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海運業界のDXは何から取り組めばよい?事例と考え方をわかりやすく紹介

  • 海運全般

2022年03月29日

今や国を挙げての盛り上がりを見せるDXは、2018年頃にその必要性が叫ばれ始めました。労働力不足を補う自動化やコロナ禍による非対面化、オンライン化などの需要が背中を押し、DXは次世代ビジネスに向けて進展しています。

船舶を含む“海”に関する様々な事柄(本ブログでは「海事」と呼びます)においてもDXは進行中です。とはいえ、海事のDXとはどのようなものを指すか分かりにくいという声も聞かれます。今回は海事のDXが望まれる背景を紐解き、進みつつある海事のDXについてわかりやすく解説しましょう。

海運業界のDXとは?

海運業界のDX

海運業界のDXとは一体どういうものを指すのかを理解するために、ここではまずDXとはそもそも何なのかを再確認しましょう。その上で海事のDXが望まれる背景を紹介し、想定される海事のDX案件を解説します。

DXを再確認しよう

DXという言葉は、最近ではよく聞かれるようになりましたが、その意味するところを正しく認識している人はそう多くないかもしれません。

DXはDigital Transformationの略称で、企業がデジタルテクノロジーを活用し、新しい時代のマーケットに対応できる革新的なビジネスモデルを確立することを意味します。

Transformationとは本質が変わることです。つまり、単に製品やサービスのデジタル化にとどまらず、ビジネススキームそのものが変革することまでをも含むのがDXの概念です。

製造業を例に挙げて説明しましょう。

従来ではメーカーは、製造から出荷までのクオリティの担保を行うのが一般的でした。しかし、DXの一環としてセンサー技術やロボット技術が駆使されたIoT製品が出荷されると、流通後の消費の現場から情報がフィードバックされます。

そうすると、フィードバックを受ける体制の精度を高めることで、ある個別の製品の動作に改善点が認識された場合に、その製品に紐付く情報をたどることが可能です。

そうすれば、工場のラインのどこをどう変更すればよいかまで、速やかに特定できる可能性があります。それは直ちに、それ以降に製造される同種の製品の品質向上に反映されるでしょう。

新しい技術が次々に生まれる現代では、ユーザーの情報感度が高まっており、より品質の確かなものが求められます。それに応えられないメーカーは、淘汰されてゆくでしょう。

つまり、それぞれのメーカーが現在の位置付けであり続けるためには、DXによって従来のプロセスに変革をもたらし、ユーザーのニーズに寄り添う生産フローを実現することが重要なのです。

以上はあくまで一例ですが、あらゆる業界、業種のそれぞれの企業は、これまでのビジネスのOSでは早晩限界が訪れます。すなわちDXは、次世代に対応する新しいバージョンのビジネスのOSをインストールすることだと言い換えてもよいでしょう。

海事のDXが望まれる背景

海事においても、DXの進展が望まれています。その背景には主に以下の3つの課題があります。

  • ●船舶の航行の安全性の向上
  • ●船員不足への対応
  • ●港湾業務および手続きの効率化

船舶の航行の安全性の向上

操船をサポートする技術が発達すればヒューマンエラーをなくしていき、安全性と効率の向上が期待できます。

また、危険な海域での航行や作業も無人操船や遠隔操作できる作業ロボットに任せることで、人命の危険を伴わずに業務を進めることが可能です。

船員不足への対応

船員のなり手が少ないことによる船員不足が叫ばれています。船員は一度乗船するとしばらくは戻ることができません。海上での生活は普段の生活よりも何かと不自由になり、制約がつきまといます。

業務自体も楽なものではなく、危険も伴うものです。そのため若年層において船員を志望する人が少ないのは、時代の流れや価値観の変化からすればある意味、自然なことともいえるでしょう。

少ない人員で海運を操業することは、ヒューマンエラーを招く要因になるリスクがあります。
しかし自動運航や無人運航の技術が発達すれば、船員不足を解消する方向に向かうと考えられます。

