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海と港の安全を守る海洋事業の防災・危機管理

  • 海運全般

2022年08月04日

海洋事業にはいつ襲ってくるかもしれない自然災害や、テロの脅威があります。当社グループは、グループビジョン(一部抜粋)として「海運業を中心に様々な社会インフラ事業を展開し、環境保全を始めとした変化する社会のニーズに技術とサービスの進化で挑む」と謳っており、海の安全を守ることは当社グループの重要なミッションのひとつと認識しています。

そのため、海上や港湾で業務を行える環境を整えるサポートに、力を入れており、今回は当社グループの海事コンサルティングにおいて取り組んでいる、防災や危機管理に関する案件について、詳しく解説しましょう。

海事コンサルティングと防災・危機管理

2011年3月11日に起こった東日本大震災の時には、観測史上において最大規模となる津波が発生しました。東北から関東北部太平洋側、北海道から沖縄県にかけての広大な範囲で津波が観測されています。明治以降でいえば、関東大震災と明治三陸地震に次ぐ被害規模の大きさとなります。

港内にいた船舶にも、漂流、座礁や陸上乗揚げなどの被害が多数発生しています。係留したまま被災した船舶では、係留索が次々に破断して沖合いに漂流したり、比較的小さな船舶の場合は大きな津波により陸上に乗り揚げたりしました。大型外航船でも、地震発生直後に緊急離桟を開始しても津波の影響で操船が困難な状態となり、岸壁や陸上荷役施設へ衝突したり、浅瀬に座礁するような事例が発生しました。

海事局が実施したアンケート調査によると、地震発生当時に避難に60分程度を要した船舶が大多数という結果も出ています。

海洋事業に携わる者は、南海トラフ巨大地震等の海溝型地震や首都直下地震などの将来発生が危惧される地震を想定した、万全の防災対策が求められます。

海洋事業が晒されている脅威は地震や津波だけではないのです。悪天候や座礁による難船や破船、沈船や他船舶との衝突などの海難事故もあれば、海賊の襲撃やテロの脅威など、不安要素は少なくありません。

そのため、海洋事業においては災害や事故に対する全方位的な防災や危機管理の対策が、海の安全を守るために欠かせない時代です。

当社及び商船三井グループであるMOLマリン&エンジニアリング(以下MOLMEC)も防災・危機管理対策は海事コンサルティングの重要分野として捉え、大分類すると以下の3つの視点から真摯に取り組んでいます。

  • ●港湾環境と事故防止の対策
  • ●地震津波対策
  • ●海賊・海上テロ対策

ここからは3分類した対策のそれぞれで章を分け、詳しく触れておきましょう。

海洋事業の防災・危機管理とは

港湾環境と事故防止の対策

まず、港湾施設や船舶、物流関連の事故防止のためのにMOLMECが取り組むコンサルティング案件の概要を紹介しましょう。現在この分野で提供できるサービスの主要なメニューは以下のとおりです。

  • ・港湾機能の評価に対する総合的な検討
    ・船舶航行環境の評価や入出港の安全性・効率性・稼働率
    ・海難事故防止に係る総合的な検討や教育・訓練
    ・港湾施設や航行援助施設等の整備効果の検討
    ・物流施策や航路経営に係る評価・検討
    ・港湾空間や船舶の危機管理に係る検討

そしてこれらを実行するためには、入念な船舶通航実態調査をベースに、以下のような高度なシミュレーションを再現&予測ツールとして活用します。

  • ・待ち行列(管制)シミュレーション
    ・海上交通流シミュレーション
    ・ファストタイム・シミュレーション
    ・操船シミュレーション(鳥観図、ビジュアル)
    ・津波シミュレーション
    ・油漂流シミュレーション
    ・錨泊シミュレーション
    ・船体動揺シミュレーション(係留中および航行中)

これら各シミュレーションの詳細については、以下の記事で特集しています。ぜひ参考にご覧ください。

海洋事業コンサルティングにおけるシミュレーションは課題解決の生命線!

 

 地震津波対策

次に、大惨事につながりかねない地震津波の対策に関して、MOLMECがコンサルティングとして取り組める内容について詳しく見ていきましょう。

津波シミュレーション

津波シミュレーションでは、津波水位の時系列変動のデータと津波流速の時系列変動のデータから、係留地点における津波の高さや津波到達時間、流速の伝搬状況を事前に評価・解析します。

錨泊避難や港外避難、係留避泊(※)などの最善の避難方法を検討する際に必要な基礎データです。それらの検証結果は対象海域の港湾図に「津波水位および流速・流向の分布図」としても落とし込まれます。

