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世界の風力発電を取り巻く現状(後編)

  • 環境負荷低減

2021年09月28日

再生可能エネルギーの中でも、風力発電は比較的安価に大量導入が可能なエネルギーとして普及が進んでいます。その中でも、島国である日本においては、広範な海域を活かした洋上風力発電が注目されています。ブログ前編では世界における、陸上風力を含む風力発電の導入状況や、風力発電で世界をリードする欧州の動向などについて触れました。後編である本ブログでは日本における洋上風力発電の現状や、欧州視点からみる日本の洋上風力発電市場についてお話します。

本ブログへのご質問や、さらに詳細を知りたい方は、ぜひお問い合わせフォームよりご連絡下さい。

2050年カーボンニュートラルに向けた日本政府の方向性

政府は【2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略】(2020年12月)において温室効果ガス排出量を2050年に実質ゼロにするため、電力需要における再生可能エネルギーの比率を50%まで引き上げる事を明記し、マイルストーンを表明しました。将来的なエネルギー政策の在り方としエネルギーミックスを、安全性(Safety=S)を大前提とした、自給率(Energy Security)、経済効率性(電力コスト)(Economic Efficiency),温室効果ガス排出量(Environment)3E+Sでの実現を目指しています。

エネルギー基本計画の見直しに向けて(資源エネルギー庁)出典:エネルギー基本計画の見直しに向けて(資源エネルギー庁)

2030年度に向けたエネルギーミックスは最終調整中なるも、非化石(原子力22%+再エネ22%)で44%程度を目指し、それ以外の化石火力は、CCUS等のカーボンリサイクルの最大限活用を目指すとしています。社会全体としてカーボンニュートラルを実現するには、電力部門では非化石電源の拡大、産業・民生・運輸(非電力)部門(燃料利用・熱利用)においては、脱炭素化された電力による電化、水素化、メタネーション、合成燃料等を通じた脱炭素化を進めることが必要とされています。
こうした取組を進める上では、国民負担を抑制するため既存設備を最大限活用するとともに、需要サイドにおけるエネルギー転換への受容性を高めるなど、段階的な取組が必要とされています。

カーボンニュートラルの転換イメージカーボンニュートラルへの転換イメージ
出典:2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討(資源エネルギー庁) 

日本における洋上風力発電の現状

前編で述べた通り、洋上風力発電の先進地域は欧州です。その中でもイギリスと言われています。同国と同じく、国土の四方が海に囲まれた島国である日本、環境面では好条件を持っているようにみえますが、洋上風力発電はまだ実用化されておらず、目に見えて発展していないのが現状です。なぜでしょうか。

洋上風力の設備は、大きく分けて、「着床式」と「浮体式」に分けられます。着床式は、水深15~30mの遠浅な海域に適していると言われており、このような地形が日本の海域には少ないことが一つの要因です。このことから、沖合海域における「浮体式」が主力になってきますが、「浮体式」は世界でもまだ例が少ないため、劇的な発展につながっていません。世界の潮流は「着床式」から「浮体式」へ移行している(※)今、日本における洋上風力発電の取組みは、欧州企業と協働してノウハウを吸収することから始めようという動きが始まっています。

(※)以下3点のメリットにより、コストの低下次第で導入が急速に進むことが予想されています。
① 沖合に設置できるため、より強い風速を利用することができる。
② 沿岸から離れているため、漁業等の海域利用や環境への影響が比較的小さい。
③ 海上での組み立て作業が発生しないためコストが抑えられる(浮体式では、機器は港で組み 立て、船で曳航するのが通常)

日本の状況を見た場合、まず着床式洋上風力発電機の設置に適した水深15~30mの遠浅な海域が少ないという制限があります。さらに、促進区域の拡大、電力系統への接続など、普及に向けて制度面をさらに整理、充実させる必要があると言われています。また、コストにおける課題も抱えています。日本の政府有識者会議「発電コスト検証ワーキンググループ」の開催資料(2021年4月)によると、着床式について公募が行われている3か所(4区域)では、供給価格上限額 が29 円/kWhに設定されている一方で、世界の洋上風力発電では大幅なコスト低減が進んでおり、2014年から2020年までの約6年間で63%減(23.3円/kWh⇒8.6円/kWh)となっています。

世界における洋上風力発電のLCOEの推移出典:風力発電について(資源エネルギー庁)

