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2020年~2021年の米中貿易を振り返る

  • マーケット分析

2022年01月17日

2020年1月に合意された米中貿易交渉「第1段階合意」は、2021年12月末に期限を迎えた。中国の武漢で新型コロナウイルス感染が確認されて以降、その対応を巡り両国互いに批判や対立を繰り返しつつも新型コロナ禍の対応に追われ「第1段階合意」の履行状況、そして、これまでの2年間の米中間の貿易について振り返る。

第一段階合意の履行状況(2020年1月~2021年11月) 

2020年1月、両国は第1段階の経済・貿易協定に合意。合意内容は、①知的財産権、②技術移転、③農業、④金融サービス、⑤為替レート、⑥貿易拡大、⑦紛争解決の7章で構成され2018年7月に関税合戦が勃発して以来初の合意ということもあり、両国政府は本内容について大きな成果と強調した。しかしながら、中国は国内の産業政策の抜本的な見直しを拒否、米国も中国製品の7割弱に制裁関税を課したままの状態に加えデジタル・情報通信等先端技術分野での制裁や取引禁止措置は一段と強化される最中での合意であり、最初からやや前途多難な展開が予想されていた、ことも忘れてはいけないだろう。

第一段階の合意の柱は米中貿易の大幅拡大である。中国は米国からのモノとサービスの輸入を2年間で2000億ドル増加工業品777億ドル、エネルギー関連524億ドル、農畜産品320億ドルを目標とした。 

米国ピーターソン研究所の調査(2021年12月末時点)によると、20201月から2111月までの中国の対米輸入総額は、目標額3,564億ドルに対し、2,219億ドルとなった。また、同期間の中国の全対象製品の購入額は、第1段階の目標の62%(中国からの輸入)または60%(米国からの輸出)にとどまる見込みである。

米中貿易摩擦における第一段階履行状況

第一段階合意の履行状況~中国の対米輸入総額 目標額と実額~
出典:Peterson Institute for International Economics

次に同期間での中国の対米輸入について、品目別にみていく。

農産物は、同期間で801億ドルの輸入を予定していたが、対象の購入額は563億ドルに留まり、第1段階目標の76%となった。製造品については、約2344億ドルを予定していたが、対象製造品輸入は、1370億ドル、目標額の62%。エネルギー製品については、約660億ドルを予定していたが、286億ドルとなり、目標額の47%に留まる結果となった。

 

米中貿易摩擦における第一段階履行状況

第一段階の履行状況~品目別 目標額と実額~
出典:Peterson Institute for International Economics

中国LNG輸入量-1

 

 

 

 

しかし足元では、電力不足を補いつつクリーンエネルギーの利用を拡大するため、中国はLNG輸入を急拡大(中国は2021年通年で日本を抜いて世界最大の輸入国)させている。マーケットポテンシャルの大きさを考慮すると、中国の米国産LNGへの輸入がさらに増加する可能性がある。

中国は、主にオーストラリア、カタールからLNGを輸入しており、貿易摩擦が激化し始めた2018年以降、米国からのLNGの輸入量は減少傾向(20182.3百万トン、20190.3百万トン)にあったが、2020年に3.6百万トン、2021年には9.3百万トンと急増している。2021年は輸入相手先別にみると、1位の豪州31百万トンに続き、米国が2位に浮上。

また、2020年~21年における米国産原油の輸入は、659.2Kbdとなり、2018年~19年の305kbdから倍増した。

 

 

 

 

 

                           中国LNG輸入量推移(国別) 2018-2021
                           参照:IHS Marketi 作成:商船三井

さらに、関税合戦で耳目を集めた米国からの大豆の輸入も、2018年の16.6百万トンから、2021年は26.2百万トンとなり、大幅に増加している。

”大豆の荷動きから見る米中貿易摩擦”の解説はこちら

2022年の見通し

202111月時点で、米中間の貿易拡大について目標達成が難しいことが判明していたものの、米中首脳会談では、「米中経済・貿易協定(第一段階協定)の実施を含む経済問題での協議の進展」がテーマの1つとなった。バイデン政権が重視する対中政策が、貿易不均衡の是正から経済安全保障関連のリスク対応へと移ってきており、今後、議論の中心は、中国の国内産業への補助金を対象とする「第2段階合意」に移っていく可能性が高いと言われている。

バイデン政権発足後も、トランプ政権時の対中政策(対中強硬姿勢)は引き継がれ、米中関係の緊張は、(予想より長期で)継続するという見方が主流となりつつある。米国の産業界では、米中間の戦略的利害関係の対立構造の長期化を認識しつつも、経済貿易面での相互依存は米国経済・各種産業などに利益をもたらすとの観点から、バイデン政権に対し、中国国内の構造的問題などの解決に向けた交渉を求めるとともに、両国政府に対し、制裁目的で相手国の製品に課している追加関税の削減、撤廃などを求める働き掛けを続けている。

米国は国内のインフレが加速する中、輸入品の購入負担を減らす措置として、対中制裁関税の適用除外制度を2021年10月に再開すると発表した。両国は互いに「重要な貿易相手国」であることは間違いない。新型コロナ禍でグローバルサプライチェーンの混乱する中、米中の第一段階の合意で予定していた履行期間を終え、今後どのように両国が歩み寄りをみせるか、注目していく。

米中貿易摩擦における貿易量の変化第一段階合意での目標は達成していないが、貿易量は増加。
出典:GZERO media "the Graphic Truth:Is the US-China trade war over?“

 

2018年にスタートした米中の追加関税の応酬から、米国と中国の2大超大国による衝突が、世界経済の動向を語るうえで共通の”テーマ“となっていた。ユーラシアグループが先日発表したTOPリスク2022の冒頭では、「米中は冷戦状態ではない」としつつも、上位には米中関連のテーマが並んだ。

2022年には、中国で2月に北京オリンピック、秋には5年に一度の中国共産党大会が予定されている。一方、米国でも、11月に中間選挙が予定されており、両国とも内政に相当の力を注がざるを得ない状況が続く。気候変動問題等では協調関係を築きつつ、互いに譲れない「覇権争い」では、緊張関係が続くと見込まれるが、米中のバランスの変化がもたらす影響につき引き続き注視が必要だ。

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Masumi. H

記事投稿者:Masumi. H

2002年入社。社長秘書、ばら積み船の運航、経理、人事、と多種の業務+シンガポール駐妻を経験し、2018年からマーケティング部門にて、マーケットリサーチ(マクロもミクロもなんでもござれ!)を担当中。
当社サービスがこれからも“Beyond the world”することを目指して、日々アンテナはってます!
生クリームより、あんこが好きです。

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