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世界のチョークポイント (海上交通の要衝) ~パナマ運河編~

  • 海運全般

2024年02月27日

現在のグローバル化したサプライチェーンを維持するには、世界中のあらゆる貨物が滞りなく輸送され続けることが必要です。しかし近年は、日々刻々と変化する世界情勢、年々深刻化する異常気象や気候変動が、世界の海上貨物輸送に対する脅威として注目されることが多くなりました。特にチョークポイント(海上交通の要衝)における貨物輸送の分断や停滞は直ちにサプライチェーンの混乱を引き起こし、世界経済に大きな影響を与えるものとなります。

今回のブログでは、太平洋と大西洋を結ぶチョークポイントであり、年間延べ14,000隻の船が行き交う「パナマ運河」をご紹介しましょう

チョークポイントとは?
チョークポイント(choke point)とは地政学における概念のひとつで、相手方をチョーク(choke: 喉を詰まらせる)して、自らが海上での覇権を得るために必要な場所(point)を指します。具体的には船の航路が一点に集中する場所のことで、海上交通の要衝という意味になります。

パナマ運河の建設

大航海時代を代表する探検家であるコロンブスは 1492 年に現在のアメリカ大陸に達しました。その約20 年後、スペインの探検家であるバルボアは 1513 年、先住民の案内で大西洋と太平洋を隔てる細長い陸地(パナマ地峡)を横断し、ヨーロッパ人としてはじめて太平洋に達します。

パナマ運河建設の様子それ以降、太平洋と大西洋を結ぶ運河の建設が繰り返し検討されるようになり、実際 1881 年には、スエズ運河の建設で成功を収めていた、フランス人外交官で実業家でもあったレセップスがパナマ運河会社を設立し、パナマ運河の建設に着手します。
しかしその建設工事は、マラリアや黄熱病の蔓延、想定を遥かに超える難工事が続いたため、当初の計画どおり進まず、パナマ運河会社は 1889 年に資金が枯渇して破産、レセップスによる運河建設は挫折しました。

現在運用されているパナマ運河の建設が開始されたのは1904 年で、米国が 1903 年に建国したパナマ共和国との間で「パナマ運河条約」を結び、運河の建設と運河に関連する土地の租借権を得て、レセップスが挫折した工事を再開します。再開された工事も、当初は伝染病の蔓延や頻発する土砂崩れに苦しめられますが、米国は 3 億ドル以上の巨額の資金と約 10 年の歳月を費やし、遂に 1914 年 8 月にパナマ運河が完成、パナマの地で太平洋と大西洋が結ばれることとなりました。
その後パナマ運河は「新パナマ運河条約」によって、1999 年 12 月 31 日に米国からパナマ共和国に返還され、現在はパナマ運河庁が運河の運営を行っています。

パナマ運河の構造とパナマックス船型

ガツン閘門パナマ運河の建設に当たっては、運河の両端の潮位の差が大きいことや建設予定地の山がちな地形が問題となりました。

したがって、パナマ運河はこの問題を解決するため、パナマ中央部の山地からカリブ海に流れていたチャグレス川を堰き止めてガツン湖を造り、ガツン湖に貯めた雨水を太平洋と大西洋に向かう水路の数カ所で閘門(こうもん、ロック)と呼ばれる設備を用いて堰き止め、水路内の水位を調整して船を通航させる構造となっています (下図参照) (註1)
つまりパナマ運河は、世界でも有数の降水地帯であるパナマの気候を上手く利用した運河だと言えるのです。

パナマ運河の全長は約 81 キロメートルで、運河を通航できる船の大きさはその構造上、建設当時より長らく、全長 289.6 メートル、全幅 32.3メートル、喫水 12.0 メートルに制限されてきました。

海運業界ではこの制限をクリア出来る最も大きな船を、「パナマックス(パナマ・マックス)」と呼び、数多くの船がこの大きさを基準として建造されてきました。

アグアクララ閘門一方で、パナマ運河の開通から 100 年以上を経た 2016 年には新たな閘門が完成し、運河を通航可能な船の大きさが、全長 370.3 メートル、全幅 51.2 メートル、喫水 15.2メートルまで拡大されました (註2)
この新たな閘門の通航を前提として設計された船は「ネオ・パナマックス」と呼ばれ、近年その隻数が増加しています。

(註1) ガツン湖の水面は海抜約 26 メートルです。
(註2) パナマ運河の運用開始 100 周年となる 2014 年完成を目指して建設が進められましたが、実際の完成は 2016 年にずれ込みました。



