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大型船におけるライフサイクルとは~シップリサイクルの現状(前編)

  • 海運全般

2021年08月02日

日々世界の海を往来している大型船、このような船にも寿命があります。当社運航船でも1984年に就航した当社初のLNG船”泉州丸”が2021年1月、37年の現役生活を終えました。さて、役目を終えた船はどこに向かうのでしょうか?今回は大型船の解撤(解体)と、その後のリサイクル(シップリサイクル)について前後編に分け、現状をご紹介します。前編である本ブログはシップリサイクルの概要、リサイクルをめぐる国際条約、主な解撤国の状況、について触れていきます。

後編はこちらをクリック

シップリサイクルとは…

シップリサイクルとは、技術的、或いは経済的に寿命を終えた船舶を解撤し、得られた資源を再利用する一連のプロセス(参考:Claas NK)のことです。輸送貨物や航行基準等によりますが、竣工から解撤までの期間(”船の寿命”)は、概ね20年前後です。(中古LNG船がFSRUに改造されることもあり、”船のリサイクル”も多様ですが、ここでは”解撤”を伴うシップリサイクルについて着目します。)
船は、重量ベースで95%程度はリサイクル可能といわれており、解撤後、鋼材・非鉄金属材・什器・舶用品・ポンプ・エンジン・発電機等が、再利用されています。


一方で、解撤業が労働集約型の産業である性質上、主要な解撒施設が途上国(後述)にあり、解撤時に取り扱われる有害物質の管理や環境への影響、解撤ヤードでの労働者の安全衛生管理等、に関する問題が国際的に認識されるようになりました。https://www.nationalgeographic.com/magazine/article/The-Ship-Breakers

国際労働機関(ILO)や国際海事機関(IMO)といった国際機関が、改善のための具体的なアクションをスタートさせ、2005 年末IMO 総会において新規条約の策定作業の開始が決議、2009 年「船舶の安全かつ環境上適正な再生利用のための香港国際条約(仮称)」(通称:シップリサイクル条約)として採択されました。このシップリサイクル条約と欧州独自で設定されたシップリサイクルに関する欧州規則について、詳細をみていきましょう。

シップリサイクル条約(香港条約)の批准状況

正式名称は、”Hong Kong International Convention for the Safe and Environmentally Sound Recycling of Ships, 2009”「2009年の船舶の安全かつ環境上適正な再生利用のための香港国際条約」、香港でのIMO会議で、採択されました。この条約は、解撤ヤードにおける労働安全の確保と有害物質の適正な処理処分を確保することを目的としています。
国際機関を中心に、各国政府の協力のもと採択された条約でしたが、残念ながら、2021年現在、条約は発効していません。批准の条件として①15カ国以上の締結②締結国の船腹量の合計が世界の船腹量の40%以上③直近10年間の年間最大解撤量が締約国の船腹量の3%以上、という3つが必要です。2019年秋に、主要解撤国であるインドが批准し、発効要件の1つである締結国数をクリア、残る発効要件は2つとなりました。
条約発効の鍵を握るのはバングラデシュです。中国の主要解撤国で、バングラデシュは2023年までの批准を目指して、国際機関や各国政府とも連携し取り組みを進めています。同条約は発効していないものの、現状でも先進国の船主が解撤ヤードを選定する際の判断基準(作業工程や安全基準の判断)として広く活用されています。

シップリサイクル条約香港

出典:日本海事協会”シップリサイクル規制の最新動向(2019年10月)”

シップリサイクルに関する欧州規則
"EU-Ship Recycle Regulation(EU-SRR)"

シップリサイクル条約を先取りした「シップリサイクルに関する欧州規則(EU-SRR)」は条約水準の船舶管理やリサイクル施設管理を課し、香港条約の早期批准を促すことを目的に、2013年12月に発効、船舶に対する有害物質管理リスト等の要件が2018年12月31日から適用されています。本規則の発効により、EU籍新船は2018年12月31日以降の建造契約または2021年6月30日以降に引き渡しが行われる船舶に対し、また、EU籍現存船及びEU加盟国に寄港・停泊する非EU籍船は2020年12月31日以降、EU規則又は各旗国の法令等に基づき旗国又は代行機関によるIHM(Inventory of Hazardous Materials)の検証及び適合証明の取得が求められることとなりました。(香港条約に適合するIHMはEU-SRR第12条に適合。)

主要な解撤国は?

大型船の解撤はどの辺のエリアで行われているのでしょうか。世界的な主な解撤場所は、アジア域(特に南アジア)に集中しています。2020年DWTベースでは、バングラデシュが約半数(46.3%)を占め、インド、パキスタン、を加えた3か国で解撤量の約90%を占めています。

DWTベースでは多くないものの、トルコも古くから解撤国として歴史があります。主にEU籍船の解撤が多く、小型船やクルーズ船等、多くの船を解撤しています。

解撤国推移 100万DWT

主要3ケ国解撤状況船種別2020

Clarksonsデータより商船三井作成

主要解撤国の状況①バングラデシュ

バングラデシュ チッタゴン地区 船の解体場所前述の通り、香港条約発効の鍵を握るバングラデシュの主な解撤ヤードはチッタゴン地区に集中しています。政府は、2023年までに条約適合を目指す国内法を2018年に策定し、シップリサイクル条約批准に向け準備を進めています。

