2021年04月16日
日本の自動車輸出は1950年代後半から本格化し、現在は年間400万台以上が輸出されています。増大する自動車輸出に呼応して、貨物(主に完成車)を安全かつ効率的に輸送するために開発された専用船が、自動車専用船(Pure Car Carrier = PCC)です。
乗用車のみならず、トラック、バス、建設機械や農業機械といった背高貨物など、あらゆる自走可能な貨物を対象とし、また牽引貨物はもちろんのこと、トレーラーに載せたり、フォークリフトを使用することで、非自走貨物も積載することが可能です。
自動車専用船が登場する以前、完成車は在来貨物船に1台ずつクレーンで積み揚げされていました。クレーンによる荷役は手間と時間がかかり、荷役中や航海中の揺れによる貨物の損傷も多く、重ね積みができないために輸送効率が悪いものでした。
そこで荷主と商船三井が共同研究を行った結果、自動車を自走させて荷役するロールオン/ロールオフ(RORO)方式という全く新しい発想が実現。1965年10月には、商船三井が日本初となる自動車専用の荷役設備を備えた「追浜丸」(16,155重量トン)を建造しました。
追浜丸はカーデッキを5層設け、自動車を6段積みにすることができました。搭載台数は1,200台。船倉へは1時間に100台のペースで積み込むことができ(従来は1時間に15台程度)、荷役時間を飛躍的に短縮すると同時に、貨物ダメージも大幅に軽減しました。追浜丸は船上クレーンを備え、日本からの往路では自動車を運び、米国から日本への復航では小麦などの穀物を輸送していたので、Car Bulkerと分類されています。
左:追浜丸、右:在来貨物船での荷役風景
日本初のRORO船「追浜丸」の建造からわずか6年後、1971年には自動車専用船「かなだ丸」を建造。積載台数2,000台で、1時間に250台を積み込むことができるようになりました。
自動車専用船「かなだ丸」
現在では小型乗用車に換算して6,800台を積載できるPCTC(Pure Car and Truck Carrier)が主流になっており、自動車船は日々進化し続けています。
自動車専用船の船倉は多層甲板となっており、海に浮ぶ「立体駐車場」といったイメージです。ショアランプを自走して船内に乗り込み、各階層間に設けられたインナーランプを走行して、積み付け場所まで運ばれます。自動車船は、船内のデッキを自動車が走行するため、喫水より上(乾舷)は、船首が方形ないしは半円という独特の外観をしています。
大型船は12 ~ 14層の多層甲板構造を有し、多くの貨物を積載することが可能。また、環境への取り組み及び貨物の特殊性(ダメージ防止対策)を考慮しています。
自動車船の船体構造
乗用車以外の大型トラックや建設機械も積めるように一部のデッキの高さを変えられる構造となっています。1デッキが約30枚のパネルに分割され、リフトカーで操作を行います。
デッキの高さを個別に可変するリフタブルデッキ
多層に分かれたデッキ間を、自動車が移動し積付けするために利用される通路で、斜路角度は10度です。
船内のインナーランプを走行する自動車
岸壁と本船の間を渡す橋で、自動車がこの上を自走して本船に積載、搬出されます。本船の外板の一部になっており、ランプの使用範囲は、国内で最も大きい苅田港の岸壁の高さに対応できるよう設計されています。
ショアランプから積載される自動車
各デッキには自動車を固縛するためのラッシングポイントが設置されています。本船へ積載された車両は動かないように、ラッシングベルトを使用してラッシング(固縛)を行っています。
ラッシングベルトで固縛された自動車
船倉での車両衝突事故や漏電などの不慮の出火に備え、火災の早期発見及び初期消火は非常に重要です。そのため固定式消火設備や持ち運び式消火器を備え火災探知機を設備しています。
2018年3月より、当社船隊に次世代型自動車専用船「FLEXIE」シリーズが加わりました。1番船「BELUGA ACE」に続き最終の4番船まで竣工しています。
FLEXIEシリーズは、建設機械などの高車高の貨物を想定して、リフタブルデッキを2層から6層に増やし、巨大スロープの新設や、船殻構造のバルクヘッド(船内の区画を形作る隔壁)を無くすなど、荷役効率の向上および貨物の損傷低減を実現。そして船首尾形状の見直しや低摩擦塗料の採用によって、CO₂排出量の大幅削減を達成しました。
「FLEXIE」シリーズは、公益財団法人日本デザイン振興会(JDP)が主催するグッドデザイン賞2018を受賞。同賞の海運業界における受賞は9年ぶりであり、同年の海運業界からの受賞は商船三井の「FLEXIEシリーズ」が唯一でした。
「FLEXIE」シリーズはグッドデザイン賞2018を受賞
「FLEXIE」シリーズでは、海上輸送における更なる安全・安心運航の実現へ向け最先端技術を導入。商船三井は日々進化し続けています。
IoT(Internet of Things)技術を活用し、航行中の見張りを高度に進化。AR技術で航海情報をリアルタイムに表示することで危険感知を視覚的にサポートし、さらにレーダー情報や画像認識技術の導入も実施しています。
AR航海情報表示システム画面例
センサーで各機器の不具合を未然に検知し、運航停止などのトラブルが起こる前にメンテナンスを実施。あらゆる問題を発生前に封じ込める、究極の安全対策を実施しています。
「FLEXIE」シリーズは、船型から機関部まで当社の最新省エネ技術を用いて、地球にやさしいECOな船として環境負荷低減に努めています。
こうした取り組みにより輸送車 1 台当たりのCO₂ 排出量を13.7% 低減させることに成功しています(対従来船比)。
商船三井はGHG(温暖化ガス)削減の取り組みの中で、今後の代替燃料船導入に向け、中長期的視点に立って様々な検討を行っています。
MOLグループ自動車船輸送サービスの世界統一ブランド「MOL Auto Carrier Express (MOL ACE)」は、多様化するお客様のニーズに的確に対応する、MOLグループの自動車船輸送サービスの世界統一ブランドです。高品質で “安全” “安心” なサービスを提供することにコミットしながら、グローバルネットワークを駆使したマーケティングを展開しています。
MOL ACEの運航する自動車船は「ACE」を冠した船名で親しまれており、「ACE」という名称には、環境や新技術への「先進性」探求の歴史が刻まれています。MOL ACEは伝統とともに、グローバル市場でのさらなる展開を目指す決意も込められています。
MOL ACEは世界約140カ国に営業拠点ならびに代理店ネットワークを有しており、世界最大級の自動車専用船運航隻数(グループ全体で95隻/2021年3月現在)のオペレーションを世界各地から支えています。日本・アメリカ・ドイツ・タイ・中国の5拠点を中心に、各エリアのMOL ACE営業拠点を管轄しており、スムーズな連携と情報共有を行っています。
完成車、非自走貨物の海上輸送に関してのお悩みは、商船三井にご相談ください。当社海上輸送ネットワークを駆使し、全世界さまざまな地域への輸送をサポートいたします。
記事投稿者:AYU.M
2008年入社。これまで石油タンカーとばら積み船の運航を担当。2017年からはマーケティング部門に所属し、現在、本サイトの運営に携わっています。
当社のLinkedInアカウントの運営も担当していますので、ぜひフォローしてください! 趣味は、韓国アイドルのおっかけです。
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