2023年10月31日
商船三井フェリー株式会社と株式会社フェリーさんふらわあが経営統合し、2023年10月1日、株式会社商船三井さんふらわあとして営業を開始しました。長い歴史で積み重ねた両社の安全・定期運航のノウハウを活かし、定期航路6航路で15隻を運航。従業員数は海陸合わせて500名強、商船三井さんふらわあグループ全体では1,000人規模、輸送シェアは約30%となり、国内最大の航路網・運航隻数のフェリー・内航RORO船会社として物流・旅客の両面で安定したサービスを展開します。新たな船出に際し、商船三井さんふらわあが目指す姿について、牛奥博俊新社長にお話を伺いました。
ーーー今回の事業統合の狙いを教えてください。
牛奥
国内人口の減少により貨物輸送需要の大きな成長が望めない一方で、トラックドライバー不足が懸念される2024年問題が間近に迫り、モーダルシフトによる業界の構造的な変化が起こりつつあります。世界に目を向ければロシア-ウクライナ戦争の長期化によるエネルギー価格の高騰に加え、地球温暖化による環境問題が深刻化しています。こうしたさまざまな課題を乗り越えていくために、フェリー・内航RORO事業では船舶技術の革新や代替燃料の研究など、新たな領域で積極的な事業投資と技術対応力が求められる時代が到来しています。競合他社の追随を許さず勝ち残っていくため、MOLグループでは共にさんふらわあブランドを有するフェリー・内航RORO船 2社を統合し、経営基盤を強化。グループのスケールメリットを活かして事業環境の変化に自律的に対応する体制を確立していきます。
ーーー経営方針(ありたい姿)についてお聞かせください。
牛奥
私がイメージする商船三井さんふらわあの企業理念は、「総合輸送会社として社会・経済の発展に貢献すること」です。そして事業規模・経営の健全性、従業員の幸福度において、世界からも注目されるフェリー・内航RORO船運航会社になりたいと思います。「物流の2024年問題」などの社会課題を解決する高品質な物流サービスを展開し、他社とは一線を画す「カジュアルクルーズ」(註1)戦略をさらに進め、単なる移動手段だけではない、乗船されるお客様の思い出に残る船旅を提供していきたいと考えています。
(註1)
上質な船旅としてのクルーズを、定期航路を利用することで気軽に楽しんで頂く、商船三井グループフェリー事業の基本コンセプト
日本初のLNG燃料フェリーさんふらわあくれないの詳細は以下ブログをぜひご覧ください。
「さんふらわあ くれない」を徹底チェック!(客室編)
「さんふらわあ くれない」を徹底チェック!(パブリックスペース編)
これらを実現するための事業運営方針のキーワードを3つ挙げます。
1つ目は、「可視化(見える化)」です。見えづらいものを可視化していくように事業を運営します。例えば、「サービス」や「安全」といった抽象的に表現されるものを誰にでも一目で伝わるように創意工夫し、わかりやすく表現することで、さらにお客様や取引先からの信頼感を高めていきます。社内資料も見える化を促進し、情報の共有と透明性の高い事業運営を行う方針です。
2つ目は、「コラボレーション」です。事業統合する2社は共に長い時間をかけて事業改革を続けており、その成果が実りつつあることを体感しています。だからこそこれからはより積極的に商船三井グループの他事業部や外部サービス、専門家等と協調・協業する選択肢を持ち、第三者の意見に耳を傾ける柔軟性を持つことがイノベーションに繋がり、事業成長の要になると考えています。積極的に外部とのコラボレーションを図って柔軟な発想・働き方を社内に浸透させていきます。
3つ目は、「スピード感」です。情報化社会の中で、あらゆる物事はかつてないスピードで変化しています。グループ執行役員制度適用会社になった利点を活用し、迅速な意思決定を実践します。迷ったらやってみる、やってみてダメだと思ったらすぐに方向転換する、スピード感を重視した事業運営を行います。
ーーーすぐにでも着手したい新たな取り組みは?
