2025年06月30日
今回のブログでは、ドライバルク貨物貿易、港湾開発、造船・船舶リサイクル産業の成長について最新動向をインドからお届けします。商船三井グループ内で、主にシステムやビジネスインテリジェンスで大きな役割を果たしているMOL INFORMATION TECHNOLOGY INDIA PVT. LTD.の主席データ・アナリストPulak Ranjan Nath氏が掘り下げます!
2024年に世界のドライバルク船(ばら積み貨物船)による貿易量は5.3%増加し、52億トンから54.8億トンへと成長しました。これは前年の成長率2.5%と比較して大幅な改善を示しています。
輸入動向:
ASEAN5ヶ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ)は14.9%の大幅な貿易量の拡大を記録しました。中国は5.7%、インドは2.8%と穏やかな増加率だった一方で、日本は1.8%減、米国は4.2%減となりました。
輸出動向:
伸び率が大きいところでは、アルゼンチンの輸出量が47.6%増加し、2022年の水準に回復しました。中国は27%増の2.2億トン(前年1.7億トン)となり、ギニアは15.1%増加しました。インドは8,500万トンで安定的に推移し、日本は5,800万トンへ微増(前年5,300万トン)、米国は9%増の3.1億トンとなりました。ウクライナは戦争による輸出制限を経て、穀物等のドライバルク貨物の輸出を再開しました。
2024年のインドのドライバルク貨物貿易量は、過去数年間の変動を経て、安定化の兆しを見せています。
このような傾向は、インドのドライバルク貨物貿易が成熟期に入りつつあることを示しており、世界市場の変化や商品需要の軟化に伴う安定的な成長が見られます。
上:インドのドライバルク貨物貿易(輸入)成長率、
下:インドのドライバルク貨物貿易(輸出)成長率(データ出典: AXSMarine)
インドは2023年に日本を抜いて世界第2位のドライバルク貨物の輸入国となり、2024年も3.7億トンの輸入量でその地位を維持しています。これはインドの産業需要の高まりと、世界の海上輸送における戦略的重要性を反映しています。
(データ出典: AXSMarine)
インドは2024年に輸出ランキングで11位に後退したものの、輸出量はほぼ前年並みの8,500万トンを維持しています。これはベトナムなどの国々との競争激化を示しており、インドは100万トンの微減により、9,100万トンを記録したベトナムに順位を譲る形となりました。
(データ出典: AXSMarine)
2023年には鉄鉱石の輸出が前年比で164.3 %増、輸入が137.3%と、非常に活発な年となりました。しかし2024年には、インドの鉄鉱石の輸出は17.5%減となり、4,400万トンから3,600万トンへと減少しました。これは前年の急増に対する市場調整と考えられます。輸入量は約500万トンで安定しており、依存の度合いも落ち着き安定した段階にあると見られます。
上:インドの鉄鉱石輸出成長率、下:インドの鉄鉱石輸入成長率
(データ出典: AXSMarine)
インドは石炭(一般炭/Steaming coalおよび原料炭/ Coking coal)の主な輸入国であり、輸出量はごくわずかです。2024年には一般炭の輸入が5.1%減少し、2022年の水準に近づきました(1.6億トン)。一方、原料炭は6.8%増加し、7,200万トンに達しました。
一般炭は主にインドネシア、南アフリカ、米国、ロシアから輸入され、原料炭はオーストラリア、ロシア、米国、南アフリカから輸入されています。2024年にはロシアからの原料炭輸入が約300万トン(22%)増加しました。
上:インドの一般炭輸入成長率、下:インドの原料炭輸入成長率
(データ出典: AXSMarine)
インドのボーキサイト輸入は近年増加傾向にあります。2023年には359万トンで前年比3.4%増となり、2024年には30.5%増の468万トンに達しました。これは、建設業界や自動車産業、電子機器分野などで急速に拡大しているアルミニウムの需要増によるものです。
インドのボーキサイト輸入成長率(データ出典: AXSMarine)
インドの石灰石輸入は近年著しく増加しています。2024年には約3,200万トンに達し、主要鉱物輸入量の55%を占めました。前年比では13.6%の増加となっています。
インド国内の鉄鋼やセメント、化学産業の需要拡大により石灰石の輸入が増加しており、国内に石灰石資源が豊富にあるものの、品質と供給の安定性から輸入に依存しています。
インドの石灰石輸入成長率(データ出典: AXSMarine)
2024年にはインドの塩輸出が大幅に増加し、1,758万トンに達しました。これは前年から65.5%の増加となります。
