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カーボンニュートラル時代に期待されるCCUSとは(後編)

  • 環境負荷低減

2021年12月21日

カーボンニュートラルに向けて世界では様々な取組が行われています。本ブログではその中の一つであるCCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)について、前後編に分けてご紹介しております。

後編では、世界のCCUSの現状や、話題のカーボンリサイクル、当社の参画事業でもあるCO₂の海上輸送について見ていきます。

前編はこちら

世界のCCUSの現状     

Global CCS institute(GCCSI)によりますと、2021年9月時点、全世界で135件のCCUSプロジェクトが存在しており、その内の27件が既に稼働しています。特に、2021年は最初の9ヶ月間だけでも、71の新規プロジェクトが立ち上がりました。地域別で見ると、アメリカで36、イギリスで8つ、オランダで5つ、ベルギーで4つ、のプロジェクトが立ち上がっています。

 

global CCUS map

GLOBAL CCS FACILITIES

新規CCUSプロジェクトが開発されていく中で、例えば、シェル社が主導するロッテルダム水素プロジェクトでは、百万トンクラスのCCS設備の開発が予定されています。一方で、先日ノルウェー政府による資金援助の承認を受けたNorcem Brevikプロジェクトでは、セメント製造過程という新たな分野でのCCSに挑戦することになっています。

北米・欧州で多くのプロジェクトが先行している中、東アジアや中東でもプロジェクト数は増加傾向にあり、今後の発展に益々期待がかかります。では、各地域の状況をみていきましょう。

ccs project by sector and scale

CCS PROJECTS BY SECTOR AND SCALE (BY CO2 CAPTURE CAPACITY) OVER TIME
出典:GCCSI "Global Status of CCS 2021"

①ヨーロッパ
EUは2050年までに気候中立を実現するという「欧州グリーン・ディール」を発表し、達成へのステップとして2030年までに温室効果ガスの排出レベルを1990年の水準から55%を削減することを、パリ協定下で公約しています。その長期的な気候目標を達成するためのGHG削減政策として、CCSへの認識は高まっており、欧州では現在35件のプロジェクトが開発段階にあります。新規プロジェクトの開発を促進する要因として、ビジネスモデルの進化と公的補助が充実していることがあげられます。

以前のCCSプロジェクトは排出施設あたりのコストが高く、回収/輸送/貯留の責任をパート毎の担当企業でそれぞれ負担するプロジェクトスキームであったため、プロジェクトへの投資インセンティブが低いことが問題視されていました。新規のプロジェクトは産業界で連携したCO2クラスター(*)を形成することで相当量のCO2を確保し、回収~貯留のインフラにかかるリスクを第三者含む関係者全員で共有することを視野に入れたビジネスモデルへと進化しています。
公的補助の面では、EUがEUイノベーション基金(EU Innovation Fund)を公募することを発表し、2021年11月に7件の低炭素・脱炭素プロジェクトが採択され、合計11億ユーロの資金が提供されることとなりました。7件のうち4件がCCSの規模拡張を対象としたプロジェクトとなっています。EUは2030年までの期間に合計250億ユーロを割り当てることを発表しており、多くのプロジェクトがEUイノベーション基金への採択を目指し、CCSプロジェクト実現に向けた動きが今後さらに加速することが予想されます。
上記2つの要因が相まって、これまでヨーロッパにおいてCCSを先導してきたノルウェーやオランダ、イギリスの後を追うように、2020年にはイタリア、デンマーク、スウェーデン、ウェールズといった国や地域でも新しいCCSプロジェクトが立ち上がっています。new biz model CCUS project in EU

出典:IOGP "Scaling up CCS in EUROPE"

(*)欧州における潜在的なCO2クラスターは、ティースサイド(イギリス)、ロッテルダム(オランダ)、アントワープ(ベルギー)、コペンハーゲン(デンマーク)、ダンケルク(フランス)等が挙げられます。

 

②アメリカ
北米ではすでに世界最大規模を誇る約5,150マイル(8,300キロメートル)のCO₂パイプラインが設置されています。CO₂パイプラインの大半は、テキサス州西部にあるパーミアン盆地の油田周辺に集中しています。そこでは「CO2-EOR」と呼ばれる、CO2を油田に注入することで油田の生産性を高める技術が利用されており、すでにCCUSが行われていると言えるでしょう。更に加速するかのように、2020年夏以降、新たに40以上のCCSネットワークとプロジェクトが発表されています。多くの新規プロジェクトが立ち上がった背景には、アメリカがパリ協定へ正式に復帰し気候変動政策が強化されたことや、CO2の回収・分離に対する税控除改革「45Q」が拡張したことが挙げられます。このような政策的な要因と共に脱炭素化の課題に対する全世界的な認識が高まったことよって、CCSへの投資が刺激されたと考えられます。一方、アメリカ・テキサス州の石炭火力発電所から回収されたCO2をCO2-EORへ活用する、2016年当時世界最大のCCSプロジェクトであった「Petra Novaプロジェクト」は、原油価格の下落により、2020年5月に操業を停止しました。CCSを事業化させるためには、経済性と一定の排出量の確保という双方の課題を解決する必要があるため、既存の発電所や工場をコスト競争力のある方法で改修し、投資を回収しながら稼働させることが重要です。
(参考:Financial Times, GCCSI "GLOBAL STATUS OF CCS 2020 及び2021”

