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舶用燃料の歴史と変遷

  • 環境負荷低減

2021年07月16日

海運業界では船の燃料のことを「バンカー(Bunker)」と呼びます。これは船が石炭を燃料として航海していた時代の名残で、当時、燃料用の石炭貯蔵庫を「バンカー」と呼んだことに由来します。
船の燃料は時代の流れとともに、19世紀には人力、風力から石炭へ、20世紀には石炭から石油へと変化してきました。そして21世紀は、世界がゼロ・エミッションに向かうなか、より安価でハイパワーな燃料が求められた時代から、より環境にやさしく持続可能な燃料が求められる時代へと変化しています。
本ブログでは舶用燃料の変遷と環境対応についてご紹介します。

本ブログへのご質問や、さらに詳細を知りたい方は、ぜひお問い合わせフォームよりご連絡下さい。

人力と風力の時代

いつ頃から人類が船を利用していたのか定かではありませんが、船は水辺に住む人々が木の枝を束ねて荷物を運んだのが始まりとされ、やがてそれらが、大型のいかだや、丸太をくりぬいた丸木舟に発達したと考えられています。
紀元前15世紀のエジプトの貴族の墓で見られる壁画には、素朴な帆と舵を持った船が描かれています。ギリシャ・ローマ時代には、人力で櫂を漕いで推進力を得るガレー船が地中海で発達し、18世紀に至るまで使用され続けます。一方、15世紀にはスペインやポルトガルを中心に、キャラック船と呼ばれる大型の帆船が建造されるようになり、1492年にはコロンブスが「サンタマリア号」で大西洋横断を果たします。また、1519年から22年にかけてマゼラン艦隊の「ビクトリア号」が世界一周を達成するなど、風を推進力とする帆船が発達し大航海時代が幕を開けました。
19世紀に入るとクリッパーと呼ばれる大型の高速帆船が次々と建造されるようになります。19世紀半ばには、中国からロンドンに新茶を運ぶために建造された、ティークリッパーが速度を競うティーレースをくりひろげました。最速のティークリッパーがロンドンに持ち帰った一番茶は、異常な高値で取引されたため、その船主は莫大な利益と名誉を得ることが出来ました。当時のティークリッパーは風が良ければ、最高速度20ノット(時速約37km)に達したとされ、現在の大型外航船を超える速度で航海していました。

エジプト(ルクソール西岸)にあるメンナの墓の壁画(紀元前15世紀)

ロンドンで保存展示されているティークリッパー「カティーサーク」(1869年建造)

 上: エジプト(ルクソール西岸)にあるメンナの墓の壁画(紀元前15世紀)
 下: ロンドンで保存展示されているティークリッパー「カティーサーク」(1869年建造)
 出典: Wikipedia

蒸気船の開発~石炭の利用開始

産業革命によって蒸気機関が発達し、蒸気機関を船の動力にしようとする試みが繰り返されましたが、その実用化にはじめて成功したのがアメリカ人のフルトンでした。フルトンは外輪式の蒸気船「クラーモント号」を開発し、1807年にハドソン川のニューヨークとオルバニー間で乗客を乗せた営業航海を開始しています。
しかし、当時の蒸気船は船体中央に巨大なボイラーと付属設備が設置されており、且つ、熱効率も非常に悪かったため大量の石炭を必要としました。したがって、初期の蒸気船は、船内の限られた空間を主機関と燃料が占領してしまうため貨物輸送には適していませんでした。また、外輪船はパドルが破損しやすく、波浪による船体の傾斜によって一定の推進力が得られないこと、ボイラーの爆発事故も頻繁に発生し、機関の信頼性が低かったこと等から、気象海象条件が厳しい外洋航海には適さず、初期の蒸気船の多くは波の穏やかな川や湖で利用されていました。
しかし、舶用蒸気機関の改善や推進機構が外輪からスクリューに変化したことによって、次第に蒸気船による外洋航海が可能となります。最初は大型帆船の補助動力として蒸気機関が搭載されるようになり、やがて蒸気機関のみを動力とする蒸気船が外洋航海でも一般化し、時代は大型帆船から石炭を燃料とする蒸気船へと移行しました。1853年浦賀に現れたペリー提督が率いる4隻の黒船は2隻が外輪式蒸気船、2隻が帆船であったと伝えられています。
商船三井は黒船来航から25年後、1878年に当社初の蒸気船「秀吉丸」を竣工させ、三池炭鉱で産出される石炭の輸送を行っていました。

