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左側のドアから飛行機に搭乗するのはなぜ?

  • 海運全般

2022年01月28日

空港で飛行機に搭乗するときのことを思い出してください。ボーディングブリッジを使って搭乗するときも、タラップを使って搭乗するときも、飛行機には決まって機体の左側のドアから搭乗しているはずです。
機内の非常用設備として離陸前に案内されるとおり、ドアは飛行機の右側にも設置されていますが、乗客の乗降には決まって左側のドアが使用されます。
なぜ飛行機に搭乗するときは左側のドアなのか?その理由は飛行機ではなく船の歴史にあるのです。

ポートサイドとスターボードサイド

船の世界では、船の左側を「ポートサイド(port side)」、右側を「スターボードサイド(starboard side)」と呼びます。ポートサイドは文字どおり「港側」ですが、スターボードサイドは「舵側」を意味する「ステアリングボードサイド(steering board side)」が訛ったものです。
現代の船は舵が船体の最後尾に設置されていますが、中世の船(ヴァイキング船)は舵が船体の右側後方に設置されていました。舵が右側に設置された理由は定かではありませんが、一説には右利きの人が多いからではないかとされています。船体の右側に舵があれば、右利きの人が利き手を使って舵を操作出来るからです。
船体の右側に舵が設置されると、港で人の乗降や貨物の積み揚げを行うときは、舵を破損しないよう、船体の左側を着岸させることになります。これが船の世界では、左側をポートサイド、右側をスターボードサイドと呼ぶようになった理由です。

オーセベリ船舵角指示器

写真左: オスロのヴァイキング船博物館に展示されているオーセベリ船(西暦800年頃)
船体の右側後方に舵が設置されている 出典:Wikipedia

写真右: 現代の船に装備されている舵角指示器
左側に「ポート」、右側に「スターボード」が表示されている 出典:商船三井

飛行機も左側はポートサイド

このようにして船の世界では左側がポートサイドとなり、古くから人の乗降には船体の左側が使用されてきましたが、20世紀に入って飛行機が発達すると、飛行機も船に倣って、機体の左側から人の乗降が行われるようになります。
やがてボーディングブリッジをはじめとする多くの空港設備が、この習慣をもとにして設計されるようになり、飛行機も船と同様に左側がポートサイドとなったのです。現在では、ごく一部の例外を除き、ほぼ全ての空港で、乗客の乗降には左側のドアが使用されるようになっています。
一般的に飛行機の運航では、左側のドアを使って乗客の乗降を行い、右側のドアを使って機内食や飲料の搬入、ごみの搬出などの整備作業を行っています。したがって、航空業界では、左側のドアを「パッセンジャーエントリードア(乗降用ドア)」、右側のドアを「サービスドア(業務用ドア)」と呼んでいます。

成田空港

写真: 成田空港。全てのボーディングブリッジが機体の左側のドアに接続されています
出典:Wikipedia

船も飛行機も「左に赤」「右に緑」の航行灯

乗客の乗降だけでなく、飛行機には船の決まり事が多く取り入れられています。飛行機を見ると、左の主翼の先端に赤いランプ、右の主翼の先端に緑のランプが設置されていますが、これも、船体の左側に赤い航海灯、右側に緑の航海灯の設置が義務付けられている、船の規則に倣ったものです。
左に赤、右に緑の航海灯は船の進行方向を把握するために必要な装備で、自船の正面に赤い灯火が見えた場合、相手船は左に向かって航行していることになります。逆に、自船から緑の灯火が見えれば、相手船は右に向かって航行しています。もし両船に衝突の危険があるときは、赤い灯火(赤信号)を見る船が回避行動を取る必要があると定められています。
また、自船から、左側に緑、右側に赤の灯火が見えれば、相手船はこちらに向かっており、両船に衝突の危険があるときは、それぞれの船が右側に回避する必要があります。
このような海上交通の規則が飛行機にも導入され、飛行機でも左側に赤い灯火、右側に緑の灯火の設置が義務付けられ、船と同様に衝突の危険があるときは、赤信号を見る側が回避行動を取ることが定められました。

  赤い航海灯緑の航海灯飛行機の航行灯

他にもある船と飛行機の共通点

これらの他にも、飛行機には船に由来する言葉や習慣がたくさんあります。
機長を「キャプテン」と呼ぶこと、機長は4本線の階級章(肩章や袖章)を付けること、客室を「キャビン」と呼ぶこと、乗務員を「クルー」と呼ぶこと等、すべて船の決まり事が飛行機に持ち込まれたものです。
そもそも「空港」は空の「港」ですし、航空業界では飛行機のことを「エアクラフト」や「エアプレーン」ではなく「シップ」と呼ぶ習慣があり、飛行機の機体番号は「シップナンバー」、使用する機材の変更も「エアクラフトチェンジ」ではなく「シップチェンジ」と呼ばれます。
飛行機の航法にも船の航海技術が導入され、航行距離は「キロメートル」ではなく「ノーティカルマイル(海里)」、航行速度もマイルを基準にした「ノット」が使用されています。また、現在のように慣性航法システムや、人工衛星や無線標識による電波航法が発達していなかった時代には、陸地の見えない外洋を航行する船の航海技術が、大陸間を横断する飛行機でも利用されていました。

海上職の階級章

海上職の階級章1

海上職の階級章2

* 飛行機の場合、機長は4本線、ファーストオフィサー(副操縦士)は3本線の階級章を付ける。

 

今回は飛行機に左側のドアから搭乗する理由等、意外に多い、船と飛行機の共通点についてご紹介しました。ちなみに、現代の船は舵が船体最後尾の中央に設置されているため、ポートサイドを着岸させなければならない理由はなくなっています。実際、船の運航の現場では港や岸壁の状況によって、スターボードサイドを着岸させることも全く珍しくありません。
現在では、船より飛行機のほうが忠実にポートサイドを守って運航されているようです。

にっぽん丸

写真: スターボードサイドを着岸させる客船「にっぽん丸」
2020年9月にオープンした「東京国際クルーズターミナル」の初入港船となった
https://www.nipponmaru.jp/
 出典:商船三井客船


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TAKAHIRO.M

記事投稿者:TAKAHIRO.M

1991年入社。前世紀には鉄鉱石・石炭等のドライバルク輸送、今世紀に入ってからは原油・石油製品を輸送するタンカー部門、当社運航船向けの燃料調達業務を経験し、現在はマーケットリサーチに携わる50代男性。お腹周りの脂肪が目立つのは油っぽい業務を長く担当したせいか。。。

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