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新型コロナ禍でタンカーマーケットが急騰した理由とは

  • マーケット分析

2020年10月02日

コロナ渦によるタンカーマーケット急騰の理由

新型コロナウイルスの感染拡大は世界に様々な影響を与えました。

多くの都市がロックダウンされ、人々の活動が停滞したことによって、世界の石油需要が急速に減少し、原油価格がマイナスとなる異常事態が発生したこともそのひとつです。

今回は、この急激な石油需要の減少が、石油の荷動きと石油を輸送するタンカー(*1)にどのような影響を与えたかについてご紹介します。

*1 液体を輸送する船で、船内の貨物スペースがタンク構造になっていることからタンカーとよばれます。

原油価格がマイナスに!

2020年4月20日、ニューヨーク市場で国際的な原油取引の指標となる、WTI原油(*2)の一部の取引価格の終値が1バレル当たりマイナス37.63ドルと、歴史上初めてマイナスを記録しました。マイナス価格ということは、原油を売る側が、お金を払って原油を引き取ってもらうという異常事態です。

これは新型コロナ禍によって米国内の石油需要が減少し、これまで貯蔵していた原油の消費が進まず、クッシング(オクラホマ州にあるアメリカ最大の石油ハブ)の原油貯蔵タンクが満杯寸前になったことが主な要因です。原油の貯蔵量が限界に近づき、貯蔵タンクの利用料が高騰したため、お金を払ってでも誰かに原油を引き取ってもらいたい、ということになったのです。

(2020年4月から5月にかけて在庫が積みあがっているのがわかります)

(在庫の積み上がりと同時に、原油価格が暴落しました)

*2 米国テキサス州西部を中心とした地域で産出される原油で、原油価格の代表的な指標のひとつ。WTI原油の先物取引は実際に現物(原油)の受け渡しを伴います。

世界的な石油需要の減少

国際エネルギー機関(IEA)のOil Market Report(2020年9月号)によれば、2020年第二四半期の世界の石油需要は、新型コロナ禍によって、前年同期比約17%減少しています。特に、航空機用のジェット燃料と自動車用のガソリン・軽油の減少が目立ちました。

一方、石油の生産は、石油輸出国機構(OPEC)と、OPEC非加盟の主要産油国で構成される「OPECプラス」による協調減産が進められましたが、前年同期比約8%の減少にとどまり、石油の需要と供給のバランスが大きく崩れることとなりました。
需要を失った原油は大幅な供給過剰に陥り、その価格が大きく下落したのです。

(2020年1Q、2Qの石油の需給バランスは大幅な供給過剰)

 

石油需要とタンカー需要

一般的に、石油は産油国(輸出)から消費国(輸入)へタンカーで輸送されています。
2019年の世界の原油の海上輸送量は約20億トン、原油を精製した石油製品(ガソリン、軽油、ナフサ、ジェット燃料など)の海上輸送量は約10億トンで、これら年間30億トンの石油を輸送するため、常時タンカーが世界中の海を行き来しています。

ところが2020年に入ると、新型コロナ禍の拡大によって、多くの都市が相次いでロックダウンされることとなります。人々の活動が停滞したため石油需要が減少し、石油の輸送需要も大幅に減少しました。当然石油を運ぶタンカーの需要も減少すると思われましたが…

予想に反してタンカー需要は減少せず、原油価格の下落に反して、タンカーマーケットは急上昇することとなったのです。何が起こったのでしょうか。

(タンカーの運賃市況を示すWorld Scaleの推移。3月から4月にかけて急騰)
 
 

タンカーが洋上貯蔵タンクに

アメリカの原油貯蔵タンクと同様に、突如として需要を失った石油は、世界各地のタンクに在庫として積み上がり、世界中で石油貯蔵タンクが不足しました。しかし貯蔵タンクが不足したからと言って、直ぐに建設出来るものでもありません。

そこでタンカーの出番となった訳です。タンカーはもちろん石油を輸送するための船ではありますが、船の中は複数のタンクで構成されているため、一時的な「洋上の石油貯蔵設備」として利用することが可能だからです。

新型コロナ禍によって、輸送ではなく貯蔵のためにタンカー需要が急増し、それに応じ、タンカー市況が高騰することになったのです。

洋上で石油を貯蔵するもう一つの理由

タンカーが洋上貯蔵タンクとして利用されるのは、物理的に陸上のタンクが不足したからだけではありません。

原油先物取引市場で先物価格が極端なコンタンゴ(期先の価格が期近の価格より高い状態)となっている場合、「コンタンゴプレー」を目的としてタンカーが利用されることもあります。
期近の安値で原油を買う一方、同時に期先の高値で売る契約を結ぶ。その間の原油の貯蔵費用として、一定期間のタンカーの使用料と、その他の諸費用を差し引きし、利鞘を得られるのであれば、かなり手堅いビジネスとなり得るからです。

ある調査機関は世界に約800隻あるVLCC(*3)のうち、一時は100隻近くが原油の洋上タンクとして使用されていたと分析しています。

船は荷物を運ぶのみならず、場合によっては、積荷の貯蔵施設となることもあります。陸上の貯蔵タンクは移動することが出来ませんが、タンカーであれば世界中のどこでも、必要とされる場所に移動して貯蔵タンクとして利用することが出来るのです。

*3 Very Large Crude Carrierの略。一度に約30万トンの原油を積載することが可能な大型タンカー。

石油の安定輸送を目指して

新型コロナウイルスの感染拡大は依然として深刻ですが、各都市のロックダウンは段階的に緩和され、世界の石油需要は徐々に回復に向かっています。
いずれ石油の海上輸送も増加に転じ、タンカーは、私たちが毎日当たり前のように使っているガソリン、軽油や灯油など、日々のエネルギー需要を支えるため、再び世界の海を走り続けることとなるでしょう。

商船三井のタンカー船隊は、私たちの毎日の生活を支える存在として、今後も世界のエネルギー需要、お客様のご要望に沿ったサービスを提供していきます。

(商船三井のタンカー船隊規模(2020年3月時点))

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TAKAHIRO.M

記事投稿者:TAKAHIRO.M

1991年入社。前世紀には鉄鉱石・石炭等のドライバルク輸送、今世紀に入ってからは原油・石油製品を輸送するタンカー部門、当社運航船向けの燃料調達業務を経験し、現在はマーケットリサーチに携わる50代男性。お腹周りの脂肪が目立つのは油っぽい業務を長く担当したせいか。。。

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