風力補助推進システム「ウインドチャレンジャー」

世界的にカーボンニュートラルが叫ばれている中、海運業界でも温室効果ガス(GHG)排出量の削減が求められています。商船三井は無尽蔵のクリーンエネルギー「風」の可能性に着目し、リアルタイムで風向・風速を感知し、帆の伸縮や回転をすべて自動制御する最新かつ独自の技術を駆使した画期的なソリューション「ウインドチャレンジャー(Wind Challenger)」を開発しました。

このソリューションを活用し、2022年10月にはウインドチャレンジャーを搭載した10万トン型石炭専用船「松風丸」が竣工。2024年4月までの約18ヶ月にわたり、主にオーストラリアやインドネシア、北米などと日本の往復計7航海の石炭輸送に従事し、実航海で1日最大17%の、1航海において平均5%~8%の燃料節減効果を達成しました。

風力補助推進システムとは

風力補助推進システムとは、風の力で船舶の推進力を補助する装置です。 コストがかからず枯渇する心配のない再生可能エネルギーである風の力を利用することで、GHG排出量や燃料消費量の削減に寄与します。

風力補助推進システムに期待される機能と効果

風力補助推進システムには主に3つの機能と効果が期待されています。

1.燃料の節約と脱炭素化への貢献

2023年7月、国連の専門機関である国際海事機関(IMO)は、2018年に採択した「IMO GHG削減戦略」を改定し、2050年頃までに船舶から排出されるGHG排出量を実質ゼロにする目標に合意しました。この発表を受けて、海運業者は段階的に化石燃料からゼロエミッション燃料への切り替えを行っています。

風力補助推進システムは、風力補助による運航によって燃料の節約や温室効果ガス(GHG)の削減を実現し、IMOが定めた目標の達成に寄与することが望まれています。

2.安全性と品質

船舶の運航においては厳格な国際基準や規定が定められており、高い安全性が求められます。風力補助推進システムを搭載した船が安全に目的地へとたどり着くことはもちろん、同システムが確かな技術で製造されトラブルが起きることなく機能すること、荒天にも耐える堅牢な構造で壊れにくいことが、安全運航のために必要です。

3.取り扱いやすさ

風力補助推進システムが脱炭素化に貢献するためには、取り扱いやすさも重要な要素です。新造船・既存船を問わず、ばら積み船(ドライバルク船)、タンカー、LNG船など、さまざまなタイプの船に設置可能で、積載貨物量に大きな影響を与えないことも考慮すべき点です。また、操作に専門的な技術を必要とせず、一般乗組員でも簡単に操作・管理・メンテナンスを行えることも重要です。

商船三井による最先端の風力補助推進システム
「ウインドチャレンジャー」

「ウインドチャレンジャー(WIND CHALLENGER)」は、商船三井が開発した硬翼帆*式の風力補助推進システムです。帆を利用して再生可能エネルギーである風力を船の推進力に活用します。

現在の大型貨物船は、動力源のほぼすべてを化石燃料に頼っていますが、帆の設置によって風力を推進力としてプラスすることで、スピードを落とすことなく化石燃料の使用量を抑えることができます。かつての帆船の技術を現代の最新技術によって進化させ有効活用することで、大型貨物船の燃料消費を抑え、GHG排出量を大幅に削減します。

  1. 硬翼帆(こうよくほ):形が変形しない翼型の帆のこと。

ウインドチャレンジャーの機能と特徴

商船三井が最先端の技術を駆使して開発したウインドチャレンジャーの機能と特長を、7つの項目に分けて解説します。

1.風の力を利用して推力を最大化し、脱炭素化に貢献

帆の軽量化により、船に係る荷重を軽減させることで安定させるとともに、帆の断面の形状を調整することで有効風向範囲が広くなるため、推進力としての風の利用を最大化しています。

ウインドチャレンジャーは当初から帆本体・制御装置・ウェザールーティング(最適航路選定)の三位一体運用を見据えて開発、実装しています。ウェザールーティングシステムにより最適航路を提案し、更なる燃料消費削減を目指しています。

処女航海が完了した搭載船1隻目「松風丸」から得た運航データによると、日本〜豪州航路で5%、日本〜北米西岸航路で8%、帆が自動制御モードで運用されている状態では、1日で最大17%の燃料消費量の削減効果を記録しています。現在も「松風丸」の運航実績を元に装置の改良を継続中です。

