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脱炭素の切り札?世界中が注目するe-fuelとは

  • 環境負荷低減

2023年10月03日

EU、米国、日本など2050年までにカーボンニュートラル(CN)を目指す国や地域で再生可能エネルギー導入や水素、アンモニアといった新エネルギーの開発が加速しています。 

脱炭素に向けた動きが加速する中、CNを実現するため、世界中で様々な取り組みが進められていますが、その一つに位置付けられているのが合成燃料です。 

e-fuelとは? 

合成燃料とは、二酸化炭素(CO₂)と水素(H₂)を原材料として人工的に生成する燃料のことです。現在一般的に使用されている石油製品と同様に、炭化水素の集合体であるため、ガソリンや灯油など用途に合わせた生成が可能であり、特に再生可能エネルギーによって生成された「グリーン水素」を原料とする合成燃料を「e-fuel」と呼びます。

資源エネ庁 e-fuelとは

合成燃料の製造工程 
出典:資源エネルギー庁

合成燃料を製造する際に必要となるCO₂は、現在は発電所や工場から排出されたものを利用するのが一般的ですが、将来的にはDirect Air Capture(DAC)技術を用いた、大気中のCO₂を直接資源として利用することが想定されています。このようにCO₂をリサイクルすることで燃料使用時の排出を相殺し、ゼロエミッション燃料としてみなすことが出来ます。 

またe-fuelは以下の特性から、自動車を中心に航空機や船舶でのゼロエミッション燃料としての利用が見込まれています。

 ①エネルギー密度が高く、短時間でエネルギー充填が可能
 ②既存のインフラを活用したサプライチェーンの構築が可能
 ③常温常圧で液体であること

e-fuelが抱える課題

上述のように様々な産業での活用が期待されるe-fuelですが、商用化においてはいくつかの課題を抱えており、PwCの報告書によると、①原料調達、②供給量の確保・生産性の向上、③品質担保、④運搬・貯蔵、⑤使用・販売、⑥車両性能への影響、の6つが今後の課題として挙げられています。

①原料調達

経済産業省の試算によれば、e-fuelのコストは原料を海外から輸入する場合は300円/L、全て国内で生産する場合は700円/L程度とされますが、このうち約90%をH₂調達価格が占めるため、e-fuel価格は水素価格に大きく依存することになります。再生可能エネルギー由来の水素でなければe-fuelと定義されないことから、e-fuelの普及は、安定かつ安価な水素生産、供給基盤がカギとなります。
しかし現在のガソリン小売価格(180円/L前後)から、消費税、揮発油税、石油石炭税等の各種税金を除いた本体価格は110円程度であるため、水素価格が現在より大幅に安くなったとしても、既存燃料と比較すれば高価なものとなることは否めません。

②供給量の確保・生産性の向上

e-fuelを大量かつ安定して生産するためには原料の調達に加えて、効率的な生成技術(収率)の改善が求められるため、大規模製造プロセスの実証を早急に実現する必要があります。

③品質担保

既存のガソリン等は「揮発油等の品質の確保等に関する法律」によって品質が規定されているが、e-fuelはまだ策定されていません。市場に大量に流通させるためには同等のルール策定が求められます。

④運搬・貯蔵

e-fuelを運搬・貯蔵する際には既存のガソリンスタンド等のインフラの活用が見込まれますが、その際に従来ガソリン、軽油などとの管理方法の棲み分けに関わるルールの策定が求められます。

⑤使用・販売

当面e-fuelは既存燃料と比較して価格が高くなることが予想される一方、EVの価格は年々安くなっています。こうした状況で、e-fuelを燃料とする自動車や船舶を普及させるには、補助金や税制優遇といったインセンティブ政策の導入が求められます。

