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CO₂の再利用~環境循環型メタノールストーリー~

  • 環境負荷低減

2022年03月15日

重油と比較してCO2(二酸化炭素)排出量を1015%も削減でき、硫黄酸化物の排出がゼロであることから、環境に優しい燃料として注目を集める「メタノール」。この可能性にいち早く着目し、世界に先駆けてメタノール燃料船を開発・竣工させてきた商船三井が推進する、環境負荷軽減への新たな取組みについてご紹介いたします。

脱炭素社会への切り札となるか?
次世代燃料「メタノール」とは

メタノール、またはメチルアルコールと呼ばれる、特有の臭気を放つ常温で無色透明の液体があります。アルコール飲料や消毒用途に使われるエタノール(エチルアルコール)とは異なり、メタノールはアルコールランプの燃料として使われるほか、合成繊維やプラスチック、接着剤などの化学品の原料として活用されてきました。化学式でいうと「CH3OH」。沸点が65℃で気化しやすく、凝固点は-97.6℃と低く、燃料としては寒冷地でも凍結する心配がないという優れた利点を持っています。

メタノール

脱炭素社会を目指す中で、メタノールや、それを原料とするDMEが温室効果ガス排出量の少ない燃料として中国ではタクシー(メタノール)やトラック(DME:ジメチルエーテル)で利用されていますまた、世界三大カーレースのひとつ「インディ500」においては、レーシングカーの添加燃料として、燃焼速度が速くパワーの向上につながることからメタノールが使われていました。

メタノールタクシー
出典:陝西省.jp


DME燃料 トラック
出典:交通安全環境研究所HP

船舶用燃料にメタノールを活用するメリットとは?

商船三井では、1983年に竣工した甲山丸(初代)を皮切りに、メタノール輸送事業を開始、現在では、世界最大級のメタノール専用船隊を運航し、Methanol Instituteの準会員でもあります。その後、バリューチェーン全体の環境意識の高まりに対応するため、商船三井では、CO₂始めとする温室効果ガスの排出が少ないメタノールを、船舶用の燃料として活用し、重油に代わる新しいクリーンエネルギーとして採り入れることを開始しました。“メタノールを燃料に使用しメタノールを輸送する専用船”として、2016年、世界で初めて「タラナキ・サン(ニュージーランドの富士山とよばれる“タラナキ山”より)」を竣工。20223月現在までに、重油とメタノールで航行可能な「二元燃料船」と呼ばれる輸送船を4隻運航、メタノール燃料による運転時間は25000時間に達し、温暖化ガスの排出量削減を続けています。
メタノール燃料は、重油と比較して硫黄酸化物(SOx(*1) 排出量を最大99%、粒子状物質(PM(*2) 排出量を最大95%、窒素酸化物(NOx(*3) の排出量を最大80%削減します。一方、二酸化炭素(CO2)の削減に関しては、現在のところ約15%減を達成していますが、さらなる抑制を目標として、新たに打ち立てられたのが「商船三井 環境循環型メタノールストーリー」構想です。

 

初代 甲山丸(1983年竣工 初代”甲山丸”)

Capilano Sun最新型メタノール燃料船2021年11月竣工”Capilano Sun“最新型の環境に配慮したメタノール燃料船

(*1) 硫黄酸化物(SOx)
石油や石炭などを燃やすと発生する物質で、ぜん息や酸性雨の原因となります。
(*2) 粒子状物質(PM
マイクロメートル (µm) の大きさの粒子で、排出ガスや石油からの揮発成分が大気中で変質してできたもの。人間の呼吸器系に沈着して健康に影響を与えます。
(*3) 窒素酸化物(NOx
燃料に含まれる窒素化合物や空気中の窒素が高温燃焼時に酸化されることにより発生し、光化学スモッグや酸性雨などの原因となります。

発生したCO2を回収して燃料として再利用する
「商船三井環境循環型メタノールストーリー」構想

上述の通り、メタノールは、重油と比較してSOxPMNOxの排出は大幅に削減できますが、CO₂の削減量がその他温室効果ガスと比べて小さい点が課題です。そこで、当社は、「商船三井環境循環型メタノールストーリー」構想を打ち出し、メタノール燃料船の運航で発生したCO2を「回収」して貯留し、再度燃料として「再利用」する循環サイクルを作り、カーボンニュートラルの達成を目指します。