「秀吉丸」についてはこちらのブログの中でもご紹介しております。
(商船三井の原点・「秀吉丸」と大阪商船・「三池炭の海外輸送」って?)

秀吉丸-1商船三井初の蒸気船「秀吉丸」

石炭から石油へ

1859年にアメリカで石油の生産がはじまり、1900年代になると船で使用される燃料も石炭から石油への転換が進みます。石油は石炭よりもエネルギー密度が高く、より多くのエネルギーが同じ容量から得られるため、船内の燃料貯蔵庫を小さくして荷室を広げることが可能となり、さらに石炭の積み込みやボイラーへの石炭の投入に必要な船員を大幅に削減することも出来ました。
また、内燃機関の発達によって石油を燃料とする舶用ディーゼルエンジンが登場すると、船の主機関は、それまでのレシプロ式蒸気機関や蒸気タービンといった外燃機関よりも、燃費が格段に優れるディーゼルエンジンへと転換されはじめます。商船三井でも1924年には、国内初の大型ディーゼル船「音戸丸」「赤城山丸」を竣工させています。
第二次世界大戦以降は、船の大型化とともに、石油を燃料とする舶用ディーゼルエンジンの大型化が一気に加速します。同時に、船の運航コストの低減を図るため、より安価な燃料が求められるようになり、1950年代以降は舶用重油と呼ばれる、石油精製の過程で発生する残渣(ざんさ)を中心とする燃料が使われはじめます。その後、二度のオイルショックによる石油価格の高騰を経て、一部の船種を除き*、現在運航されている多くの大型商船は舶用重油を燃料としています。

舶用エンジンの歩みについてはこちらのページをご参照ください。
https://mol.disclosure.site/ja/themes/187/


* 液化天然ガス(LNG)を運搬する船の多くは、輸送中に気化してしまう天然ガス(ボイルオフガス)を燃料として使用しています。

船舶燃料の環境対応

現在の多くの大型商船は燃料として舶用重油を使用していますが、舶用重油には硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)をはじめとする大気汚染物質が含まれているため、自動車の排気ガス規制と同様に、海上でも船舶の排気ガス規制が段階的に強化されてきました。船舶からの汚染物質の排出は国際連盟の専門機関である国際海事機関(IMO)が審議、採択する海洋汚染防止条約(MARPOL条約)によって定められます。
同条約のSOx排出規制によって、2012年には燃料に含まれる硫黄分の濃度が4.5%から3.5%に、さらに2020年以降は0.5%以下に規制が強化されています。また、北海や米国沿岸等のECA(Emission Control Area)と呼ばれる地域で使用する燃料は、さらに厳しい規制(硫黄分0.1%以下)が適応されています。また、NOxに対する排出規制も、2005年以降3回にわたって段階的に強化されており、舶用燃料による環境負荷は徐々に軽減されてきました。
しかし、舶用燃料の環境対応はSOx、NOxの排出規制にとどまらず、温室効果ガス(GHG: Green House Gas)にも及びます。IMOにおける現在のGHG排出に関する取り決めでは、2030年までに単位輸送量当たりのCO2排出量を2008年比40%削減、2050年までにGHG排出総量を2008年比50%削減、また今世紀中の早い時期にGHG排出ゼロにすることが求められています。
舶用燃料は、より安価でハイパワーな燃料が求められた時代から、より環境にやさしく持続可能な燃料が求められる時代へと変化しているのです。

