2022年06月13日
現代に生きる私たちにとって、地球温暖化や海洋汚染などの環境問題は、ひとりひとりが向き合うべきものとなってきました。そして海運や海洋事業は、そういった環境問題と大変深い関係にあります。実は、船で輸送を行う海運そのものは、自動車など他の輸送手段に比べ、温室効果ガスの発生が少なく、比較的環境負荷が低い輸送手段と言われています。
しかしながら、海上貨物量は地球規模で年々増えつつあるのが現状で、海運が活発になればそれだけエネルギー消費が増えます。
その結果、温室効果ガスの排出量も増えて地球温暖化を助長し、気候変動がトリガーとなる異常気象にもつながりかねません。
今回は海洋事業と環境問題の関係性に触れ、海事コンサルティングが環境対策としてできる取り組みについて解説します。海運業界に携わり、環境に対して何ができるのかという問題意識をお持ちのみなさんは、ぜひ参考にしてください。
海運という輸送手段は他の方法に比べると、大量の物資を一度に運ぶことができ、CO2や大気汚染物質の単位輸送当たりの排出量が明らかに抑えられます。基本的には地球に優しい輸送手段といえるでしょう。
しかし、新興国の発展が促す世界全体の経済成長によって、海上貨物量は地球規模で増加の一途を辿っています。現状で年間100億トンを超える海上輸送は、今後さらに増加していくと予想されています。
海上荷動きが活発になればなるほどエネルギー消費が増え、CO2排出量も増加して地球温暖化などの環境問題を深刻化させます。
また、気候変動によって引き起こされる大型台風の発生頻度が上がると、港湾においては荷役が遅延し、フェリーは運休となるなどのトラブルにもつながるでしょう。
外航船舶が排出するCO2は、全世界の排出量のおよそ2%とされています。海運業界としても本格的に、環境対策に取り組むべき状況です。
当社では、風圧抵抗を極力低減したエコ船型の投入、運航ルートの最適化、減速航海、燃料の導入等により、船舶からのCO2排出量を減らす取組を行っていますが、海事コンサルティングにおいても、私たちが今できる環境対策をサポートしています。
ここからは、当社グループの海事コンサルティングで提供可能な、環境対策の案件について紹介します。
まず、近年に話題となる事が多いCNP(カーボンニュートラルポート)関連の環境対策案件について触れておきます。海上と港湾の脱炭素化を根幹のテーマとして、当社グループだからこそできる取り組みが多数進行中です。取り組みの方向性によって、「港湾グリーン化活動の取り組み」と「CNP化で変貌する海上物流構築に向けた取り組み」の2つに分けて解説しましょう。
港湾グリーン化活動の取り組み
主要な取り組みはアンモニア関連案件・LNG関連案件・再生可能エネルギー(RE)関連案件
の3つ。
アンモニア関連案件
脱炭素化の実現に向けて、最近ではアンモニアが注目されています。アンモニアといえば従来の認識では、化学製品の基礎材料や農業用の肥料です。
ところがアンモニアは、その分子式が【NH3】であることから分かるとおり、窒素(N)と水素(H)で構成されます。
常温常圧においては無色透明の気体であるアンモニアは、水やエタノールに溶けやすい性質があります。発熱性や腐食性があり強い刺激臭を持つことから、アンモニアは法的には「劇物」です。
しかしアンモニアは室温でなおかつ10気圧程度の条件で液化するので、貯蔵や運搬が容易な物質といえるでしょう。そのため、アンモニアはクリーンな水素エネルギーを運搬、貯蔵する手段という意味で「水素キャリア」と呼ばれ、再認識されています。現在では、既存の石炭火力発電所においてアンモニアを混焼することで、石炭火力だけから発電ていた際に加え、CO2の排出量を減らすという取組が進んでいます。CO2を排出しない燃料であるアンモニアをできるだけ大量に使用するためには、陸上側にアンモニアの受入タンクが必要となりますが、ここが一つの課題となっています。アンモニアタンクを新規に設置するには土地の確保や長期の時間を要するからです。
そこで石炭火力発電所におけるアンモニア燃料の利活用を促進するのが、FSRU(Floating Storage and Regasification Unit:浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)です。アンモニア燃料はFSRUにて洋上で貯蔵され、脱炭素エネルギーとして再ガス化されます。
