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船荷証券(B/L)完全電子化の可能性~5つのポイント

  • 海運全般

2021年01月15日

商船三井の船荷証券 MOL format of Bill of Lading

 

 

船荷証券(B/L : Bill of Lading)の電子化の動向が貿易・海運業界で注目され始めました。
膨大な量になる貿易書類も、着々と電子化が進んでいますが、貨物の所有権を証明する書類であり有価証券の側面である、B/Lが最後の関門と言われていました。しかしこのB/Lも、ブロックチェーン技術(※)の進化に伴い、電子化の動きが加速しています。航空業界では、Air Waybillの電子化率は既に過半数を超えており、海運業界も追随していくものとみられます。その一方で、依然、FAXやメールなどの通信手段を利用してやり取りしている貿易業者も多く、B/L電子化の普及には疑問を持つ人も多いでしょう。今回は現在のB/Lを取り巻く状況と、今後B/Lはどう進化していくのか、その動向を解説します。

(※)ブロックチェーン技術とは、日本語では分散型台帳技術とも呼ばれ、複数人でデータを管理することによりデータの改ざんを防ぎ、信頼性を保つ技術のこと。管理する人が増えれば増えるほど、改ざんができにくくなり、安全性が強化される。

(右図:B/L表面の一例)

Point.1 B/Lの現状「船荷証券の危機」とは

「船荷証券の危機」とは、アジア域内など航海期間が短い海上輸送において、すでに貨物が揚げ地に到着しているにも関わらず、船荷証券の原本(オリジナルB/L)が届いていないために貨物が引き取れないことをいいます。
日本発の貨物の場合、釜山(韓国)、上海(中国)、基隆(台湾)には数日で到着するため、オリジナルB/Lよりも貨物の到着が早いケースが出てきます。この場合、相手国に貨物が到着しているのに、貨物を引き取れず、特に日本とアジア諸国間のように近距離の海上輸送において、大きな問題となっています。
日本の場合、アジアとの貿易比率は輸出が69%、輸入が76%(平成30年のトンベース実績)。と輸出入ともアジアの顧客がかなりの比率をしめることから、日本の荷主にとっても「船荷証券の危機」は非常に大きな課題です。

船荷証券の危機とはなにか

Point.2 危機への3つの対応策

「船荷証券の危機」も解決策がないわけではありません。現在、主な対策として多用されている「Surrendered B/L」、「Sea Waybill(Waybill)」、「保証渡し」の3つをご紹介します。

 ①Surrendered B/L

B/Lは船会社が発行(船長が署名して流通)しますが、荷主にB/L情報を伝えた後、すぐに回収してしまうことです。(「元地回収」とも呼ばれます。)B/Lは貨物の代わりとなる有価証券のため、荷送人(=発送人)はB/Lと引き換えに代金を回収します。そのため、本来であれば荷送人は、B/Lを銀行等関係取引先を介し、荷受人(=受取人)に届ける必要があります。一方、Surrendered B/Lとは、荷送人が、荷受人でない船会社にB/Lを送付し、船会社がB/Lに「Surrendered」や「Accomplished」などのスタンプを押して、B/Lの有価証券としての機能を無効にすることです。そして、サレンダー情報を輸入国の代理店にメールなどで迅速に連絡し、揚地でのスムーズな引き取りが行われるようにします。「サレンダー」が荷主側にとって都合いいのは、荷受人がFAXでもPDFでも、とにかくコピーがあれば、貨物を船会社から受け取れる=B/Lの流通を待たずとも代金を回収できる、便利さがあります。

 ②Sea Waybill(Waybill)

上述の通りB/Lは有価証券ですが、Waibillは、船会社が荷送人に対して発行する、(単なる)運送状です。宅急便の送り状(伝票)に相当するものとご想像下さい。Waybillは有価証券ではないため、コピーの提示で引き渡しできるので、迅速に貨物は引き取れます。Waybillは紛失リスクもなく、記載事項の訂正も簡単です。B/Lは紛失したことも考慮し、通常3通発行されるのに対して、Waybillは通常1通しか発行されないのが通例です。

 ③保証渡し

繰り返しになりますが、B/Lが有価証券であるという性格上、商習慣上は保証渡しが盛んに行われているのが現状です。保証渡しとは荷送人が、銀行を連帯保証人として、貨物の引き渡しによる一切の結果について責任を負うことを内容とする保証状L/G(Letter of Guarantee)を船会社に差し入れることで、B/Lと引き換えでなくても貨物の引き渡しを受けることができるものです。船会社は、正当かつ有効なB/L保持者が現れると、B/Lに記載の貨物を引き渡す義務があるため、B/Lなしでの貨物引渡しには、基本的に銀行の連帯保証を条件として、B/Lがなくても保証状で引渡しを行うという形態です。引き渡し後に、正当なB/L保持者が現れた際には対抗できないので、銀行の連帯保証は必須です。これはL/C決済(Letter of Credit:信用状)による貨物取引を行った際に活用されています。

B/Lの特質である流通機能が、海外取引の迅速性に支障をきたしている状況のなかで、3つの対策をご紹介しましたが、その中でも、②Waybillは、国際的な信用状統一規則(UCP600)にその取扱いについて規定があり、輸出入国間での標準的な運用が明確化されているので、貿易上のリスクは低いといえます。このことから、国連や一般財団法人日本貿易関係手続簡易化協会(JASTPRO)は、Waybillの利用を推奨しています。リスクを低減させ、電子化を促進するためにもWaybillの利用は今後さらに伸びると予想されます。

