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“海賊”の現状とは~5つの疑問~(2026年版:2025年データで更新)

  • 海運全般

2026年06月22日

【海賊】は昔話——そう感じる方も多いかもしれません。しかし現代でも、海上では「海賊」や「船舶に対する武装強盗」が発生しています。ICC International Maritime Bureau(IMB)の集計によれば、2025年に世界で報告された海賊・武装強盗事案は137件。前年から増加しており、単純計算では2~3日に1件の頻度で、どこかの海で事案が起きていることになります。本稿では、「現実世界の海賊とは何か?」を入口に、2025年の最新データを手がかりとして、現代の海賊行為の実態と、航海の現場で求められる備えについて、5つの疑問に沿って整理していきます。 

キーポイント

  •  海賊は過去の存在ではなく、現在も世界各地において2~3日に1回のペースで発生している現実の脅威
  •  海賊行為は発生する海域によって、手口や危険度が異なる
  •  2025年上半期は特にシンガポール海峡で事案が急増し、世界全体の約60%が同海域に集中した
  •  本稿では最新データをもとに、現代の海賊の実態と備えを5つの疑問で整理

【疑問1】現代の海賊、どこに出没?〜昔話のイメージを覆す“ホットスポット”とは

北欧のバイキング、歴史の教科書に登場する倭寇、あるいは映画やアニメの世界。
「海賊」と聞いて思い浮かべるイメージの多くは、過去やフィクションの中にあるのではないでしょうか。
実際、かつては国家の統治が十分に及ばない地域―カリブ海や東アジアの沿岸など―で、海賊行為が横行していた時代がありました。しかし、沿岸国による治安維持や航路管理が進むにつれ、そうした海賊行為は次第に抑え込まれていきます。
日本でも、豊臣秀吉による海賊停止令を契機に、村上水軍など「海賊」と呼ばれた人々は服属を強いられ、組織的な海賊行為は姿を消しました。こうした歴史的背景もあり、海賊は「過去の存在」として語られるようになったのです。

しかし現実には、海賊は完全に消え去ったわけではありません。形を変え、場所を変えながら、現代の海上交通における、現実の脅威として存在し続けています。

ソマリア沖の海賊と小型ボート写真左:自動小銃(手前)とロケットランチャー(後方)を構えるソマリア沖の海賊。ソマリア沖では重火器を使用した海賊行為が特徴。写真右:海賊が船舶への接近・乗り込みに使う小型ボート(出典:日本船主協会)

 

現代の海賊の脅威は、大きく二つのタイプに分けて捉えると理解しやすくなります。
一つは東南アジア、とりわけシンガポール海峡で多発する、夜間の不法乗り込みや窃盗を目的とした事案。
もう一つはアフリカ海域(ギニア湾、アデン湾・ソマリア沖など)で見られる、乗組員の誘拐や人質といった乗組員への被害が重大化しやすい事案です。

 

現代の海賊多発地域_-1
2025年に発生した海賊行為を示したマップ
世界地図を俯瞰すると、一見アフリカ周辺が多く見えるが、シンガポール周辺を拡大すると、同海域がいかに高頻度で事案が発生しているかが分かる。
  • スライド1枚目:現代の海賊多発地域。もちろん上記に限らず、その他、中南米等でも毎年事案が発生している。詳細は次のスライド(出典:日本船主協会

    スライド2枚目:2025年に発生した海賊行為を示したマップ

    スライド3枚目:世界地図を俯瞰すると、一見アフリカ周辺が多く見えるが、シンガポール周辺を拡大すると、同海域がいかに高頻度で事案が発生しているかが分かる

  • (出典:ICC Commercial Crime Services(IMB)

    ※スマートフォンでご覧の方へ:上にスライドが表示されない場合は、ページ下部の「完全な記事を表示」からご確認ください

日本にとってマラッカ・シンガポール海峡は、エネルギー輸送を支える極めて重要なシーレーンです。経済産業省(資源エネルギー庁)の統計では、例えば2025年12月の原油輸入に占める中東の比率は88%とされています。

 

 

