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脱炭素に不可欠なクリティカル・ミネラル(重要鉱物)

  • マーケット分析

2023年09月04日

2050年のカーボンニュートラルの実現に向け各産業分野における脱炭素化が進むにつれ、世界中で鉱物資源の重要性が増しています。
電動自動車(EV)の蓄電池やモーターの製造を筆頭に、風力、太陽光、地熱等の再生可能エネルギー用の発電設備や蓄電池の製造においても、鉱物資源は不可欠です。必要となる鉱物資源の量は、EVは化石燃料車の6倍、陸上風力発電施設は天然ガス火力発電施設の9倍にも及ぶと言われています。
鉱物資源の中でも、EV用蓄電池や再生可能エネルギーの設備に必要となるリチウム、コバルト、ニッケルなど、脱炭素化に向け急速に需要が高まっているものを、クリティカル・ミネラル(重要鉱物)と呼びます。どの資源がクリティカル・ミネラルに該当するか明確な定義はなく、それぞれの国やその年の状況によって異なりますが、例えば米国の政府機関であるUSGS(U.S. Geological Survey)は2022年の米国におけるクリティカル・ミネラルのリストとして、50種を挙げています。

Ages of energy_elements widely used in energy pathways
2020-22年にかけてEVが急速に普及したことで、クリティカル・ミネラルの需要も急増した結果、価格も上昇しました。新型コロナウイルスの感染拡大や、ロシアのウクライナ侵攻などによるサプライチェーンの混乱といった供給面での影響も受け、2022年には、2015年比でニッケルは2倍、コバルトは2.5倍、リチウムは8-9倍程度にまで高騰しました。2023年に入ると、世界的に増産体制の強化が進んだことや、中国のEV需要の鈍化を背景に、価格は下落基調にあります。一方、IEAによると、2050年ネットゼロ・シナリオが実現した場合には、ニッケルの需要は2021年比で2倍、コバルトは3倍、リチウムは13倍程度まで増加すると予想され、今後も各国におけるEV販売の伸びや、予期せぬ事情によりサプライチェーンに支障が出た場合等には、クリティカル・ミネラルの価格が再び高騰する可能性もあります。

price of selected battery materials and lithium-ion batteries, 2015-2023(出典:IEA “Global EV Outlook 2023”)

また、クリティカル・ミネラルの産出地はコバルトの7割がコンゴ民主共和国に偏在しているほか、高品位ニッケルの2割をロシアが、レアアースの6割を中国が占めるなど、比較的地政学リスクの高い国が占めています。さらには、これらを精錬・加工する工程がほぼ中国に集中しているため、中国の台頭を警戒する欧米先進国にとって重大な懸念事項となっています。
その他にも、過去にレアアースの輸出を制限した中国が今度はガリウムとゲルマニウムの輸出を統制するほか、ニッケルの最大の産出国であるインドネシアが国内供給を優先するため輸出を禁止しており、資源を自国内に囲い込む資源ナショナリズムの動きも広がりつつあり、クリティカル・ミネラルをめぐるサプライチェーンは複雑かつ不透明さを増しています。

share of top three producing countries in prodiction of selected and fossil fuels, 2019

各種資源をExtraction(生産)する国とProcessing(精錬・加工)する国
(出典::IEA “Global EV Outlook 2022”)

そこで、クリティカル・ミネラルの安定供給のため、国家間でパートナーシップを締結する動きが増えているほか、産業界においてもクリティカル・ミネラルへの依存が少ない技術・製品の開発や、リサイクル技術の開発が進められています。

安定需給のための国家間パートナーシップ

クリティカル・ミネラルの安定的な確保のため、各国は国家間でのパートナーシップ協定の締結に動いています。
日本は2022年10月にオーストラリアと「クリティカル・ミネラル(重要鉱物)に関するパートナーシップ」に合意したほか、アフリカ・南米等の資源国とも連携強化のための資源外交を進め、同年12月にはコンゴ民主共和国との提携を発表しています。
より広域な協力体制としては、2022年6月に米国の主導により、鉱物資源安全保障パートナーシップ(Minerals Security Partnership)が立ち上げられました。米国のほか、英国、フランス、ドイツ、カナダ、EU、オーストラリア、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、韓国、日本が主な加盟国となっており、クリティカル・ミネラルのサプライチェーンの強靭化を目指すとしています。

