2025年11月17日
エネルギーの安定供給と脱炭素化が世界的な課題となる中、商船三井グループは欧州と米州を中心にガスバリューチェーンの強化と多様化に積極的に取り組んでいます。
世界最大級のLNG船隊に加え、FSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)やFLNG(浮体式LNG液化設備)といった技術を活用することで、地域のエネルギー安全保障や持続可能な社会の実現に貢献しています。また、欧州のエネルギー政策や市場環境の変化に柔軟に対応し、現地パートナーとの連携や新規プロジェクトの推進を通じて、バリューチェーン全体での価値創出を目指しています。を目指しています。
本記事では、商船三井グループのキーパーソン5名による、大西洋地域におけるガスバリューチェーン戦略と今後の展望に関するインタビューと、実際にGastech 2025に出展した際の現地参加レポートの2本立てでお届けします。現場のリアルな声と最新の取り組みをぜひご覧ください!
イギリス・ロンドンを拠点とするMOL (Europe Africa) Ltd.の5名のメンバーに、それぞれの専門分野や現場での経験をもとに、商船三井のガスバリューチェーン戦略についてお話を伺いました。
Suryan Wirya-Simunovic
・商船三井 常務執行役員 欧州・アフリカ地域担当、欧州・アフリカ・米州事業統括(エネルギー事業担当)委嘱
・MOL (Europe Africa) Ltd. Chief Executive Officer
Lou Montilla
・Gas Infrastructure, Director
坂口 剛
・ Regional Head (Business Administration) Europe Africa, Director
Bruce Moore
・ New Energy & Decarbonisation, Director
飯島 康平
・ Energy Transport, Director
まず、MOL (Europe Africa) Ltd. CEOのSuryan Wirya-Simunovic氏より欧州、アフリカ、米州地域における商船三井グループのエネルギー関連事業の全体像についてお聞きしました。
Suryan Wirya-Simunovic
商船三井グループは欧州、アフリカ、米州地域において、エネルギー関連事業を多角的に展開しています。特に注力しているのがLNGバリューチェーンで、FSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)やFLNG(浮体式LNG液化設備)を活用した事業を進めています。また、LNG船(LNGC)やLNGバンカリング船の運用も行っており、CCUS(CO₂回収・貯留・利用)や洋上風力、そしてアンモニア・水素といった次世代エネルギー分野にも積極的に関与しています。さらに、地域の港湾や物流企業とのパートナーシップ、M&Aを通じて、インフラ開発でも貢献しています。
港湾内や沖合でのバンカリング作業が可能なLNGバンカリング船 (商船三井 撮影)
Suryan Wirya-Simunovic
欧州では、ロシアからのガス供給が不安定になったことを受けて、エネルギー安全保障の観点からガスの供給源を多様化する必要があります。その中でLNGは、比較的安定した供給が可能なエネルギー源として注目されています。また、EUのグリーンディールなどの政策により、脱炭素化が急速に進んでおり、再生可能エネルギーの導入と並行して、ガスを活用した移行期のエネルギー戦略が求められています。こうした背景から、ガスバリューチェーンの整備は欧州にとって極めて重要なテーマとなっています。
ロンドンオフィスにてSuryan Wirya-Simunovic氏(左)とLou Montilla氏(右)のインタビューの様子(現地撮影)
Lou Montilla氏からはFSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)の特徴や、商船三井の強みについて解説いただきました。既存LNG船の転用ノウハウや、欧州・アフリカ・中南米でのプロジェクト展開、ポーランドでのFSRU運営など、具体的な取り組みについて深堀します。
坂口氏からはFLNG(洋上LNG液化設備)への取り組みや、米Delfin Midstream Inc.との戦略的パートナーシップについて、また飯島氏からは世界最大級のLNG船隊の強みや、欧州でのLNG需要の見通しについて解説いただきました。
Lou Montilla
FSRUとは、浮体式のLNG貯蔵・再ガス化設備のことで、陸上のLNGターミナルに比べて迅速かつ柔軟に導入できるのが特徴です。特にエネルギー供給が逼迫している地域では、短期間で稼働可能なFSRUが重宝されています。欧州やアフリカ、欧州、アフリカ、中南米でも需要が高まっており、商船三井は既存のLNG船をFSRUに転用する専門知識を活かして、積極的に市場に参入しています。

