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世界で活躍する商船三井「トルコ編」~「引っ込み思案」という言葉が辞書にない国の企業との理想的パートナーシップ~

  • 海運全般

2022年05月30日

トルコ駐在員に聞くトルコの今

昨年年末からのリラの暴落は、年初の政府の為替対策により一瞬収まりましたが、米国のインフレ対策での利上げの実施等により、リラが売られ、大幅な下落が続いています。ロシアのウクライナ侵略の影響に資源高も追い打ちをかけ、消費者物価が前年比70.0%まで上昇するなど、大幅なインフレが加速しているトルコ。例えばトルコ最大都市イスタンブールの主な交通機関、地下鉄、バス、タクシー等を例にとれば、今年49日には一律で40%の引き上げが行われました。料金が200円だとしたら280円にもなってしまうわけで、人々の暮らしに大きな影響を与えています。

世界的なインフレに伴い各国の中央銀行が利上げによる防止策を講じる一方、トルコではエルドアン大統領による政治介入で利下げ政策が行われ、この結果大幅なインフレ・リラ安が継続しています。国民の不満は高まっており、大統領の支持率も低下20236月実施予定の大統領選挙では、野党連合が勝利する可能性も高く、20年近く続いたエルドアン政権が交代する可能性もあるのではないかと言われています。野党が勝利した場合、憲法の改正も進み、従来の強大な大統領の権限を縮小し、以前の議会制に戻していく動きが加速していくでしょう。

また、新型コロナの影響による主要産業である観光分野の大幅な落ち込み、近接するロシアとウクライナの戦争による少なからぬ影響など、トルコはまさに政治・経済ともに激動期にあります。そんな時期にあって、商船三井のトルコ現地法人で活躍するスタッフは、現状をどのように乗り越えようとしているのか。また、どのように将来のビジネス機軸を作り上げようとしているのか。トルコ国代表である片田聡氏と、東京本社のコーポレートマーケティング部でトルコを担当するシニアスタッフ、山田洋介氏にお話を伺いました。

トルコにおける商船三井の取り組みと実績

ーーまず、現在のトルコでの具体的な取り組みについて教えてください。

片田

  • こちらでは商船三井を知ってもらい、商船三井にはトルコの事を知ってもらうこと、そして、トルコで新しいビジネスの芽を見つけて投資し、成長させていくということが仕事だと考えています。管轄しているのはトルコだけではなく、担当する東地中海沿岸の国(エジプト、ギリシャ、レバノン、イスラエル、キプロス、ヨルダン)、ならびに黒海沿岸国の(ウクライナ、ルーマニア、ブルガリア、ジョージア)などで、部門の枠に縛られずに商船三井グループの代表としてあらゆることに取り組んでいます。
  • 既に駐在してから5年が過ぎましたが、プレゼンスの向上に向けた様々な取り組みの効果もあり、現地企業からコンタクトを頂いたり、会合などで挨拶を頂いたり、顔とネットワークが作れてきたなと言う実感はあります。引き続き、「ああ、それなら商船三井にコンタクトを」というくらい、すぐに弊社グループを思い浮かべてもらえるような存在感を示していかないといけませんし、更に、営業の拡大につながる顧客・パートナー・政府機関などとの関係を強化していかないといけません。そんな関係の中で引き出される情報も貴重なものですが、逆にこちらも価値ある提案を提供していく必要があります。そうした関係を基盤にして地場産業と地域に密着した事業展開を行い、弊社の存在価値を高めながら当地で収益を生み出していくような体制にしたいと考え、活動をしています。

                MOL Turkey Office1 MOL Turkey office2

MOL Turkeyオフィスの様子。駐在員、現地スタッフ合わせ計7名の社員が所属。)

 

――すでに行ってきた実績としてはどのようなものがありますか?

片田

  • まず、海運事業として、欧州⇔トルコ間の自動車、トラック、建設機械、トレーラー等を輸送する自動車船輸送、大手鉄鋼企業向けの鉄鉱石の輸送など行っています。また欧州との陸送を中心とした物流事業も始まりました。トルコではトヨタや多くの欧米メーカーが自動車生産を行っています。国と経済界が総力を挙げて生産開始に向けて準備を進めている国産自動車メーカーである「TOGG」も立ち上がりました。今後とも、自動車関連の事業は重要になってくると思います。

山田

  • あとはエネルギー関連で、FSRUFloating Storage and Regasification Unit)を用いて、海外から運ばれてきたLNG(液化天然ガス)を洋上で貯蔵・再ガス化し、パイプラインで陸上へ送出するというソリューションを提供してきました。FSRUは陸上に設備を作るよりも大幅に低コスト・短納期であることがメリットで、トルコでの実績をもとに香港やインドネシアなどでも操業を予定しています。
  • 商船三井が提供するFSRUサービス概要
  • また、トルコの複合企業Karadeniz(カラデニス)社との共同事業として、“KARMOL(カルエムオーエル)のブランドの下、モザンビーク、セネガル等の国々で洋上LNG発電事業を展開しています。これらはFSRUと発電船の2隻を組み合わせて、海上でLNGの再ガス化から発電までをトータルで実現したものです。途上国などにおいて大規模な設備投資が困難な場合や、陸地に最適な土地が確保できない場合などに大きなメリットを発揮しています。 
  • LNG to Powership Business through FSRU by KARMOL

貿易拠点としてのトルコの役割

――トルコの世界における産業的な役割とはどのようなものでしょうか?

