船の安全を守る責任。積荷を守る責任——。その使命を胸に、3年ぶりに海へ戻る一等航海士。深夜や夕暮れの最も危険な時間帯に船を操り、港での荷役まで細心の注意を払いながら“船を正しく目的地へ届ける”最前線のプロフェッショナルです。
一方、シンガポールのオフィスから60隻の船をデータで見守る船舶管理のスペシャリスト。船の運航データを分析し、トラブルが起これば船上のクルーと連携して復旧へ導く、“海を陸から支えるエンジニア”として活躍しています。
海の上で船を動かす人。陸から船を守る人。立場は違っても、2人が大切にしているのは 「安全を守り抜く覚悟」「互いを信じるチームワーク」。本記事では、海と陸の両側から“安全運航”を支える2人のストーリーを通じて、商船三井(MOL)が守り続ける安全文化と、未来に向けた挑戦に迫ります。
志方清美さんは10年目の一等航海士。7年に渡りさまざまな船で航海士としての経験を積んだあと、本社オフィスで船舶管理を担当。そしてこれから3年ぶりの海上勤務に復帰します。
3年前までは二等航海士だったので、そのときは航海長としてどこを走るか考え、コースラインを引いていました。船長の意向を受けて具体的なプランを作成することが二等航海士の仕事。また、「航海当直」と言われる船の運行、航海機器類の保守点検なども二等航海士の仕事になります。
たとえば航海当直の時間も職位によって異なります。乗員はずっと休まずに働き続けることはできないので、通常3チームのローテーション制で勤務します。午前と午後の12時間をそれぞれ3分割した4時間が担当の一区切り。4時間勤務、8時間休みの繰り返しで、1日8時間勤務となります。二等航海士の担当時間は「ゼロヨン」と言われており、深夜0時から早朝4時までと、昼の0時から夕方の4時まで。一等航海士になると「ヨンパー」という、早朝4時から朝8時までと、夕方4時から夜8時までになります。
なぜ一等航海士がこの時間を担当するかというと、いちばん危険な時間帯であるためです。日没と日出のときが一番見えづらくて事故が起きやすいと言われているんです。だから熟練の一等航海士が入直します。体力的には二等航海士の時間帯のほうがつらいかもしれないですが、リスクが高いのは深夜よりも朝や夕方の方です。これから一等航海士になるとそれだけ責任も大きくなるということです。
航海当直にしても、誰かが休んだら誰かが代わりに入らなければなりません。とはいっても、船全体を見る立場である、船長が交代要員になるわけにもいきません。したがって船の上で休日はほぼなく、航路にもよりますが、1ヶ月に1度~2度くらいという程度です。
やはり無事スケジュール通りに港に着いて、安全に荷物を揚げ終えた瞬間にやりがいを感じます。航行中の仕事も大切ですが、荷物の管理や、港でその荷物を揚げる「荷役」の作業も航海士の仕事なんです。どれひとつとして同じ航海はないので、いつも緊張感をもってやっています。荷物の量や、どこに積むかなど、毎回すべて変わってきます。もちろん過去のデータは全部あるので一通り目は通しますが、まったく同じ状況にはなりません。だからデータよりも、経験豊富な先輩の話を聞くことを大切にしています。チーフオフィサーや船長はたくさんの経験をしているので、判断が難しいときは必ずアドバイスをもらうようにしています。
一回の航海が4~5ヶ月なので、荷物は結構多いです。いまちょうどパッキング中ですが、服は1週間分の着替えがあればそれで着回します。休憩中はよく動画を見るのでタブレットは絶対持っていきますし、音楽を聴くためのスピーカーも私にとっては必需品です。お守りも持っていきますよ。航海安全のお守りとか、あとは世界中いろんなところへ行くので方位除けのお守りとか。MOL本社の近くにある金刀比羅宮も海上守護の神様として有名ですよね。
プラディープ・カルカダ・ガネーシュさんは、インドのマンガルール出身。2005年に機関士としてのキャリアをスタートし、15年以上にわたる乗船経験を積んだのち船舶管理会社MOLシップマネージメントの副マネージャーに。シンガポールのオフィスから船の安全を守っています。