(※)
錨泊避難: 湾内の安全・適切な錨泊地に船が錨を下ろして停泊し、機関の併用等により津波に対抗すること

港外避難: 港外の水深が深く十分広い海域、沖合いに避難すること

係留避泊: 係留の強化、機関の併用等により係留状態のまま津波に対抗すること(係留とは綱を用いて船を岸壁に着岸させること)

津波推移流速流向 関連図

青を「0m」赤を「10m(超)」とする色のグラデーションで港湾図に津波の高さが表示されるので、任意の地点での危険度が視覚的に理解できます。

もちろん海側と同様に陸側でも、港湾の地点別による津波の高さの違いがわかるので、人員の避難経路を想定する資料としても有効です。
ちなみに一部の地方自治体では、津波浸水を想定した津波ハザードマップを作成するために、津波シミュレーションをすでに実施済みの場合もあります。その場合はあらたな改めての実施は不要です。

津波シミュレーションモデルには、以下のような3つの特徴があります。

  • <非線形長波理論>
    ・波の変形に水深の影響を考慮する
    ・水流に対する海底の摩擦を考慮する

    <陸上遡上計算>
    ・陸上への津波の遡上を計算する

    <断層モデル>
    ・中央防災会議、自治体の想定断層モデルである
    ・既往地震の断層モデルである

断層モデルは地震の発生メカニズムを、断層運動によって表現したものです。断層の大きさや向き、傾き、面上でのずれの量、破壊の進行、速度を示します。

国や地方自治体により検討される津波被害想定の調査においては、想定する地震の断層モデルが決定されます。

緊急離桟シミュレーション

緊急離桟シミュレーションはビジュアル操船シミュレータもしくは鳥瞰図シミュレータを使用し、自力の港外避難を前提として実施します。

気海象条件や地形条件、船型モデル、曳船の支援隻数、作用する津波の外力影響(引き波)や他船動静などの、あらゆる要素を踏まえたシミュレーションが可能です。

その結果を検証し、安全海域までの所要時間や緊急離桟の標準操船方法、操船上の課題などを評価・分析します。この分析から、たとえば、想定津波に対する操船方法・操船上の留意点を見出し、港外避難にかかる時間を短縮するなど、後述の避難行動に関する検証に繋げていきます。

MOLMECの高性能ビジュアル(フルミッション型)操船シミュレータを使用する主なメリットは、以下のとおり3つあります。

  1. 1:想定される操船環境における視覚影響や、操船者の構造物等に対する心理的な影響を把握することが可能

    2:外力影響等に対する人による制御方法(制御量)及びそれに伴う船体運動状況(状態量)などをリアルタイムで把握することが可能

    3:ひとつの航行環境の中で2隻同時に評価することが可能

フルミッション型操船シミュレーションの概要

避難行動に関する検証

避難行動に関する検証について、当社MOLMECが提供できるコンサルティングの内容は「避難行動の判断基準の検証」と「港外避難の可否の検証」の2つに分類されます。

それぞれの検証内容を見ていきましょう。

避難行動の判断基準の検証

地震による津波が発生した場合を想定し、津波の高さや到達時間を設定した緊急離桟シミュレーションなどの結果を踏まえて、「避難行動の判断基準」を決めることができます。

避難行動の判断基準として検証する項目は、主に以下のとおりです。

  • ・ 港外避難の所要時間(避難準備と緊急離桟操船などに要する時間)
    ・ 緊急離桟の標準操船方法、緊急離桟に備えた陸上側の支援体制
    ・ 錨泊避難の安全性(着底や走錨の可能性)
    ・ 係留避泊手順や係留の強化策

港外避難の可否の検証

緊急離桟シミュレーション結果から得られた所要時間を基に、実際の災害発生時に避難に必要となるアクションの手順や所要時間を求め、港外避難ができるかどうかを検討します。

検証で得られた詳細なデータを以下のように、港外避難のタイムスケジュール表に落とし込むことにより現実的な最善の避難行動指針を策定できます。

港外避難のタイムスケジュール表
【港外避難タイムスケジュールの一例】

海賊・海上テロ対策

最後に、当社が取り組んでいる海賊・海上テロ対策について触れておきます。
当社は2007年2月に、世界的なテロの脅威や頻発する異常気象などの、海の安全を脅かすことが予想される諸事象に対し、その予防と適切な対応のために「安全運航支援センター」を社内に設置しました。

同センターは、24時間365日無休の監視体制で、航行安全に関する情報を対象船舶や関係者に発信することを通じて安全運航を支援しています。

海上保安庁や関係機関と合同で実施した海賊・海上テロ対策の訓練でも、危機に直面している船舶やその管理会社、海上保安庁との緊密な連携を取るキーステーションとして重要な役割を果たしています。