アンモニア燃料用に設計されたFSRUであれば、アンモニア燃料を洋上で貯蔵し、脱炭素エネルギーとして再ガス化可能となります。日本で唯一のFSRU保有・操業会社である当社は、アンモニア関連のコンサルティング案件として、石炭火力発電所におけるFSRU設置に関する諸検討を行います。また、石炭火力発電所におけるアンモニア燃料輸送船などの新規船の、受入バース建設の妥当性の検討も行います。
ほかには、出入りする船舶の航行安全性の視点からの「鳥観図操船シミュレーション」や「係留時の船体動揺シミュレーション」などを使った検討などです。
さらにSTS(Ship to Ship)、すなわち船舶とFSRUがSBS(Side-By-Side:横並びの状態)のポジションで係留されて燃料を移送するアンモニア荷役の安全性の検討、係留時の船体動揺シミュレーションによる稼働率検討なども行います。LNG関連案件
燃焼時のCO2排出量が石炭や石油に比べてLNG(液化天然ガス)は、相対的に環境負荷が低く、石炭からシフトする傾向が見られる燃料です。
国際海事機関による船舶の排出ガス規制が2020年から強化されたことに伴って、LNGを燃料とした船舶の導入に向けた動きが世界的に進んでいます。そしてLNGを船舶燃料として供給するのが「LNGバンカリング」です。
日本国内においても、LNGバンカリングの拠点形成に向けた機運が高まっています。燃料費が船舶の運航費に占める割合は高いので、燃料の調達は船舶のオペレーションと密接に関係しています。
そのため、LNGバンカリングの競争力は、ずばり港湾そのものの競争力と言い換えてもよいでしょう。LNGバンカリングの手法は主に3つ。<TTS:Truck to Ship バンカリング>
岸壁に駐車したLNGタンクローリーから、岸壁に係留中の船舶にLNGを供給する手法です。小型船へのLNG供給に向いています。<STS:Ship to Ship バンカリング>
LNGバンカリング船が錨地に停泊中、あるいは岸壁に係留中の船舶に接舷してLNGを供給する手法です。大型船への供給が可能となります。<Shore to Ship バンカリング>
陸上LNGターミナルから、岸壁・桟橋に係留中のLNG燃料船にLNGを供給する手法です。こちらも大型船への燃料供給が可能です。Shore to Shipはバンカリングのために、LNGタンクのある場所に船舶を係留する必要があり、それが荷役する場所から距離がある場合には運航が非効率となります。そのため、大型船に対してはSTS(Ship to Ship)のほうが有効といえるでしょう。
当社のLNG関連のコンサルティング案件としては、TTSやSTSによるLNGバンカリングの検討などがあります。
ほかには、海外においての新規LNG基地建設に関するフィジビリティ・スタディ(F/S:新規事業の実現可能性調査)やFSRUを設置する適地の検討、係留限界の検討および係留時の船体動揺シミュレーションによる稼働率検討などです。再生可能エネルギー(RE)関連案件
従来のエネルギーから再生可能エネルギーへの燃料転換は、事業者にとって非常に大きなアクションです。
それに伴う当社のコンサルティング案件としては、新燃料受入に関するフィジビリティ・スタディ(F/S)や、陸電設備の整備促進のガイドライン作成などをサポートします。
また、クリーンエネルギーである水素燃料などの運搬船に対する受入適地の検討や受入バースの性能要件の検討、稼働率検討もサポートします。
洋上風力発電設備周辺における船舶の航行安全対策の策定のサポートも重要な案件です。洋上風力発電向け作業員輸送船(CTV)の運航中止基準の策定のサポートや、海底ケーブル敷設船の稼働率の検討も行います。
CNP化で変貌する海上物流構築に向けた取り組み
港湾のCNP化が進行すると、海上物流全体が大きく変貌します。脱炭素時代の新たな海上物流構築に向けた提案も、当社ならではのコンサルティング案件です。
海上輸送貨物が変化するので、それに対応できる港湾機能や施設の規模、配置の見直し、最適な船型の検討などをサポートします。
また、新たに導入されたクリーン燃料が工場から保管施設を経て、最終的に海上の荷役が行われる現場までの運搬において、航路と陸路のいくつもの組み合わせが想定可能です。
各ポイントのさまざまな制約条件を考慮した最適輸送パターンの検討も、当社の高度なネットワークシミュレーションによって再現・予測し、的確な提案をします。
当社は現在、グループを挙げて次世代の柱となる「環境・エミッションフリー事業」を推進しています。再生可能エネルギー事業の重要分野である洋上風力発電のバリューチェーンにおいて、多種多様なサービスを開発・提供中です。