日本市場に注目する欧州企業

現在、欧州の洋上風力発電は、デンマークの洋上風力世界最大手オーステッド社(Ørsted)、ドイツのエーオン社(E.ON)など欧州電力会社の上位5社が、発電容量の半分以上を占めています。このように先行して導入を成功させている企業にとっては、今後大きな成長が期待できる日本市場が魅力的に映るのではないでしょうか。
例えば、オーステッド社は、2020年3月、東電と千葉県銚子沖での洋上風力事業を推進する合弁会社設立で合意、ノルウェーのエネルギー大手エクイノールは2020年9月、東京電力グループと中部電力の共同出資会社JERA(ジェラ)などと、秋田県沖での洋上風力事業参入に向けた企業連合を設立すると発表しています。日本の洋上風力発電事業は、大規模な投資や技術が必要である事業であり、今後、日本企業単独ではなく、欧州企業との協働が進むと考えられます。

風力発電機器における日本企業の取組み

大型の風力発電機器の市場は、世界で拡大傾向にあり中、昨今、日本企業が撤退する事態が続きました。国内有力メーカーだった日立製作所が2019年1月に風力発電機の自社生産からの撤退を表明。既に事業継続を断念した会社も複数あり、今後、欧州メーカーを中心とする、海外のタービンOEMやオフショア部品サプライヤーが参入を目指しているかもしれません。

一方、三菱重工業は、デンマークのヴェスタス社(風力発電タービンのメーカーで世界シェア1位)と、洋上風力における発電機器の合弁会社として、MHI Vestas Offshore Wind A/S(MHIヴェスタス)を設立。同社は、2017年、世界有数の風力発電事業者であるオーステッド社(当時の社名は”DONG Energy”)が計画する、ドイツ最大の洋上風力発電プロジェクト(Borkum Riffgrund 2 Project)向けに、世界最大出力8,000kW級の洋上風力発電設備を56基受注しました。2019年に設備の据付は終了しています。

Borkum Riffgrund 2 project洋上ウィンドファーム(Power Technology誌ニュースより)Borkum Riffgrund 2 project洋上ウィンドファーム(Power Technology誌ニュースより)
MHIヴェスタス社製の洋上発電設備がドイツ46万世帯に電力を届ける。

日本も経済産業省が2020年7月、2030年までに原発10基に相当する計1千万キロワットの洋上風力を整備する計画を掲げました。このような国の動きも後押しになり、洋上風力発電事業は、その周辺関連事業も含めて、需要が高まっていくことが予想されます。特に沖合に設置される「浮体式」では、設備の設置、メンテナンスにおいて、設備の輸送みならず技術者の派遣のも必要になるため、様々なタイプの船が必要になります。当社グループでは各ステージでの需要に細かく対応できるように、以下の船隊を整備しています。

1.SEP (Self-Elevating Platform) 船
プラットフォームに海底着床、及び昇降の為の脚を装備し、プラットフォームを海面上に上昇させてクレーンによる洋上風力発電設備の設置作業を行う台船。プラットフォームを波浪の届かない高さまで上昇させて保持することにより、波浪中でもクレーンを用いた作業を行うことができる。洋上風力発電設備据付作業の他、油井/ガス井のメンテナンスを支援する作業にも従事。

2.Service Operation Vessel (SOV)
洋上風力発電所のメンテナンス技術者を複数の洋上風車に派遣する為に多数の宿泊設備を持ち、一定期間洋上での活動が可能なオフショア支援船。本船と洋上風車の距離を常時安全に保つため、ダイナミックポジショニングシステム(DPS:自動船位保持機能装置)を搭載し、また本船から洋上風車プラットフォーム上に技術者を安全に渡すため、波等による船体動揺を吸収するモーション・コンペイセイション(Motion Compensation)機能をもつ特殊なギャングウェイ(Gangway) を搭載。


3.Crew Transfer Vessel(CTV)
比較的離岸距離の近い洋上風車に対して、洋上風力発電所のメンテナンス技術者を、拠点となる港から送り届ける交通船(乗客定員12-24人)。船首部分に取り付けられたフェンダーを洋上風車に押し付ける形で船体を安定させたうえで、メンテナンス技術者が洋上風車に移乗する。アルミ製の双胴船(Catamaran)が主流船型。

4.ケーブル(敷設)船
浮体式洋上風力発電の電力ケーブルの工事の他、通信系では海底ケーブルの敷設・保守、災害発生時に迅速に通信を復旧する災害対応機能として運航。


商船三井グループは、今後も洋上風力発電事業のバリューチェーンにて幅広いサービスの提供をはじめとした「環境・エミッションフリー事業」を積極的に推進・育成し、環境負荷低減に努めていきます。
当社の風力発電事業への取り組みについて、以下より概要をご覧頂けます。

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AKINA.H

記事投稿者:AKINA.H

2014年中途入社。自動車船の三国間輸送の事務、ばら積み船での運航担当等を経て、2020年4月よりマーケティング部門にて本サイトの運営に携わっております。ニュースレターの作成も担当していますので、購読頂けると嬉しいです!仕事には炭酸水とカフェラテ、二日酔いにはトマトジュースです。

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