続き進化していくが、石油炊きの船が現れ、帆船は急速に衰退していく。
船舶において風力利用が見直され、近代化への取り組みが始まった大きな理由は、2010年頃から強まってきた温室効果ガス(GHG)削減の動きである。この脱化石燃料のトレンドにより、皮肉なことに、石油に代替された風力が復活したのである。
風力利用の近代化を支えるものに、素材技術の進化がある。複合材や炭素繊維など軽量・強靭な素材の登場で、風を受ける帆や凧の技術的な選択肢が広がっている。 
また、情報技術や制御技術の進化も大きく寄与している。ウェザールーティングや航路解析技術、帆の自動制御などにより、乗組員の技術に因らず、きめ細かく帆のコントロールをし、風を効率的に推進力に変えることができるようになっている。
 現在、開発が進められている風力推進装置には、昔からの軟質帆(折り畳める繊維布等)のほかに、硬質帆(炭素繊維、アルミ等)やローター式、凧牽引式などさまざまな形がある。GHG削減効果は船の種類や推進方式、航路、季節、天候などで変動するが、条件が重なれば外航船で20%以上の削減が可能といわれており、環境負荷低減に向けた対策として、注目を集めている。

紀元前1470頃の帆船

紀元前1470頃の帆船(出典:Wikipedia)

風力によるエネルギー効率の改善

貨物を安全に確実に輸送することが使命である一般商船においては、風力推進を、重油等の化石燃料を使用するエンジン推進と併用して、補助的に利用することで、可能な限り使用燃料を減らし、GHGを削減することが現実的な方法と考えられる。
国際海事機関(IMO)で定める船舶のエネルギー効率設計指標(EEDI)においても、風力を算入することができるため、義務付けられたEEDI達成のため、積極的に風利用が普及するものと思われる。EEDIの参入方法は、標準的な風向と風速の確率がそれぞれ決められていて(図2)、風力利用時の馬力削減量を確率計算で求める。風速は、北太平洋航路で一般的な数値よりも小さめの、7m/s付近が高確率となるように設定されている。

EEDI計算用風況 風光の確率 風速の確率EEDI計算用風況(図左:風向の確率(右側が船の進行方向)、図右:風速の確率)

風力推進の原理

風と翼と揚力の関係

風力推進というと帆をかけた船で追い風しか利用できないと思われるかも知れないが、船舶の最新の風力利用の基礎的なメカニズムは航空機の翼と同じである。左図に航空機の翼のメカニズムを示す。風の流れに対して翼(帆)に少し角度を持たせると、風の流れに垂直に揚力(帆は推力)が生じる。とりわけ、真横風はエンジン船では、斜航や当舵が生じ燃費悪化の要因となるが、帆を使えば前進力に転化できる。一方、追い風は自身のスピードで相対的に風速が弱まる為、一般的に考えられているほど効果はなく、あまりアシストにならない。
     
            図:風と翼と揚力の関係

風力利用の近代化 (1) ローター・セイル

船舶のデッキ上に円筒型のローターを垂直に搭載し、円筒が風を受けてマグヌス効果で推進力を得る「円筒型帆(ローター・セイル)」が普及しつつある。野球のボールが回転によってカーブする原理と同一である。

ローター・セイルの原理

ローター・セイルの原理

下図は、ローターセイルの風向・風速毎の推力を表したポーラーチャートであり、円周上に示す風向があった時の推進力を風の強さ(色分け)毎に表示している。左右正面から左右の25度以外は推進力を得られる。24m高さ4m直径のローター・セイルで、20m/sの斜め後方の風を受ければ、2000kW相当の推力が得られる計算だ。

風向・風速毎の推力図(ポーラーチャート)風向・風速毎の推力図(ポーラーチャート)

商船三井テクノトレードでは、フィンランドのNorsepower社製のローター・セイルの販売代理店であり、製品の紹介や実装検討の対応を行っている。同社では、フェリーやRORO船、プロダクトタンカーなどに搭載実績がある。また、中国および韓国の造船大手でも、VLCC(大型タンカー)やVLOC(大型鉱石専用船)へ実装を計画、または搭載オプションとして採用されている。