片田

  • トルコは欧州の製造拠点としての役割が大きい国で、欧州にとってトルコは輸出入額第6位の国となっています(日本は第7位)。例えば、鉄なら欧州からスクラップを輸入し、鉄鋼製品や鉄構造物に加工したものを欧州へ輸出する、欧州から車の部品を集めて組み立て、また欧州に出荷するなどの関係があります。また、一分野への依存が少なく、輸送機械関連から鉄・非鉄、工業製品、野菜や穀物関連、加工食料品や繊維や家具といった分野まで多彩な産業がバランスよく育っています。貿易相手としては、欧州が圧倒的に多いものの、最近はリラ安を生かした中東・アジア・アフリカとの貿易も増えています。輸出主導での経済発展・産業の高度化を進めています。輸入も全体的に品目のバランスがとれています。総じて2019年の実績で見ると輸出総額が1870億ドル、輸入総額が1930億ドルで、貿易赤字60億ドルと、輸入が輸出に対して若干勝っている状態です。

   2020年トルコ貿易量 輸入

2020年のトルコ品目別貿易量(輸入) 2020年トルコ貿易量 輸出

2020年のトルコ国別貿易量(上:輸入、下:輸出) 
出典https://oec.world/en/profile/country/tur

 

//参考//
外務省 HP: https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/turkey/index.html
JETRO HP: https://www.jetro.go.jp/world/middle_east/tr/ 

 

――そんな中で商船三井としては、今後はどのようなスタンスでビジネスを構築していくのでしょうか?

片田

  • トルコ国内ではモノ作りが盛んで、作れないものはほとんどないと言って良いと思います。ただ、付加価値がつけられないという弱点があり、特に独自のブランドが育っていません。そこを日本のブランド力で補完してトルコの強みを活かしながら弱みをカバーできれば、良いビジネス関係が築けると考えています。

山田

  • トルコの人たちはオスマン時代から続く近隣諸国との関係作りや、長年の交易の歴史で育まれた「タフ・ネゴシエーター」としての交渉力がありまして、味方にすると頼もしさを感じます。また、勤勉で真面目な性格で思いやりの心にも満ちています。礼節を重んじて、受けた恩義も忘れません。そういったところは非常に日本人との親和性を感じますね。よく諸外国では日本人がビジネスで訪れると、負けてたまるかとか、打ち負かしてやるといった敵愾心を感じることがありますが、トルコの人にはそれがなく、何でも打ち解けてすぐに対等の立場で協力関係を築くことができます。

片田

  • それとイスラム教が浸透しているせいか、「インシャー・アッラー(神が思し召すままに)」の精神が宿っていますね。どんなこともまずやってみる行動力があり、それがうまくいかなくてもあまり気にしない。くよくよしないのです。そして、危機的な状況にもひるまずに勇敢に立ち向かっていく。だから決断は早いし、方向性の修正も迅速です。短期的な利益に目が行ってしまい、長期的な視点が欠ける傾向にはありますが、そういったところをフォローしながらプロジェクトを進めると良い結果が生まれます。

トルコの政情不安と激しいインフレ

――インフレの加速とともに政情不安の懸念も伝えられています。政治の影響というのはかなりあるのでしょうか?

片田

  • ビジネス界で現在のエルドアン大統領の政策を支持している人は多くはないと感じていますが、一般民衆からの支持は高いようです。トランプ前大統領やプーチン大統領のような大物を相手に対等に渡り合ったり、海底資源や領海問題などでEUを相手に一歩も引かない姿勢を貫いたり、といった政治的剛腕を示すエルドアン大統領は、それなりに頼りにする層も厚く、インフレが進む中でもまだまだ支持する人々が多いのも確かです。この辺りは、状況を見ながら対応するしかないと考えていますが、どう転んでもあまり悪い方向へ向かうことはないと予想しています。

――王朝や皇帝などに提供するための宮廷料理が発展した経緯から、中国料理、フランス料理と並んでトルコ料理は「世界三大料理」のひとつに数えられています。食生活はいかがですか?

