海を隔てて隣接する日韓両国は、日本にとって韓国は第4位の、韓国にとって日本は第3位の貿易相手国です。また貿易だけでなく文化面での結びつきも強く、古くから朝鮮半島を経由してさまざまな大陸の文化が日本に到来しました。最近でも韓流ドラマやK-POPなど、エンタメを中心とした韓国カルチャーは多くの日本人を魅了しています。一方で、竹島問題や徴用工問題など、解決が困難な問題もあり、双方でお互いの国に対する複雑な感情を抱えています。そんな近くて遠い国・韓国で、国代表兼MOL (Korea) Co., Ltd.の社長として新たなビジネス展開を模索する藤井 亨氏にお話を伺いました。
日韓ビジネスのフロントライナーとして、
幅広い分野での展開を見据える
――MOL Koreaの成り立ちや、事業内容について教えてください。
藤井
- 韓国の現地法人であるMOL Koreaは、1952年から船舶代理業務で提携していた汎洲海運株式会社(Pan Continental Shipping Co.,Ltd.)と商船三井の合弁により、2016年に現地法人として設立されました。設立当時の主な業務は、自動車船の営業と一部のドライバルク営業及び船舶代理店業務です。
日本と距離が近いこともあり、以前は商船三井の本社スタッフが国内出張感覚で毎週のように韓国の顧客や造船所を訪問するケースも珍しくありませんでしたが、最近では本社のマンパワー的な問題や新型コロナウイルス感染症拡大の影響によるテレビ会議の普及もあり、以前程頻繁に行き来することが困難、あるいは必要性がなくなっているかもしれません。そういった状況にあって、東京の本社がやっていこうと思っているビジネスと、MOL Koreaが主体的にやっていこうと思っているビジネスで接点があるものについて、幅広く対応していこうと思っています。国代表はいわば現地での営業最前線に立つ存在ですので、既に進んでいる案件だけでなく、新しいビジネスの種を見つけることや、潜在的な案件を掘り起こすことも重要です。特定の分野に限らず、エネルギー輸送、バルク輸送、製品物流輸送、海洋技術、客船事業など、韓国における全部門に関与していきたいと考えています。
藤井
藤井
- 確かに文在寅政権下では政府のプロパガンダもあって、取引先の中には日本企業との繋がりをあからさまにすることにためらいがある、あるいはやりづらいと感じている方もいたようです。尹錫悦政権に変わったことで親日ムードに変わってきてはいますが、梨泰院の事件などもあり、支持率が30%前後(インタビュー当時)と低迷しているのは心配ですね。
- しかし、日本人が思っているほど韓国の一般の方は日韓関係を意識していない印象です。そのため、日本が2019年に安全保障上の輸出管理において優遇される「グループA(旧称・ホワイト国)」から韓国を除外した際は、韓国国内での驚きと反発は大きく、日本製品の不買運動が起きました。とはいえ、ビジネス上の影響はほとんどありませんでしたよ。
――韓国の方とコミュニケーションを取る際に、配慮していることはありますか?
藤井
- 韓国人の特徴は、とにかく行動も決断も早いという点です。韓国語で「パリパリ!」という言葉をよく耳にするのですが、これは「早く早く!」という意味。元来せっかちで、とりあえずやってみる、という姿勢が強く、そのために失敗もすることもあるのですが、あまりくよくよせずチャレンジしていきます。規模をどんどん拡大していく韓国企業の姿勢などは、私たちからすると「怖いもの知らず」と感じることもあります。日本人は逆に熟考して調べてから動く傾向が強いのですが、韓国人のそういった気質や性格を否定せず、尊重しながら仕事を進めるようにしています。サムスンがパナソニックから学び急成長を遂げたように、恐れず新しいことに取り組めるというのは大きな強みと言えますから。
- 余談ですが、韓国はOECD主要37か国の中で対GDP比率の家計債務率が最も高いと言われており、どんどんお金を借りて、いい車や良いマンション、株を買うなど、キャッシュを寝かせるようなことはしません。今の日本人が世界の中でコンサバである事を差し引いても生活を楽しもう!という想いが強いように感じます。
出典:HANKYOREH
- また、人脈の繋がりが強い点も特徴です。特に大学の先輩・後輩関係は強固です。ナショナルスタッフやコンサルタントに人脈をもとに動いてもらい、そのコネクションを頼りに知り合うことで信頼関係を作っています。逆に知らない人に対しては結構ドライで、エレベーターの「開」ボタンを押して乗り込む人を待つ姿や、お店のドアを押さえて次の人が入るまで待つような姿を見かけることは滅多にありません。これは日本がおかしい可能性もあるのですが(笑)。一方、妊婦さんといった弱者や老人、自分の先輩を敬う儒教文化があるので、その方々に対して座席を譲るといった文化は日本よりまだ残っている気はします。
――韓国生活で楽しんでいることはありますか?
藤井
- 子どもがまだ小さく、ゴルフ以外にこれと言って週末にやっていることはないのですが、ゴルフがない休日の朝、まだ家族が起きてこない時間帯にいろいろな店で食べ歩くのが楽しみです。日本人になじみのスンドゥブ、サムゲタンをはじめヤンソンジヘジャングッ、チョングッチャン、コムタン、チュオタンなど、韓国料理を堪能しています。尤も韓國の方から「全て二日酔い覚まし料理ではないか」と笑われますが。街には古びた市場(シジャン)が点在しているので、ちょっとのぞいて食材を買ったりするのも面白いですよ。昔から私を知っている人は「嘘だろう」と思われそうですが、会食がない時はほぼ私が家で夕食を作っており、また子供たちの学校の弁当作りも私の担当です(除く二日酔い翌日)
左:ヤンソンジヘジャングッ 右:チュオタン
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お互いの強みを活かし、未来のビジネスパートナーへ
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- ――今後の展望をお聞かせください。
藤井
- グローバルな視点からすると、日韓の距離は近く、両国間輸送におけるマーケットポテンシャルがまだまだ高いと考えます。日本も韓国も加工貿易が中心の国なので競合すると思われるかもしれませんが、意外と違いもあります。
分かり易い一例として、半導体事業そのものでは日本は落ち目だと言われていますが、シリコンウエハーなどの半導体の原材料製造や、製造装置分野ではまだまだ存在感があります。
また、韓国政府が非常に手厚い支援を行っている造船業、製鉄業などは世界に誇る規模の施設を有しています。一方で舶用機材や製鉄所の高炉のメンテナンス部材などには日本製品が多く使われているという話も良く聞きます。
こういった状況下、日韓のお互いが協業相手とみるのでなく「東アジアの一つの経済圏」としてお互いの強みを生かし世界の中で位置づけられれば、まだまだビジネスチャンスが生まれてくるのではないかと想像します。
昨年RCEP協定が発効されたばかりで日韓間での真の自由貿易への道のりはまだ時間がかかりそうですが、両国関係に改善の兆しが見えてきている今、ここがひとつのターニングポイントになりうるのではないか、商船三井という船会社から何かできることがあるのではないかと日々考えています。
藤井 亨 Toru Fujii
Managing Director, MOL (Korea) Co., Ltd.
Chief Country Representative of Korea, Mitsui O.S.K. Lines, Ltd.
2019年より現職。自身のキャリアの多くは自動車船部で比較的韓国出張も多かった為、縁も感じている。