環境循環型メタノール輸送事業(「環境循環型メタノール輸送事業」概観)

まず、CO2の回収についてご紹介します。メタノールを燃焼させた直後にCO2を直接回収する技術はまだ実用化されていませんが、排出した二酸化炭素量に相当する量を別途回収することによって、排出量を実質ゼロにすることは可能です。商船三井では、CO2を工場や大気中から回収して輸送、貯留、再利用するさまざまな取り組みを行っており、CO₂を液化して輸送する、液化CO2海上輸送事業(ノルウェー:Larvik Shipping社)へ参画したり、国際的なシンクタンクに参画したりすることで、同事業の展開加速を目指しています。

カーボンニュートラルへの取組の一つであるCCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)についてはこちらのブログでもご紹介しています。

次に、CO2の再利用について。メタノールは、CO₂と水素によって作ることができます。水素は清水や海水から作られますが、いずれも熱や電力などのエネルギーが必要で、少なからずCO2を排出してしまいます。そこで注目されているのが、再生可能エネルギーを利用し水素を生成する方法です。太陽光発電や風力・水力発電によって得られた電力を使い、水を電気分解することで水素を作れば、CO2を発生させることなく水素を作ることができます。このような方法で作られた水素は「グリーン水素」と呼ばれますが、これを工場や大気中から回収したCO2と化合すれば、製造時に排出するCO₂を相殺することができます。こうして作られたメタノールは「グリーンメタノール」と呼ばれ、船の燃料として利用するとともに、他モビリティでの燃料やその原料として供給することも可能です。

環境負荷の少ないメタノールを燃料として使用することによって輸送時のCO₂を減らし、さらに輸送時に排出する量に相当するCO₂を回収し、回収したCO₂を使用してグリーンメタノールを生産する。この一連の流れによってCO₂排出量を実質ゼロにするのが、私たちが目指す新しい環境循環型のビジネスモデルなのです。

*特定の化学反応の反応速度を速める物質のことを「触媒」といいますが、メタノールを作るためにはこの「触媒」が使われ、現在では低温・低圧の状態でメタノールを生成することができる新しい触媒が開発され、利用されています。

環境循環型メタノールストーリー
(環境循環型メタノールストーリー)

さまざまな再生可能エネルギーと環境技術を統合して未来をつくる

船の燃料にメタノールを使用する場合、燃焼によるCO2 は、重油の場合と比べて少なくなってもゼロにはなりません。そこで、燃焼した直後に船から排出したCO2 を回収して貯蔵する技術の実用化も目指しています。船上で回収したCO2を活用してグリーン水素と化合し、再度メタノールにすることができれば、理想的な循環型動力機関が近い将来、誕生する可能性もあります。

 また、商船三井では、再生可能エネルギーの分野でも多くのことに取り組んでいます。そのひとつが「波力発電」です。波力発電は本格的な商用化に至っていない海洋再生可能エネルギーのひとつですが、欧米の一部の地域で補助金を活用した実証実験や商用化プロジェクトが始まっています。商船三井でもモーリシャス共和国(インド洋に位置する島国)での波力発電プロジェクトへの貢献や、英国法人Bombora社と日本での波力発電事業の展開を検討するなど、実績を積み重ねています。また、洋上風力事業においては、英国Seajacks社の洋上風力発電設備設置船への出資を始め、その他メンテナンスに必要な船舶の手配や、立地環境調査から、設計、物流、建設、O&Mまで、風力発電に関連する事業に幅広く対応しています。今後も「環境・エミッションフリー」事業を積極的に展開。さまざまな再生可能エネルギーや環境技術に取り組む中で、それらを統合した環境循環型のビジネスモデルを育成してまいります。

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AYU.M

記事投稿者:AYU.M

2008年入社。これまで石油タンカーとばら積み船の運航を担当。2017年からはマーケティング部門に所属し、現在、本サイトの運営に携わっています。
当社のLinkedInアカウントの運営も担当していますので、ぜひフォローしてください! 趣味は、韓国アイドルのおっかけです。

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