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大型船におけるライフサイクルとは~シップリサイクルの現状(後編)

  • 環境負荷低減
  • 海運全般

2021年11月09日

大型船の解撤(解体)と、その後のリサイクル(シップリサイクル)について前後編に分けて現状をご紹介している本ブログ。前編ではシップリサイクルの概要、関連の国際条約や規制、及び主な解撤国の現状を一部ご紹介しました。後編ではその他の解撤国、海外船社のシップリサイクルに関する取り組み、及び解撤ヤードの需給見通しについてご紹介します。

ブログ前編はこちら

前編では、主な解撤国としてバングラデシュ・インド・トルコをご紹介しました。次に、3つの国に次ぐ解撤量のパキスタン・中国の状況をご紹介します。

主要解撤国の状況④ パキスタン

パキスタン ガダニ地区パキスタンは、条約批准に向けての活動についてはあまり情報が公開されていない為、批准に向けて具体的な活動を行っているかよくわからないのが現状です。2016年にタンカーのガスシリンダー爆発事故で29名が死亡する事故(オイルの抜き取りが不十分であったことが原因である可能性が高いといわれています。)この事故を契機にガダニ地区での過酷な作業状況が世界から注目されるようになりましたが、目立った改善のニュースは見当たらないのが現状です。

同国における2019年のリサイクル量は、2017年に比べ大幅に減少しています(下図参照)。税制や為替における不利な条件が原因と言われていますが、今後の活動が注目されています。

 

 

 

ship recycle tonnage by major country and vsl 2017-2019 出典:UNCTAD”Review of maritime transport 2020”)
2017~2019年の国別シップリサイクル量推移。2019年主要解撤国の中で、パキスタンのシップリサイクル量の割合が最も大きく減少。

主要解撤国の状況⑤ 中国

中国は、1990年代主要な解撤国として多数の船の解撤が行われていました。2000年代に入り、政府は環境保護の観点から解撤に関する法律を厳格化し、さらにビーチング方式での解撤を禁止したため多数の解撤ヤードが廃業に追い込まれました。

中国政府は、その後も環境保護に関する取り組みを加速させていき、2019年1月1日以降、政府は、外国籍船の解撤を禁止しています。現在、中国籍船のみ解撤可能となっており、解撤量は年々減少傾向にあります。

(中国では、鉄スクラップの輸入も禁止されていましたが、高まる資源需要に対応するため、2021年1月から、スクラップ輸入に関する規制は緩和されています。)

日本での取り組みは?

環境・労働安全に配慮したリサイクルの実施は、海事産業全体の持続的な発展にとって必要不可欠です。日本では、国土交通省・船主協会・日本海事協会と邦船各社が連携し、比較的早いタイミングから、シップリサイクル条約の批准に向けて、インド等を中心に支援を行ってきました。

また、現状の解撤ヤードが安全に解撤が行える場所であることを証明するための認証制度を設ける動きも広がっています。日本海事協会が、インドやトルコ、バングラデシュ等にある解撤ヤードに専門の検査員を派遣。現地で、安全面や環境面に配慮されているかどうか、一つひとつのヤードを確認し認証を与えています。(当社では、”日本海事協会が認証したヤードでの解撤”を定めています。)
ClassNK gives Bangladeshi ship recycler PHP the thumbs up
(出典:Tradewind 2020年1月15日付け記事

海外の船社の取り組みは?

大手海外船社の解撤に対する取り組みはどのような状況でしょうか?

① Maersk
自社ホームページにおいて、「責任ある船舶リサイクル」について言及しており、定義や背景、そして活動結果と今後の展望を公表。同社は、ISO14001 やOHSMS 18001の認定を受け、環境や安全性に関する厳格な国際基準を順守している施設を、船舶解体場所として選び抜き、シップリサイクルの分野に早くから積極的に関与してきたことが伺える。SRTIの立ち上げから、メンバーとして参画。2009年以降、独自の解撤方針を定め公表しており、この10年間にインド アラン地区解撤ヤードへの投資、労働環境の改善、技術者トレーニング等積極的に実施している。

② Hapag-Lloyd
自社ホームページ上で、シップリサイク方針公表。「SRTI」創設メンバーとして、安全・環境に配慮した解撤に努める方針。また、SRTIを通じて、業界全体の解撤レベルの底上げを志向している。EU域内での地域規制(EU規則)を遵守しており、EU籍船の解撤場所に関して、同社認定ヤードに限定するなどの独自ルールを設定。認定ヤードを掲載した「EUリスト」には米国、トルコなどの欧州域外も含め43カ所が名を連ねる(欧州委員会ホームページより)。

③ Teekay
自社ホームページ上で、シップリサイクル方針を公表。2017年以降、インドでLNG船4隻の解撤を進める。解撤ヤードの条件として、シップリサイクル条約に合致していることをあげている。6-8か月の解体期間、同社社員が定期的にヤードを訪問し、HSEQ(Health, Safety, Environment & Quality )performanceのモニターや検査を行う。同社は8番目のSRTIメンバー。条約基準を超えてシップリサイクルの責任を明確にする新基準を設定する取り組みを進める。

上記でご紹介したような欧州船社は、まだ欧州の基準をクリアできていないという理由から、現時点ではバングラデシュでの解撤は行わない方針を示しています。

循環型経済にむけて-シップリサイクルの重要性-

船舶には、良質な鉄が含まれており、9割前後リサイクルが可能と言われています。解撤で出された鉄スクラップを電炉にて溶解・製錬することでできた鉄鋼は二酸化炭素の排出量を低減できることもあり、脱炭素にむかう世界でスクラップの需要が増加傾向にあります。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)の観点から、船舶が安全でより環境負荷の低いスキームで解撤され、資源が有効活用されるニーズがますます高まっていくでしょう。当社は、船会社としての“つくる責任とつかう責任”という観点から、シップリサイクル事業について検討を重ねていきます。

商船三井グループ
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AKINA.H

記事投稿者:AKINA.H

2014年中途入社。自動車船の三国間輸送の事務、ばら積み船での運航担当等を経て、2020年4月よりマーケティング部門にて本サイトの運営に携わっております。ニュースレターの作成も担当していますので、購読頂けると嬉しいです!仕事には炭酸水とカフェラテ、二日酔いにはトマトジュースです。

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