インドの港湾都市マンガルールで育ちました。造船所やビーチに囲まれていたこの街では、海がいつも身近にありました。小さいころ、水平線の向こうに見える船を眺めながら、「この船はどうやって動いているんだろう? 中ではどんな人たちが働いているんだろう?」と、想像を巡らせたものです。その好奇心が、やがて大学で海洋工学を学ぶ決意へとつながりました。船上でのキャリアを重ねて役職が上がるにつれて、私は「船を動かす」という技術に加えて、「船を支える」マネジメントの重要性に気づくようになりました。15年の船上経験を経て、いまはシンガポールのオフィスから船舶管理業務を行っています。
「FOCUS(Fleet Optimal Control Unified System)」で船の運航データや機器の状態を分析することからはじまります。FOCUSは、船舶から収集される膨大なセンサーデータとレポート情報が統合されたMOL独自のシステムです。MOLが長年にわたり蓄積してきた運航のノウハウが解析技術に活用されています。パフォーマンスが落ちている船があれば原因を特定し、緊急対応が必要な場合は船長や機関長、メーカーなどと連携してすぐに手を打たなければなりません。
私のいるシンガポールのオフィスでは、60隻の船を4つのチームで分担して管理しています。そのほかにも、船舶の保守計画やドライドックでの点検に入る前の準備、部品調達の手配まで業務は多岐にわたります。日々新たな課題が生じるので、一日として同じ日はありません。けれど私たちの目標はつねに同じ。最高の安全性とコンプライアンス基準を維持しながら、船舶を効率的に運航することです。
私のモットーはクルーの洞察を優先し、彼らが最高のパフォーマンスを発揮できるよう支えること。クルーは最前線の現場におり、彼らが直接得た情報は意思決定において極めて重要だからです。このときも船上チームは体系的に作業を進め、陸上の私たちはエンジンメーカーとともにリモートで技術サポートを提供しました。最終的には燃料供給の不具合と判明。見事に復旧することができました。チーム一丸となった対応によって船舶の安全が守られたのは、とても感動的な経験でした。
入社当初、当然ながら私はチームの中で最も若いメンバーのひとりでした。機関士としての経験豊富な同僚に囲まれ、彼らの専門知識に追いつくのが大変でした。でもMOLという職場は誰もが協力的で、気さくに相談できる先輩ばかり。チームワークとメンターシップというMOLの文化がプロフェッショナルとしての成長を助けてくれました。周囲のサポートがあったからこそ、いまの自分がある。仕事上のチームワークを超えて、友情にも似た感覚があります。それは課題解決をより簡単にし、仕事をより楽しいものにしてくれています。現在では立場が変わり、リーダーとして若手のサポートにも関わっています。
「これがMOLグループだ」と感じた瞬間は、2025年1月28日に新来島どっく大西工場で行われた「CIELO ACE」の引き渡しでした。「CIELO ACE」はLNG燃料自動車船「BLUE」シリーズの一隻であり、CO₂排出量削減と持続可能性向上に向けた大きな一歩となるものです。私は船舶引き渡しの技術的側面を監督し、すべてのシステムや機器が最高の基準を満たしていることを確認する責任を負っていました。MOLグループが注力しているこの事業に参加し技術監督を担当できたことは、私にとってとてもチャレンジングで誇り高い体験です。MOLはつねに新しい技術に取り組んでいますから、私も多くの人と話して知識を増やし、現場でそれを生かせるように学び続けたいと思っています。
多忙な日々の中で自分の時間は限られているので、休日はできる限り家族や友人と過ごすようにしています。特に家族のために食事を準備するのは、私にとってリラックスできる時間であり、家族の絆を深める方法です。
あと個人的に自転車がとても好きで、時間があればサイクリングをしに行きます。CIELO ACEの引き渡しで今治に滞在していたとき、新来島どっくの近くにある「しまなみ海道」がサイクリングコースとして有名なのは知っていたのですが、当時は多忙でぜんぜん時間がなくて。こんどは家族を連れて行きたいなと思っています。