⑥車両性能への影響

e-fuelはオクタン価や熱容量が既存燃料と異なるため、運転性能や環境性能への影響を検証する必要があります。

e-fuel 商用化に向けた課題

e-fuel 商用化に向けた課題
出典:PwC”e-fuel(合成燃料)普及の可能性と商用化に向けた支援”

e-fuelに係る国内外の動向

-日本-
日本政府は2040年までにe-fuelの商用化を目指し、グリーンイノベーション基金や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業などを通じて技術開発を後押ししており、2022年度から2030年度の期間に、1200億円規模のプロジェクトとして技術開発の支援を行うことを明らかにしています。
また、日本企業では出光興産ENEOSが海外でe-fuelの製造を行う企業と戦略的パートナーシップを締結し、国内におけるe-fuel製造、普及を目指しています。

-中国-
中国においてもいくつかのe-fuelプロジェクトが進行しているものの規模としては小さく、今のところ、目立った動きは見られていません。

-欧州-
現在進行中の商用規模の主なe-fuelプロジェクトの立地の大半は欧州に集中しています
特に北欧は世界的に見ても再生可能エネルギーの導入比率が高く、2050年のCNに向けて、水素やe-fuel製造に関する積極的な取組み政策を打ち出しています。また、ウクライナ危機によってエネルギー安全保障の議論が高まる中、北欧では、自国での再生可能エネルギー導入に加え、エネルギー輸出産業の構築を目指す動きもあります。

合成燃料に関する海外の技術動向について

実証・商用規模の主な合成燃料海外プロジェクト地域分布
出典:みずほリサーチ&テクノロジーズ”合成燃料に関する海外の技術動向について”

e-fuelの製造には、大量の水素とともに、炭素源となるCO₂の確保も重要であり、北欧各国が連携して技術開発を進めています。北欧の中でも、デンマークはe-fuelに関する具体的国家戦略(The Government’s Strategy for Power-to-X)を打ち出しており、もともと水素と電解技術は、デンマークの企業や、デンマーク工科大学等での伝統的な研究分野であることから、政府はPower to Xにおける商業的な強みを活かしつつ、国内のGHG排出量を削減することと、風力エネルギーと同様に輸出の可能性のある新しい技術分野を支援する方針を打ち出しています。

the government's strategy for power to X denmark

出典:The Government’s Strategy for Power to X

現在、スカンジナビア地域全体で36カ所のグリーン水素施設が稼動しており、2022年から2030年にかけて、さらに64件のプロジェクトが立ち上がる予定と報道されています。この地域における現在のグリーン水素の生産能力は年間1万3000トンで、進行中のプロジェクトに基づくと、2030年までに総生産能力は年間210万トン超に達することとなり、e-fuel向けに供給の拡大が期待できます。

e-fuelの今後

カーボンニュートラルな燃料として、自動車や航空機・船舶などでの使用に多くのメリットを持つe-fuelですが、既存燃料と比較してコストやエネルギー効率等の観点から課題が散見されており、その普及には技術的・経済的支援が求められます。その一方、欧州を中心とする先進国が掲げる再生可能エネルギーの導入拡大において、世界各地に点在する太陽光・風力発電所の電力を効率的に利用するためには、貯蔵や運搬に向かない電気をエネルギーキャリアに変換するPower-to-Xが重要であり、このような観点においてもe-fuelは有力なソリューションとなり得るのではないでしょうか?

脱炭素社会を実現するために、海運業界でもLNGやメタノールなど既存の重油に代わる燃料の実用化が進められています。e-fuelも選択肢の一つと言えるでしょう。世界最大規模の船隊規模を有する商船三井は次世代燃料の開発・導入に積極的に取り組み、輸送時における二酸化炭素排出の削減に貢献してまいります。

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Akihiro.Y

記事投稿者:Akihiro.Y

大学・大学院で環境経済学を専攻。新卒で商船三井に入社後、コーポレートマーケティング部に配属。マクロ経済情報のリサーチや全社の部門・地域横断的なマーケティングを担当しています。週末は釣りや野球観戦に出かけてリフレッシュしています。

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