港湾業務および手続きの効率化

港湾関連の業務や手続きは、いまだにアナログな部分が多く見られます。人が関わる部分が大半なので、当然ながらヒューマンエラーも発生します。

アナログゆえの非効率な面は否めず、港湾における荷役や通関などの業務効率の改善が望まれているのです。

これら諸々の事情が背景となって、海事においてのDXの進展が望まれています。

想定される海事のDX案件

海事のDXとして想定される案件とは、大きく分けると「船のDX」と「港湾のDX」の2つです。

船のDXに関しては、当社が取り組んでいる「ARナビゲーションシステム」と「無人運航船」を紹介します。

港湾のDXとしては「アナログな手続きの電子化・自動化」と「ロボットによるバンニング・デバンニング」を紹介しましょう。こちらは発展途上のテーマで現実化するための準備段階として認識してください。

ここからは船と港湾に分けて、DXの概要を見ていきましょう。

 

 船のDX

船に関するDXを理解するために、まずその主な目的を解説します。その上で、船のDXの主な試みを紹介しましょう。

  • ● ヒューマンエラーによるミスをなくす
  • ● 操船が難しい環境でのサポートとなる
  • ● 危険な海域への運航や作業をロボットに任せる
個別に見ていきましょう。

ヒューマンエラーによるミスをなくす

現在、日本人の船員が大変不足しています。外航船は外国籍の船員が乗船できるので問題ありません。しかし内航船は日本人しか乗船できないので、船員不足が深刻です。

船員不足は限られた日本人船員の労働環境に反映されて、通常でも起こり得るヒューマンエラーが増大する要因となります。

ヒューマンエラーは業務上の些細なミスで済んでいるうちはよいですが、船舶事故につながると甚大な被害に及ぶことも珍しくありません。海の安全を守るために、無事故を目指してヒューマンエラーをなくすことが切望されます。

そしてヒューマンエラーの回避に大きな役割を果たせるのが、DXによるサポートです。

操船が難しい環境でのサポートとなる

船舶の航行は、海上のさまざまなコンディションの影響を受けます。熟練した一流の操船者であっても、霧の出ている時や暴風雨などのイレギュラーな天候・気候の下では操船が困難です。

操船が難しい環境で威力を発揮するのが、DXによるサポートとなります。

危険な海域への航行や作業をロボットに任せる

災害や放射能などの汚染、紛争や海賊の出没などが想定される海域への航行や作業は船員に危険をもたらします。

後述する当社も実績を上げている無人運航で目的地に向かったり、ロボティクスを応用して海上での任務や作業を遠隔操作でロボットに行わせたりできれば人が危険を冒す必要はありません。現代のテクノロジーでは、それが不可能ではなくなりつつあるのです。

船のDXの主な試み

船のDXの主な試みとしては、「ARナビゲーションシステム」と「無人運航船」が挙げられます。個別に詳しく見ていきましょう。

ARナビゲーションシステム

当社が手がけるARナビゲーションシステムは、拡張現実(Augmented Reality)技術を活用して大型船舶向けに航行、操船をサポートするシステムです。

船舶の前方を撮るカメラの映像がディスプレイに映し出され、その映像上にAR技術にて操船に必要な情報が重畳表示されます。

可視光カメラの活用により、目視で得られるのと同じ映像上に情報が重ねられるので、直感的に状況を把握できるようになっているのです。ディスプレイ上に自船のルートおよび他船情報が表示されるので、常に適切な操船が可能となります。

それは悪天候化や夜間において、より一層の効果を発揮するでしょう。操船者は感じるストレスを最小化しながら、安全航行を持続できます。

ほかにも、船長をはじめ航海士や見張り員などのブリッジチーム内でも、ナビゲーションの映像を確認しながら情報を共有できるので、意思疎通がスムーズになるでしょう。

無人運航船

当社は無人運航船の実現を目標として、ARナビゲーションシステムの技術を活用した自動操船システムの開発にも取り組んでいます。

これまでの数々の実証実験から、2つの成功事例を抜粋して紹介しましょう。

【成功例A:大型カーフェリーの実岸壁自動離着桟の実証実験】

2021年の3月から4月にかけて、自動離着桟の実証実験を「さんふらわあ しれとこ」(商船三井フェリー株式会社所有の大型カーフェリー)を使用して行い、成功を収めました。