商船三井が保有するFSRU船 (商船三井 撮影)
Lou Montilla
商船三井の最大の強みは、顧客のニーズに合わせた柔軟なソリューションを提供できる点です。FSRUに関しては、新造船での対応も可能ですし、既存船を改造して提供することもできます。技術面・事業面の両方で豊富な経験がありますので、どちらのケースにも対応できます。
例えば、商船三井は現在、ポーランドの顧客向けに新造FSRUの建造を進めており、2027年末に竣工予定です。一方で、商船三井はKARMOLジョイントベンチャー*1の一環として、改造FSRUをセネガル及びブラジルに配備しています。
この分野の専門拠点はロンドンにあり、欧州、アフリカ、中南米の顧客に対して迅速かつ的確に対応できる体制を整えています。また、商船三井は複雑なプロジェクトの遂行に必要な財務的な基盤と豊富な実績を兼ね備えており、安心してお任せいただける体制が整っています。
さらに、商船三井はフランス、ドイツにおいて稼働中の2基のFSRUに対して重要な持分を保有しており、トルコにあるFSRUには船舶管理サービスも提供しています。
セネガルに配備しているKARMOL LNGT POWERSHIP AFRICA(出典:商船三井プレスリリース)
(*1)
商船三井とトルコのKaradeniz Holdings A.S.社の子会社であるKarpower International B.V.社が”KARMOL”のブランドのもとに共同して取り組むLNG発電船事業。FSRUと発電船を組み合わせ、FSRUでLNGを再ガス化して発電船に送り、発電船がそれを受け取り発電する仕組み。
坂口
FLNGとは「Floating Liquefied Natural Gas」の略で、洋上で天然ガスを液化するための設備を指します。通常、天然ガスは陸上の施設で液化されますが、FLNGはそのプロセスを海上で行うことができ、米国のように陸上での建設が難しい地域では、FLNGはインフラ整備の障害を解消する有効な手段となります。
商船三井のFLNGへの取り組みは、米国のDelfin Midstream Inc.(DMI)との戦略的パートナーシップを中心に展開しており、この関係は2023年から始まりました。商船三井がDMIに初めて投資して以来、商船三井はDMI初のFLNG船に関する最終投資決定(FID)を達成できるよう支援してきており、今年中の達成に向けて順調に進んでいます。
これには単なる個別プロジェクトへの投資以上の意味があります。LNG分野における垂直成長戦略の重要な一歩であり、すでにグローバルリーダーである海上輸送からFSRU、そして今回のFLNG生産・販売へと事業領域を拡大するものです。この垂直統合により、LNGバリューチェーン全体で価値を創出しつつ、リスク管理も慎重に行うことが可能となります。
洋上で天然ガスを液化するFLNGのイメージ図(出典:商船三井プレスリリース)
飯島
商船三井のLNG船隊は、40年以上にわたって世界各地のLNG輸出プロジェクトに関与してきた実績があり、商船三井は約140隻の船を保有する世界最大のLNG船隊を誇っています(2025年10月時点)。これにより、業界内での信頼性が高く、長期的なパートナーシップを築く力があります。また、FSRUやFLNGへの転用等のバリューチェーンの構築に貢献を含めた、柔軟な対応が可能です。さらに、プロジェクト支援に必要な資金調達力と市場での高い評価も強みの一つです 。
飯島
欧州では、ロシア・ウクライナ問題の影響でエネルギー供給の多様化が進んでおり、LNGの需要は今後も増加すると見ています。価格の安定化や脱炭素化の流れも後押ししており、特に大西洋地域ではLNG市場の成長が期待されています。商船三井としても、こうした需要に応えるべく、上流(FLNG)、中流(LNG船)、下流(FSRU)のバリューチェーンのサービスを提供していきます。また風力推進装置であるWind Challengerを搭載したLNG船を展開し、GHGの削減に努めます。
ウインドチャレンジャー4基を搭載した新船型(イメージ図)(出典:商船三井プレスリリース)
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左から坂口氏、Bruce Moore氏、飯島氏(現地撮影)
続いてSuryan Wirya-Simunovic氏より、FSRU事業の安定運営と新規案件の開発と実行、FLNG事業の拡大、LNGC事業の拡張を連携させて進める今後の戦略をお話いただきました。
Bruce Moore氏からは、再生可能エネルギーやCCUSとの連携、オフショア風力発電支援船事業、CO₂輸送対応船の開発など、脱炭素社会実現に向けた商船三井の新たな挑戦についてお話いただきました。
