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FSRU向けLNG「再ガス冷熱発電」システム (後編) ~Cryo-Power Regas Development History~

  • エネルギー

2022年02月08日

本ブログ前編でご紹介した通り、当社はFSRUの再ガス化プロセスにおいてCO 2排出量を55%削減するCryo-Powered Regas(再ガス冷熱発電)システムを開発しました。

後編である本ブログではどのように当該システムが開発されたのか、その道のりについてご紹介します。

Cryo-Powered Regas(再ガス冷熱発電)プロモーションビデオも合わせてご覧ください。

Cryo-Powered Regas(再ガス冷熱)システムの開発は
どのようにスタートしたのか?

当社は2017年からFSRUの再ガス化システムに冷熱利用を適応する検討を始めました。2017年には、当社初のFSRUである「MOL FSRU Challenger」 が竣工し、同船の再ガス化システムには海水を直接利用する直接熱交換方式を採用していました。その後、次世代技術として、グリコール水を中間加熱媒体として利用する 「グリコール水間接加熱再ガス化システム」 が主流となりました。再ガス化技術が革新していく中で、当社はよりエネルギー効率のよい環境にやさしい技術を追求していきました。

当社が注目したのは、LNGの再ガス化によって大量に発生し、海水に排出されている「冷熱エネルギー」 です。海運業界では2015年頃から船舶のCO 2排出量削減技術の一つとして、主エンジンの掃気冷却で発生する排熱を利用した 「バイナリー(温度差)発電システム」 の導入検討が出始め、当社はLNGの冷熱エネルギーを利用したバイナリー発電ができればCO 2排出削減が期待できると考え、本検討が本格化しました。

その2年後の2019年 に、当社は当技術の共同開発パートナーに目途が付きました。蒸気タービン発電機の優れた実績を持つMHI-MME (三菱重⼯マリンマシナリ株式会社)はタービン発電機を核とし、海洋技術のリーディングカンパニーであるDSME(大宇造船海洋)と新しい再ガス化技術を共同開発することに合意しました。
本技術を「再ガス冷熱発電」(Cryo-Powered Regas)、また本技術を搭載したFSRUを 「CPR FSRU」 と名付けました。

再ガス冷熱のロゴ(シンボルマーク)
どのように生まれたのか?

この新技術がどのエネルギー源を利用しているのか、またこの新技術がどのようなメリットをもたらすのかを一目で顧客に理解してもらうために、開発チームでCPRシステムのロゴ(シンボルマーク)作りを開始しました。

電球は 「発電」 を表し、雪の結晶は 「冷熱」 を表しており、冷熱を発電エネルギーとして利用する本システムのコンセプトを表現しております。

 

Cryo-powered regas system MOL DSME

再ガス冷熱開発の道のり

開発チームはこの新技術を具現化し、環境貢献だけでなく、お客様に燃料節約のメリットを還元することを目指して、市場導入に向けて次のステップに進み始めました。

その最初のステップとして、当社とDSMEは、ORC (Organic Rankine Cycle:有機ランキンサイクル) の基本設計に取り組み、冷熱エネルギーからできるだけ多くの電力を得ることを目指しました。設計の基本となる主要機器の構成や機器の種類に応じた各種検討や使用する冷媒の特性について可燃性や爆発性はないが発電性能が高いものを探求するなど多くの試行錯誤を重ね、最終的にMOL&DSMEは、このシステムが船級規程で検証されていることを証明するBV (Bureau Veritas) AIP (Approval in Principle) を取得しました。

 

MOLとDSMEは再ガス冷熱発電システムの設計基本承認を取得

 

次のステップとして、システムの安全性を確保し、確かなものにするためにBVが実施したシステムの基本的なリスク評価であるHAZID (Hazard Identification Study)、 HAZOP (Hazard and Operability Study) とRAM (Reliability, Availability & Maintainability Study)の成功を目標とし、検討が開始されました。