産業界における技術開発

「都市鉱山」の活用

資源の乏しい日本では、廃棄される家電や自動車等のさまざまな製品等から、重要鉱物を取り出してリサイクルすることで、天然資源に代わる重要な供給源になるとの期待から「都市鉱山」と呼ばれてきました。クリティカル・ミネラルの安定供給への懸念が強まる今、世界で鉱物資源のリサイクル技術の研究開発が進められており、特に比較的大型で普及が目覚ましいEVの使用済蓄電池のリサイクルは喫緊の課題となっています。
ヨーロッパでは、EUの欧州委員会が蓄電池の原料について、環境保護の観点も含めて30年にコバルトの12%、ニッケルの4%、リチウムの4%をリサイクル由来とすることを義務付けており、今後も世界各国で鉱物資源のリサイクル技術の確立・発展は必須となっています。

amount of spent lithium-ion batteries for EVs and storage by application in the SDS使用済のEV用リチウムイオン電池や蓄電池は、2030年ころから増加する。
(出典:IEA “The role of critical minerals in clean energy transitions”)

使用量の低減・代替品の開発

クリティカル・ミネラルの使用量を低減させ、輸入国への依存脱却を目指す技術開発のほか、クリティカル・ミネラルに頼らずに同様の役割を果たせる代替品の開発も進められています。
 日本では、経済産業省や文部科学省、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)等が、民間企業や大学・研究機関等への委託や助成を通じ、EVや再生可能エネルギーの設備に用いられる希土類磁石と同様の機能を果たせる部品などを、希少金属を用いらずに作る技術の研究開発を促進しています。また自動車・素材・化学メーカー等、独自に研究開発を進める企業も多くあります。

新たな供給源の創出

鉱物資源の新たな供給源を見出す研究開発も進められています。
日本政府は小笠原諸島・南鳥島の深海にあるレアアース泥の採掘技術の開発に着手し、2024年に試掘を始める予定です。
海洋には大きく4つの海洋鉱物資源(海底熱水鉱床、コバルトリッチクラスト、マンガン団塊、レアアース泥)があり、それぞれに異なる金属が含まれますが、南鳥島周辺には、水深5000~6000メートルの海底にレアアースを高濃度で含む泥が相当量あるとされています。同海域で海底の鉱物資源の開発が可能になれば、大部分を輸入に頼る日本にとっての意義は大変大きく、国内外から高い関心が寄せられています。

クリティカル・ミネラルの問題が映す真の課題

以上のように、クリティカル・ミネラルをめぐっては、急増する需要に見合う量を確保するため、①供給国とのパートナーシップの締結による安定調達、②使用済製品から鉱物を取り出すリサイクル技術の開発、③代用品開発、④海底など新たな供給源の開発 といった取り組みが世界各国で官民を挙げて行われています。
一方で、2023年1月にIEAが発行した”Energy Technology Perspective 2023”で指摘されているように、電化や再生エネルギーの推進によるクリーンな電源への転換が重要である一方、エネルギー需要そのものを削減する努力も怠るべきではありません。クリーンな電源により脱炭素は達成できるとしても、それを支える鉱物もまた天然資源です。同レポートによると、EVの航続可能距離を現状から伸ばすよりも維持することで、2030-50年の間にIEAがネットゼロ達成に必要と想定するEVのバッテリー容量よりも20-25%小さいもので済み、鉱物資源の使用量も20%削減できると試算されています。よって、長距離移動での公共交通機関の活用や、カーシェアによる個々のEVの有効活用といった、根本的な消費行動を変革することが重要であると、IEAは記しています。
また、最近では、友好国間での限られた資源の囲い込みにより、環境や人権のリスクが高まるとの指摘も出ており、クリティカル・ミネラルの開発から流通に至るまで、総合的にリスク評価することが重要です。
今、国家や企業は、脱炭素という絶対の使命を前に、クリティカル・ミネラルの需要が今後も大きく増加し続けるとのシナリオのもと、供給先や必要量の確保に奔走していますが、シナリオの前提を疑い、「脱炭素=環境のため」という基本に立ち返ることの大切さをIEAは示しているのではないでしょうか。

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MAI.S

記事投稿者:MAI.S

外資系海運会社勤務や中国滞在を経て2014年中途入社。ばら積み船の運航担当後、2019年4月からマーケティング部門にてドライバルク顧客向けポータルサイトLighthouseを担当。ユーザーに寄り添いながら、お客様目線のサービス開発と推進に努めています。週1のヨガが息抜きタイム。

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