2024年09月10日
日本の海運業界における環境イノベーションの先駆けとして、商船三井は2023年に大阪~別府航路にて「さんふらわあ くれない」と「さんふらわあ むらさき」を就航しました。110年を超える伝統ある航路に新たなエネルギーを吹き込み、環境への影響を大幅に減少させることを目的としています。LNG(Liquefied Natural Gas:液化天然ガス)燃料への転換は、海運業界における低炭素化、脱炭素化への道を切り拓く重要なステップであり、また単に環境保護の観点だけでなく、物流業界で注目されているモーダルシフトを促進し、将来の運送手段としての革新を示唆しております。本記事ではLNG燃料フェリープロジェクトの担当者へのインタビューを交えながら、当社の環境負荷軽減への取り組みを前編・後編にてご紹介します。
日本初のLNGを燃料として航行する大型フェリー「さんふらわあ くれない」と、その姉妹船「さんふらわあ むらさき」が2023年、遂に営業航海を開始した。この2隻の名前は、今から100年以上前の1912年に大阪商船(現:商船三井)が大阪~別府航路に投入した1,000トン超の貨客船、初代「紅丸」と、1921年に投入された姉妹船「紫丸」に由来する。第1世代は石炭燃料の船舶だったが、1924年に就航した2代目は、いち早くディーゼルエンジンを導入し、現代まで続くディーゼル船の先駆けとなった。そして1960年に就航した3代目は、その豪華な内装から「瀬戸内海の女王」として愛されるとともにバルバスバウ(造波抵抗を打ち消すため船首に設けられた突起)を搭載した高速船としても名を馳せた。
日本初のLNG燃料フェリー「さんふらわあ くれない」
1900年竣工の初代「紅丸」
今回、2隻の船が先駆者たちから受け継いだのはその名前だけではない。革新的な精神である。すべてが新しいことずくめ。特に陸からのLNG燃料供給システムの開発と付随する契約の概念は、これまで経験したことのないまったく異質のものだったという。しかし、その挑戦があったからこそLNGを燃料とすることができ、従来よりもCO2は約25%、NOxは約85%削減できる、高い環境性能の船を作り上げることができた。
このプロジェクトで主に燃料供給に関する業務を担当した燃料GX事業部の青山憲之は、1番船の「くれない」が1月13日に大阪南港を出航した際の気持ちを、「とにかくホッとしたというのが最初の感想だった」と振り返る。
この船の検討がスタートしたのは今から5年ほど前のこと。海運業界のリーディングカンパニーとして、常に5年後、10年後の未来を見据えて事業に取り組んできた商船三井だが、これまで何の不自由もなく使い続けてきた重油に、ある種の見切りをつけ、LNG燃料への転換を推し進めていくというこのたびの選択は、相当に勇気のいるものだった。
「社内横断組織を立ち上げての、文字通り、集中力と献身を要するプロジェクトで、私もこれまでとは違う大きなプレッシャーを感じていたのだと思います」と青山は続ける。
同じく燃料GX事業部の鳥居航は、「自分が思い出すのは、就航の約1ヶ月前に行われたLNG燃料供給トライアルの場面です。タンクローリーとスキッドと呼ばれる導管が接続され、船にLNGが供給される様子を…といっても、はたから見るとただメーターが動いているだけなのですが、調達元の九州電力さんの担当の方たちも含め、皆が寒い中、何時間も黙って見守り続けていたときの光景が今も強く印象に残っています」と話す。
左:燃料GX事業部 青山憲之 右:燃料GX事業部 鳥居航
これら2隻のフェリーの最大の特長は、LNGと重油それぞれを燃料として使用できる高性能Dual Fuelエンジンを国内フェリーで初めて搭載している点である。LNGとは、メタンを主成分とする天然ガスを−162℃まで冷却して液体にしたものだ。液化の前工程で硫黄分を除去しているので、燃やしても硫黄酸化物(SOx)や粒子状物質(PM)をほとんど排出せず、二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物(NOx)の排出量も他の化石燃料に比べるとかなり少ない。
そんなLNGを燃料としたことで、先にも述べた通りCO2排出量は約25%、NOx排出量は約85%削減し、環境にやさしい輸送方法といわれる海上輸送の中でも、より環境負荷の低減に貢献しうる船舶となった。
LNG燃料船による環境貢献
また、輸送サービスの質においても、「くれない」と「むらさき」は大きな進化を遂げている。以前、同航路に投入されていた「あいぼり」「こばると」に比べ、トラックの積載台数は、92台から137台へと大幅に増加した。さらに、ドライバーのための快適な設備も導入されている。完全個室のドライバーズルームには洗面所とベッドが完備され、専用の浴場も設けられた。これらによって、トラック輸送から環境に優しい海運や鉄道への切り替え、いわゆる「モーダルシフト」を促進し、ドライバーの労働環境の改善にも寄与することが期待されている。
ドライバーズルーム
ドライバー専用の浴場
そしてもう一つ、忘れてはならないのが、旅客サービスとしての利便性や快適性の向上だ。乗船後、まず目に飛び込んでくる開放的なアトリウムは段違いの3層吹き抜け構造となっており、旅人たちの高揚感を掻き立ててくれる。客室区画は定員1人当たり面積を拡大し、最上階8階の客室にはクルーズ船並みのバルコニー付きスイートフロアを設けた。船尾にはペットと一緒に過ごせるデラックスキャビンも用意されている。最先端の技術により、高い静粛性を実現しているのも、快適な旅客サービスには欠かせないポイントだ。
「はじめて乗船したとき、ファンネルから黒い煙がまったく出ていないのを見て、『LNG燃料フェリーが本当に就航したんだ』と改めて実感しました。油の匂いも一切しません。コロナ禍が明けて、今、伸びているというカジュアルクルーズ需要も満たしてくれる、本当に良い船だと思います」と青山はしみじみと語った。
3層吹き抜けの船内アトリウム
バルコニー・バス・トイレ付のスイートルーム
(後編へ続く)
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