当社・DSME間の定期的な面談を通じ、顧客の様々なニーズに対応するために当社独自の柔軟かつ安全な設計基準を組み込むことで、詳細設計が進められて行きました。主要な設備設置計画とP&ID (Piping & Instrumentation Diagram) *が数ヶ月後に完成しました。

また、開発にあたってはFSRUをLNG船として活用する際の事も考慮しました。これまでFSRUの主機は再ガス化に必要な電力を賄うため、大容量の発電が可能なDFDE(Dual Fuel Diesel Electric : 電気推進システム)が主流でしたが、最新の2ストロークDF(Dual Fuel)主機採用の推進システムに比べ燃料効率が良くありませんでした。ただCPRを適用することで、FSRUとして運転する際に、再ガス化に必要な電力の一部を冷熱発電で賄う事が可能になり、代わりにディーゼル発電機の小型化を実現しました。これによりDFDEよりも燃料効率がよい2ストロークDF主機の搭載が可能になりました。その結果、LNG船としての航行する場合においても、省エネルギーを実現できるようになったのです。

(*) P&ID:Piping&Instrumentation Diagramの略。プラントの機器の配管と接続を示す特殊な記号で表された配管計装図です。

第三のステップとして、HAZID、HAZOP及びRAMを実施しました。コロナ禍のため、対面式のワークショップは開催できませんでしたが、数日間にわたりリモートベースでのワークショップを行い、従来の再ガス化システム(グリコール水を用いた間接熱交換方式や、海水を用いた直接熱交換方式)に対して安定的に運転できることを示すことが出来ました。

最終的に、商業上許容される基準を示し、同リスク評価は成功裏に完了しました。並行して、プロモーション映像と共に、プレゼンテーションを実施し、様々な顧客から反響を頂きました。

CPR FSRUのHAZID CPR FSRUのHAZOP  CPR FSRUのRAM

 

このソリューションをお客様に提供するための最終ステップとしてパイロットプラントを用いた実証実験の段階に入りました。DSMEのR&Dセンターで実証実験が行われることになりましたが、コロナ禍によりパイロットプラントの完成までに1年近くの期間を要しました。

コロナウィルスの拡大により、DSMEの現場ではパイロットプラント用の機器や付属品を予定どおりに納品できず、また、海外からの関連技術者の多くも参加できませんでした。韓国国内のサービスエンジニアとMHI-MMEエンジニアのみがパイロットプラントの最終デモ運転に立ち会うこととなり、トラブルシューティングに際しては現場で実際に立ち会えなかった関係者たちがリモートで連携を取り合いました。

当社は、デモ運転及び各種テストを通じ、「再ガス冷熱発電」を安定的に運転することに成功しました。
様々な障害を乗り越え、共同でシステムの機能・性能を問題なく実証・確認しました。

また、プロモーションムービーが完成しましたので、ぜひご覧ください。

【デモンストレーション中の写真】

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実機よりも小さいテスト機による実証実験を通じ、我々が期待するパフォーマンスの理論値が実験結果と一致していることが検証できました。当実証実験の結果はある程度のマージンを以て計算されている為、実規模のシステムでは同様かそれ以上のパフォーマンスを示すことが期待されます。

世界における当社の目標と役割

参入障壁が高いFSRU事業で、当社はアジア地域初のFSRUプレイヤーとなりました。商船三井は従来のLNG船事業に加えて、FSRUなどの下流事業にも事業領域を拡大し、FSRUの主要プロバイダーとしての地位を確立すべく継続的に取り組んでいます。

当技術を採用することで、最大55%のCO 2及び燃料消費の削減、70%のNOx削減が可能になります。当社は、再ガス化技術のトレンドを作り、お客様に大きなメリットを提供することで市場をリードしていきます。

また、当社は環境ビジョンにおける中長期目標の一つとして、2035年までに2019年比で45%のGHG排出削減を掲げております。「再ガス冷熱発電」技術により、FSRU事業において同目標を早期に達成し、今後も本技術が環境問題に大きく貢献することを確信しています。

DSME MOL FSRU

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