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船舶の省エネ装置PBCF~地球環境保全に貢献

  • 環境負荷低減

2021年02月17日

当社グループ会社の商船三井テクノトレード(株)が販売する省エネ装置 PBCF (Propeller Boss Cap Fins) が、今改めて世界の脚光を浴びています。今回は、PBCFの特徴とメリットについてご紹介致します。

船舶の省エネ装置PBCFで地球環境保全に貢献する

PBCFの仕組み

ほとんどの船舶は、船体後部に取り付けられたプロペラを水面下で回転させることによって推進しています。
プロペラは、巨大な船舶を一定のスピードで推進させることができる優れた推進装置ですが、回転に伴って、プロペラ後方に、推進方向の力にならない流れが発生します。
中でも、プロペラ中心部(ボス部)の後方には必ず回転渦が発生し(これを「ハブ渦」と呼びます)、この渦がプロペラを後方に引っ張る力を発生させ、推進効率を減少させる原因となっています。

プロペラから発生するハブ渦。推進効率低下の原因の一つ

PBCF未装着。ボス部よりハブ渦が発生。

そこで、このハブ渦の発生を抑えるために開発されたのがPBCF(プロペラボスキャップフィン)です。PBCFは、ボス部をカバーするように設置するボスキャップに、小さなフィンを付けただけのシンプルな形状の装置です。フィンがボス部周辺の水流の方向を変える事によりハブ渦の発生を抑え、プロペラの推進効率を改善する仕組みになっています。

PBCF装着時はハブ渦が消去される

PBCF装着。ハブ渦の発生を消去

PBCFの長い歴史

PBCFの開発を開始したのは、今から40年近く前の1983年です。(株)商船三井(当時は大阪商船三井船舶)、(株)西日本流体技研およびナカシマプロペラ(株)(当時はミカドプロペラ(株))の3社で、ハブ渦によるプロペラ効率低下を押さえ、省エネ効率を改善すべく、共同で研究を開始しました。数々の水槽模型試験および実船での試験を経て、3~5%の燃費改善を達成するフィン形状を決定、1987年にPBCF (Propeller Boss Cap Fins) の名称で販売が開始されました。
その後も更なる省エネ効率アップに向け研究を継続し、2017年には効率を約2%アップさせた改良型PBCFの販売を開始しました。

船舶の省エネ装置PBCFで地球環境保全に貢献する(改良型(赤)では、従来型(青)に比べ、推進効率が約2%向上)

PBCFが選ばれる4つのポイント

① 省エネ(燃料節減)効果=地球温暖化ガス(GHG)削減効果
PBCFは船舶の燃料消費量を約5%低減させ、船舶の運航費の中で大きな割合を占めている燃料費削減に貢献します。
さらに、現在の大型商船では、主に化石燃料である重油を使用しているため、燃料削減が二酸化炭素(CO2)削減に直結します。CO2は地球温暖化を促進する温室効果ガス(GHG)の一つであり、PBCFはGHGを削減し地球環境保全に貢献する装置であるとして広く認知されています。

② 設置工事の簡便さ
PBCFの設置には溶接や改造等の大工事は必要無く、通常のボスキャップと同じくプロペラに取付けボルトで締め付けるだけです。新造船ではなく、就航済の船に追設する時も元のボスキャップをPBCFに交換しボルト締めする簡単な工事で設置でき、新造船にも就航船にも簡便に設置できる装置となっています。

③ シンプルな構造、保守不要、効果は永久
PBCFは円錐台形状のボスキャップにプロペラの翼数と同じ数のフィンを付けただけのシンプルな構造で、それ自身に可動する部分はありません。プロペラに設置した後、特別な保守作業は不要であり、効果は生涯に渡り継続します。

④ 水中騒音低減=海中生物保護
船舶が水中で発生させる音が、クジラやイルカ等の海中生物の生活環境に悪影響を与えている事が専門家の研究により知られるようになり、現在国際海事機関等で議論が進められています。PBCFがハブ渦を消去する事により水中騒音が低減する事が水槽実験で確認されています。

