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2030年 世界の水供給は40%不足?!意外と身近な水リスク

  • 環境負荷低減

2023年02月22日

米国の地政学リスクコンサルティング会社であるユーラシア・グループが1月初めに「2023年のトップ・リスク・レポート」で世界の10大リスクを発表し、その中の一つに「水不足(Water Stress)」が挙げられました。 世界の水資源には限りがあり、国連は現在の消費と生産パターンが変わらなければ、2030年までに世界の水供給が40%不足すると予測しています。

また、世界銀行が2021年に発表した報告書「水リスクとその影響(Ebb and Flow)」によると、世界で最も水不足が深刻な中東・北アフリカ地域では、現在、人口の60%が水不足の地域に暮らしており2050年までに推定614%という過去最大の経済的損失を被るとみられています。

世界的に高まる水リスクと企業活動への影響について、ご紹介していきます。

限られた水資源

世界の多くの地域で、水資源の枯渇や水質悪化等の危機が懸念されています。インドでは、家庭用水、農業用水、工業用水が不足し、前例のない水危機に直面しています。淡水が豊富に存在するブラジルでも、水力発電用ダムや貯水池があるパラナ川流域で、過去100年以上のうちで最悪の干ばつに見舞われています。この干ばつにより、コーヒー、トウモロコシ、サトウキビ、オレンジなど、ブラジルの重要な作物の生産が影響を受けました。2021年にはコーヒー豆の生産量が2030%減少し、世界の市場価格を60%も押し上げました。中国の地下水の約60%は汚染され、生活用水には適さないとされており、中国の経済成長にとって脅威となっています。さらに、NASAの分析によると、世界の37の大きな帯水層のうち13の帯水層が枯渇しており、特定地域の水利用が危機に瀕しています。

これらの脅威は社会のあらゆる分野に影響をあたえ、企業の事業活動においても、不安定な水供給によって、生産活動が阻害されるリスクがあります。特に、水ストレス(水需給が逼迫している状態のこと)の高い地域での企業活動は問題が深刻化する可能性があるのです。

不安定な水供給は企業の生産活動が阻害される可能性がある
出典:
Aqueduct世界水リスク地図(世界資源研究所:2022年3月18日現在)

世界の温室効果ガス排出量が現在のペースで増加し続けた場合に予想される2030年の水ストレスのシナリオ。世界資源研究所は水ストレスを「入手できる再生可能な地表水と地下水供給の合計に対する総取水量の比率」と定義しています。水ストレス水準が高いほど、水利用者間の競争が激化していることを示しています。

企業の事業活動は水資源に対し、「影響」と「依存」の二つの側面で関わっています。すなわち、事業活動に伴う取水や排水は、水資源の量と質に影響を与える一方で、事業を持続的に行うためには、十分な量と質の水資源に依存しています。水資源に関連したリスクは事業者の業種・業態・規模・立地等により様々ですが、影響と依存という二つの関係性から考えうるリスクの例(出所: CDP)は下記表の通りとなっています。

企業の事業活動は水資源に対し影響と依存の2つの側面で関わっている

先進国・新興国を問わず、多くの企業や投資家が拡大する水リスクに直面しており、水はもはや無料で無限の資源ではないという現実が浮き彫りになってきています。今後の人口増加・経済発展、また、気候変動激化によって、水資源不足・水ストレスが生じる地域が増えていくだろうと予測されています。

水資源問題への取り組み開示

企業活動の財務影響だけでなく、ブランドイメージの毀損など直接的または間接的に影響を与える恐れのある水リスクは、企業にとって無視できない経営課題の一つとして認識され始めています。最近では水リスクが企業の財務に及ぼす影響について機関投資家の関心が高くなっています。企業は事業を持続させるため、自社およびサプライヤーの水リスクを把握し投資家に向け情報開示していくことが求められているのです。

世界的な株価指標の一つMSCIFTSEESG Ratingは、統合報告書やCDP 水セキュリティ レポート 2021有価証券報告書の記載内容に基づいて評価しているため、この中で水リスク対策および水リスクに関する取り組みについての情報開示も重要となっています。

イギリスに本部を置く国際非営利団体CDPによる、企業の水リスクに関する世界的な情報公開プログラム「CDP水セキュリティ」に回答する企業も増えています。投資家が企業の持続可能性を把握するために、水リスクに関する取り組みを、様々な質問事項への回答を通じて多面的に評価するもので、企業は、自社の取組みレベルによってAD4区分で評価されます。

20221月に公開された「CDP 水セキュリティ レポート 2021」によると、日本企業から37社が最も評価が高いAリストに選定されました。全世界でAリストに選定された企業は102社であり、日本のAリスト選定企業数は世界一という結果(日本企業は361社に対してプロジェクトに基づく質問書が送付され、223社(62%)の企業が回答)。

202212月に公表された「CDP2022スコア」では、世界で330社を超える企業が、CDP 気候変動、フォレスト、水セキュリティいずれかの A リストに認定されました。A リスト企業のうち、91 社が日本企業であり、世界で最多となりました。

水リスクへの取り組み

水資源は、多くの企業の生産活動や調達する原材料の生産に不可欠であるため、水資源の需給ギャップの拡大は企業収益に直接的に影響を与えます。こうした「水」が企業の財務に与える影響に対して昨今、機関投資家の関心は高まっています。

水に限らず、環境問題や社会課題は、事業活動に対するリスクばかりではなく、同時にチャンスをもたらすこともあり得ます。一例として、水リスク対応として、水使用量低減に努めることでコスト削減を実現できます。企業には、バリューチェーン全体を対象とした水リスク評価、事業活動に関連する地域の特性を考慮した目標設定、製品やサービスを通じた水に関連する社会課題解決への貢献などの取り組みを通じ、今後増大する水リスクに備え、情報開示を充実させることで、機関投資家のニーズに応えることが期待されています。

海運業界は、CDP水セキュリティ質問書の対象企業に該当せず(輸送セクターは鉄道のみ)、水リスクにおける注目度はまだたかくありませんが、水リスク対応は世界的な潮流となっており、その動向を注視していく必要があると考えています。

当社における水ビジネス //新規事業提案制度における検証//

2021年度社員提案制度で、水不足という地球規模の課題に対して、淡水輸送、海水淡水化船による淡水の供給事業という事業提案と検証が行われました。

検証期間内には、いずれも事業化に至りませんでしたが、とくに海水淡水化船については、水不足に悩む海外各地から、相談や引き合いの声が寄せられています。

■検証者のコメント
「水不足は今後間違いなく深刻になっていくので、水の価値と人々の価値観もこれから変わってきます。そのような時代において、当社は船会社として「船を使った水不足の解決」を実現している会社でありたいと考えています」


Floating Desalination Vessel

写真:パートナーであるEnviroNor社との実現を目指すFloating Desalination Vessel(FDV)

今後も、引き続き事業化に向けて追いかけていく予定です。

当社グループはステークホルダーと共創を通して環境課題へ取り組んでおります。長期的なGHG排出削減ロードマップをより具体化した定量目標を掲げた環境ビジョン2.1に沿ってまとめた当社グループの環境関連の取り組みを、まとめた資料をダウンロードいただけます。多岐に渡る当社の取り組みをぜひご一読ください。

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