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カーボンニュートラル時代に期待されるCCUSとは(前編)

  • 環境負荷低減

2021年11月15日

地球温暖化の原因といわれるCO₂の排出量の削減は、今やグローバルな課題になっています。カーボンニュートラルに向けて世界では様々な取組が行われています。その中でもひときわ脚光を浴びているのが、CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)です。本ブログでは前後編に分け、前編ではCCUSに関して知っておきたい事を5つの点にまとめご紹介します。

大気中のCO₂ 濃度が昨年度も記録更新  

人間活動によって排出されるCO₂の約半分は大気中に残存し、残りは海洋と陸上の生態系に吸収されています。大気中に残留するCO₂の割合は、AF(Airborne Fraction) と呼ばれ、発生源と吸収源のバランスを示す重要な指標とされています。

AFは年によって大きく異なります。過去60年間の年平均は20%から80%の間で変動していますが、約60年間の長期の平均AF値42%に顕著な傾向はありません。これは、人間活動によって排出されるCO₂の42%しか大気中に残っていないことを意味しており、陸域と海洋のCO₂吸収量は、排出量に比例して増加し続けていることを示しています。
しかし、CO₂の吸収過程は気候と土地利用の変化に敏感であり、続的な気候変動によって引き起こされる干ばつや山火事の増加によって、陸域生態系によるCO₂の吸収量が減少する可能性があります。
また、海面水温の上昇、CO₂の吸収によるpHの低下 、海氷の融解が増加し海洋循環が弱まることによって、
海洋での吸収も減少する可能性があります。つまり、今後異常気象の増加によってはAFが急激に変化し、地球温暖化が加速するかもしれません。AFの変化は、パリ協定の目標、すなわち、地球温暖化を2°Cを大幅に下回る度に制限するという目標を達成する上で大きな意味を持っています。



WMO(世界気象機関)の報告によりますと、温室効果ガスの量は、2011年から2020年の平均を上回る年間増加率で、昨年再び新記録に達しました。
この傾向は2021年も続いています。また、コロナ明けの経済活動の再開・回復に伴い、世界のエネルギー需要拡大及びCO₂の排出量増加が予想されています。
(参考資料:WMOの温室効果ガス速報)

Global Energy Review 2021 CO2 emissions

世界のGDP、一次エネルギー総需要、エネルギー関連のCO₂排出量の推移(2019年比) 
(出典:Global Energy Review 2021)

2021年11月10日現在、COP26 (国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が英国グラスゴーにおいて開催されています。2015年に締結されたパリ協定では、長期的な目標として”世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする”を掲げていますが、温室効果ガス(GHG)は出量は増加を続けています。

COP26では世界各国へ2030年のGHG排出量削減の野心的な目標を設定するように呼び掛けています。地球の気温上昇を1.5℃に抑えるために、石炭利用の段階的廃止や電気自動車への切替の加速、森林破壊の抑制、メタン排出量の削減等を実現するための行動が必要とされています。

地球温暖化の原因となっている二酸化炭素などGHG排出量をどれだけ減らせるかが、根本的なカギとなっています。

具体的にはどのようにCO2を削減していくのか?

日本政府は、2020年10月「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする=2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言。さらに、2021年4月には「2030年度において、温室効果ガスの2013年度からの46%削減を目指すことを宣言するとともに、50%の高みに向け、挑戦を続けていく」決意を表明しました。

この削減目標に向けて、再エネやオール電化の普及・省エネなどで、温室効果ガスの排出そのものを減らしつつ、植林などすでに排出した分を森林などに吸収・除去したりすること、また、製鉄所・発電所・工場での様々な排出削減への取り組みがなされていますが、その中でもCCS/CCUSが注目されています。

省エネ_植林

CO₂排出抑制に期待 注目されるCCS/CCUSとは…

石油や石炭など「化石燃料」をエネルギーとして使う火力発電では、CO₂が多く排出されてしまいます。地球温暖化の原因のひとつとなるといわれるCO₂。前述の通りその削減世界的にも重要な課題となっています。とはいえ、天候に左右され比較的安価ですぐに発電できる火力発電は、エネルギーの安定的な供給をおこなうため必要な電源です。そこで、火力発電のCO₂排出量をおさえる(低炭素化)ため、さまざまな取り組みがなされています。

その取組のひとつがCCS(Carbon Capture and Storage)です。これは、排出された気体からCO₂を分離・回収し、地中深く貯留・圧入するというものです。

CCSの流れ

CCUSの流れ 出典:環境省HP

また、CCSの概念に”利用する(Utilization)”ことを追加したアイデアである、CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)も同時に注目されています。

CCUSの仕組みは、大きく以下の4つのステップに分けられます。各ステップの詳細は後編にてご紹介いたしますが、簡単な概要は以下の通りです。

1、様々な工場やプラントで発生する排ガスに含まれるCO₂を分離回収
2、パイプライン、タンクローリー、船舶、鉄道などで輸送
3、輸送したCO₂を地中か海底の地層、もしくは古い油田に圧入し永久的に貯留(CCS)
4、古い油田にCO₂を圧入することで油田の活性化を促進、またはCO₂を原料として再利用(CCUS)

