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新型コロナ禍とタンカー市況の乱高下

  • マーケット分析

2022年11月14日

2020年10月に、新型コロナ禍によって引き起こされた、タンカー市況の異常な高騰についてご紹介しました。

新型コロナ禍でタンカーマーケットが急騰した理由とは


新型コロナ禍は依然として世界の経済、社会に大きな影響を与え続けていますが、我々の日常生活は徐々に落ち着きを取り戻しつつあります。

人々の日常生活の正常化に連れ、一時は急激に減少した石油の需要は、約2年を要して新型コロナ禍以前の水準に回復しました。一方で、一時的な石油の洋上備蓄需要によって急騰したタンカー市況は間もなく急落。その後は石油を運んでも全く利益を生まない極端な低市況が続きました。

今回は新型コロナ禍によって大きく混乱した石油の需給、石油輸送の「その後」についてご紹介します。

石油需要の減少と回復

新型コロナ禍による行動制限と多くの都市のロックダウンによって、2020年に入ると石油需要は、ガソリンや軽油、ジェット燃料といった輸送用燃料を中心に大きく落ち込み、2020年第2四半期には前年同期比15%の減少となりました。一方、石油生産はOPECプラスによる協調減産が行われたものの、需要の急激な減少に即応することができず、下図のとおり、石油は大幅な供給過剰に陥ります。

また、石油の大幅な供給過剰は原油価格の急落を招き、2020年4月20日には、国際的な原油取引の指標価格となる、米国WTI原油が歴史上はじめてマイナス価格を記録するという、異常事態も引き起こしました。

新型コロナ禍による影響 石油需要・供給推移

新型コロナによる影響 石油原油価格

しかし上図のとおり、石油需要はその後、世界各国での行動制限の緩和、経済活動の正常化とともに増加を続けます。そして中国武漢のロックダウンから2年弱が経過した、2021年第4四半期になって、ようやく新型コロナ禍以前の水準まで回復することとなりました。一方、石油生産はOPECプラスによる協調減産が現在まで続けられており、現在の石油市場では需要と供給が概ね均衡しています。

石油在庫の増加と洋上備蓄

世界各国で都市のロックダウンが相次いだ20203月、需要の急激な減少によって行き場を失った石油は、各地の石油タンクに在庫として積み上がることとなります。さらに、陸上のタンクに収まりきらなくなった石油は、大型タンカーを「一時的な石油タンク」として手配し、洋上に備蓄しておく必要も発生しました。

実際、20203月から5月にかけては、数多くのタンカーが、陸上のタンクに空きがないため、貨物の目的地で長期間の揚荷役待ちを強いられる等、実質的に石油の洋上タンクとして使用されていました。ある海運市場の調査会社は、世界に約800隻あるVLCC*と呼ばれる大型原油タンカーのうち、ピーク時には100隻近くが、通常の石油輸送ではなく、石油の洋上備蓄に使用されていたと分析しています。

新型コロナによる影響 石油商業在庫

新型コロナによる影響 洋上備蓄

写真: 米国沿岸警備隊(2020423日)
米国ロサンゼルス、ロングビーチ港沖で停泊する多くのタンカー

しかし上図のとおり、史上最高まで積み上がった石油在庫も、やがて石油需要の回復と継続的なOPECプラスの協調減産によって、2021年第2四半期には新型コロナ禍以前の水準まで取り崩されます。陸上のタンクに空きが出来ると、沖合に貨物を積んだまま停泊していたタンカーは、「洋上タンク」の役割を終え、徐々に通常の石油輸送のための航海に復帰していきました。

* VLCC: Very Large Crude Oil Carrierの略。一度に約30万トン(200万バレル)の原油を輸送することが出来る大型原油タンカー。
* VLCCの大きさについては「大型タンカーはどれくらい大型なの?

 石油のサプライチェーンと海上輸送

一般的に産油国の油田で生産された原油は、パイプラインや原油タンカーによって、世界各国の製油所へ輸送されます。原油を受け取った製油所では、ガソリン、軽油、灯油やジェット燃料と言った様々な石油製品が精製され、製油所から各々の石油製品の消費地まで、石油製品タンカーやタンクローリー等によって輸送され、小売店を通じて我々の手元に届きます。

石油のサプライチェーン

出典: 石油連盟「今日の石油産業2022
表記されている数値は日本国内の状況

このようなサプライチェーンの中で、2019年の世界の原油の海上輸送量(産油国から製油所への輸送)は約20.2億トン、石油製品の海上輸送量(製油所から消費地までの輸送)は約10.8億トンでした。これらの石油の海上輸送需要を満たすため、数多くのタンカーが世界の海で航海を続けています。

しかし2020年は、石油需要の減少によって石油の輸送需要も大きく落ち込み、洋上備蓄を終えたタンカーは、通常航海に復帰したものの、輸送すべき貨物の減少に苦しみます。石油の海上荷動きの回復は、陸上の在庫が十分に取り崩された後となるため、2021年に入っても大きく回復せず、タンカー需要の低迷は長期化しました。

タンカー市況の乱高下

新型コロナ禍による石油需要、石油輸送需要の混乱によって、タンカー市況は激しく乱高下しました。

陸上の石油タンクが枯渇した20203月には、タンカーによる洋上備蓄需要が高まり、タンカー市況は一気に史上最高値付近まで急騰します。しかし市況の高騰は長く続かず、石油在庫の増加が危機的な状況を脱すると、間もなく史上最低水準まで一気に下落しました。

そしてタンカー市況は、この後2年間、石油輸送需要の減少によって低迷を続け、貨物を運んでも全く利益を生まない(実際には貨物を輸送すると損失が発生する)、異常な低迷に悩まされることとなったのです。

VLCC market freight-1

石油需要や石油輸送の混乱による、タンカー市況の高騰に持続性がないことは明らかですが、その後に続いた、貨物を運んでも全く利益を生まない状態で、タンカーの運航を続けることにも限界があります。世界の経済、社会の安定とともに、海上貨物の運賃市況も適正な水準で安定し、我々の日々の生活を支える貨物船の運航が持続可能なものとなるよう願ってやみません。

商船三井のタンカー船隊は液体貨物輸送のエキスパートとして、世界のエネルギー需要、私たちの毎日の生活を支えるため、今日も世界の海で航海を続けています。

 

商船三井のタンカー(油送船)船隊についてはこちら
https://www.mol.co.jp/services/tanker/

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TAKAHIRO.M

記事投稿者:TAKAHIRO.M

1991年入社。前世紀には鉄鉱石・石炭等のドライバルク輸送、今世紀に入ってからは原油・石油製品を輸送するタンカー部門、当社運航船向けの燃料調達業務を経験し、現在はマーケットリサーチに携わる50代男性。お腹周りの脂肪が目立つのは油っぽい業務を長く担当したせいか。。。

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