大型カーフェリーとしての実岸壁の自動離着桟に成功したのは、世界で初めてです。

茨城県の大洗港実岸壁において行われたこの実証実験では、実際に営業航海で使用されている総トン数11,410トンの大型カーフェリーを使用したのと、実岸壁で実施したという2点において世界初のチャレンジでした。

実施前に「さんふらわあ しれとこ」の操船性能を考慮して、実施要領・操船計画・中止基準などを詳細に策定しています。周到なシミュレーションにより、多種多様な条件下での安全性評価を充分に行いました。

さらには、海上に仮想桟橋を想定した自動離着桟実験も行っています。そして実船においても安全性を確認した上で、実証実験に臨みました。

当社はこの技術をより汎用性が高いものにするために実証実験結果を活かし、他の船種でも同様の実証実験の成功を目指しています。

【成功例B:商業運航内航大型カーフェリーによる無人運航実証実験】

2022年2月6日から7日にかけて、商業運航内航大型カーフェリーを使用した無人運航実証実験に成功しました。この実証実験は「さんふらわあ しれとこ」の、実際の商業航海ルートで行ったものです。

北海道の苫小牧港から出発し、約750kmを隔てた茨城県大洗港に向けての航行でした。この分野では、世界で最長の距離です。しかも約18時間という、昼夜を跨ぐ最長時間となる航行となっています。

「自動避航システム」や「自動離着桟技術」および「物標視認画像処理・測距技術」などの開発要素が、長時間にわたって正常に機能することが検証できたことの意義は非常に大きいといえるでしょう。

この実験に先立って、前月の1月に内航コンテナ船の無人運航実証実験に成功しています。さらに内航カーフェリーを想定したフルミッション高性能操船シミュレータによる検証と実船での検証実験を経て、本番に臨みました。

この成功は、必要とされる機器を搭載することで、船舶の種類を問わず無人運航技術が導入できる可能性を示唆するものと考えられます。

避航ルートを乗組員の感覚にもっと近づけることや、センシング技術の向上などが今後の課題です。当社はこれまで深めてきた知見に、さらにコンピュータービジョンなどのAI技術を融合することで課題の解決を目指しています。

Sunflower Shiretoko 商船三井フェリー

出典:商船三井フェリー

船のDXがもたらすメリット

R技術による操船のサポートシステムが充実すれば、船員不足を解決する糸口となるでしょう。操船技術に関してロースキルの人でも、システムのサポートによって安全で効率の良い航行が可能になります。

結果的にヒューマンエラーをなくして航行の安全性を高め、船員不足を解消して、その上人材確保の選択肢が広がるのです。

自動操船や遠隔操船の技術が進めば、危険な海域や災害の現場には、人が乗船しなくても航行できます。また、通常ルートの平易な運航便にも無人運航便を加えていくことで、日本人船員の数が少なくても余裕を持って業務が回るようになるでしょう。

さらに陸上に居ながらにして遠隔で任務を果たせるなら、船員の労働環境も改善して職種のイメージそのものも変化します。そうなれば、現在は苦労している人材確保も容易になることでしょう。

港湾のDX

港湾に関するDXを理解するため船のDX同様に、まずその主な目的を解説し、その上で港湾のDXにおける主な試みを紹介しましょう。港湾のDXの代表的な取組み課題として、以下のようなものが挙げられます。

  • ● アナログな手続きの電子化・自動化
  • ● ロボットによるバンニング・デバンニング

アナログな手続きの電子化・自動化

港湾関連の手続き(通関業務など)に関しては、まだまだ書類や印鑑などが絡む、アナログでマンパワーによるものが多く見られます。そのため、時間と手間がかかり、書類の不備などがあるとさらにロスが出るでしょう。