牛奥
3つのキーワードを実践するために、「ICTの活用」は必須です。ICTの活用とDXの推進は、統合の目的達成はもとより、フェリー事業を進化させるために非常に重要な取り組みです。スピード感を持ってDigitization(デジタル化・可視化)、 Digitalization(業務標準化・合理化)、さらにはBusiness Transformation(事業を進化させる)を行っていきます。
伝統的なフェリー事業を大切にしながら、環境の変化に迅速に対応し将来のお客様ニーズに合ったフェリー事業へとビジネストランスフォームしていく。喩えるならば “スーパー歌舞伎”のような形で「両利きの経営」(註2)を実践したいですね。従業員と共に歴史あるさんふらわあブランドを強靭に磨き上げ、先見性を保ちながら業界をリードしていきたいと考えています。
(註2) 既存事業を深めていく「知の深化」と新規事業を展開する「知の探索」を両輪として企業を経営することの重要性を、右手と左手を自在に動かせる「両利き」になぞらえた経営論。
―――現在進行しているICTの活用例を教えてください。
牛奥
現在、フェリー・内航RORO船での洋上通信環境の改善に取り組んでいます。KDDI株式会社が提供する低軌道衛星による通信サービス(Starlink)を活用し、船陸間の通信環境を大幅に改善する試みです。通信インフラの改善により、安全運航に必要な情報を本船とタイムリーに共有することが可能となります。また、乗組員が家族や友人と連絡を取り合うことが容易になり、職場環境の改善やエンゲージメントの向上にも繋がると考えています。近い将来は乗船されるお客様に船内WiFiサービスを提供することを検討中です。まずは海陸間の通信インフラを改善し、これまで以上に安全・安心で快適なサービスを提供します。
商船三井がMarlinkとともに実施したStarlinkのトライアルにおける、アンテナ設置の様子と、乗組員からのコメントをご紹介しています。
ーーー脱炭素社会に向けた取り組みも注目されています。
牛奥
2023年1月と4月に大阪~別府間で就航した日本初のLNG燃料フェリー「さんふらわあ くれない」「さんふらわあ むらさき」が、公益財団法人日本デザイン振興会(JDP)が主催するグッドデザイン賞2023を受賞しました。同賞を長距離フェリーが受賞するのは33年ぶりとなります。受賞に際し、喫緊の社会課題である環境問題やモーダルシフトに対応した国内初のLNG燃料フェリーを実現したことに加え、100年以上の当社フェリー事業の歴史を船内の仕立てに反映させつつ、QRコードによる情報提供やユニバーサルデザインを取り入れたターミナルなど、時代に即したアップデートを巧みに盛り込んでいる点が高く評価されました。
2025年には、大洗~苫小牧間にも2隻のLNG燃料フェリーが就航する予定です。LNG燃料船の投入により、温室効果ガスである二酸化炭素(CO₂)の排出量は従来と比較して約25%削減できます。将来的には、LNGに代わる新燃料の採用も選択肢として研究、検討を続け、業界に先駆けて積極的に取り組んでいく方針です。
商船三井さんふらわあは、「太陽に守られて、ひとつに」という統合スローガンを掲げ、日本の物流を支え、「絆」「安心」「信頼」を感じられる心地よい船旅を通じて人々の豊かさに貢献し続けていきます。今後とも「さんふらわあ」をご愛顧賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
1986年大阪商船三井船舶(現商船三井)に入社。経理部、MITSUI O.S.K LINES(AMERICA)INC.出向、定航営業部などを担当。MITSUI O.S.K BULK SHIPPING(EUROPE)LTD.出向、自動車船部営業グループの各グループリーダーを経て、2015年から自動車船部長。18年執行役員、21年常務執行役員、製品輸送営業本部長、22年専務執行役員、製品輸送・不動産営業本部、23年顧問に就任。同年10月㈱商船三井さんふらわあ代表取締役社長執行役員に就任。
株式会社商船三井さんふらわあ
代表取締役 社長執行役員
牛奥 博俊
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