実装済のタンカーでは、外部の回転筒はCFRP/GFRP/ウレタンの積層構造で軽量化が図られており、1年間の就航解析の結果から、年平均で約8%の省エネ効果が図れたとの報告がある。

実船装着例

実船装着例(マースク社10万トンタンカーに2本のローター・セイルを実装)

その他、現時点での主なローター・セイルのメーカーとして、英国アネモイ社とドイツ エコ・フレットナー社がある。
(ローター・セイルは、ドイツの航空技術者であったアントン・フレットナー氏が考案したもので、エコ・フレットナー社は同氏の名前を社名に使用している。)

ローター・セールを設置した場合、どれほどの燃料消費を抑えることができるかにご興味・ご関心がありましたら、商船三井テクノトレードへご連絡ください。
https://www.pbcf.jp/jp/contact/

風力利用の近代化 (2)ウインドチャレンジャー(硬翼帆)

さらに、商船三井においては、大島造船で建造する10万トンのバルカーに次世代帆船ウインドチャレンジャー・プロジェクトとして、大型ばら積み船への硬翼帆搭載を進めている。一本の帆を装備しシミュレーションした結果は、日本・豪州東岸航路で平均約5%の省エネ効果が、日本・北米西岸航路で平均約8%の効果を試算している。

ウインドチャレンジャーでは、FRP製の硬翼帆を採用、ヨットなどの軟帆と比べて翼形状であるので、風を推力に変換する効率に優れている。

img_case_windchallenger_02バルカーに装着した伸縮式帆のウインドチャレンジャー(2022年運航開始予定)

ウインドチャレンジャーの風向きと帆の運用方法(青:風向き、緑:推進)風向きと帆の運用方法(青:風向き、緑:推進)

上図は帆の運用方法でを示したもので、正面からの風は完全縮帆して帆を風に立て抵抗を減らす。その他の角度は推力が得られるように角度を自動調整、さらに、縮帆と展帆も風向風速とマスト基部の応力などを計測して自動で行う。 
 
硬翼帆を採用した、他社事例としては、欧州のWallenius Marine社(Becker社)が伸縮式の帆を搭載した自動車船を22年以降実現することで検討中である。縦に2つ折りにできる硬翼帆から、ウインドチャレンジャーと同じの伸縮式の帆に変更された。

硬翼帆を装備した自動車船

図左:硬翼帆を装備したPCC  図右: 縦二つ折りの硬翼帆(共にイメージ図)

風力利用の近代化 (3)ウイングアシスト船型

また、商船三井は、「船舶維新(ISHIN)」として次世代コンセプトシップとしての構想および要素技術の開発と具現化に取り組んでおり、その第一弾においては、商船三井テクノトレード、三井造船昭島研究所と共同で、船体そのものを”翼型”にする自動車船のコンセプトを2009年に完成させた。本船はウイングアシスト船型と名付け、船体自体を翼型にすることで、追加設備がなくても、風エネルギーを推力に変換することを実現した。これは、水上部分に斜向風が来た時に船体を翼として揚力(主に前縁推力)が発生する原理を利用し、推進力を最大化するものである。

この形状で外洋航海するシミュレーションを行うと平均で5~6%の馬力アシスト(5~6%のGHG削減)が得られる。この形状は自動車船だけでなくフェリーや客船などにも採用可能で、外形を整えるだけで効果が得られる費用対効果の特に優れた船型である。更なる効率の最大化および実装に向けて検討を続けている。

 

 

商船三井 船舶維新 ウインドアシスト船型ウイングアシスト船型

ISHIN船型の優れた推進力


 図:ISHIN船型(緑)の優れた推進力
 (上2本が従来型自動車船)

 ※横軸:
 相対風向(自船の船速が有るので真風向は相対
 風向よりやや後ろから吹く)