これらを電子化・自動化することで、ヒューマンエラーも回避できてフローが効率的に進みます。従事するマンパワーも減らすことができるでしょう。

たとえば書類を電子化や二次元コード化したり、前もって通関業務の予約をしたりできれば手続きも手間が省けます。時間短縮もできて、業務プロセスがスムーズに運ぶことでしょう。

ロボットによるバンニング・デバンニング

港湾における保税地域のコンテナヤード(CY)やコンテナフレイトステーション(CFS)での積荷や荷降ろしの業務も、アナログなマンパワーに依存する作業が多いです。

バンニングは貨物をコンテナへ積み込む作業のことで、デバンニングは貨物を逆に取り出す作業を指します。フォークリフトを使って貨物を運んだり、取り出したりする作業です。

これらの作業もロボットが効率よく行う日も、やがて訪れるでしょう。例えばAmazonの物流倉庫でロボットが搬送作業を行うシステムをイメージしてください。

何から始めるべき?港湾のDX

港湾のDXに取り組む要点はここまでに述べたとおりですが、いざ始めるとなると何から手をつければよいのか迷うかもしれません。

そんな状態で、一足飛びにDXに取り組むのは現実性に欠けるでしょう。ここではいずれDXを導入する際の準備を始めるための、手引きとなる考え方を紹介します。

ゲートでの手続きや荷役の効率化や自動化のためのフローの整理

港湾関連の業務はたくさんありますが、最初からあれもこれもと着手することは不可能です。優先順位をつけなければなりません。

まずは、貨物のゲート(出入り口)での手続きや荷役の手順など、基本的なフローを整理することから始めましょう。そこにはおそらく改善すべき点がいろいろと埋もれているのではないでしょうか。

これまで慣例的に行ってきたやり方が本当に効率的なのかという視点で、フローを点検・整理するのです。それを実行すれば、業務のスムーズな進行を妨げる要素、つまりボトルネックが見つかる可能性が高いと考えられます。

それを電子化、自動化、無人化するアイデアを考えることがDXにつながるのです。そういう観点から日常のルーティンを整理してみれば、改善のヒントが見つかるでしょう。

導入した場合の経済効果を検討する

DXを導入するためにかかるであろう費用と得られる効果を考え合わせた、経済効果を検討しておきましょう。それによって、実行する項目としないほうがよい項目を、あらかじめ峻別しておくのです。

次の時代に備えて下地を作る

ゲートのフローを整理し、経済効果を検討しておくことで、できることとできないこと、すべきこととしないほうがよいことなどが見えてくるでしょう。

いずれにしても、現状のままでずっと進むことは時代が許さないことははっきりしています。ここで紹介したような準備を手がけて、次の時代への下地を作っておきましょう。

そうすれば、いざDXに本格的に取り組む際に対応しやすくなります。また、技術革新が進んで考えを上書きする必要に迫られることもあるかもしれません。それでも、下地ができていれば柔軟に対応できるはずです。

ボトルネックを見つけ自動化を検討することから始めよう

海事のDXは海の安全の確保や船員不足の解消、港湾関連の手続きや倉庫業務の効率化などが主な要素となります。海運や港湾関連の企業において、それらは共通の課題ともいえるでしょう。
とはいえ、一足飛びに全てを解決できるわけではありません。まずは現業の業務フローを見直して整理し、ボトルネックとなる要素を見つけ、自動化や無人化ができないかを検討することから始めましょう。

なお、株式会社商船三井は経済産業省が定めるDX認定制度に基づく「DX認定事業者」に選定されています。

当社の海事コンサルティングのスキルと、DXに対する取り組みでも培われるノウハウを駆使して、海事関連のDXの取り組みでお困りのみなさんのお力になれると考えております。ぜひ、お気軽にご相談ください。

 

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