CCS/CCUS理解する上で知っておきたいCO2の性質

CO₂は、においや色がなく、不燃性で、地上の大気圧(0.1013MPa)の下では、気体として存在しています。この気体に、圧力をかけると液体になりますが、普通の圧力のまま、マイナス78.5℃まで冷やすと液体にはならずに、白い固体、ドライアイスになります。このドライアイスを大気中に置いておくとすぐに気体のCO₂にもどります。
このように、気体から直接固体になったり、固体から気体になったりすることを、昇華といいますが、CO₂は大気中では昇華して、液体にはならないのが特徴です。

少し専門的にまとめると、CO₂には以下の性質があります。

1. 大気圧(0.1013MPa)では液体のCO₂は存在しない。

2. 気体のCO₂を圧縮及び冷却すると液化する。ただし、31.1℃を超えるといくら圧力を上げて圧縮しても液化しない。この温度を臨界温度といいます。また31.1℃で液化を始める圧力は7.382MPaで、この圧力を臨界圧力といいます。
3. 液化したCO₂を更に冷却すると、マイナス56.6℃及び0.518MPaで固体(ドライアイス)となる。

4. 気体、液体、固体の三つの状態が同時に存在する点を三重点と言うが、CO₂はマイナス56.6℃及び0.518MPaで三重点となる。ドライアイスは三重点より低い圧力下では、液化することなく昇華して気体となる。圧力0.518MPa以下では液体は存在しない。

5. 無色、無臭で、不燃性、水に溶け込むと弱酸性となり、金属を腐食する。液体は無色透明、固体(ドライアイス)は半透明乳白色。

6. 液化CO₂の密度は1.030kg/L(マイナス20℃及び1.967MPa)。 
液化プロパン0.582kg/L、LNG密度0.46kg/Lと比較すると倍ほど重い。

7.船舶で海上輸送するには、液化して体積を1/550にした方が効率が良い。

資源エネ庁 CO2出典:資源エネルギー庁

船舶で海上輸送にするには…

CO₂を効率的に荷役して大量に輸送するには、液体輸送が最適です。液化CO₂の船による輸送はヨーロッパですでに小規模に実施されていて、食品・飲料向けのCO₂を排出源から沿岸の輸送拠点まで輸送しています。
現在は、中温・中圧条件(15-18bar、マイナス25℃)にてすべて輸送されており更なる低温・低圧条件や、常温で輸送できる高圧条件での輸送はまだ実績がありません。
その理由としては液化CO₂を輸送するためのタンクが挙げられます。CO₂を液化するのに高圧負荷がかかるので、圧力を許容できる肉厚の鉄板タンクが必要になります。高温・高圧ではかなりの肉厚となり、タンクが重くなってしまい輸送量に制限を受けるというデメリットがあります。

一方、低温・低圧条件では、薄い肉厚鉄板でタンクを製造できるので、船の大型化が可能となるのですが、CO₂が固体・液体・気体に変化しやすい三重点に温度・圧力が近づくので、輸送途中、特に荷役時にドライアイスが発生するなどのトラブルが起こるリスクが高まります。
上記理由から現在稼働中のものは中温・中圧のものが中心となっています。

当社は2021年3月、食料・飲料向けの液化CO₂輸送船を欧州で30年以上管理するノルウェー・Larvik Shipping社の株式25%を取得し、液化CO₂海上輸送事業に本格参入しました。同社の持つ液化CO₂輸送ノウハウと、当社がこれ迄培ってきた安全運航の知見を合わせ、顧客ニーズに合った液化CO₂輸送を実現させたいと考えています。

関連プレスリリースはこちら

前編では、問題視されているCO₂の温暖化への影響、CO₂の性質や海上輸送についてご紹介しました。後編では低炭素化への画期的な取り組みである”CCUS”の課題や欧州の取り組みの現状、カーボンリサイクルについて触れていきます。

当社のCCS/CCUS事業への取り組みについて纏めておりますので、ぜひ以下リンクよりご覧ください。

CCUS事業
サービス概要

MOL CCUS事業の取り組み

商船三井が行っているCCUS事業の様々な取組をダウンロードできます。
CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)事業バリューチェーンの上流・下流への事業参画と展開加速を目指し、低・脱炭素社会の実現に貢献します。

ダウンロードはこちら

環境ビジョン2.2 実現へ向けた取り組み事例

商船三井グループ環境ビジョン2.2(日)

商船三井グループが行っている環境負荷低減に向けた様々な取組をダウンロードできます。

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AYU.M

記事投稿者:AYU.M

2008年入社。これまで石油タンカーとばら積み船の運航を担当。2017年からはマーケティング部門に所属し、現在、本サイトの運営に携わっています。
当社のLinkedInアカウントの運営も担当していますので、ぜひフォローしてください! 趣味は、韓国アイドルのおっかけです。

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