山田

  • こちらの食事は日本人の口に合うものがとても多く、いつも食べ過ぎてしまうほど気に入っています。宗教の関係で豚肉は避けられていますが、羊肉などほかの肉を使った料理が多く、オリーブ油と香辛料でまとめられた深い味わいは病みつきになります。こちらの駐在員のほとんどが、日本へ帰国するまでに少し体重が増えてしまっていることが何よりの証拠です。ただ、以前にある食堂でご飯を食べたときのことですが、大変おいしかったので半年後にまた行ってみると、値段が1.7倍くらいになっていました……。インフレの激しさを実感して驚きましたね。

片田

  • インフレに関しては、やはりこちらのスタッフの生活にも大きな影響を与えていますので、毎月賃金の見直しを行うことで対応しています。日本なら大変なことになりそうな政治・経済状況ですが、トルコの人々は総じて悲観的ではなく前向きに考えて仕事に取り組んでいますね。

 トルコ料理は世界三大料理の一つ 

メゼ(Meze)
トルコの伝統的な前菜, たくさんの小皿をお店の方が見せてくれるので好きなものを選ぶ。これだけでも十分美味しく食べ過ぎて満腹にならないよう要注意。

 

 

トルコ料理は世界三大料理の一つ

マニサケバブ(Manisa Kebab)
マニサ地方のケバブ。甘く無いヨーグルトソースとパンが下に敷かれており、トマトと肉汁との相性が非常に良い。

 

 

観光産業の落ち込みと、商船三井の意外な取り組み

――主要産業である観光の落ち込みが激しいと聞きます。

片田

  • トルコは観光産業が活発なところで、コロナ前の2019年には年間4500万人の外国人旅行者が訪れ、観光関連の収入は344億ドルとGDP比率で4.4%を記録しました。トルコ政府が重要産業と位置付けて力を入れたのと、官民が連携してリゾート開発などを行ったことによります。しかし、2019年末以降はコロナの影響で旅行者が激減し、ロシアやウクライナからの観光客も多かったので、今回の戦争も大きく影響を与えています。また、中国のロックダウンも重なり状況は非常に厳しいです。

山田

  • 観光に関しては弊社でできることはほとんどありませんが、船の世界で試みていることがあります。世界的な観光客の減少で、まだまだ活躍する予定だった数多くの客船の運航が止まってしまいました。そのほとんどの船は再開のめどが立たずに、長期停泊による莫大なコストを避けるためにスクラップが決まってしまいました。これらの船の中にはトルコの解撤ヤードに来るものも多いのですが、解撤作業は作業員への危険が伴うとともに、海などへの汚染物質もバラまきやすいことが問題視されていました。このため、弊社では船のライフサイクル全般に責任を持つという意味で、解撤作業の安全性を確保するとともに、各種の部品や素材をリサイクルして再活用する道を探ることにしました。その一環として、船に使われた計器や装飾品などを船舶ファンの方々に船の歴史とともに紹介し、専用のサイトを通じて買い取っていただくという活動も始めています。このことは、持続可能な社会を目指すSDGsの観点からも意義のあることと考えています。専用のショップサイトはスタートしたばかりですが、さらに充実して参りますので、より多くの方にぜひ注目していただきたいと考えています。
  •  

【ショップサイトはこちら】

https://shop.molturkiye.com/

 

mol shop antique shipping goods

 mol shop antique shipping goods in turkey

終わりに~今後の課題と展望~

――トルコにおける、今後の課題や展望についてお聞かせください。

山田

  • 現在、物流や海運事業をベースにトルコ企業とのさらなる関係強化を図って、バルカン諸国、黒海・中央アジア諸国、またアフリカなどの、別の国のマーケットへのビジネス展開を実現しようとしています。

片田

  • トルコだけでなく、トルコ企業と組んでの第三国での事業展開を目指しています。トルコ人には、「引っ込み思案」という言葉が辞書にないのではないかと思えるほど積極性があり、果敢に新しいことに取り組んでいこうとする気質があります。何事にも慎重で念入りに計画を立てないと一歩も進まない、私たち日本人を大いにリードしてくれると思います。逆に私たちは、長期的な視点や、独自性を伴ったブランド力の構築といった部分で良いパートナーになれると信じています。このトルコと日本の理想的なパートナーシップを核に、早く新しい市場に打って出てみたいですね。

――ありがとうございました。

MOL TURKEY

MOL TURKEY 社員(中央:片田氏 最右:山田氏)

 

          inside MOL Turkey Office view from MOL TURKEY

MOL Turkeyオフィス
(左:トルコで操業していたFSRUの写真や安全運航のお札を飾る 
右:オフィスから見えるイスタンブールの景色)

【インタビュー】

片田聡Katada Satoshi
MOL(Turkey)Managing Director

1988年入社、2017年よりトルコ国代表としてインスタンブールへ赴任。アジア、中国、インド、中東地域で各種の営業活動から事情の立ち上げ・運営を経験し、あらゆる困難を乗り越えてきた、まさに百戦錬磨の雄。何が起きても驚かない、大抵のことは実現できるという信念のもと、今日もタフに新しいビジネスに取り組んでいる。

山田洋介 Yosuke Yamada
コーポレートマーケティング部 グローバル営業チーム

2010年入社、管理部門とエネルギー輸送部門での経験を元に、20214月からコーポレートマーケティング部にて片田トルコ国代表のサポートを担当する。片田トルコ国代表の信念、野望、夢を実現する実務部隊として足繁くトルコに出張し案件を前進させている。最近の趣味はトルコのおいしいロカンタ(食堂)探し。

 

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