国内での法整備を進めると同時に国際社会からの支援も受けており、IMO主導で2015年からシップリサイクル改善プロジェクト(SENSREC︓Project on Safe and Environmentally Sound Ship Recycling in Bangladesh)に取り組んでいます。また、ノルウェー政府がバングラデシュのシップリサイクルに対し支援を開始(約150万米ドルを拠出)したり、2020年11月、日本政府関係者や在バングラ大使が解撤ヤード訪問しさらなる改善に協力を約束する等、早期批准に向けて、国際機関・各国の連携が進んでいます。
(地図出典:日本マリンエンジニアリング学会誌 第45巻 第5号)  

バングラ チッタゴン シップヤード

出典:在バングラデシュ日本国大使館ホームページ
(https://www.bd.emb-japan.go.jp/itpr_ja/11_000001_00236.html)

主要解撤国の状況②インド

インド アラン地区 船の解体場所インド解撤ヤードはアラン地区に集中しています。
インド船級協会(IRClass)が2016年以降、アラン地区での解撤作業の安全基準を設定、作業現場の安全衛生管理を徹底する等、労働環境の改善を図るなど、解撤事業の支援を開始。2021年3月現在で、アラン地区解撤ヤードの40%がIRClass認定のISO証明書を取得しています。

こういった取り組みが評価され、インドは2019年にシップリサイクル条約を批准しました。
具体的には、IRClassがアラン地区に作業員向けトレーニングプログラムを導入。2018年には、グジャラート州では、12日間のトレーニングを受けた資格者のみが解撤作業に従事できることとなりました。こうした取り組みが奏功し、2019年の死亡事故は前年から90%減り、2020年はゼロに近いといわれています。2019年にはアラン地区に地元海事局により病院も建設されました。
(地図出典:日本マリンエンジニアリング学会誌 第45巻 第5号)

インドは、シップリサイクル条約批准を契機に、解撤事業に力を入れており、2024年までに解撤キャパシティを倍増する計画(450万トンから倍増 新たに15万人の雇用を創出)で日本や欧州からの解撤船を呼び込み、世界シェアを30%⇒50%に伸ばすことを目指しています。
インドの条約批准には日本の官民が大きな役割を果たしており、日本政府はODA(政府開発援助)を活用し、同国ヤードの改善を支援。ClassNKは35の解撤ヤードを認定しました。日本船主協会も現地に職員を派遣し、安全訓練センターの設立に協力、防護具も提供するなど、インドと日本のシップリサイクル関係は深く、現在、ClassNKは40の解撤ヤードを認定しています。

主要解撤国の状況③ トルコ

解撤ボリュームは多くないものの、欧州に近く、地理的優位性があるトルコ(アリアガ地区)も古くから解撤産業が根付いています。複数の解撤ヤードが、EU-SRRの承認を受け、欧州公認リサイクルヤードとして運営しており、(特に、Leyal Gemi、Sokum-inの2か所が、EU域外の最初のリサイクルヤードとして、EU承認リストに加入)。EU規則の基準をクリアするヤードとして、欧州系の船社が多く認証ヤードを保持しています。視察した在トルコの当社駐在員によると、ヤード全体がシステマチックに運営されており近代化されており、安全衛生管理も計画的に行われているという印象を持ったようです。(参考:Hellenic Shipping News Worldwide, 2018)。また、前述の通り、2019年に香港条約に批准しています。

シップリサイクル主要国別の、シップリサイクルのために売却された報告トン数 推移

出典:UNCTAD”Review of maritime transport 2020”

豪華客船の最後 Ship recycle yard Turkey

2020年COVID-19の影響で、クルーズ客船の稼働が困難となりました。各社は、「老朽船」の廃船処分を決断、解撤予定船がアリアが地区に押し寄せました。複数の解撤場所で、豪華客船が解体の順番を待っている状況です。大手ロイアルカリビアンやカーニバルも、トルコでのクルーズ船の解撤を進めているとの報道もあったようです。

(撮影:当社現地駐在員)  

 

 

解撤後の船舶からは、リサイクル対象品(鉄スクラップ、船内装飾品、家具等)が運び出されます。トルコの製鉄業は電炉がメインのため、スクラップは製鉄所で生まれ変わり、新しい原材料として再利用されることになります。(参考︓トルコは世界最大の鉄スクラップ輸入国)

大型船の解体 Ship Recycle Yard Turkey

シップリサイクルとは…から始まり、関連の国際条約や規制、主要解撤国の状況の一部をご紹介しました。船が誕生し、その役目を終えるまで、船の“つくる責任・つかう責任”を果たしていくことは、船会社の使命の1つといっても過言ではありません。地球環境や解撤現場の安全衛生に配慮した船舶解撤は、持続可能な社会を形成するうえで非常に重要です。また、シップリサイクルは資源の有効活用の面からも、循環型社会に向けた大切な取り組みであり、当社グループ一丸となって取り組みを進めていきます。後編ではその他の解撤国、船社の取り組み、等についてご紹介します。

商船三井グループ
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AKINA.H

記事投稿者:AKINA.H

2014年中途入社。自動車船の三国間輸送の事務、ばら積み船での運航担当等を経て、2020年4月よりマーケティング部門にて本サイトの運営に携わっております。ニュースレターの作成も担当していますので、購読頂けると嬉しいです!仕事には炭酸水とカフェラテ、二日酔いにはトマトジュースです。

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