次世代クリーン燃料の利用と再び自然エネルギーへ

2030年のCO2排出規制は舶用重油を使用する従来型のエンジンでも、低出力運転(減速航海)や既存技術の応用によって達成可能と考えられていますが、2050年規制や船舶のゼロ・エミッション化は、現在一般的に使用されている石油や天然ガスを燃料とするエンジンでは達成が難しく、これらに代わる新たなエンジンと燃料が必要になります。
船舶のゼロ・エミッション化に向けて、現在海運業界や造船業界では、水素、アンモニア、バイオ等の新たな次世代舶用燃料、バッテリーを積載した電気推進船のほか、産業界から排出されるCO2を再生可能エネルギー由来の水素と組み合わせ、合成メタンを生成して舶用燃料とするメタネーション等、様々な手法が考えられています。
また、石油に代わる新たな燃料への転換と同時に、究極のクリーンエネルギーとして、再び風力の利用も検討されています。商船三井では2009年よりウィンドチャレンジャープロジェクトとして、風力による推進補助装置を備えた貨物船の導入を研究しており、2022年にはグラスファイバー製の帆を持った第一船が竣工する予定です。

当社が主幹事を務める「CCR研究会 船舶カーボンリサイクルワーキンググループ」における、メタネーション技術を船舶のゼロ・エミッション燃料として利用する取り組み。
https://www.mol.co.jp/pr/2020/20040.html

風力推進の原理や装置の種類・特徴・メリットなどをブログ:自然エネルギーの代表格 風力を使うでご紹介しております。

MOLウインドチャレンジャープロジェクト 一本帆搭載* ウィンドチャレンジャープロジェクト
https://www.mol-service.com/ja/service/windchallenger

商船三井グループ環境ビジョン2.2

当社は2021年6月に、2050年のネットゼロ・エミッション達成を目指し、サステナブルな社会を実現するための道標として「商船三井グループ 環境ビジョン2.1」を策定し、中長期目標として以下の3点を掲げました。
① 2020年代中にネットゼロ・エミッション外航船の運航を開始します
② 2035年までに輸送におけるGHG排出原単位を約45%削減します(2019年比)
③ 2050年までにグループ全体でのネットゼロ・エミッション達成を目指します

また、2023年4月には、商船三井グループ環境ビジョン2.2』に更新し、『2.1』発表以降の着実な進捗を示すとともに、具体的な取り組み方針を策定しました。目標達成に向けた重要な指標としてKPI・マイルストーンを追加・更新することで取り組みの実効性を高めています。またネットゼロ達成に向けて具体的な排出削減の道筋を描き、各種の取り組みが果たすべき排出削減への貢献を数値化・視覚化しました。次世代の地球に生きるすべての生命のために、商船三井グループは、ステークホルダーとの共創を通して環境課題の解決に取り組みます。海洋環境保全、生物多様性保護、大気汚染防止などの重要課題に加え、とりわけ喫緊の対応が求められる気候変動対策においては、グループ総力を挙げて「2050年ネットゼロ・エミッション」を目指し、人・社会・地球のサステナブルな発展に貢献して、青い海から豊かな未来をひらきます。

詳しくは下記のリンクから当社ホームページをご覧ください。https://mol.disclosure.site/ja/themes/132

当社グループの環境への取り組みをご紹介する資料は、以下よりダウンロード頂けます。

商船三井グループ環境ビジョン2.2実現へ向けた取り組み事例

商船三井グループ環境ビジョン2.2(日)

商船三井グループが行っている環境負荷低減に向けた様々な取組をダウンロードできます。
環境先進企業として、環境負荷低減に向けた取り組みを一層強化していきます。

ダウンロードはこちら
TAKAHIRO.M

記事投稿者:TAKAHIRO.M

1991年入社。前世紀には鉄鉱石・石炭等のドライバルク輸送、今世紀に入ってからは原油・石油製品を輸送するタンカー部門、当社運航船向けの燃料調達業務を経験し、現在はマーケットリサーチに携わる50代男性。お腹周りの脂肪が目立つのは油っぽい業務を長く担当したせいか。。。

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