Point.3 貿易書類を電子化するワケ

貿易取引の実務における問題点は、書類作成と貿易書類の実際の受け渡しにおける非効率性、結果としてコスト高になる構造にあります。貿易取引における書類やり取りは非常に複雑で、紙ベースだと、輸出業者から輸入業者へ全部移るまでに10回以上も同じデータを打ち直す必要があるといわれ、相当な手間とコストがかかっています。

国際貿易取引における貿易手続きの効率化に関する取組

グローバルサプライチェーンにおける貿易手続の効率化に関する取組 2019年8月
(経済産業省 作成資料抜粋)

これを電子化することにより、プロセスを縮小することが可能ですが、現状は電子B/Lが普及しているとはいいがたい状況です。電子化が難しい理由として、「裏書(Endorsment)」により流通するというB/Lの有価証券としての機能があげられます。B/L所持人は、貨物を受け取る権利を持ちますが、上述の通り、貿易取引の実務上、実際の貨物購入者にB/Lが届くまでにいくつもの相手先にB/Lが渡ることになるため、その時のB/L所持人は、B/Lの裏に「〇〇に権利を譲渡(Endors)する」ことを「裏書」きすることで、流通していくことになります。電子化において、この「裏書」のプロセスを安全にシステムで担保することが、電子化を阻む一つの要因と言われています。

また、電子B/Lが流通する上で、貿易に関わる各国の法律や運用制度、電子化のためのシステムについての関係各国の調整が必要であることも理由の一つです。
電子記録として表現された船荷証券が、広く各国でB/Lとして認識されるとは限らず、ヘイグ・ヴィスビー・ルール(B/Lに関する国際条約)が適用されるか不透明なことも指摘されます。
(註:日本においても、国際海上物品運送法及び商法767条以下は、B/Lについては書面であることを前提としていると解され、電子船荷証券には明示的には対応していません。)
このようにB/Lの電子化については、いくつかの課題がある中、国際貿易の実務において、荷送人、荷受人双方においてこれまで大きな支障なく(上述の3つの対策も含め)、国際取引が行われていたため、急いで電子B/Lを導入する必要がなかったことが、B/L電子化の検討が遅れている背景です

 

国際海上物品運送法」と船荷証券に関する国際条約(ヘーグ・ルール等)出典:JETRO

Point.4 貿易手続き 電子化への取組み

B/Lの電子化の動きは、かれこれ数十年前からあり、いくつかのプラットフォームを提供する企業が存在します。しかしながら、各社ともに局地的な動きにとどまっており、世界を統一的にカバーする制度にまでは至っていません。電子B/Lを正しく流通させるためには、荷送人、銀行、船会社、荷受人など関係者を同じプラットフォームに参加してもらう必要がありますが、現実的には、機密保持などの問題があり、多くが参加する体制にはなっていない状況です。

一方、資源などのバルク輸送分野では、実務的に広がりを見せてきています。資源輸送においては、B/L 1件当たりの輸送金額が高額、かつ、輸送関係者が少数に限定されているため、書類偽造などの不正防止や、電子B/Lによる流通の迅速化による資金回収の効率化などの電子B/Lのメリットが認識され始めたということです。
そして、電子B/Lを利用する大手資源会社が、コンテナ輸送にも電子B/Lの利用を望むようになりなど、徐々に電子B/Lの利用が拡大してきています。

B/L、貿易書類の電子化への取組

Point.5 B/L電子化に踏み切るコンテナ船会社

昨今、コンテナ船社の取組みも広がりをみせています。商船三井をはじめとし、日本郵船、川崎汽船の出資会社であるOcean Network Express(ONE)をはじめ、いくつかのコンテナ船社がIT企業と組んでB/L電子化を進めると発表、B/L取引が、より円滑になることが期待されます。IT企業の多くはブロックチェーン技術を使い、信頼性の確保と電子化による手続きの簡略化とスピードアップを図るとのことです。多数の貨物を扱い、多数の荷送人・荷受人と関係するコンテナ船における、このような動きは、海運業界のITを推進するものとしてとても注目されています。

有価証券機能を持ち流通性のあるB/Lは、これまで紙ベース(手渡しや郵送)で取引されているのが実情ですが、B/Lの電子化の拡大により、業務効率化とコスト削減が図れる下地ができあがり、コンテナのサプライチェーンに変化が起こることが期待されます。

世界では既に、米IBMなどが分散台帳を使う貿易情報管理システムを個別に展開していたり、東南アジア諸国では政府主導で貿易事務のデジタル化が推進されています。日本国内でも2017年以降コンソーシアム方式で検討を重ね、業界横断で貿易書類の完全電子化に向けて日本初の貿易文書処理プラットフォームを育成していくなど、今後に注目です。

最後に、世界的に徐々に電子化が進むことは物流業界にとっては歓迎すべきことです。コロナ渦にてソーシャルディスタンスが求められる中、そう遠くない将来B/Lカウンターに直接貨物を引き取りに行くことがなくなるかもしれません。

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B/Lは様々な単位で発行されますが、主に1取引に対して1件のB/Lが発行されることが多いです。貨物取引の特性上、特にコンテナや自動車輸送において、多くの件数が発行されることから、商船三井を含む船会社においても、書類の電子化に順次対応しています。本サービスサイトに掲載している、商船三井の自動車輸送サービス(MOL ACE)においても、お客様の貨物を安心、安全にお届けするため様々な取組を行っています。

MOL ACE事業案内

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AKINA.H

記事投稿者:AKINA.H

2014年中途入社。自動車船の三国間輸送の事務、ばら積み船での運航担当等を経て、2020年4月よりマーケティング部門にて本サイトの運営に携わっております。ニュースレターの作成も担当していますので、購読頂けると嬉しいです!仕事には炭酸水とカフェラテ、二日酔いにはトマトジュースです。

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