ここからは、当社が海上保安庁や関係企業・団体とともに実施した、海賊・海上テロ対策の官民連携訓練や重大海難事故の緊急対応訓練の概要を紹介しましょう。

VLCC「KAMINESAN」の海上テロ対策官民連携訓練

当社は2007年12月に海上保安庁などと合同で、南シナ海航行中のVLCC(Very Large Crude Carrier)「KAMINESAN」にて海上テロ対策官民連携訓練を実施しました。

超大型タンカーがテロリスト=シージャック犯に追尾されている想定での、緊急時の現場の対応や通信を主体にしたリアルな訓練です。緊迫感あふれる訓練の内容を見ていきましょう。

日本から中東に向け南シナ海を航行中の「KAMINESAN」が、シージャック犯と思われる高速ボートに追尾されている想定で訓練が開始されました。

シージャックの危険を察知して船舶保安警報を発信し、船舶管理会社に緊急事態の発生を通報します。船舶においてすべてのドアーの施錠や緊急避航操船、放水などを行い、不審者の移乗を阻止しました。

船舶管理会社は連絡を受けて直ちに当社の「安全運航支援センター」に報告し、情報交換を行います。海上保安庁は同管理会社から報告を受けると直ちに、東南アジア地域に派遣していた巡視船に連絡して現場海域へ急行させました。

テロ哨戒のために巡視船「しきしま」は現場に向かいつつ対象船舶と交信し、海上保安庁へ状況を報告します。その情報を、海上保安庁や船舶管理会社を含む関係者と共有します。

巡視船がほどなく駆けつけて、テロリストによるシージャックの発生を未然に防ぐ事ができました。

この訓練で海上テロに遭遇する緊急時の、情報伝達の手段や方法の妥当性を確認し、船舶の危機管理体制を各関係先との伝達経路も含めて検証できました。

LNG船「エルエヌジーヴェスタ」の海賊対策官民連携訓練

当社は2009年7月に海上保安庁ほか関係機関と合同で、海賊対策官民連携訓練を実施しました。訓練は沖縄県の沖大東島南東沖を航行中の当社のLNG船「エルエヌジーヴェスタ」が海賊と思われる不審な船舶に追跡・接近を受けている想定です。

同船は直ちに船舶保安警報を発信します。海上保安庁運用指令センターと同船の船舶管理会社に海賊遭遇を通報しました。

連絡を受けた直後に、船舶管理会社は当社の「安全運航支援センター」に報告しています。その後も「エルエヌジーヴェスタ」は関係官庁や船舶管理会社などと、必要な情報交換を行っています。
一方、海上保安庁は同船から報告を受けると直ちに、東南アジアに派遣されていた巡視船「みずほ」を海賊対策のために現場海域に急行させました。その途上にも同船と交信し、状況を逐一海上保安庁へ報告します。

「みずほ」から得た情報を、海上保安庁は船舶管理会社を含む関係者と共有しました。海上保安庁の巡視船「みずほ」が現場に急行して緊迫感に包まれる中で、不審船舶は同船の襲撃を断念します。

「みずほ」は搭載ヘリコプターによって船上全般の安全確認を実施し、海賊らしき者は船上に侵入していないことを確認しました。

関連するプレスリリースはこちら

巡視船「みずほ」より見た「LNG MARS」 (海上保安庁提供、プレスリリースより)巡視船「みずほ」より見た「LNG MARS」
(海上保安庁提供、プレスリリースより)

重大海難事故の緊急対応訓練

当社は2013年11月に、海上保安庁の協力のもと重大海難事故に備えた緊急対応訓練の一環として、当社の自動車船にて海難対応訓練を実施しました。

訓練はインド洋を航行中の当社自動車船で燃料油漏洩が主機から発生したため、直ちに主機関を停止した上で修理作業を開始するも、ソマリア沖で海賊と思われる暴徒たちの襲撃に見舞われたという想定です。

当社は同船から海賊に襲撃された旨の緊急連絡を受けて、社内に重大海難対策本部を緊急設置し、関係者間での情報の収集と整理、共有などの初期対応、同船への指示、そして模擬記者会見を実施しました。

ソマリアの海賊に襲撃された場合の当社運航船における対応と情報伝達が、円滑で的確に行えることを確認しました。

海の安全を担保して悠々と港湾・海上業務を!

海上や港湾では自然災害や船舶事故、海賊、テロリストなどのさまざまなリスクがあります。海洋事業を憂いなく操業するためには、そういったリスクに対して予め防災対策・危機管理対策を講じておくことが欠かせません。

商船三井グループは海の安全を守るために、防災および危機管理に関しての研究と対策に取り組んでいます。海洋事業に携わるみなさんは防災や危機管理でお悩みがあれば、お気軽に当社またはMOLMECにご相談ください。

 

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