中国、韓国、日本などの極東諸国における工業用塩の需要が急増する中、インドの主要な塩生産州であるグジャラート州は、国内生産の75%以上を占めています。好天に恵まれたことと生産能力の拡充により、同州では非常に高い生産性を達成した年となりました。
インドの塩輸出成長率(データ出典: AXSMarine)
鉄鉱石や石炭などの輸入には、主にケープサイズやパナマックスなどの大型船が使用されます。ただし、インドでは多くの港で喫水制限があるため、ケープサイズバルカーの使用は限定的であり、モルムガオ港/Mormugao(ゴア州/Goa)やガンガバラム港/Gangavaram(ヴィシャカパトナム市/Visakhapatnam)などの水深が深く大型船が出入りできる港で主に使用されています。
輸出に関しては、パナマックスとハンディマックスバルカーが65%のシェアを占めており、ケープサイズバルカーのシェアは前年3.9%から2024年は1.4%へと大幅に減少しています。これは鉄鉱石輸出の減少によるものです。
インド政府は港湾インフラの近代化と拡大を目的とした複数の政策を打ち出しています。
□海事開発基金 Maritime Development Fund(MDF)
□One Nation - One Port(ONOP)構想
□物流港湾パフォーマンス指数(Sagar Aankalan –Logistics Port Performance Index LPPI)
インドの造船業は、2024年から2025年にかけて政府の戦略的な支援により大きく前進しております。これは、インド以外で建造された船舶への依存を減らし、国内造船業の活性化を目指す取り組みによるものです。以下に主な施策を紹介します。
□海事開発基金 Maritime Development Fund(MDF)-変革の鍵
□インフラおよび政策支援
インド国内には28の造船所があり、中央政府系が6か所、州政府系が2か所、民間企業による運営が20か所となっています。主な政府系造船所には、コーチン造船所/ Cochin Shipyard Ltd.(CSL)およびマザゴン・ドック造船所/ Mazagon Dock Shipbuilders Ltd.(MDL)があり、民間ではL&T造船/ L&T Shipbuildingおよびリライアンス・ナバル&エンジニアリング社/ Reliance Naval & Engineering Ltd.が主要なプレイヤーです。
シップリサイクル産業(スクラップや解撤と表現されることもあります)は、老朽化した船舶を解撤し、再利用可能な資材や部品を回収するプロセスです。
□主なシップリサイクル国は以下の通りです:
インドのドライバルクセクターは、複数のマクロ経済および地政学の要因に支えられ、慎重ながらも楽観的な見通しが示されています。
安定したGDP成長:
インドは、2025年に約6.3%と高いGDP成長率を維持すると予測されており、これは国内消費、インフラ投資、製造業の拡大によって支えられています。
政府による政策支援:
インド政府による「Sagar Mala project」や「ガティシャクティ国家マスタープラン(PM Gati Shakti National Master Plan)」などの政策は、港湾の近代化、物流の改善、所要時間の短縮を目的としています。
米中貿易戦争の影響:
米中間の貿易摩擦が続く中、サプライチェーンの多様化が進んでおり、インドは代替的な製造・輸出拠点として台頭する可能性があります。これにより、ドライバルク貨物の取引量が増加することが期待されています。
実質GDP成長率の変化(データ出典: S&P Global)
この記事は2025年6月に作成されたものです。
この分析を行ったアナリストが所属するMOL INFORMATION TECHNOLOGY INDIA PVT. LTD.の詳細はこちらからご覧ください。
記事投稿者:Pulak Ranjan Nath
こんにちは。私は MOL INFORMATION TECHNOLOGY INDIA PVT. LTD. の主席データ・アナリスト、Pulak Ranjan Nath と申します。人工知能・データサイエンス(AID)チームの一員として、15年以上にわたりMOL-ITに勤務し、特に海運分野におけるデータ分析で豊富な経験を積んできました。 現在は、ドライバルクBIプロジェクトにおいて、ドライバルク海運市場のデータ調査、ビジネスインサイトの抽出、重要な相関関係の特定に取り組んでいます。また、環境・持続可能性プロジェクトにも参画し、CO₂排出量、CII格付け、EU-ETSに関する分析を担当しています。 私はコンピュータサイエンスのエンジニアであり、認定BIプロフェッショナルでもあります。データを活用して、ビジネスの改善と持続可能な成長の両立を目指し、日々取り組んでいます。
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