2.軽量化と伸縮機能

風力補助推進システムが商船に積載できる貨物量に影響を及ぼさないためには帆の軽量化がきわめて重要です。ウインドチャレンジャーの帆の表面素材には、一般的に船舶の構造材には用いられていないGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)を採用することで、帆の軽量化を実現しています。

また帆は伸縮することができ、荒天時には縮帆して重心を下げて船舶の安定性を維持し、商船において、帆を設置していない通常の船舶と同等の安全性を確保します。

3.さまざまな船に設置可能

ウインドチャレンジャーは新造船だけでなく既存船にも設置可能です。水線下に取り付けられた既存の省エネデバイスとも干渉せず、ばら積み船(ドライバルク船)、タンカー、LNG船など、さまざまな船種に広く導入でき、複数設置する事も可能です。

ウインドチャレンジャーを搭載した2隻目のばら積み船は2024年7月に竣工しました。載貨重量トン数は6万4000トンと1隻目の「松風丸」よりは小型ではあるものの、さらに採用するFRP(繊維強化プラスチック)の採用箇所を増やし、伸縮の駆動機構も「油圧式」から「電動式」へ転換する予定です。なお、2024年5月にはMOLグループである商船三井ドライバルク株式会社が運航する新造ばら積み船および多目的船の計7隻に搭載することを決定しました。

VLCCへの導入イメージ(4本)
LNG船への導入イメージ(2本)
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Cape size bulkerへの導入(2本)

4.気象条件を問わず、高い安全性を確保

安全性は風力補助推進システムに求められる必須条件ですが、ウインドチャレンジャーの構造体は軽量であるため、船のバランスを損なうことはなく、運航上の安全性を確保することができます。

また、風の力を最大限に受けられる「最大揚力アングル」と、荒天時には風の抵抗を最小限にとどめる「ゼロリフトアングル」を使い分けることで、気象条件を問わず安全な運航を実現します。

5.乗組員の誰もが扱える自動制御システムを搭載

通常、帆船は風の強さや向きによって帆の向きや張りを調整する必要があり、操船には高度な知識と経験が求められます。しかし、ウインドチャレンジャーは完全自動化した制御システムを採用しているため、特別な技術を求めず簡単に風力を最大限かつ効率的に推進力として利用できます。ウインドチャレンジャー独自の技術で風の強さ・向きをセンサーで感知し、展帆、縮帆、帆の回転を自動で行います。

6.メンテナンスが容易

展帆・縮帆、使う油圧ポンプや転回に使う旋回モーターといった硬翼帆の基部にある機械部品などは、他の一般機械と同様に運転時間に応じたメンテナンスが必要です。

帆の鉄部材は、塗装により保護しますが、経年で錆が出てきた場合は定期入渠 で再塗装を行う予定です。また、FRP部については基本的にメンテナンスフリーではあるものの、紫外線によって退色するため、美観維持の観点から一定の期間毎に再塗装をすることが望ましいと考えています。

ウインドチャレンジャーの開発においては、今後もさまざまなフィードバックを取り入れながら使用感や性能、メンテナンス性の向上に向けたアップデートを感度高く行っていく予定です。

7.長年、海運業界を支えてきた確かな技術で製造

創業からおよそ140年以上にわたり世界の海上輸送に貢献してきた商船三井と、50年以上にわたって日本を含む27ヵ国の船会社向けに船を建造してきた大島造船所が中心となり、確かな技術で製造・開発を行っています。過去の帆船事例から学び、ゼロリフトアングルや昇降機構を搭載したウインドチャレンジャーは、既存技術の組み合わせによって確立された風力補助推進システムといえます。

ウインドチャレンジャーの導入フロー

ウインドチャレンジャーの導入に際しては、可能な限りお客様の御要望にお応えするため、事前に船型や寄港地などを伺ったうえで最適な船体仕様などをご提案いたします。

商船三井は2050年までのネットゼロ・エミッション達成に向けて、ウインドチャレンジャー搭載船を2030年までに25隻、2035年までに80隻投入することを計画しています。ウインドチャレンジャーを始めとした風力推進技術を組み合わせた環境対応船隊の安全な管理・効率運航を通じ運用技術を蓄積してきましたが、今後更に高度化し、安全を確保しながら自然エネルギーを活用し、自社グループからのGHG排出削減のみならず、社会全体の低・脱炭素化に貢献してまいります。

ウインドチャレンジャーの導入フローの図

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