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商船三井の二酸化炭素除去(CDR)の取り組み:削減と除去の二軸で挑むネットゼロ・エミッション

  • 環境負荷低減
  • 海運全般

2025年07月28日

地球温暖化対策が喫緊の課題と言われる中で、二酸化炭素(CO₂)排出量を減らす「削減」だけでなく、既に大気中に存在するCO₂を取り除く「除去」という考え方が、パリ協定の「世界平均気温の上昇を産業革命以前と比較して1.5℃未満に抑える努力を追求する」という長期目標達成に不可欠な要素として注目されています。本稿では、「削減」と「除去」の違いを解説すると共に、特に二酸化炭素除去(CDR: Carbon Dioxide Removal) の多様な手法と脱炭素社会の実現に向けて積極的に取り組む商船三井のカーボンリムーバル事業についてご紹介します。

 

世界の温室効果ガス排出量-1

世界の温室効果ガス排出量(10億トン-CO₂e/年)(出典:World Economic Forum, “CDR(二酸化炭素除去)ベストプラクティスガイドライン”, 2023

キーポイント

  •  商船三井は「削減」と「除去」の両輪で、カーボンニュートラルの実現に挑戦
  •  CDR(Carbon Dioxide Removal)は、大きく自然系・技術系・ハイブリッド系の3つに分類
  •  インドネシアでのマングローブ再生や中南米での森林ファンド出資など、自然系CDRへの取り組み
  •  DAC(直接空気回収)やDOC(直接海洋回収)などの先端技術に注目し、技術系CDRの社会実装を推進
  •  2030年までに220万トンの二酸化炭素除去のマイルストーンを掲げ、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを加速

「削減」と「除去」の違いとは?
カーボンニュートラル達成への二軸

まず、「削減」と「除去」の基本的な違いについて解説します。

削減

削減とは、化石燃料の燃焼などの活動によって大気中に新たに排出される二酸化炭素(CO2)量を減らすことを指します。例えば、エネルギー源を化石燃料から再生可能エネルギーに置き換えることなどが該当します。また、化石燃料を使用した場合も、地下に埋めるなどして長期固定化(大気にCO2が再放出されない状態)することで、CO2排出量を削減したとも言えます。

除去

除去とは、既に大気中に存在するCO₂を回収し、長期固定化することで、大気中のCO₂量をマイナスにする取り組みです。2050年のネットゼロ目標やパリ協定の1.5℃目標を達成するためには、排出を最大限に削減した上で、残ってしまった排出や既に放出されたGHG(温室効果ガス)を除去することが不可欠です。
すなわち、排出量を完全に削減することが難しいため、ネットゼロ達成のためには、「削減」と「除去」の両方が必要不可欠なのです。

多様なアプローチ:CDRの主な手法

大気中の二酸化炭素(CO₂)を除去するCDRには様々な手法が存在し、大きく分けて、自然系、技術系、ハイブリッド系の3つに分類できます。

自然系 技術系 ハイブリッド系CDR

(出典:Swiss Re, “2020 SONAR Report”を基にMOL作成)

自然系CDR

自然系CDR とは、自然の生態系を活用して大気中からCO₂を直接除去する手法です。具体例としては以下のようなものがあります。

  • 新規植林・再植林
    木々が成長する過程で光合成によりCO₂を吸収し、炭素を固定します。後述の、商船三井が出資する中南米地域を対象とした森林ファンドThe Reforestation Fundやインドネシアでのマングローブ再生・保全のプロジェクトはこのカテゴリーに該当します。
  • 土壌炭素貯留
    農地や森林の管理方法を改善することで、土壌中の炭素貯留量を増やします。
  • その他
    海草・海藻も光合成によりCO₂を吸収するため、海洋におけるブルーカーボン生態系の保全・再生なども含まれます。

技術系CDR

技術系CDR とは、技術的な手法を用いて工業的に大気中からCO₂を分離・回収し、貯留するものです。 

  • Bioenergy with Carbon Capture and storage (BECCS)
    バイオマスを燃焼させた際に発生するCO₂を回収し、地中に貯留する手法です。
  • Direct Air Capture(DAC)
    ファンなどで大気を吸い込み、特殊な吸着剤を用いて大気中からCO₂を直接分離・回収し、地層に埋めるなどして1000年以上の長期間にわたり固定化します。後述の、商船三井が出資するHeirloom社はこの技術を用いる企業です。
  • Direct Ocean Capture(DOC)
    電気化学的手法で、海水中に溶け込んでいるCO₂を直接分離・回収し、地中に埋めるなどして1000年以上の長期間にわたり固定化します。後述の、商船三井が出資するCaptura社はこの技術を用いる企業です。

ハイブリッド系CDR

ハイブリッド系CDR とは、自然的なサイクルによるCO₂固定の効率を人為的に促進させる手法です。

  • 風化促進
    岩石が雨水と反応してCO₂を回収する自然プロセスを加速させることで、大気からCO₂を回収する手法です。岩石に含まれるカルシウムやマグネシウムが雨水中の二酸化炭素と反応して炭酸塩となり、二酸化炭素が固定されます。
  • バイオ炭
    バイオマスを燃焼しない条件下で加熱して炭化させた上で土壌改良剤や建材の材料として使用することで、炭素を固定化させる手法です。
  • 海洋アルカリ化
    海水にアルカリ性の物質を添加し、海洋の自然な炭素吸収を促進する手法です。

商船三井のカーボンクレジット事業:脱炭素社会への貢献

商船三井は、「商船三井グループ 環境ビジョン2.2」において2050年までのネットゼロ達成を目標としており、CDRをその重要な戦略と位置付けています。2030年までに累計220万トンのCO₂除去に貢献するという自主的なマイルストーン設定し、CDRの普及・拡大に努めています。
具体的な取り組みとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 南スマトラ州において、マングローブの植林と森林保全活動を通じて、30年間で1,100万トンのCO₂排出抑制、吸収、固定を目指しています。
マングローブ (1)

当社のカーボンリムーバル事業チームが実際に現地で撮影した写真)

NextGenFacilityの概要
NextGen CDR Facilityの概要(当社プレスリリースより)

Heirloom社 DAC技術(当社プレスリリースより)

Captura社のDOC技術概要

商船三井は、国内外の様々な組織と連携しながら、目標達成に向け戦略的かつ多様な手法でCO₂除去を進めていく方針です。非海運分野の強化および積極的な投資も計画しており、様々な業界の企業様との連携を強化し、共同事業の検討を行っています。今後も新たな取り組みを発表してまいります。

多様なCDR技術の開発と社会実装の推進へ

カーボンニュートラルの実現には、「削減」と「除去」の両面からの取り組みが不可欠です。CDRは、既に大気中に存在するCO₂を積極的に取り除くことで、地球温暖化対策を加速させる重要な鍵となります。商船三井をはじめとする様々な企業や団体が、それぞれの強みを活かし、多様なCDR技術の開発と社会実装を推進しています。今後の進展に注目し、私たち一人ひとりも地球の未来のためにできることを考えていく必要があるでしょう。

  • Mr. hirose (1)
    (カーボンリムーバル事業チームリーダー/廣瀬)

 

 

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