Suryan Wirya-Simunovic
今後の戦略としては、まずFSRU事業の開発・導入・運用が挙げられます。ポーランドでのFSRUプロジェクトを成功させ、今後のFSRU事業のさらなる拡大に力を入れていきます。
また、FLNG事業ではDelfin FLNG*2の建設と運営を戦略的パートナーの立場から支援し、Delfin FLNGプロジェクトへさらなる投資を行う計画です。これらの事業を連携させることで、LNGC事業の拡張にもつなげていく方針です 。
(*2)
米国のDelfin Midstream Inc.(DMI)が推進する洋上液化天然ガス(FLNG)プロジェクトであり、MOL(商船三井)が2023年から戦略的パートナーとして参画している取り組み。
Bruce Moore
商船三井はガスバリューチェーン以外にも、再生可能エネルギーやCCUSとの連携を進めています。具体的には、風力、アンモニア、水素といった新エネルギーの輸送やインフラ整備に関与しています。欧州では洋上風力支援船プロジェクトやニグ港*3の風力案件等にも参入しています。また、浮体式アンモニアクラッキング設備のソリューション開発や、CO₂およびその他の液化ガスの輸送が可能なDual-Cargo Vessel*4の開発にも取り組んでいます。
(*3)
イギリス・スコットランド北東部のクロマーティ湾(Cromarty Firth)に位置する港。
(*4)
複数種類の貨物を同時に輸送できる船舶。商船三井では液化CO₂/LCO₂とメタノールなどの他の貨物(LNG、LPG、アンモニアなど)を同時に輸送可能な船舶の開発を進めています。
英国ニグ港において三井物産と共同で取り組む基地港湾事業およびエネルギー産業向け鋼材加工・機器製造事業(出典:商船三井プレスリリース)
ここからは、ロンドンオフィスのメンバーが中心となって参加した、2025年9月9日から12日までイタリア・ミラノで開催された「Gastech 2025」のレポートをお届けします。
Gastech 2025は、Chevron、Eni、ExxonMobil、Shellなどが共同主催する、エネルギー分野における世界的なイベントです。今年は150以上の国・地域から過去最多となる48,678人が来場し、天然ガス・LNG、水素、海運・海洋分野など、未来のエネルギーを巡る議論や展示が連日盛況で、会場は活気に満ちていました。
左)Gastech2025に出展した商船三井のブース、右)4基のWind Challengerを搭載した新デザインのLNG船模型
商船三井グループは、「Navigating Tomorrow: Responsible, Resilient, Revolutionary」というスローガンのもと、グループ全体から37名が参加しました。ブースでは、4基のWind Challengerを搭載した新デザインのLNG船(LNGC)を展示し、多くの来場者に足を止めていただきました。
このWind Challenger搭載LNGCについては、技術開発における重要なマイルストーンとして会期中に2件のAiP(基本設計承認)認証式を実施しました。また、浮体式アンモニアクラッキング設備のAiPセレモニーも開催し、私たちにとって大きな前進となりました。

浮体式アンモニアクラッキング設備のイメージ図(出典:商船三井プレスリリース)
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さらに、9月10日の夜には商船三井ブースにてレセプションを開催。
Suryan Wirya-Simunovic氏によるスピーチで幕を開け、日本酒と軽食を振る舞いながら、LNG業界のパートナーとのネットワーキングや関係強化の場として大いに盛り上がりました。
商船三井のメンバーは、カンファレンスセッションにも積極的に参加しました。9月10日には、招待制のリーダーシップ・ラウンドテーブルに登壇し、「LNGの新たな供給時代」について議論を交わしたほか、「海事セクターの脱炭素化」に関するパネルディスカッションにも参加しました。さらに、9月11日にはFloating Ammonia Crackerプロジェクトの発表と関連パネルへの登壇も行われました。

この4日間を通じて、商船三井グループは90社以上の企業とミーティングを実施。業界とのつながりをさらに深める貴重な機会となりました。
次回のGastechは、2026年9月15日〜18日にタイ・バンコクで開催予定です。未来の海運とエネルギーに向けて、今回ミラノで得た経験をしっかりと活かしていきます!
2021年03月10日
2022年06月28日
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