Panama_Canal_Map_ENパナマ運河の構造 出典: Wikipedia

パナマ運河による航海距離の短縮

パナマ運河の完成によって、南北両アメリカ大陸の東岸と西岸の間の海上輸送ルートが確立したのと同時に、北米東岸とアジアの間の海上輸送ルートも大きく短縮されました。
例えば米国東岸のニューヨーク港から日本の東京港までの航海距離は、アフリカ大陸南端の喜望峰を回って太平洋に入るルート (--赤点線) が約 15,000 マイルであるのに対し、パナマ運河を経由するルート (赤実線) では約 9,700 マイルとなり、航海距離が約 35%短縮されます (註3)。
また近年輸入量が増加している、米国メキシコ湾岸からの液化天然ガス (LNG) 輸送の場合 (青線) では、喜望峰を航行する場合の航海日数は片道約 44 日 (16,000 マイル) であるのに対し、パナマ運河を通航する場合は約 26 日 (9,200 マイル) と40%以上短縮され、効率的な資源輸送が可能となります。

紅海距離の短縮

出典: 筆者作成

(註3) 1 マイル (ノーティカルマイル、海里) は 1,852 メートルです。大型船の航路と速度を見てみようをご参照ください。

パナマ運河を通航する船と通航料

パナマ運河を通過した船の種類パナマ運河を管理するパナマ運河庁は毎年、運河を通航した船の隻数と船の種類を公開しています。

現在公開されている最新のデータによれば、パナマの2023 会計年度 (2022 年10 月~23 年9 月) にパナマ運河を通航した船の隻数は、太平洋から大西洋および大西洋から太平洋の両方向を合わせ、延べ約 14,000 隻にのぼります。

また、この期間に通航した船の種類は、コンテナ船が最も多く全体の約20%を占め、穀物や石炭等のばら積み貨物を運ぶドライバルク船、液体貨物や液化ガスを運ぶタンカー、自動車専用船等がこれに続きます。

パナマ運河の通航料は船の種類毎に異なった料金体系が設定されていますが、パナマ運河庁が発表している (2024 年2 月現在) の料金表によれば、ネオパナマックスサイズのコンテナ船の場合の通航料は約126 万ドル (現在の為替レートで約 1.8 億円) 、従来のパナマックスサイズのドライバルク船の場合は約 19 万ドル (同 28 百万円) となります (註4)

(註4) コンテナ船は14,000 個積み(消席率90%)、ドライバルク船は80,000 載貨重量トン(貨物積載時)を想定。運河の通航にあたっては、通航料の他にも様々な諸費用が必要です。また、一定の条件を満たす場合は通航料の割引が設定されています。

パナマ運河を航行中の自動車専用船パナマ運河を航行中の当社自動車専用船

パナマ運河の通航制限

パナマでは毎年 5~12 月が雨期にあたります。パナマ運河では雨期に降る大量の雨水を、ガツン湖に堰き止めて利用しているため、降雨が少なくガツン湖の水位が低い年には、運河を通航する船の喫水を制限する措置が繰り返されてきました。

ガツン湖の水位しかし近年パナマでは降雨の減少が顕著となっており、特に2023 年はエルニーニョ現象の影響もあって、過去 100 年で最悪とされる記録的水不足に見舞われました。そのため、パナマ運河では通航する船の喫水制限に加え、一日当たりの通航隻数の制限も余儀なくされ、2023 年 8 月には運河の通航を待つ船が 200 隻を超えたと報道されました。
したがって従来パナマ運河を通航してきた船の多くは、長期間の通航待ちを覚悟するか航路を喜望峰経由に変更することを迫られ、航海距離、航海日数が増加することとなったのです。
2024 年に入ってもパナマ運河の通航制限は続いており、現在(2024 年 2 月時点)の一日当たりの通航隻数は通常時の 7 割弱にあたる 24 隻に制限されています。

パナマでは、パナマ運河の抜本的な水不足解消のため、パナマの山地からカリブ海に流れるインディオ川を堰き止めて新たな貯水池を建設し、ガツン湖に大量の水を送り込むことも計画されていますが、建設には莫大な資金が必要となる他、建設予定地の住民移転や環境問題等の難しい問題もあり、未だ実現の目途は立っていません。

冒頭でご紹介したとおり、太平洋と大西洋をつなぐ「パナマ運河」は、まさに世界の物流が集中する「チョークポイント(海上交通の要衝)」であり、パナマ運河の通航制限は世界の海上貨物輸送に大きな影響を与えることとなりました。近年の世界の気候変動の影響を受けて、パナマの水不足は今後さらに深刻化する懸念があり、その動向を注意深く見て行く必要があるでしょう。

 

 

TAKAHIRO.M

記事投稿者:TAKAHIRO.M

1991年入社。前世紀には鉄鉱石・石炭等のドライバルク輸送、今世紀に入ってからは原油・石油製品を輸送するタンカー部門、当社運航船向けの燃料調達業務を経験し、現在はマーケットリサーチに携わる50代男性。お腹周りの脂肪が目立つのは油っぽい業務を長く担当したせいか。。。

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