2026年03月23日
街を走り、人々の暮らしや産業に不可欠な自動車。
これらの車が国境を越え、遠く離れた場所へと届けられる際、広大な海を舞台に活躍するのが、驚くべき進化を遂げてきた自動車船です。 日本で初めて自動車船を就航させた商船三井は、1965年からこの船の歴史をリード。画期的なRORO方式から多種多様な車両に対応する現代の巨大船まで、常に「運ぶ」の常識を塗り替えてきました。
そして今、商船三井はバイオLNG燃料の導入など、未来のクリーンなサプライチェーンを切り拓く最前線にいます。本ブログでは、自動車船の誕生から革新の歴史、そして環境と両立する未来の物流像まで、その全貌を深掘り。ぜひ最後までお読みいただき、このダイナミックな世界の一端に触れてみてください。
日本の自動車産業が世界的な成長を遂げる中で、製品を海外へ運ぶための「海上輸送」は大きな課題に直面していました。1950年代後半から日本の自動車輸出は本格化しましたが、当時は完成車を在来貨物船にクレーンで1台ずつ積み込む方法が取られていました。この方法では、荷役(積み下ろし)に非常に手間と時間がかかる上、航海中や荷役中に貨物が損傷するリスクが高く、重ね積みができないため輸送効率が非常に悪いものでした。
RORO方式が開発される以前の荷役の様子(出典:商船三井「暮らしと産業をささえるいろいろな船」)
この増大する自動車輸出に対応し、貨物(主に完成車)を安全かつ効率的に輸送するために開発された専用船が、自動車専用船(PCC: Pure Car Carrier)です。商船三井は、1965年に日本で初めて自動車船を就航させました。これが、日本の自動車輸送の歴史における大きな転換点です。この日本初の専用船「追浜丸」は、当時画期的な荷役方法である「ロールオン/ロールオフ(RORO)方式」を導入し、当初は1,200台積みでサービスを開始しました。
自動車輸送に真の革命をもたらしたのが、「ロールオン/ロールオフ(RORO)方式」という、全く新しい発想に基づく荷役方法です。これは、自動車をクレーンで吊り上げるのではなく、船と岸壁を繋ぐランプウェイ(傾斜路)を使って、自動車を自走させて積み降ろしする方法です。この画期的な方式は、荷主と商船三井が共同研究を行った結果、実現しました。RORO方式の導入により、従来の荷役方法と比較して、荷役時間が飛躍的に短縮され、また貨物ダメージが大幅に軽減されるという、大きなメリットが生まれました。
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日本初のRORO方式を採用した「追浜丸」(出典:商船三井「暮らしと産業をささえるいろいろな船」)
商船三井は、自動車輸送の先駆者(パイオニア)として、この効率的で安全な輸送サービスを、現在ではグループ約100隻の運航船隊でグローバルに展開しています。当初1,200台積みで始まった自動車船は、今では一般の乗用車から建設機械まで自走可能なあらゆる貨物を対象に設計され、小型車に換算して7,000台もの自動車を一度に輸送可能な巨大な船へと進化しています。

自走して荷役、効率輸送を実現する駐車場のような船の構造(出典:商船三井「暮らしと産業をささえるいろいろな船」)
自動車船の進化は積載台数の増加にとどまりません。大型バスや建設機械など、多様化する車両を運ぶニーズに応えるため、柔軟性(フレキシビリティ)が追求されています。
2018年に竣工した商船三井の「FLEXIEシリーズ」は、6,800台積みの自動車船で、多様な車両にフレキシブルに対応できることが特徴です。FLEXIEシリーズの船内は14層のデッキ構造を持ち、そのうちの6層が高さ調整可能なリフタブルデッキで高さ5.6mまでの貨物を積載できます。また、ランプウェイの耐貨重は150トンに設定されており、輸送されるほとんどの大型貨物に対応可能です。FLEXIEシリーズは、最新技術により、大量輸送と多種多様な貨物への対応という二つの課題を解決した、現代の物流ニーズに合致した船です。
「FLEXIEシリーズ」一番船 BELUGA ACE(出典:商船三井プレスリリース)
これまで自動車船で物流の常識を塗り替えてきた商船三井ですが、次に挑むのは「地球環境」です。私たちが目指すのは、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ・エミッション」。この壮大な目標達成に向け、新しい挑戦が始まっています。
この目標達成に向けた初期のステップとして、商船三井は「LNG燃料船」の導入を進めてきました。従来の燃料油に比べCO₂排出量を約25%削減できるLNG燃料船。「CERULEAN ACE」はその先駆けとして、新たな海上輸送の姿をいち早く実現し、すでに世界の海を航行しています。
LNG燃料自動車船BLUEシリーズ1番船「CERULEAN ACE」。「BLUE」から着想を得て、スペイン語で青空・空色を意味する”CERULEAN”を冠しました。(出典:商船三井サイト)
CERULEAN ACEは、燃料だけでなく、船舶の構造もより環境への負荷を低減したものになっています。たとえば本船は、風圧抵抗を約20%軽減するエアロダイナミクスデザインを導入しています。船首最上部に傾斜構造を採用することで、航行時の空気抵抗を減らし、燃費性能の向上に貢献しています。
さらに、船幅を従来の32メートルから38メートルに広げることで、積載台数を約6,400台から約7,000台へと増加させました。これにより、輸送効率が大幅に向上し、より多くの車両を一度に運ぶことが可能になっています。