【疑問2】現代の海賊は何をしてくる?〜急増海域で目立つ「忍び込み(窃盗目的の不法乗り込み)」と最新データ


2025年に世界で報告された海賊および船舶に対する武装強盗事案は137件で、前年(116件)から増加しました。137件というのは、なんと2〜3日に1回、どこかで発生している計算です。内訳を見ると、「乗り込み」が121件と大半を占めており、ほとんどのケースで実際に船舶への不法侵入が発生しています。
被害の内容も決して軽視できるものではありません。人質46人、誘拐25人、脅迫10人、負傷4人、暴行3人が報告されており、暴力を伴う事案が継続して発生しています。特に銃器の使用が42件と、前年(26件)から大きく増加しており、武装の高度化が進んでいることが分かります。


武器使用のうち、銃器の使用件数が増えていることがよく分かります
武器使用のうち、銃器の使用件数が増えていることがよく分かります。(出典:ICC(IMB)ニュースリリース(2025/1/142026/1/15))

地域別ではアジア海域が最も多く、なかでもシンガポール海峡は80件と急増し、世界全体の海賊・武装強盗被害の約6割が1つの海域に集中することとなりました。夜間や航行中の船舶を狙って小型艇で接近し、はしごやフック等で船尾側から不法に乗り込む「忍び込み型(窃盗目的の不法乗り込み)」が中心で、大型船も標的となっています。一見すると窃盗目的の軽微な事案に見えることもありますが、実際の現場では、刃物や銃器を携行した犯人と遭遇し、乗組員が負傷するケースも報告されています。現場は常に命の危険と隣り合わせなのです。
出典:ICC(IMB)ニュースリリース(2026/1/15

世界全体とシンガポール海峡の推移世界全体とシンガポール海峡の推移(IMB公表値)/出典:ICC(IMB)ニュースリリース(2025/1/142026/1/15

一方、ギニア湾などのアフリカ海域では、件数は抑制傾向にあるものの、誘拐や長期拘束を伴う重大事案が引き続き発生しています。
このように、地域によって手口もリスクの質も大きく異なることが、現代の海賊行為の特徴です。

海賊行為の特徴-1

【疑問3】「海賊」と「武装強盗」は何が違う?〜場所で変わる、海の犯罪の呼び名

ニュースで「海賊」と「船舶に対する武装強盗」という二つの言葉を聞くことがあります。同じような犯罪に聞こえますが、実は「事件が起きた場所」によって呼び名が変わるのです。
呼び名が変わると何が違うのか?
この呼び名の違いは、「誰が、どうやって、どの法律に基づいて対処するか」に関わってくる重要なポイントです。通報先や、事件に対応する国や機関が変わるため、現場ではこの区別が重要になります。

「海賊」とは?

主に「公海など(いずれの国の管轄にも属さない海域)」で発生した、私的目的の暴力や抑留、略奪行為などを指します。これは国連海洋法条約(UNCLOS)という国際的なルールで定義されています。

「船舶に対する武装強盗」とは?

「内水(港を含む)・群島水域・領海」など、沿岸国の管轄下にある海域で発生した、海賊行為に類する暴力や略奪行為などを指します。これはIMO(国際海事機関)という国際機関の定義に基づいて整理されています。

簡単に言えば…船を襲う行為でも、「どこの国の管轄でもない沖合で起これば『海賊』」、「どこかの国の領海や港の近くで起これば『武装強盗』」と呼ぶ、というイメージです。どちらの場合も、船の安全が脅かされることに変わりはありません。重要なのは、不審な兆候を察知したら、速やかに通報し、証拠を保全することです。

インドネシア海軍とシンガポール海軍による海賊対策の合同訓練の様子
 インドネシア海軍とシンガポール海軍による海賊対策の合同訓練の様子(出典:じゃかるた新聞

【疑問4】どう防ぐ?どう守る?〜国際社会と船が取り組む、現代の“海賊対策” 

現代の海賊行為は、一国だけで対処できる問題ではありません。国際社会は力を合わせ、各国政府や海運業界が連携して様々な対策を進めてきました。日本も、海上自衛隊を派遣して船舶の護衛活動を行うなど、国際的な取り組みに積極的に参加しています。

  • ・各国の海軍・沿岸警備隊によるパトロールと護衛:特にソマリア沖・アデン湾では、日本の海上自衛隊を含む多国籍部隊が連携し、海賊行為を大幅に抑制することに成功しています。