 

アジア・大洋州
商業用CCS設備への投資は、欧州やアメリカと比較すると劣勢ですが、インドネシアとマレーシアにおいて最初の商業用CCSプロジェクトが発表されるなど、この1年間で前向きな進展がありました。また、経済面での制度も整備されつつあります。オーストラリアでは、政府が排出削減基金(Emission Reduction Fund / ERF)に新たにCCSを追加することを決定し、アジア太平洋地域で初のCCS向けの金融インセンティブ制度が導入されました。また、中国では2,225の発電所を対象とする排出量取引制度が開始され、これにより合計年間40億トン以上の二酸化炭素が取引されることになります。

日本も「アジアCCUSネットワーク」(*)の発足において主導的な役割を果たし、今後もアジアのCCUS市場において日本の研究機関や企業がプレゼンスを発揮することが期待されています。
(*)2020年11月に開催された「東アジアサミット(EAS)」エネルギー大臣会合において、日本からの発案で、地域全域でのCCUS活用に向けた環境整備や知見共有を目的に「アジアCCUSネットワーク」が構築されました。

アジアのCO2貯留ポテンシャル

アジアのCO2貯留ポテンシャル (単位は10億トンCO2)出典:Global CCS Institute

日本は1400億トンですが、その後の調査で約1500~2400億トンのCO₂貯留ポテンシャルがあるとの見方もあります。

カーボンリサイクルとは?

一般的なCO₂の利用先としては、ドライアイスや溶接などに直接利用する方法があります。液化CO₂(ドライアイスも含む)の日本国内工場出荷量(JIMGA統計)は、2020年度(2020年4月~2021年3月)で675千トン、内、ドライアイスが約288千トン強を占め、下図に示すような用途で使用されています。

2020年度 液化炭酸ガス 用途別シェア
データソース:JIMGA統計 作成:商船三井

最も多いのが工業用途、造船・橋・高層建築物を溶接する際に「炭酸ガスアーク溶接」として利用されています。その他炭酸飲料、冷却用ドライアイスとしても利用されています。ドライアイスはペレット状にすることでタービンなどの構造物に噴射し錆などを取り除く(ショットブラストとよばれます)、清掃目的でも使用されることがあります。液化炭酸ガスはその他イチゴの促成栽培など、植物の成長を加速させる肥料としての一面もあります。

しかし、こうした方法だけでは回収された後に利用されるCO2の量は限られてしまうことから、CO₂の利用をさらに促進するべくさまざまな取り組みがなされています。

たとえばアイスランドでは、地熱発電で出るCO₂と水を電気分解して作った水素を使い、メタノールを年間4千トン生産する技術や、ノルウェーでは回収したCO2から炭素を分離し、新素材のカーボンナノチューブなどを生産する技術が開発されています。
日本国内においても、資源エネルギー庁よりロードマップが公表され、CO2の再利用に関するイノベーションの加速を試みています。

資源エネ庁ロードマップ

資源エネ庁ロードマップ

カーボンリサイクル先しては化学品、燃料、鉱物と大きく3つに分けられます。加工性・衝撃性に優れiPhoneの本体にも用いられているポリカーボネート、更にはバイオ燃料やコンクリート製品やコンクリート建造物の製造過程で使用する資源へのリサイクルが挙げられます。

CO2海上輸送者⇒CCUS事業者を目指して…

当社は2021年3月、30年以上にわたり液化CO2輸送を行っているノルウェー・Larvik Shipping社(LS社)への出資、液化CO2海上輸送事業に参画しました。当社がこれまで培ってきた安全運航の知見とLS社のノウハウ及び今回の共同研究から得られる知見を合わせ、一つ一つのCCS、CCUSプロジェクトに最適な海上CO2輸送を提供できるよう取り組みます。CCUS事業バリューチェーンの上流・下流への事業拡大を目指します。

またCO₂の海上輸送部分だけではCO2排出削減の解決にはならないとの認識の下、CO2分離・回収からCO2の貯留、その先の有効活用やカーボンリサイクルまで一貫して委託したいという顧客ニーズに対応できるよう、当社は各種パートナー企業との協働による事業構築・拡大を進めて参ります。

MOL CCUS事業の取り組みCTA

AYU.M

記事投稿者:AYU.M

2008年入社。これまで石油タンカーとばら積み船の運航を担当。2017年からはマーケティング部門に所属し、現在、本サイトの運営に携わっています。
当社のLinkedInアカウントの運営も担当していますので、ぜひフォローしてください! 趣味は、韓国アイドルのおっかけです。

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