洋上風力発電の周辺事業だけでなく、風エネルギーを活用したさまざまなプロジェクトも推進しております。そして洋上風力発電に関するコンサルティング案件として扱っているのは、主に以下のような項目です。
●拠点港整備に関する検討
●洋上監視に関する検討
●洋上風力発電における自然環境・交通環境などの適地に関する検討
●設置工事中の航行安全性の検討
個別に解説しましょう。
拠点港整備に関する検討
コンサルティング案件として、洋上風力発電の拠点港として必要な機能や整備規模などに関しての提案や検討を行います。施設整備やO&M(Operation and Maintenance: 施設設備の完工後の保守操業)に使用されるであろう船舶を想定して、科学的な知見と手法を用いたシミュレーションによって、妥当性の検討が可能です。
検討結果を分析した上で、その船舶の役割から必要となる機能や船舶のスペック、運動性能に応じた港湾施設整備の規模などの最適な提案ができます。
機能としてフォーカスするのは、主に以下のような項目です。
・係留機能(係留施設)
・航行・停泊機能(航路・泊地)
・ 航行援助機能(ブイ・照明等)
・荷役機能(クレーン等)
・補給機能(水・燃料等)
規模としてフォーカスするのは、主に以下のような項目です。
・係留施設(岸壁・係留浮標等の規模・仕様等)
・係留施設附帯設備(係船柱・防舷材の仕様等)
・水域施設(泊地・水路の規模・仕様等)
洋上監視に関する検討
洋上風力発電施設と周辺航行船舶の安全のために、不審船の接近や異常事態の発生などを察知するための洋上監視が重要になります。
洋上監視に関してのコンサルティング案件としては、監視に必要な機能や設備に関する検討・提案および運用のサポートを行います。洋上監視においては、監視する対象の施設や船舶などに応じて必要となる機能を持つ監視機器や、設備に関しての提案とともに、洋上監視の専門家の派遣などの運用面においてのサポートも可能です。
作業管理の分野においては作業員の出入管理や位置情報、作業員との通信手段のほか、必要に応じたシステムを提案します。
主な監視機器は以下のとおりです。
・レーダ/AIS
・カメラ/光学機器
・警戒船/ドローン
主な通信・情報共有機器は以下のとおりです。
・VHF/IP無線
・スマホ/タブレット
・携帯電話圏外でも通信可能なシステム
監視卓に関しては以下のような機能を提供できます。
・カメラによる洋上映像の表示
・電子海図上にAIS情報やレーダ映像、気海象情報の表示
・作業員の位置情報や出入管理のチェック
・洋上監視や航行安全の専門家(海技士等)による不審船等の早期発見
・同専門家による気海象状況の変動への適切な対応および航行安全対策の適切な運用
洋上風力発電施設の設置に関する検討
洋上風力発電施設の設置に関する当社のコンサルティング案件としては、設置の準備段階において、主に以下のような観点から立地環境の調査および検討を行います。
<気海象条件が設置作業に係る作業船の運航に与える影響>
船舶の運航に影響を与える気海象条件について、海上保安庁発行の水路書誌します。
ちなみに水路書誌とは海上保安庁海洋情報部(旧水路部)が刊行する、海図を除いた参考資料群を総称です。水路誌と特殊書誌があり、前者はいわば航海の案内書・手引書で、後者は使用目的に特化した形で編纂された各種の参考資料となります。
そういった資料だけでなく、必要に応じて既存データや過去の実例からの推測も行います。
主にフォーカスするのは以下のような項目です。
・風向:風速別発生頻度分布(風配図等)/最大風速
・波浪:波向/波高別発生頻度分布
・流況:流向/最大流速
・潮位:潮位図(干満差や最低および最高潮位)
・その他:霧/台風/地震/津波
<洋上風力発電施設の設置が海上交通に与える影響>
洋上風力発電施設の設置が、海上交通に与える影響について検討します。具体的には対象海域の船舶の通航や漁業活動状況等の海域利用状況、海上交通に関わる施設や航行支援サービスの整備状況についての調査と分析です。
必要に応じて、海域利用者へのヒアリング調査や現地調査も行います。
検討の主なポイントは以下のとおりです。
・海域区分:一般海域/港湾区域(港湾法)/港域(港則法)/漁港(漁港法)
・港湾施設等:係留施設/水域施設/航行援助施設、錨地/水深/底質
・航行支援サービス:曳船配備状況/水先/港務通信(ポートラジオ)
・航行実態:入出港隻数/定期航路/船種船型別通航状況(船舶通航実態調査)
・漁業活動実態:漁業権漁業/許可漁業/自由漁業の範囲/種別
・その他の海域利用状況:花火大会/カッターレースなど