 ※縦軸:
 正面抵抗係数(マイナスが推進力となる。30
 度で抵抗ゼロとなり、60度で正面抵抗の2倍
 の推進力が出る)

 

商船三井ウインドアシスト船型の空間圧力分布図空間圧力分布図(風向30度、図左:現行 図右:改良型)

※船体周りの流れが格段にスムーズになっており、風による抵抗が少なく、特に船首右舷側の流れが速く、その結果大きな負圧域が生じて推進力が得られる。船体を翼として働かせている。

風力利用の近代化 (4)サクションウイング

現在の帆は大なり小なり翼の原理を使っているが、翼の背面は表面の流れが高速になり、翼の後端で流れが乱れ剥離することがある。航空機では失速と言い、揚力が低下して危険な状態になることもある。これを防ぐために、翼の後端で吸い込み口を設けたものが、サクションウイングと呼ばれるものだ。下左図の右側の断面で下側が風上で上部の三角のフラップが風向きによって±45度にずれて、吸い込み口の片方を塞ぐと共にフラップの効果を出す。

サクションウイングの実装例サクションウイングの原理及び装備例(Econowind社のサクションウイング)

風力利用の近代化 (5)カイト(Seawing)

川崎汽船 Sewing Kite 凧の活用も検討が進んでいる。Airbus社の傘下のAirseas社のカイトシステムで、川崎汽船がケープサイズ・バルカーへの搭載を決めた。2021年末を目途に搭載予定。
風は高度が増すに従い風速が早くなるので、高高度の風を受けることで、20%以上のGHG削減がもたらされるとのこと。またカイト型は、運航中の展開や回収も課題になるが、展開と回収は船首のマストを使い自動で行う設計になっている。カイトは1000㎡の大型で8の字旋回を行い、高速で移動することで翼として働き推力を得る。

https://www.kline.co.jp/ja/news/csr/csr-2630416184971214499/main/0/link/190607JP.pdf

風力利用の近代化 (6)ソフトセイル(軟帆)

DKSTRA N.A.社の大型ヨット DKSTRA N.A.社の全長106mの大型ヨットで2018年に就航している。軟帆であるが、翼形状のフレームに沿って展張されるので硬翼帆に近い性能が出るものと思われる。最高速度は17ktとの事。

 

 

 

また、風力利用とバッテリー船は相互に補助しあう関係にあると考えられる。過去に実用化された内航帆船で愛徳丸のケースでは、馬力削減が50%を超える日もあった。主機定格出力が大きいと主機の方は低負荷運転を続けることになるため、風力を補助動力として使うには電気推進(ディーゼル+電池)船も検討の余地はあると考えられる。

 

<引用文献>
(1) 脱炭素時代に向けた未来型風力船開発の現状、NK環境セミナー、2019
(2) 航空実用辞典
(3) 風圧抵抗低減船型に関する検討, 日本船舶海洋工学会、2012田中 良和 他
(4) 日本造船技術百年史、日本造船学会
(5) 各社ホームページ;商船三井、川崎汽船、Wallenius Marine、Airseas、
    Norsepower、DKSTRA N.A.、
    Econowind、エコマリンパワー

上述の通り、商船三井グループでは、ローター・セイルの販売から、ウインドチャレンジャーの開発、実装を通じ、クリーンで、無尽蔵のエネルギーである「風」にもういちど着目、全く新しい発想で、温室効果ガス排出量の大幅削減を目指しまています。当社グループの船舶技術、船舶運航の知見を集約して開発されたウインドチャレンジャーの詳細な構造、仕組については、以下資料にまとめています!

ウインドチャレンジャーJP 概要資料

田中 良和

記事投稿者:田中 良和

1979年、商船三井に入社。 技術部に所属、新造船の計画設計、就航船の保船業務などに携わる。 2007年から商船三井テクノトレードに勤務、PBCFを世界へ拡販、部品船用品の販売、ISHIN船型など技術開発などに取り組む。 現在同社技術顧問。

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