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最新の船も帆を備える時代が来る (後編) ~Wind Challengerが示す「大型商船ゼロエミッションへの道」

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  • 海運全般

2024年04月09日

過去2回に渡り、Wind Challenger開発の背景・課題、そして関連技術についてご紹介してきました本シリーズブログも、今回で最終回となります。我々商船三井がWind Challengerを通してどんな未来を描いているのか、どうぞ最後までお楽しみください。

過去のシリーズブログはこちら→
前編 (硬翼帆の特性等)

中編 (開発の背景・乗り越えた課題、関連技術等)

技術バリエーションを揃えて海運業者として競争力を発揮する


2隻目は、より小型のWind Challengerの実用化をめざす

商船三井は、『環境ビジョン2.2』において、Wind Challengerを装備した船を2030年までに25隻、2035年までに80隻に増やすという目標を設定している。また世界の造船業界では、風力を利用したさまざまな船のコンセプトが提案されている。Wind Challengerのような硬翼帆の他に、「カイト(凧)方式」「ローターセイル方式」「軟帆方式」等々。つまり、風力を活用した補助推進装置に関する技術の優劣が、海運会社の競争力を左右するという認識が当たり前のものになっているのだ。

そうした中、商船三井は、いち早く松風丸の実用化にこぎ着けた。これ自体が、一歩、先手を打ったことになる。Wind Challengerを機構技術として評価した場合、先にも紹介したように革新技術と既存技術が絶妙に絡み合い、信頼性と安定性を生み出していること、さらに「台座の回転ギア部にしろ、伸縮する帆の支柱にしろ、外界に暴露している可動部分が少ないので、潮や風などに曝される、航海時の厳しい環境にも耐えられる」(水本)ことも大きい。

実は“バリエーション競争”もすでに始まっている。Wind Challengerを搭載した2隻目の船がすでに着工しており、2024年6月の竣工を予定しているが、こちらは6万4000トン積みのばら積み船で松風丸よりは小型だ。そのため搭載されるWind Challengerも最長展開時で高さ38メートル、幅11メートルという、いわば小型版になる。さらにFRP採用を拡張し、伸縮の駆動機構も油圧式から電動式へ転換する。つまり、より軽い商用モデルのWind Challengerが準備されているのである。

画像1-Apr-03-2024-07-10-57-9822-AMより小型・軽量化したWind Challengerを搭載する2号船のイメージ

                     

新エネルギーエンジンでも、帆の補助を受けるのが当たり前になる

「そもそもWind Challengerは、一つの船に複数設置して効率性を高めるという前提で研究がなされてきました。長さが300メートルクラスのタンカーならば4本設置可能ではないかと検討しています。さらに大型・小型の2サイズを用意し、まずはMOLのWind Challenger搭載を検討して頂けるようになればと思います。」(若林)。

それが商船三井の願いであり、2050年ゼロエミッション達成と輸送競争力の確保を両立させる道だ。

画像2-1                                               Wind Challengerを複数本搭載した船のイメージ

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もちろん技術競争は熾烈で、GHGを排出しない水素エンジンの開発なども進む。しかしWind Challengerのプロジェクトを見守ってきた水本は、「新燃料や新燃料を使うエンジンは確かに魅力的です。しかし一方で、産業技術として定着するまでには時間を要すると考えられ、また、新燃料は重油に比べ圧倒的に高価なのでコスト負担が増すという事態を避けられません。また海運だから世界のどこでも手に入る燃料でなければなりません。だからこそ、無尽蔵で無料の風を利用した帆がアシストする魅力は増すばかりなのです。しかも私たちはWind Challengerに関する膨大なデータを収集しており、これは絶対に未来の開発に生かせるものです」と語る。

冒頭 (ブログシリーズ前編) 、「帆のある船が当たり前になって欲しい」と語った言葉には、きちんとした根拠があったのだ。

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