CERULEAN ACEでは、貨物艙内へ カメラとAIシステムを導入し、カメラが捉えた映像をAIが異常と判断した場合、乗組員に警報を発信します。現在、商船三井の自動車船には、火災警報装置(煙検知器)が全船に搭載されていますが、本システムを導入することで、より早い煙検知が可能となります。また、本船および陸上両方から貨物艙の映像を確認できるため、迅速な初期消火作業につながります。

テスト時のAIカメラのモニター画面(出典:商船三井プレスリリース)
さらに、乗組員の働きやすさを考慮し、船内に居室でも職場でもない、憩いの場となる第三の場所「IKOI」を導入しました。長期航海中でもリラックスできる空間を提供し、快適な船内環境を実現しています。
加えて、乗組員の福利厚生を充実させるため、高速かつ低遅延で接続可能な衛星通信サービス「Starlink」を導入しました。これにより、船上でも安定したインターネット環境が整い、家族や仲間とのコミュニケーションがよりスムーズになります。
木目調で落ち着いた船内(左、中央)と本船に設置されている Starlink のアンテナ(右)(出典:商船三井プレスリリース)
2025年3月、邦船社が運航する外航船として初めて、商船三井のLNG燃料自動車船「CELESTE ACE」に対しバイオLNG燃料の供給が実施されました。
バイオLNG燃料は液化バイオメタン(LBM)とも呼ばれており、バイオガスを精製して液化したものです。バイオLNG燃料が注目される3つの理由は次の項目で解説します!
CELESTE ACEは、ベルギーのゼーブルージュ港において、Titan Supply B.V.より約500トンのバイオLNG燃料供給を受けました。
本船CELESTE ACEにLBMを供給する様子(出典:商船三井プレスリリース)
商船三井は、ネットゼロ・エミッションの実現に向け、海上輸送に関わるステークホルダーと共創する取り組みを加速しています。
その一環として、「BLUE ACTION NET-ZERO ALLIANCE」を始動しました。本プログラムでは、代替燃料を使用した低炭素航海の環境属性を証書として取引可能にし、実荷主の皆様のScope3削減に貢献します。証書はBook and Claim(ブックアンドクレーム)方式で取引します。
Book and Claimとは、低炭素燃料等を利用した船舶輸送サービスによるGHG削減価値を登録(Book)し、その割り当てを受けたお客様がその削減価値を主張(Claim)することができる方法です。Book and Claimサービスにより、お客様は取引対象の低炭素航海に物理的に関与しているか否かに関わらず柔軟な取引を行なうことが可能となります。
自動車船においてもBook and Claimサービスを本格始動しています。2025年4月から、アフリカ向け中古車輸送を行う株式会社ビィ・フォアードと覚書を締結し、LNG燃料船を活用した輸送によるGHG削減価値を証書として割り当てる仕組みを導入しました。これにより、お客様は自社の排出削減分としてカウントでき、海上輸送の脱炭素化に貢献します。
商船三井は新造LNG燃料自動車船の投入を進めるとともに、ステークホルダーや社会全体のGHG排出削減に寄与し、2050年までのネットゼロ・エミッション達成を目指します。
また、このサービスの信頼性を担保するため、商船三井は一般財団法人日本海事協会(ClassNK)の審査を受け、Book and Claim方法論の第三者認証を取得しました。ClassNKによる認証は日本の海運業界で初めての事例です。証書の発行も、Class NKによる認証を受けた上で取り進められます。
ClassNKによる妥当性評価声明書授与式(出典:商船三井プレスリリース)
商船三井は、LNG/バイオ燃料の利用促進に加え、アンモニアや水素燃料といった次世代クリーン燃料の導入にも取り組んでいます。
代替燃料やBook and Claim等の取り組みを通じて、商船三井は、輸送の安定性と効率性を追求しながら、環境への配慮を両立させ、パートナー企業の皆様と共に、クリーンなサプライチェーン構築する戦略的パートナーとしての役割を果たしてまいります。
自動車船の奥深い世界、いかがでしたでしょうか?もし『もっと知りたい!』と感じてくださったなら、実際にそのスケールや現場の息遣いを体感できる機会もご用意しています。
たとえば、2025年7月21日(月・祝)に開催された「海の日記念行事2025」では、LNG燃料自動車船「CELESTE ACE」の船内見学会を実施しました。この行事には多くの小中学生・高校生とその家族が参加し、全長約200mの巨大船である本船のブリッジや船員の居住エリアを見学するとともに、現役の航海士・機関士によるトークショーを通じて、日々の暮らしを支える海運業の役割と脱炭素への取り組みを身近に体験しました。
皆さまも機会がありましたら、是非見学会にお越しください!

船内に向かう見学者たちと船倉での車の積み付けデモンストレーションの様子(出典:商船三井プレスリリース)
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