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海運ビッグデータとしてのAIS活用方法

  • 海運全般

2020年11月20日

 

 海運会社における陸上社員(船上で働く船員ではなく、各地の事務所で働くスタッフ)の仕事、というと、海図上に船のアイコンが点在するモニターを前に仕事をする人を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

 今回は、この「海図上の船のアイコン」の情報源、AISについてお話します。

shipping big data utilizing AIS information

AISとは

 AIS(Automatic Identification System:船舶自動識別装置)とは、エー・アイ・エスと呼ばれ、洋上を航行する船舶同士が、航行情報を相互に交換するための装置を言います。
 2002年に発効された「1974年の海上における人命の安全に関する条約(SOLAS74条約)」第Ⅴ章を受け、日本では、全ての旅客船、及び300 総トン以上の国際航海従事船舶と、500総トン以上の非国際航海船舶の全てに搭載が義務付けられました。
 船舶に装備するAIS装置と、陸上の設備で構成され、船舶より発せられた情報が、VHF電波を介して、付近を航行している他船や、陸上局と言われるアンテナで受信される仕組みが基本となっています。

AISを使って取得できる情報

AISを使って取得できる情報

AIS情報の価値向上

 従来の陸上設備と船舶間でのAIS情報の送受信においては、AIS情報は電波の直進性から水平線を越えて伝達ができないため、用途は沿岸部の船舶の把握や周辺船舶同士の交信に限られていました。よって、運用の目的も、周辺船舶を識別し航海情報を交換することで衝突防止に役立てること、無線電話による船舶通報を減らすこと、といったシンプルなものでした。
 ところが2008 年に AIS受信機を搭載した衛星の初号機が打ち上げられ、大洋を航行する船舶からも、垂直方向でのAIS信号の取得が実現したことから、AIS情報の用途は飛躍的に広がり、情報の価値も上昇しました。

shipping big data utilizing AIS information

次項では、これまで行われてきたAIS情報の基本的な活用事例と、近年増えつつある他のITやデータと組み合わせる応用事例をご紹介します。

AIS情報の活用事例(基本編)


1.安全管理 

航海中の船舶が互いにAIS情報を発信し合い、周辺を航行中の船舶の状況を把握することで、衝突事故や進路妨害等を未然に防ぐことができます。
また、港湾関係者が、周辺海域で不審な船が見られないかを監視する上でも有効です。

2.運航管理

 海運会社や船舶管理会社では、AISで取得した運航・管理する船舶の本船位置情報等をマップ上に表示させ、各船の動きをモニターしています。
各船の現在位置を把握して先々の配船計画を立てたり、気象情報と組み合わせて見ることで、荒天時に比較的安全なルートを陸側から提案することもあります。

AIS情報の活用事例(応用編:自律運航)

 AISの発展は、電子海図(ECDIS)の普及や船上の通信技術環境の進化と相まって、システムが状況を判断し操船する自律運航という発想も生み出しました。
自律運航では、自動操船や自動離着桟、機器・貨物等の遠隔モニタリング等、様々な技術開発が進められていますが、同時に様々な制度や規制の見直しも必要となる為、段階的に発展している最中です。
 既に実現しつつある1つの例は、自動衝突防止システムです。AIS情報や、他船や障害物を認識して方位や距離を知らせるTarget Trackingというレーダーの機能を活用して、衝突の危険性を自動で判断し、航海士の安全運航を支援します。商船三井においても、東京湾での実証実験を開始しています。
こうした自律運航船の実現により、ヒューマンエラーによる海難事故の削減や、逼迫する船員需給の緩和などが期待されています。

 

商船三井は東京湾で自動衝突防止システムの実証実験を開始

AIS情報の活用事例(応用編:ビッグデータ分析)

 AIS情報を一定期間収集すると、海域・季節・時間ごとの航行隻数や航行密度が分かります。AISで取得した船種・船の大きさ・船の寄港地に関する情報などからは、積載貨物を推定することができます。また、船ごとに時系列で喫水情報を追うことで、Laden(積荷航海)/Ballast(空荷航海)の判定を含む積載量を推計することもできます。ここから推計された港湾間物流量に、衛星画像解析や貿易・経済・政治・に関する様々なデータを組み合わせることで、海運市況や造船需要、環境影響の予測などを立てることが可能になります。まだ貨物が目的地に到着する前から荷動きを追えるようになることで、輸出入に関する統計データが出揃う前に、世の中の流れを予測することが可能となるのです。

 たとえば、海運市況予測は、BDI(Baltic Dry Index、ロンドンのバルチック海運取引所が発表する、鉄鉱石・石炭・穀物などのドライカーゴの運賃の指数)の予測が主流です。
 AISから抽出した、ドライカーゴを積載するばら積み船の時系列での航行船舶データに、鉄鉱石・石炭・穀物などの商品価格、各商品の出荷に影響を及ぼす季節的要因、燃料費に直結する原油価格、消費者物価指数や為替等の膨大な種類の統計データを用いて、AIにより各データの相関性を見出すことで予測モデルを構築し、先々の海運市況を予測します。BDIは、貿易活動や世界経済の先行指標とされていることから、金融機関などにも広く活用されています。(BDIの市況予測とばら積み船マーケットの推移、はこちらで解説しています。)


shipping big data utilizing AIS information

 このように、一隻一隻の船が起点の情報も、様々なデータや技術と結びつくことで、不可能に見えた技術を現実にしたり、不確かな未来を見通せるようになる可能性を秘めています。

海運ビックデータで船の安全と海の環境を守る

 商船三井は、AISと拡張現実(Augmented Reality)を組み合わせた操船サポートシステムや、AISと航海日誌のデータから工学的知見のもと推進性能を最適化するサービス等、AISを活用した技術開発に取り組んでいます。

 さらに、運航データ利活用に向けた総合プロジェクト『FOCUS』を通じて、機関状態診断・故障予兆診断、運航船の音声・映像情報の陸上への配信による洋上の見える化、運航最適化によるCO2削減に向けた取組等、継続的に実運航データを活用した有効性のある活用方法の拡充に努めています。

世界中に常時740隻以上の船を運航する私たちは、海運企業発のデータを通じ、地球規模での経済実態の把握、そして何より海上の安全や環境負荷低減に貢献すべく、これからも各研究機関や企業と連携しながら、最先端の研究・開発を進めてまいります。

                     FOCUS

 

 

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MAI.S

記事投稿者:MAI.S

外資系海運会社勤務や中国滞在を経て2014年中途入社。ばら積み船の運航担当後、2019年4月からマーケティング部門にてドライバルク顧客向けポータルサイトLighthouseを担当。ユーザーに寄り添いながら、お客様目線のサービス開発と推進に努めています。週1のヨガが息抜きタイム。

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