バンクーバー港での環境プログラムに認定されているPBCF

上述のプロペラのハブ渦は、船舶の海中騒音源の一つであり港湾の環境保全に力を入れているカナダのバンクーバー港では、その環境プログラムの中にPBCFを水中騒音低減装置としてリストアップし、PBCFを設置している船舶が入港する際には港費を減額するという優遇措置をとっています。PBCFが海中環境保全に貢献する装置として認められている、一例と言えるでしょう。

 

3500隻を超える実績

このような理由から世界中に優れた装置として認められたPBCFは、1987年の販売開始以来現在までに3500隻を超える船舶に採用されています。そのうち、2017年に販売開始した改良型PBCFの採用実績も300隻を超えました。
さらに、この数年の間に、地球環境保全に向けた国際規則の制定・強化が加速されていることにより、省エネ装置であるPBCFが今改めて注目を浴びています。

船舶のGHG排出削減に関わる国際規制

現在、地球温暖化防止の為の行動強化が世界中で大きく議論されています。地球温暖化は、1970年代に科学者の間で注目され始め、1985年にオーストリアのフィラハで開催された世界会議(通称フィラハ会議)を切っ掛けに、その防止に向けた議論が国際的に始まりました。
船舶については、1997年に京都で開催された国際会議(COP3)にて「国際海事機関(IMO)が船舶からのGHG排出抑制対策を検討する事」と決定され、その後の議論を経て、2012年に以降の新造船に対する技術的設計指針(Energy Efficiency Design Index (EEDI))が採択されました。EEDIは船舶の性能を「1トンの貨物を1マイル運搬した時に排出されるCO2量」を示す数式で表したもので、船種毎にベースとなる基準を策定し、これを段階的に削減していくスケジュールが定められました。これにより、以降に新造される船舶のGHG排出削減プログラムが定められましたが、既に運航されている就航船については運航計画書を作成する等の対策のみが協議され、技術的な要件を定めることはありませんでした。
しかしその後、地球温暖化による大きな気候変動が各地で発生する中、GHG削減の動きが世界中で加速、2015年、パリで開催された国際会議(COP21)では、「気候変動枠組条約の全加盟国が削減目標に向け行動する枠組協定」としてパリ協定が採択されました。これを受け、船舶に於いても対策強化が急務となり全ての船舶に対する削減計画の議論が進められ、2020年11月の国際会議(MEPC75)にて、就航船に対する規制案が新たに承認されました。
技術的アプローチでは、就航船に、新造船と同レベルの燃費性能を義務付ける指針(Energy Efficiency Existing Ship Index (EEXI))を策定。これは上述のEEDIと同じ数式により船舶の性能を評価、新造船と同等の性能を求めるものです。この基準を満たせない場合、性能改善が義務付けられます。
同時に運航的アプローチとして、各船舶の燃料消費実績(Carbon Intensity Indicator (CII))をもとに船舶を5段階に格付けし、低格付けの船舶に性能改善対策を求める案も決まりました。これらは、今後の議論を経て、早ければ2021年6月に開催予定の国際会議(MEPC76)で採択され、2023年初頭には発効し実行される運びとなっています。

PBCF ~ 地球環境保全に向けて

地球温暖化防止の為に、近い将来数多くの船舶が性能改善を義務付けられることになります。このような状況下、新造船でも就航船でも大きな工事が必要無く簡便に設置でき、かつ一定の推進効率改善が期待できるPBCFが、今改めて注目を浴びるようになりました。
今年に入ってからは幾つかの有力海事関連プレスから問い合わせを受け、インタビューが掲載されました。PBCFはこれからも地球環境保全に向けて、世界の期待に応えていきます。

PBCFに関するお問い合わせはこちらから!

PBCF Inquiry JP

 

竹内 進

記事投稿者:竹内 進

1982年、ジャパンラインに入社。 その後合併により商船三井技術部に所属、新造船を中心とした技術業務に就く。 2010年から商船三井テクノトレードPBCF事業部長として、 PBCFを拡販、世界へ売り歩く。 現在同社技術顧問。

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