    ・情報の共有と連携:国際機関や各国政府は、海賊の発生状況や手口に関する情報をリアルタイムで共有し、注意喚起や対策の立案に役立てています。

    ・また2025年には、海賊行為を含む海上の脅威全般に対応するため、船舶運航におけるベストプラクティスを体系化した「BMP Maritime Security(BMP MS)」が公表されました。これは、航海計画段階から事後対応までを一体で捉える枠組みを示したものです。

また、当社は、海上保安庁や国土交通省などを含む関係機関と連携した訓練などを通じて、平時から連携体制の強化と即応力の向上に取り組んでいます。

巡視船「あきつしま」より見たLNG船「ENERGY ADVANCE」と「ENERGY ADVANCE」から見た「あきつしま」巡視船「あきつしま」より見たLNG船「ENERGY ADVANCE」/ 「ENERGY ADVANCE」より見た「あきつしま」(海上保安庁提供)(出典:商船三井プレスリリース

 

では、もしあなたが船員だったら―?

特に、疑問2でご紹介したシンガポール海峡のような「ホットスポット」では、以下の基本的な対策を徹底することが非常に有効です。これらは、船員が日常的に実施できる、命と財産を守るための重要な行動です。ぜひ、ご自身が実際に船に乗っていると想像しながら、以下の対策を思い描いてみてください。

海賊対策-1出典:IFC「Singapore Strait Recommended Measures

 

インドネシア領海の警備にあたる日本供与の巡視船-1
インドネシア領海の警備にあたる日本供与の巡視船(出典:じゃかるた新聞

【疑問5】万が一、海賊に遭遇したら?〜命と船を守るための「通報」と「初動」

どれだけ対策を講じていても、海賊行為に遭遇してしまう可能性を完全にゼロにすることはできません。実際の現場では、不審船の接近や侵入といった“異変”に、いかに早く気づき、適切に対応できるかが重要になります。

被害を最小限に抑えるため、本船では見張りを強化して不審船を早期に発見し、異常時は速やかに警報を発します。乗組員は犯人との接触を避けて安全な場所に退避し、安全確保後に関係機関へ通報します。また、可能な範囲でCCTV映像や写真などの証拠を記録します。

「船長を孤独にしない」—陸から支える安全運航支援センター(SOSC)

万が一の海賊遭遇時だけでなく、荒天や地政学的リスクなど、船を取り巻くリスクは年々複雑化しています。こうした状況の中、商船三井では2007年に安全運航支援センター(Safety Operation Supporting Center:SOSC)を設立し、世界を航行する自社関係船を24時間365日体制で陸上から支援しています。

SOSCの役割 (1)SOSCが掲げる合言葉は、「船長を孤独にしない」(出典:商船三井サイト

海の上では、天候の急変や不審船の接近など、船長が瞬時の判断を求められる場面が少なくありません。そうしたとき、判断を一人で抱え込むのではなく、陸上にいる仲間と情報を共有しながら対応できる環境を整えることが、SOSCの役割です。
SOSCでは、船長経験者を含む当直者が常時勤務し、気象・海象の変化をはじめ、海賊や船舶に対する武装強盗の発生動向、地震・津波、地政学的リスクなど、運航に影響を与えうる情報を幅広く確認しています。
世界各地を航行する船舶の動静はシステム上で一元的に把握され、リスクの兆しが見られる場合には、本船および関係者に対して、速やかな注意喚起が行われます。特に海賊リスクが高い海域では、最新情報をもとにした継続的なモニタリングを通じて、事案の兆しや発生をいち早く捉え、影響を受け得る船舶を迅速に把握したうえで、初動対応に向けた情報共有を行う体制を重視しています。
また、2023年には設備面も強化され、平時・緊急時を問わず、関係者が同じ情報を見ながら連携できる体制が整えられました。

SOSC全景SOSCは、陸と海をつなぐ「もう一つのブリッジ」として、世界の船舶の安全運航を支え続けています

さいごに

このように、海賊行為は形や手口を変えながら、現在でも一部の海域で発生し続けています。アジアの海域を多く利用する日本にとって、これは決して遠い世界の話ではありません。私たちの暮らしを支える物流の多くは、海上輸送によって成り立っています。海の安全は、専門家だけのテーマではなく、私たち一人ひとりが関心を持つべき現代的な課題です。
本稿が、現代の海賊行為の実情と、海の安全について考えるきっかけとなれば幸いです。

 

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