・海難発生状況:場所/船種/船型/原因
また、気海象条件や海上交通以外にも関係法令や社会条件ほか、想定される関連項目を精査し、洋上風力発電事業の海域選定をサポートします。
設置工事中の航行安全性の検討
洋上風力発電施設の設置工事中における関係船舶による資材運搬や、一般船舶との競合ほか、多項目にわたる航行安全性の検討と安全対策の策定をサポートします。
主要な検討項目を挙げれば、以下のとおりです。
・安全管理体制:体制図/役割分担(現場責任者/作業責任者/運行管理責任者)
・安全管理要領:連絡体制 /教育/訓練
・船団の運航管理:作業中止基準/運航中止基準/周辺情報収集/緊急時の対応マニュアル
・警戒船:必要な業務内容の認識/配置/隻数 /性能/設備
・一般船舶との競合回避
・工事区域の表示
・緊急時の備えと対応手順:荒天/台風/地震/津波 /海難/連絡体制
・工事の周知や広報の方法
当社の過去の海洋事業コンサルティング案件の中で、環境対策の実績を抜粋して紹介します。
物流効率化に資する中城湾港利用促進調査
2003年に、沖縄県の中城湾港物流マネージメント研究会による「物流効率化に資する中城湾港利用促進調査」の一環としての、定期就航シミュレーションや就航実証実験をサポートしました。
2月26日から3月4日にかけて、琉球海運の「みやらび」を活用して実施された航路は、東京>大阪>那覇>中城です。乗用車や食品類、鋼材、金物類などが積載され、輸送されました。
実験結果として那覇港で取引される貨物の18%が中城港湾に分散されると、燃料費などの陸上輸送コストが年間にして約1,540万円も削減できると判明しています。また、輸送時間においても年間約1,400時間も短縮できる圧倒的な経済効果が明らかになりました。
船舶の河川航行に関する調査研究
2004年には、日本海難防止協会による「船舶の河川航行に関する調査研究」の一環としての実験をサポートしました。水上輸送と陸上輸送の効率比較を、以下の3つのルートでそれぞれ陸路と水路にて行っています。
・川崎から八潮市の三愛石油までの約40km
・川崎から東京都北区の施設までの約50km
・千葉の君津から東京都板橋区の東京製造所までの約70km
220トンの貨物を輸送する場合に、船舶を利用した水上輸送ならいずれのルートもコストが30万円でした。それに対して、20トントラック11台で輸送するコストは40〜50kmレベルなら水路の1.1〜1.2倍で済みますが、70kmレベルの場合は約2.4倍の71万円もかかります。
同じ条件でのCO2排出量は、船舶に比べてトラックはルート別で4.2倍、5.6倍、6.4倍という結果がでました。水上輸送のほうが環境負荷も圧倒的に低いことが証明されています。
これによって水上輸送は重量物、大口貨物の輸送に優位性があることが確認されました。
2019年9月に神戸市港湾局主催の、神戸港における初のLNGバンカリングの実証実験をサポートし、LNG燃料タグボート「いしん」へのLNG燃料供給に成功を収めました。
実験対象のLNG燃料は大阪ガス株式会社の兵庫県姫路市にある姫路製造所から、LNGタンクローリーに積載して出荷されたものです。TTS(Truck to Ship)方式により神戸港新港第4突堤に着岸中の「いしん」に無事供給されました。
「いしん」は当社が保有し、日本栄船株式会社が運航するタグボートです。この実証実験によって、神戸港で安全なLNG燃料供給が可能であることを検証できました。
名古屋港初のLNGバンカリング実証実験
同年11月には、名古屋港初のLNGバンカリングの実証実験をサポートしました。名古屋港を利用する船舶の、LNG燃料化による環境負荷の低減を目指しての案件です。
実験対象のLNGはタンクローリーを用いて、愛知県知多市の東邦ガス知多緑浜工場から名古屋港ガーデン埠頭岸壁に輸送され、TTS(Truck to Ship)方式により、岸壁に停泊中の「いしん」への燃料供給に成功を収めています。
この実証実験により、名古屋港でのLNGの安全な供給が可能であると検証できました。
地球環境問題は海洋事業と切っても切れない、密接不可分な領域です。当社グループではさまざまな事業展開やコンサルティングを通して、そのことを深く認識しています。
これまで培ってきた知見とノウハウを環境問題に役立てるべく、妥協を排した努力を自らに課しております。海洋事業に携わるみなさんは環境問題に関するどんな課題であっても、お気軽にご相談ください。
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