Wind Challenger 次世代帆船
商船三井は最新技術を駆使し、風力エネルギーを直接、船舶の推進力に変える「ウインドチャレンジャー」を開発。クリーンで、無尽蔵のエネルギーである「風」にもういちど着目し、全く新しい発想で、現代に帆船を蘇らせ、温室効果ガス排出量の大幅削減を目指します。2022年10月、第1船となるウインドチャレンジャー帆を搭載した9万トン級石炭船用船”松風丸”が竣工、運航を開始しました。
クリーンで無尽蔵のエネルギーである「風」を活用し、今も青い海から人々の毎日を支えています。
商船三井(MOL)のウインドチャレンジャープロジェクト
ウインドチャレンジャープロジェクトの概要とウインドチャレンジャーを使ったソリューションについてご紹介します。
ウインドチャレンジャーとは
パリ協定発効以来、高まり続ける温暖化防止へ向けた機運の中、2018年4月、IMO(国際海事機関)によりGHG削減戦略が採択され、2050年に船舶からのGHG排出総量を2008年比50%削減することなどが定められました。近年では、カーボンニュートラルに向けた動きが、世界において活発化しています。
ウインドチャレンジャーは、帆を利用し、再生可能エネルギーである風力を船の推進力に活用します。現在の大型商船は、進力のほぼすべてを化石燃料に頼っていますが、帆の設置により、風力を直接推進力としてプラスすることで、スピードを変えることなく、化石燃料の使用量を抑えることができます。帆の設置、つまり、かつての帆船の技術を、現代の最新技術により最大進化させ有効活用することで、大型貨物船の燃料消費を抑え、GHG排出量を大幅に削減します。
ウインドチャレンジャー帆搭載第1船運航を開始
継続的にGHG排出量の削減を実現
ウインドチャレンジャー帆搭載船はCGではなく実在します。第1船は、2022年10⽉命名引き渡しを受け、航海を開始、無事処女航海を完了しました。
実際に操船・乗船した松風丸の初代クルー(本船船長・機関長)や、港湾関係者へのインタビューをぜひご覧ください。

帆の設置によるGHG排出量削減効果
本プロジェクトでは、帆から生成される推力を推定するためCFDや風洞実験を実施し、ポーラーダイアグラムを作成しました。
ポーラーダイアグラムと、想定される航路における風況と船速をかけ合わせて、その航路における総合的な風力のアシスト量(補助推力)を算出し、帆による補助推力がない場合と比較しました。補助推力は、船のサイズを考慮して燃費に換算、10万トンバルクキャリアにおいては日本~豪州航路で5%、日本~北米西岸航路で8%削減を見込んでいます。
ウインドチャレンジャーの帆の特長
商船に積載できる貨物量に影響を及ぼさないために、帆をいかに軽量化できるかが重要となるため、帆の素材には、GFRP(Glass Fiber Reinforced Plastic:ガラス製繊維強化プラスチック)製を採用しています。
軽量化により、帆全体の面積を大きくすることが可能となり、推力への利用を最大化することができます。また、帆を設置することによる、船のバランスへの影響を最小化し、運用上の安全性を飛躍的に高めています。
帆船は、風の状況(強さ・向き)によって帆の向きや張りを調整する必要があり、操船には高度知識と経験が求められます。ウィンドチャレンジャーでは、通常の乗組員が簡単に風力を最大限効率的に利用できるよう、帆を自動制御にしました。帆は、風の強さ・向きをセンサーで感知し、風が弱いと帆を伸ばし(展帆)、風が強いと帆を縮める(縮帆)こと、帆の回転を自動で行います。
エンジン船と帆船の違い
現代の大型商船はいわゆるエンジン船です。エンジン船と帆船の違いについてご紹介します。

帆船の推進の原理
帆船は、船上に設置した帆に風の力を受けることで、推進します。自然エネルギーである風力が推進力となるため、GHGを全く排出せず、環境への影響が少ないことが特徴です。
一方で、風の強さ・方向によって、速力や進行方向に大きな影響があり、スケジュールの不透明さ、操船の難しさから、現代の商船には採用されていません。
古来より海上交通手段として利用されてきた帆船は、蒸気船、エンジン船の登場により、推進力・実用性の圧倒的な差を前に、徐々に姿を消していったのです。

エンジン船の推進の原理
エンジン船は、主に石油(重油)を燃料にエンジンを駆動し、プロペラを回転させることで、推進しています。大型商船には、巨大なディーゼルエンジンを搭載することで、大きな推進力を生みだしています。しかし、化石燃料である重油を主な燃料としていることから、CO2をはじめとするGHG排出量の削減が課題となっています。
導入できる船型等概要説明
水線下の既存省エネデバイスとも干渉せず、あらゆる船種(ばら積み船、タンカー、LNG船)に設置できます。複数設置も可能で、燃料転換とのコンビネーションで低エミッション化を促進します。
ウインドチャレンジャー搭載船2隻目のばら積み船は2024年竣工を予定しております。
なお、自動車専用船は乾舷(海面に出ている高さ)が高いため、導入できません。
導入フロー
ウインドチャレンジャーを導入したい船型や寄港地など、お客様のご要望にお応えするため事前にヒアリングを行ったうえで、最適な船体仕様などご提案いたします。施行後のメンテナンスなどもご相談させて頂きます。
導入後の対応、メンテナンス

硬翼帆※の根本部分にある機械部品(伸縮に使う油圧ポンプ、回転につかう旋回モーター)などは、他の一般機械と同じように運転時間に応じてメンテナンスが必要です。
帆の鉄部材は、塗装により保護しますが、経年で錆が出てきた場合はドックで再塗装を行う予定です。
また、FRP部については基本的にメンテフリーですが、紫外線により退色するので、美観維持の観点から一定の期間毎に再塗装をする必要があると考えています。
※硬翼帆(こうよくほ):形が変形しない翼型の帆のこと。